2014年04月19日15時33分掲載  無料記事
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TPP/脱グローバリゼーション

オバマ政権にいまTPP合意のつもりはない 大野和興

 TPPをめぐる日米両政府交渉は24日のオバマ来日を控え、大車輪で行われているかに見えるが、躍起なのは安倍政権だけで、徹底した自由化こそがTPPの意義という原則論をたてに一歩も譲らないオバマ政権にはいま妥結する気はないと見る方が、いまの事態について説明がつく。オバマ政権が秋の中間選挙を乗り切るためにはTPPという切り札が必要を日本でいわれていること自体が怪しくなったからだ。オバマの母体である民主党にとって、TPPは選挙で有利に働かない状況が深まっている。 
 
 24日のオバマ大統領来日・日米首脳会談を前に、日本の甘利担当相と米国のフロマンUSTR(米通商代表部)代表との政治会談は、日本と米国を股にかけて長時間を費やして行われた。米国での交渉が終わった日、甘利大臣はつかれきった表情で「溝は埋まらない」と語った。交渉は日本政府が落としどころとして用意しているレベルにほど遠く、米国側は関税ゼロあるいはゼロに近い水準という原則論を崩さなかったためだ。 
 
 安倍首相は担当大臣による日米政治交渉さなかの17日、都内で講演し、TPPについて「数字にこだわることも重要だが、それを超えたもっと大きな意味があるという高い観点から、最終的に妥結を目指していきたい」と述べ、早期妥結に意欲を示したと報道された。しかし、日本政府が落としどころとして用意している農産物聖域五後品目(コメ、ムギ、サトウ、牛肉・豚肉、乳製品)について、それ以上の関税引き下げは政治問題に発展しかねない。 
 
 自民党内の農林議員の力は現在大幅に低下、有力議員も見当たらず、それほどの力はないという見方もある。しかし、高支持率を背景に党内の支配力を誇っていた安倍首相の力にもかげりが見えてきている。肝心の経済再活性化で限界が見え、国際関係では失敗続き、あまりの右派路線にかろうじて生息している自民党リベラル派の反撃も出始めているからだ。それだけに安倍首相としては、安倍成長戦略の柱であるTPPに固執したくなる.それが17日の都内での講演となった現れた。 
 
 靖国参拝に代表される安倍首相の右より姿勢は、欧米、アジアを中心に評判は良くない。米国政府の安倍首相への「失望」はそのまま日米関係に突き刺さり、解決していない。とんな時の日米首脳会談だけに、安倍首相としてはオバマ大統領の関心を引く手みやげを用意したいという思惑もある。もともとTPPは民主党政権成立を受け首相になった鳩山由紀夫氏が、沖縄・普天間米軍基地の県外ないし海外移設を主張して悪化した日米関係修復を狙って、次の首相である菅直人氏が突然2010年秋の国会で言及したことに端を発している。民主党から自民党へ政権は変わったが、安倍首相はそのときの同じ状況にあるとみてよい。そこから飛び出したのが。「数字を超えた意味」とTPPに求める発言だ。まさに苦し紛れ、という感じがする。 
 
 一方米国の事情はどうか。オバマ大統領がTPPにかけているのは、雇用の改善につきる。まだまだ成長が見込めるアジア太平洋地域の経済を米国のマーケットとして取り込み、雇用を伸ばしたいという思惑だ。 
 
 ところが、雇用拡大でもっとも大きな恩恵を受けるはずの労働組合が、TPP反対の先頭に立っている。90年代に動き出した北米自由貿易協定(NAFTA)の経験をもとに、自由貿易は労働者の仕事を奪うという強い反対論を労働組合は展開している。その労働組合は民主党のもっとも強い支持母体だから、話はややこしくなる。 
 
 いまTPPの日米協議で主要議題になっている牛肉・豚肉はアメリカ農業や関連農業団体にとっては意味はあっても、米国のもともとの狙いである雇用にとってはほとんど効果はない.アメリカ農業に詳しい九州大学の磯田宏准教授は次のように述べている。 
 
「日本が牛肉,豚肉,さらには米や乳製品で関税撤廃に近いような大幅譲歩をして「大筋妥結」に近づいたとしても,オバマ大統領が「公約」したような雇用,とりわけいわゆる中産階層の雇用の量的・質的改善にはほとんど全く寄与しない。肉牛肥育経営,養豚経営は極度に工業化されて労働節約的,酪農でも労働集約的な搾乳行程はほとんど全てヒスパニック労働者をあてている。また食肉パッキング工場もほとんど最悪の労働条件なので,やはりヒスパニックが大半。まして米を含む穀作農業は「労働節約的工業化」の極地」 
 
 製造業の雇用を重視する民主党支持の労働組合rとオバマ世間にとって、中間選挙前にTPP大筋合意を勝ち取っても、ほとんど意味はないだけでなく、かえってマイナスの働く懸念させあるのである。 


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