2013年10月26日23時21分掲載  無料記事
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文化

パリの文化の危機  家賃の高騰で書店が閉店  芸術家は郊外へ

   パリでまた一つ書店が閉店することになった。モンマルトルで25年営業してきたブッシュラ−デン(BUCHLADEN)書店だ。この書店はドイツの本を中心に日本文学の翻訳書も含め、外国書の専門店として知られてきた。1年以内に店を閉じることになるという。 
 
  ドイツ語を堪能に話す書店主のギゼラ・カウフマン(Gisela Kaufmann)さんがブッシュラーデン書店を開いたのは1988年。その理由はフランスでドイツの本があまり親しまれていない現状があったからだ。最初はドイツ文学の原書が3割、翻訳が7割だったが最近は逆転して、原書が7割、翻訳が3割になった。つまり、それくらいフランス人が(翻訳でも)ドイツ文学を読まなくなってしまった、ということのようだ。カウフマンさんはこの現状を悲しく思っている。カウフマンさんはこれまで店で朗読会なども度々催して、地域の文化の拠点の1つだった。「アメリ」などの映画に出演している俳優のドミニク・ピニョンさんもブッシュラーデン書店で朗読をしたひとりである。 
 
  カウフマンさんが閉店せざるを得なくなった理由は経済的な理由だ。インターネット情報の氾濫で本の売れ行きが減っている上に、業界のガリバー、アマゾンの影響も少なくないとカウフマンさんは言う。たとえばアマゾンは税金を払っていないし、店を地域に持たないから家賃とも無縁だ。 
 
  そんな状況のもと、パリの家賃が高騰している。フランスでは家賃の法律の規制緩和が行われた。3年ごとに毎年家賃は一定の低い割合で改定されるが、9年たつと大家は自由に価格を設定することができる。この9年目の価格改定に耐えられない店主は店を締めるほかないのが実情なのだ。経済危機に加えて、本の売れ行き不振、そこに家賃が増額するのである。 
 
  カウフマンさんの場合、ブッシュラーデン(BUCHLADEN)書店は広さおよそ30平米で年間14000ユーロに、毎月100ユーロの不動産諸経費がかかる。つまり1年に15200ユーロ(年額105万円)になる。この家賃が規制緩和で許された9年目の改定によって、将来は2倍(年額210万円)になるという。これは小さな商店主にとっては厳しい額である。 
 
  同様の事情が書店主だけでなく、芸術家にも影響を与えている。芸術家は次第にパリから郊外や他県に追いやられつつあるのだ。かつてはピカソもモディリアーニも貧しい画家だったが、みなパリで創作活動を存分に行うことができた。しかし、今、パリではますます高くなる家賃が払えなければ生きていくことが難しい。その一方、ブッシュラーデン書店のあるモンマルトルにはかつてここで生き、ここで創作したピカソらのアトリエの跡地バトー・ラボワール(洗濯船)がある。毎日何組もの観光客が世界から押し寄せ、案内人が説明をしている。しかし、そうした伝説が伝説を積み重ねる一方で、今を生きる芸術家や文化を担う人々は郊外へ、閉店へと押しやられつつあるのだ。 


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