2013年11月28日14時18分掲載  無料記事
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文化

【核を詠う】(132)『2013年版現代万葉集』から原子力詠を読む(2) 「いざ目覚めよ豊葦原の荒ぶる山原発いらぬと火焔をあげよ」 山崎芳彦

 前回に引き続き日本歌人クラブ編『2013年版現代万葉集』から原子力(原発事故、放射能禍、原爆)にかかわる作品を読むが、いま筆者がどのようなことを考えながら作品に向き合っているかについて、少し記しておきたい。 
 
 いま、政治・社会のきわめて重要な問題として、安倍政権、与党が「特定秘密保護法案」の制定を急ぎ、その国会における議席数の大きさにまかせて強行しようとし、またそれに対応する野党(?)の一部が事の本質を曖昧にする不明瞭な「修正」協議によって、結果的には同法案成立に協力する動きをしている事態がある。政府が恣意的に「特定秘密」を指定し、国民、国会議員をさえその「秘密」に触れさせず、ジャーナリズムその他の報道機関が取材したり、報道する事を縛る、違反すれば重罪に処するという恐るべき法律を成立させようとしているのである。何が「特定秘密」に指定されたのかを知らせず、その秘密を表に出したり伝えたりすれば罪になるなどということがあっていいはずがない。国会審議の中では、原発に関わっての事例をあげての質疑も行われているが、安倍政権はいま広範になりつつある同法に反対する国民的な運動や、言論界をはじめ各界の闘いを無視して、なんとしても今国会での成立を図る姿勢を変えていない。 
 
 この「特定秘密保護法」について、内田樹・神戸女学院大学名誉教授は 
「安倍政権は経済成長を最優先の政策課題に掲げ、経済発展に都合のよい形に社会制度全体を設計し直そうとしています。その流れの中に特定秘密保護法案を位置づける必要があります。国民が知ることの情報を制限すれば、それだけ議論の余地は少なくなり、政策決定はスピードアップする。トップダウンですべて決まる『株式会社』のモデルにならって政治システムを改組しようとする試みだと私は見ています。・・・法律ができれば、反政府的な言論人や労働組合は『経済成長を妨害するもの』として抑圧され、メディアも政府批判を手控えることになるでしょう。運用次第でかつての治安維持法のような『凶器』になりかねません。・・・」(朝日新聞11月23日朝刊1面「異議あり・特定秘密保護法案」)で述べている。 
 
 「経済成長最優先のための社会制度全体の設計」とは、安倍政権の「強い日本」、「自虐史観―先の日本の侵略戦争を正しく反省し、現憲法に基づいた国のあり方を求める―を否定し、米国との絶対協調による世界の大国の位置を占めるための経済大国への復帰」を目指し、それにふさわしい国内の支配体制を構築しようとしているということであろう。この間、矢継ぎ早に軍事、教育、経済、防衛、外交にかかわる施策を打ち出しているが、「社会制度全体の再設計」に収斂して行くものである。 
 
 このような政権のもとでの原子力政策がどのようなものであるか、経済成長の有力な柱として、原発再稼働、そして海外への原発輸出攻勢が位置づけられる一方、福島原発事故対策の脆弱さ、とりわけ被災者対策の内容の恣意的な方針の変更は、高汚染地域に対する除染による環境回復、改善の放棄、歴史的に形成された地域の人々の生活の分断、コミュニティ崩壊につながる線引き、放射能被ばく線量の計測を、数字が低く出るからという理由で各個人の計測器保持による計測・管理に変える、被曝線量の安全基準をも変えてしまう・・・など原発事故の被災の実態を押し隠そうとするものになっている。 
 
 「特定秘密保護法案」は、当然、原子力問題にかかわる危険なものであり、特にテロ対策を名目にして、原発の施設、原子力関連施設、原発用燃料の運搬、使用済み核燃料、高濃度汚染廃棄物の管理などについて、原発立地地域や核施設の存在地域の住民にも知るすべがなくなることになる可能性は、かつて治安維持法がどのように運用されたかの経験からも、さらにまた、広島・長崎への原爆投下後の米国占領軍による被害状況や被害者に関する資料やデータが秘匿されたことによる、被爆者、二次被爆者、被爆二世の生命と健康、生活への受難の深刻化の歴史的経験にもつなげて考えないわけにはいかない。 
 
 このような政治・社会情勢のなかでいま私たちは生き、生活し、短歌を詠んでいる。いま読ませていただいている『現代万葉集』の作品はその中で詠われた作品であり、今回は「社会」の項目に分類して掲載されていることもあって、原発事故、原爆、放射能にかかわって詠われた作品が数多く、被災地からの出詠歌も少なくない。 
 
 筆者は、11月2〜3日に、福島県三春町の「収穫祭」(三春町芹澤農産加工グループ/三春。滝桜花見祭り実行委員会/福島「農と食」再生ネットの主催、三春町/JAたむらの協力)に参加し、三春町、田村市都路地区(避難指示解除準備区域)を訪れて、同地の農業者が放射能禍のもとで地域農業を守り、東京や各地の人々、団体との連帯と共同により、暮らしや生産活動のなかで「原発に頼らない」営農、農産加工に取り組み、徹底した放射能対策を講じての農業生産、全生産物の放射線量測定による消費と出荷に取り組んでいる実態を見、現地の人々の体験を聞き、交流する機会を持った。3回目の三春訪問であったが、太陽光発電設置による「農産加工所」の運営をはじめ、脱原発に自らの生活をかけての実践と努力に、改めて感動を深くするとともに、この経験を筆者なりに詠うものの一人としてどのように短歌表現し伝えていけるかをわが課題とし、悪戦苦闘している。先日、筆者が参加する短歌会に出詠したが、「話を聞けばわかるが、作品そのものからは伝わらない。」と厳しい批評をうけ、改めて、作りなおそうとしている。 
 
 残念ながら、まだできないでいる。 
 
 『現代万葉集』の作品を読みたい 
 
 
  ◇社 会◇ 
▼この朝も夫の培ふ椎茸を焙りて食みぬセシウムいふなく 
 椎茸の栽培農家ことごとく出荷自粛を強ひらるあはれ 
 老健施設(ろうけん)の母は知れるや原発の事故をいきどほるわれの心を 
                    (宮城 相澤寿美子) 
 
▼ベンシャーンの描きし久保山愛吉の横顔は糺す日本のゆくえ 
 覆われてシート真白き原爆ドーム補修というは何を繕う 
 原爆は平和生みしと記述あり幻想を生きて戦後のわれら 
(広島 相原由美) 
 
▼せめてもと首相官邸デモゆけばNHKの取材も受けむ 
 個のわれが集ひて「さよなら原発」のデモは見知らぬ人と腕組む 
                    (北海道 足立敏彦) 
 
▼何とか出来る事にあらぬが毎夕聞く地方ニュースの放射線量 
 原発は断固反対さりながらなかなかなれぬ節電名人 
(神奈川 磯部美智子) 
 
▼縋る少女置き来しと義母(はは)は投下日を吐き出しゆっくり自分を忘れた 
 隕石は30倍核実験は1/2広島を単位に小草生月(おぐさおいづき) 
(広島 上條節子) 
 
▼我に悲のみ多かりしとは思はねど服喪のごとき今日原爆忌 
                     (長野 遠藤三春) 
 
▼目に見えず臭ふことなき放射能 疑惑をおおふふかき沈黙 
 原子炉よりいのちの海へ大地へと核汚染水ひたひた流出続く 
 (原発で明るい未来)と掲ぐる町かの収容所の門にかさなる 
                    (茨城 緒方美恵子) 
 
▼金曜日に反原発のデモつづく誰が名付けしや「あじさい革命」 
 紫陽花は盛りをすぎて衰えをあらわに見するも形くずさぬ 
 デモの声を大きい音と言いしゆえ歌人が名付けた「NO野田記念日」 
                   (東京 小山田ふみ子) 
 
▼人間の欲望満たさるることなければ原発禍の中はや再稼動の声 
                    (新潟 笠原さい子) 
 
▼放射能あるが日常となりてけり何マイクロシーベルト?天気のやうに 
 永久の危険ゴミふやしどこまでも原子炉は安く電気産むとふ 
 何度でも立ち直る他にはなくてカムパネルラを胸に生かして 
                    (神奈川 木村雅子) 
 
▼凍み餅のようにあまたの罅(ひび)もてる列島にこんな原発がある 
                    (千葉 久々湊盈子) 
 
▼反魂草ゆるる谷間よ原発はいらぬと沖の浪間(なみま)にこだます 
 いざ目覚めよ豊葦原の荒ぶる山原発いらぬと火焔をあげよ 
                     (兵庫 篠原節子) 
 
▼曇天より降りくる雨の含む塵セシウムの率気にしておりぬ 
                     (神奈川 代田孟男) 
 
▼福島の空のいたみを嘆きゐむ阿多多羅山のふもとに智恵子 
 放射線量知らぬが学びをりたりし「ハナハトマメマス・・・・・カラスガヰマス」                     (山梨 関戸公子) 
 
▼完全な安全はなし原発のこんな筈ではなんてあまりの軽さ 
                      (茨城 曽野誠子) 
 
▼迷走に堪へし三年も共犯の自覚を持ちて一票投ず 
 民意とふ脱原発を唱へたる党の揃ひて議席を減らす (東京 中原兼彦) 
 
▼放射能汚染の中に方舟の行先ありやノアに尋ねむ  (山形 橋本弘子) 
 
▼カツェネルソンはアウシュビッツを波汐氏はフクシマを歌へりその真実 
 を 
 おののくは目に見えぬ放射能とそは目に見えぬものを信じぬ科学の鬼子 
                     (広島 東 木の實) 
 
▼土剥げば土置く所もないという国原狭めて原発並ぶ (埼玉 日向 勝) 
 
▼かの人は今に嘆きてをるだらう安達太良山のほんたうの空 
                      (埼玉 平塚宗臣) 
 
▼日本の報道の自由は如何ならん 世界五十三位例えば原発 
 原子力発電は基礎研究よりなすべきと湯川博士は一年で委員会を去る 
                        (神奈川 廣石正子) 
 
▼放射能怖るるなくて須賀川の地元の人らと野菜買ひ込む 
 須賀川産のブランド胡瓜に風評の被害を恐る妹は生産者 
 フクシマの名は世界中にひろがれり原発あれどもフクシマを愛す 
                     (東京 藤井徳子) 
 
▼オレンジルートと飾りていへる航路さへ知らず原発を抱ふる伊予か 
                    (愛媛 三島誠以知) 
 
▼原発の事故の収束つかざるに放射能値に慣れゆくこはさ 
 声高に安全安心唱ふれどコストについて触るることなし 
 「福島」が「フクシマ」となり水を買ふ幼の内部被曝恐れて 
                     (福島 宮崎英幸) 
 
▼粒揃いの福島林檎の美味にして風評被害に怒りおぼゆる 
                    (東京 山岸とし子) 
 
▼ごまかしと抹消つづく東電ぞいまだに刑罰問われずにおり 
 鴉さえあきれてまともに鳴かざりき原発再稼働に怪鳥オスプレイ 
                    (北海道 山本 司) 
 
 次回も『現代万葉集』の原子力にかかわる作品を読み続ける。 
                        (つづく) 


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