2013年12月13日12時01分掲載  無料記事
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文化

【核を詠う】(134)『2013年版現代万葉集』から原子力詠を読む(4) 「十万年使へぬ土地をさらしつつ再稼働する原発はある」 山崎芳彦

今回も『2013年版現代万葉集』から原子力詠を読むのだが、2011年3・11の東日本大震災・福島第一原発の壊滅事故がこの国にとっていかに重大な出来事であったかを、短歌作品を通して改めて考えている。この連載では原発詠を抄出して記しているが、原発事故がどれほど深刻な影響を人々の生活、生存、社会のあり方、さらに自然環境に与えているか、この事態がなぜ起きたのか、これからどのように福島をはじめ被災地の復興、再生を実現していくのか。脱原発社会に向けてどのように進むのか。3年目を迎えようとしているなかで、反国民的な本性を剥き出しにしている安倍政権とその利害共同勢力には適切、機敏な政策実行を委ねることができないことは、閉会した国会における安倍政権・与党の振る舞いを目の当たりにして明らかである以上、国民的な議論と行動によって、虚構の「大予党」(現政権を許してしまった前回総選挙においては投票率59.3パーセントの中で自民党の得票率は小選挙区でも43パーセント、比例代表区にいたっては27.6パーセントに過ぎなかったことを考えれば、有権者の4分の1の支持を受けたに過ぎなかったことを思い起こそう。今年7月の参院選でも投票率52.6パーセントで自民党の得票率は比例代表で34.7パーセント、選挙区で42.7パーセントだったから前有権者ベースではやはり20パーセント台の得票率だ。)の独裁的な政治、行政執行に対して歯止めをかけるあらゆる手段と方法を講じる力を、困難はあっても構築していくことが求められているというしかない。 
 
 安倍政権が打ち出して、具体化し、実行をはじめている政策を厳しく点検し、その本質を明らかにし、主権者としての抵抗と反撃を可能な限りの手段と方法で、地域から、労働の現場から、生活の現場から共同と連帯の力を築きつつ、一歩でも、半歩でも前進させるしかない。 
 政権の基盤は、主権者国民の、それぞれの場からの行動が現実化すれば、政権党の議席数の虚構をより明るみに出し、安倍政治の国民にとって危険きわまりない本質が浮かび上がるに違いない。前国会で政権は何を決めたのか、どのような方向を示したのか、どのような手法でそれを為したのか、点検していけば、その内容の危険な中味が明らかになる。 
 
 原発問題、とりわけ福島第一原発の壊滅事故について、いま政府・電力大企業とその関連大企業は、事故がもたらしている実態、被災した人々、地域、自然に対して何を為してきているか。何を保障し、どのような責任を果たそうとしているのか。今、被災した人々の生活の現実、実態に見合った政策や計画が打ち出され、実行されているか。あるのは口先だけ、人々の求める対策の貧困は許しがたいものである。原子力エネルギーからの脱却のための政策、計画は何もできていない。 
 そして原発の存続、再稼働に向けての前のめりな姿勢、経済成長戦略に原発エネルギーの必要性ばかりか原発プラント輸出策を進めている。 
 どこに「福島の再生」「東北の復興」に向けた実効あるある本気の取り組みがあるだろうか。懸命に日々を生き、生活再建に取り組んでいる原発事故被災者の現実を真剣に見ない現政権の姿勢は、事故発生当時の民主党政府の無力で、誤りの多かった対策の責任を攻撃はするが、原発の歴史を考えたとき、それでは済まされないより根源的な責任を負う自覚は無い。 
 
 『現代万葉集』の作品を読むにふさわしくない、未整理な思いを書き連ねてしまった。お詫びしなければならない。作品を読もう。 
 
  ○東日本大震災②○ 
▼平穏なる暮らしのごとく過ぎゆけど見えざる被災に今も悩める 
 被災より一年過ぎて復興の言葉は聞けど勢ひはなし 
 生も死もわが運命とうべなへど原発の不安に時に怯ゆる 
                         (福島 桑島久子) 
 
▼人類が知恵を絞(しぼ)ればできるはず自然の力で発電の技 
                        (神奈川 郡山 直) 
 
▼福島県富岡町の五百本のさくら満開除染土置かるる 
 魚沼のツキノワグマは体内のセシウムなどは気にせず増えん 
 省エネと夜の暗さを言う吾に遮光カーテンと言う人のあり 
                         (新潟 近藤栄子) 
 
▼忘れじと敗戦の果てを語り継ぎ今また伝ふべし原子炉の惨を 
 知らずして知らされざる事の顛末をおそるる庭に霰たばしる 
                        (福岡 近藤千鶴子) 
 
▼犠牲者は員数のみに括られて大震災の忘れられゆく 
 被曝地に耳無き兎生れしとふ若きら多く避難してゆく 
 風評に売れざる大蒜棄て置くに冬芽(とうが)の伸びて畑に勢ふ 
                         (福島 金野金哉) 
 
▼海山のくるしみ深きこの国の一所懸命椎の木匂う 
 はつ夏の力あふれよ椎の花関東平野に磐城平に  (神奈川 三枝昂之) 
 
▼原子炉は東西南北五十余基いま止まりたり無くもがなとぞ 
                        (東京 佐藤千代子) 
 
▼プロメテウスの火を用ひたる咎(とが)としも放射線量に人は追はるる 
 すぎゆきの全てを消し去る如くにも除染車輌は大地を削る 
 「東北に奇跡は起こる」と言い給ふドナルド・キーン氏の言葉は言霊 
                         (福島 佐藤輝子) 
 
▼放射能汚染に遊べぬ子ら招(よ)ばんそんな企画に引き摺り込まれ 
                         (宮城 佐野督郎) 
 
▼原発の地より運ばれゆく牛の瞳は濡れてドナドナドーナ 
 被災地の友の電話の花便り自然に怯え 自然うるわし 
                        (福岡 篠原まり子) 
 
▼原発の事故が起りて農協の組織整備の動き強まる 
 柿の実が赤く輝やく家の庭災害地にて作り捨てたり (福島 鈴木 進) 
 
▼汚染水と呼ばれこの先流れざる水の嵩ます國に在ること 
 十万年使へぬ土地をさらしつつ再稼働する原発はある 
 セシウムを除去せる技術開発とまだまだ日本立ち上がれさう 
                        (神奈川 鈴木富子) 
 
▼吾妻嶺の輝く朝はセシウムのことも忘れて深呼吸する 
 耕さぬ田はタンポポに蓋はれて幽かな光放ちてゐたり 
                         (福島 鈴木紀男) 
 
▼原発の廃炉を募る書状もつ村長ふたたび動かぬ心に 
 砕け散る宙のふかみを還りきしカメラに写り果て青き閃光 
                        (茨城 園部みつ江) 
 
▼老齢の吾には無用と思えどもガラスバッチの数値書届く 
 山径に落ちたるままの栗の実の汚染消ゆる日いつ訪れん 
 震災の復興ソング「花は咲く」胸あつく聞く目を瞑り聞く 
                         (福島 田中寿子) 
 
▼その当初ゴーストタウンを思はせて当てなく歩める牛らは何処 
                        (北海道 谷内 巌) 
 
▼セシウムに色が欲しいと村の人線量計の音鳴りやまず 
 八時間電源とめればアウトとのもろさも見せて安全神話 
 立入りの禁止となりし水田にハクチョウ100羽降りて餌をつむ 
                         (静岡 戸口愛策) 
 
▼津波の後(のち)原発に焦土となりし被災地手付かぬままに二年となりぬ 
                         (愛知 中野弘靖) 
 
▼責めを負ふ人も無きまま過ぎゆけり原発事故の後も驕りて 
                        (埼玉 中村美代子) 
 
▼原発事故の収束みえずつく息の深きにカンナの朱(あけ)をみちびく 
 貧しきが故に原発招きしを原発爆(は)ぜて消えし町はや 
 福島産トマトが身籠るセシウムの真っ赤な鬼を囲める夕餉 
                         (福島 波汐國芳) 
 
▼風車並ぶカルスト台地見つつ行く脱原発の確かな証(あかし) 
                        (高知 西岡瑠璃子) 
 
▼三歳の児(こ)に癌保険掛けしという放射能苦のフクシマの母 
 セシウムに汚染されたる福島に今はあらざるほんとうの空 
 未来へとつながる命に美しき大地と海と空残さんか (千葉 野田忠昭) 
 
 次回も『現代万葉集』の原子力詠を読む。       (つづく) 


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