2013年11月18日11時00分掲載  無料記事
http://www.nikkanberita.com/print.cgi?id=201311181100411

文化

【核を詠う】(131)『2013年版現代万葉集』から原子力詠を読む(1) 「福島にむきあう広島 ヒロシマとフクシマ 雨の八時十五分」  山崎芳彦

日本歌人クラブ(秋葉四郎会長)が全国の短歌作者に呼びかけ、2013年版『現代万葉集』作品を募集(2012年1年間の自選作品3首)し、出詠歌(1837名、5511首)を編集した日本歌人クラブアンソロジー2013年版『現代万葉集』が10月25日に刊行された(NHK出版発行)。日本歌人クラブは約5000人が加入する短歌界最大の超結社団体だが、2000年(平成12年)から毎年度『現代万葉集』を刊行している。 
 
 「あとがき」で編集委員会の岡崎洋二郎氏は「本集には多数の方々に参加いただき、また、広範囲にわたる多様な作品を収録しております。今年も東日本大震災をうたう作品が多く出詠されました。それらを含め、われわれの生きるこの時代を後世に引き継ぐ貴重なアンソロジーとして、意義深いものになったと思います。」と記している。原発・原爆にかかわる作品も多く収録されている。 
 
 その原子力にかかわって詠われた(筆者の読みによる)作品を同集から抄出してこの連載に記録させていただくのだが、筆者は全作品を読ませていただき、心に残る多くの作品に出会うことができた。人々の、それぞれ個性ある生き方、考え方、感性、現在を生きる実を短歌表現した作品は、1年間の作品から3首の自選に限られているだけに、やはり貴重であると思う。同時に、1837名の詠う人が参加して構成された『現代万葉集』が、時代を捉え、その中での生を詠った作品を年々積み重ねていくことの意義は大きいだろう。筆者は、かつて『昭和萬葉集』の存在に、この連載を続ける上で助けられたことが忘れられない。 
 個人歌集や結社・団体の歌誌も大きな役割を背負って刊行されているが、多くの人に長く読み継がれて行く上では困難が多いし、読むものにとっても、探し求めることが難しいのが現状である。 
 『現代万葉集』がその名にふさわしく、多くの短歌人の共同によって年々の短歌作品を収録し、長く読み続けられる歴史的な短歌集として発展して行くことを望みたい。 
 
 この連載は、「核を詠う」短歌作品を読み、記録することが目的であるから、『2013年版現代万葉集』の作品からの抄出で、現在この国にとってきわめて重大で深刻な課題である核、原子力について歌人がどのように向き合い、自らのこととして、さらには人間の存在にかかわることとして、短歌表現しているのかを読みたいと考えている。 
 
 ところで今、小泉純一郎元総理大臣の原発に関する発言が大きな話題になっている。現政権、安倍首相に対して「原発ゼロ」の決断を迫り、日本が原発を維持継続することは不可能だと断言し、原発ゼロにする事業は「壮大な事業だ。夢のある事業。自然を資源にする事業だ。」と強調している。さまざまな講演会、記者会見で、高レベル放射能廃棄物の処分ができないまま核のゴミを積み上げていく原発稼働は許されないこと、原発に依存しないでも代替エネルギーは確保できること、首相が「原発ゼロ」の決断をし方針を出せば反対する力を持つ者はいない・・・などの発言は、福島第一原発事故による被災の重大さ、小泉氏がフィンランドの放射能性廃棄物の最終処分場を視察したことを踏まえてのものだけに、小泉氏の首相時代の原発対応などにとらわれなければ、十分なメッセージ力と迫力があるのではないだろうか。各野党党首との会談なども積み重ねており、統一した行動にまではいかないが、それぞれの政党が脱原発に向けて努力すべきで、世論を変えることが必要との見解まで示している。 
 
 この小泉氏の動きについて、さまざまな見方や評価があるが、以前の小泉氏の言動をもって不信を言うのは、例えばドイツのメルケル首相の「原発維持論者として眠りに入り、脱原発論者として目覚めた」、福島原発事故を知って思い切った脱原発方針に踏み切り、その政策を推進していることを考えれば、当たらないと思う。 
 もちろん、小泉氏が原発ゼロ実現のための「救世主」だとは思わない。早くから脱原発社会への転換を主張し、取り組んできた科学者や多くの人々がいるし、3・11以後の脱原発国民運動の高まりがある。 
 今年4月に設立された「原子力市民委員会」(舩橋晴俊・法政大学社会学部教授)に各界の有志が結集し、2014年3月までに「脱原子力政策大綱」を作成する取り組みをしているが、この10月には「原発ゼロ社会への道」―新しい公論形成のための中間報告―を発表していることにも注目したい。 
 
 いま、安倍政権は、今後のエネルギー政策の中で原発をどう位置づけるのかを明らかにしないまま、原発再稼働への道をひろげ、アベノミクス経済成長戦略の柱として原発の輸出を進め、一方、福島原発壊滅事故による被災者対策を後退させる施策を打ち出しつつある。 
原発ゼロ実現を求める世論が大きく高まり、それが政治を動かす力になる。主権者がその力を示さなければならない課題は、原子力問題とともに、現政権の秘密保護法案、TPP、あいつぐ教育制度の改悪などなど、反国民的な政策の打ち出しの中で、多い。 
 
『2013年版現代万葉集』から、原子力問題にかかわる作品を読んでいきたい。 
 
  ◇自然・四季◇ 
▼文明の利に温みゐる当然をあへなく崩す原発災害  (茨城 木村豊子) 
 
▼穂孕みの季を余所目にしづかなる除染休み田風渡りゆく 
                         (福島 紺野 節) 
 
▼天災も人災も絶えぬ地球なり その影美(は)しく月面を食む 
                         (東京 和田倫子) 
 
▼賛美歌の響きわたれる教会の窓にそぼ降るセシウムの雨 
 たんぽぽの咲く野の道を子ら連れて線量計を保母は提げゆく 
                         (福島 大槻 弘) 
 
▼セシウムの危機のいろ出づる春催ひ消ゆることなくさくらの散りぬ 
                         (埼玉 佐田 毅) 
 
▼セシウムと寒波にたへた花びらが傷みを負ひし地表をいやす 
                         (東京 横山充代) 
 
▼シーベルトつね測る地もベニシタン咲きいる頃か淡きくれない 
                       (北海道 押山千恵子) 
 
▼原爆忌の活字小さく押しやられ新聞は朝の雨に湿れる 
(石川 山崎国枝子) 
 
  ◇動 物◇ 
▼放射能浴びたる花を啄みしひよどり無事にわたり来よ秋に 
 原発の地に置き去りの母馬の悲しみを知らぬ仔馬がまつはる 
                         (福島 伊藤雅水) 
 
▼原発の事故よりひとは立ち入れぬふるさとの田に白鳥は群る 
                        (神奈川 戸谷澄子) 
 
▼雀飛び椋鳥が飛び鴉翔ぶ見えぬセシウムもとぶらむ空を 
                        (和歌山 水本 光) 
 
▼放射能翳らふ佐渡の森の中朱鷺の幼鳥羽ばたくその日 
                       (神奈川 柳澤美代子) 
 
  ◇生 活◇ 
▼震災の不安抱えて議論沸く原発依存拘泥強く    (大阪 鈴木彩子) 
 
▼むづかしき山地除染を聞くにつけ福島の君のもち山思ふ 
                         (福岡 鈴木君) 
 
▼原発事故三キロ圏は母の里 鉄橋の列車見るは何時の日 
                         (福島 野口晃伸) 
 
▼杉木立の闇より雪の降る峡に被爆の君が紙を漉く音 (山口 森元輝彦) 
 
▼原発に一揆のごとき抗議デモ叶はぬわれは拳突き上ぐ 
                         (京都 横田英子) 
 
  ◇仕 事◇ 
▼原発の影響ありやとおそれつつ田植えする夫をじっと見ている 
                         (福島 物江利子) 
 
▼セシウムの安全たしかめ竹林の遅るる手入れ今日よりはじむ 
                         (千葉 吉野芳子) 
 
  ◇生老病死◇ 
▼東京の仮設に住みて三年目福島の人墓参かないて (東京 小久保晴行) 
 
▼福島を見限る友は原発の所為とは遂に言わず去りゆく 
(福島 佐藤 昭) 
 
  ◇教育・スポーツ◇ 
▼あの窓は原爆後遺症の先生と学んだ高三の社会の教室 
                         (岡山 坂本素子) 
 
  ◇旅◇ 
▼原発を持たず生きゆく大陸に大国意識の呪縛はあらず 
                         (埼玉 関根和美) 
 
▼「許すまじ」と歌ふガイドの哀切の声に禎子さんの無念を思ふ 
 焼け跡に咲きし夾竹桃の花 青桐の負ひし焼傷の跡 
                      (高知 依光ゆかり) 
 
  ◇戦 争◇ 
▼福島にむきあう広島 ヒロシマとフクシマ 雨の八時十五分 
 「はだしのゲン」に続編ありて続編は未完のままに時に埋もれぬ 
 目視投下をして惨状を見尽くしてこまかく詳らかに録画に撮りぬ 
                         (山梨 三枝浩樹) 
 
▼爆心の碑に記さるる長崎市松山町一七〇番地にわが家のありき 
 長崎の鐘の音に聴くかそかなる被爆死の父母の吾を呼ぶ声 
 被爆証言する田栗さんの眼(まなこ)には涙見えしと児の感想文 
                        (神奈川 田栗末太) 
 
▼被爆者の吾ら「ひまわり」合唱団「礎に重ねて」を沖縄で歌う 
                         (長崎 中川美苗) 
 
▼この星に今またひとつ核の国生まれて二月凍ての夕焼け 
 絶対の思想一途にぶち切りの弾道弾がこの空走る 
 抗戦の核実験に歓呼する西方浄土の凍土の茜   (秋田 永田賢之助) 
 
▼この戦後共に生き来し被爆楠やぐら組まれて今日診療日 
 万緑の被爆の楠をあおぎつつ原発・原爆かたる友垣 
 被爆楠繁れる社の大太鼓低く打たる八月九日    (長崎 西岡洋子) 
 
 次回も『現代万葉集』の作品を読みたい。       (つづく) 


Copyright (C) Berita unless otherwise noted.
  • 日刊ベリタに掲載された記事を転載される場合は、有料・無料を問わず、編集部にご連絡ください。ただし、見出しとリード文につきましてはその限りでありません。
  • 印刷媒体向けの記事配信も行っておりますので、記事を利用したい場合は事務局までご連絡下さい。