2013年10月15日09時44分掲載  無料記事
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文化

パリの芸術家  カンバスは地下鉄の切符の裏

  パリには地下鉄が発達している。様々なラインが網の目のように走っているおかげで、交通に不便はない。地下鉄の乗車賃はどこまで乗っても距離に関せず同額だ。駅の入口で切符を機械に入れてチェックが入ると、あとはどういう経路でもかまわない。出口で切符を機械に入れて回収することはない。扉を押して出るだけだ。合理的といえば合理的だ。 
 
  だから、というか、しばしば大胆不敵に入口の機械を乗り越えて無賃乗車を敢行する人もいる。地下鉄ではそうした人を取り締まるために、時々、駅構内で抜き打ち的に検問を行っている。その時、切符を持っていなければ罰金となるのだ。 
 
  パリの地下鉄がこういうシステムだから、切符は駅を出てから近くのゴミ容器に捨てることが多い。ポケットに残っていると紛らわしいからだ。日本ではカードが普及しているが、パリではまだ紙の切符を使うことが多い。 
 
  そんな地下鉄の切符に絵を描いている画家に出会った。昔からモンマルトルと並んで画家の拠点となってきたモンパルナス。そこで開かれている恒例の日曜芸術市だ。モンパルナスには黒いタワーがそびえていて、周囲の住人の意見はあまり芳しくないのだが、そのすぐ脇で毎週日曜、芸術市場が開かれている。ブースの1つで珍しいものを売っているな、と思って見ると、地下鉄の切符に絵を描いていたのだ。猫の絵や人の絵や風景や、様々だ。切符を小さなケースに収納して売っているのだが、洒落ているのである。 
 
  地下鉄の切符に絵を描いている画家はピーター・エシュネル(Peter Eichner)氏。 
 
  「1日に何枚切符が捨てられているか、知っているかね?100万枚だよ。だから、これはリサイクル芸術なんだ。ほら、この絵は切符の原料となっている樹を描いたものだよ。」 
 
  確かにエコロジーである。しかし、それは別として、小さな切符の裏に絵を描く、というアイデアが面白いし、その絵が1つ1つ、生き生きとしているので見事だと思った。 
 
  エシュネル氏はドイツ出身で、若い頃、パリに来てフランス人と結婚し、ずっと画家をしているのだそうだ。実は娘さんもモンパルナスの日曜市にブースを出して自作の絵を販売している。娘さんの方は表現主義的なインパクトのある絵だ。ドイツの表現主義に根っこがあるという。父親が父親なら、娘は娘で、個性のある親子である。 


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