2014年04月24日17時02分掲載  無料記事
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文化

【核を詠う】(151) 山本司歌集『揺れいる地軸』から原子力詠を読む(1) 「原子炉の溶融なりしとぞ政・財・官の癒着のごとく」 山崎芳彦

 今回から山本司歌集『揺れいる地軸』の原子力に関わる作品を読ませていただく。北海道在住のこの歌人について筆者は、社会問題について積極的に詠い続けている歌人という印象をもっていたが、必ずしも多くの作品を読んできたとはいえない。「新日本歌人」全国幹事・選者としての活躍について、そのことを知る人から山本さんについて聞き知っていたのだが真摯な人柄、積極的な作歌姿勢の歌人との評価である。同人誌「炎(ほむら)」、「歌群」の代表でもある。 歌集『揺れいる地軸』(角川学芸出版、2014年2月発行)はその歌集名からもうかがわれるように、2011年の3・11東日本大震災・福島第一原発の壊滅事故を基調のテーマにし、さらにその基底にある時代、政治、社会、世界の動向などをもとらえ、記録した山本さんの短歌作品の集成であるといえよう。 
 
「あとがき」のなかで作者は次のように述べている。 
 「(東日本大震災、福島第一原発事故の被災にたいして)被災地へのできる限りの募金も行なったが、ボランティアに行くのは、喘息等の持病のある私には無理であった。・・・やはり歌人としては徹底してこれらの事態の今後の推移を作歌すべきだと思いが至り、この歌集の刊行を得たのである。」 
 「作歌するにあたって、当時の大局的な特徴について考えた。それは、(1)千年に一度と称せられた大地震・震災と共に、日本市場で初めての大規模な原発事故の発生。(2))その災害の状況は“国難”と言われ、国政を左右する規模の内容であり、(3)それらの解決の内容如何が日本の現在と未来に関わるもので、いかなる教訓を持って今日と未来の国造りを成すかが問われている事を踏まえて、克明に表出するよう心掛けた。」 
 と、東日本大震災・福島第一原発壊滅事故を詠う自らの構えを、基本的にさだめたことを明らかにした。 
 
 そして、この歌集の編纂について、「大震災と原発事故に関わる内容を軸に据えながらも、当時の時代性や社会状況が見えるように、日本と世界の特徴的な事柄や己の諸事を詠じた作品も挿入し・・・ポエジーとドキュメント性を融合した重層的な一大絵巻と、その後の時代状況への暗示性も目論んだ」と、作者の「時代を詠う作歌」とでもいうべき気概を述べもする。 
 
 山本さんは、3・11以後1年間で2590首の短歌作品を詠い、その後も持続している。筆者などからすると、驚異的な作品創出である。この歌集には、それ以後数ヶ月の若干の作品を加えた中から、719首を自選して、前記の意図に添って構成したとのことである。 
 
 この連載の中では、歌集に収録された作品の中から、原子力に関わって詠まれた作品(筆者の読みによる)を抄出させていただくので、作者の意図に添え切れないことになってしまうが、連載の目的の枠によるものであり、お詫びし、お許しを願うしかない。 
 
 歌集『揺れいる地軸』からの抄出歌を読んでいきたい。 
 
 
 ◇地軸揺れ―大震災・原発大事故以後の数日◇ 
 
事故起きんと思いて来しも驚愕す福島原発の水素爆発 
           (3月12日東京電力福島第一原発にて) 
 
利潤への欲望が造りし原発ぞ湯川博士も反対せしが 
 
原発事故「心配なし」と報ぜらる三十キロ避難必要と思うに 
 
被曝せし九十人はいかならん白煙上がる建屋の映像 
 
核分裂の制御ままならぬ原発と識りいてなおも想定外と 
 
原発を阻止できざりしを深く悔ゆ放射性物質の見えざる恐怖 
 
一号機つづきて三号機も爆発す核分裂の止まぬ原子炉 
 
原発が五十四基になりしとや崩壊まねかん日本列島 
 
 ◇物心壊るる‐3月14日以降◇ 
 
放射能を怖れて食品の届かざる被災地を映すさまよう犬も 
 
原発に海水注入・投下などその場しのぎの無策をさらす 
              (3月17日にヘリコプターより) 
 
八十キロ圏内の避難勧告せり自国民へのアメリカの措置 
              (3月17日未明) 
 
小出しにて避難指示圏を拡大す無策への批判を恐れし政府が 
 
原子炉の炉心溶融なりしとぞ政・財・官の癒着のごとく 
 
国際的恐怖と支援の運動が起きし福島 フクシマとなり 
 
首都圏の学校給食おかずなし 被災は徐々に生活に及ぶ 
 
「直ちに影響ない」と繰り返す放射性物質の拡がる被害 
 
ホウレン草・小松菜・キャベツつぎつぎと襲いし放射能 出荷はできず 
 
日本中が被災地なのだ海流が風が運べる放射能汚染 
 
原発の計画凍結せしスイス 日本政府の地震はなおも 
 
作業員の被曝量上限引き上げぬ生け贄ささぐる御言(みこと)のごとく 
        (百ミリシーベルトから二百五十ミリシーベルトへ) 
 
安全をチェックすべき保安院ぞ原発推進の役のみはたし来 
 
原発事故 すでに予見されており吉井議員の国会質問 
 
避難者の全国疎開もなされ行く苦しみともに分かち合うべく 
 
原発ゆ四十キロ先の飯館村 想定外の放射能汚染 
(3月23日高濃度セシウム検出) 
 
レベル6に国際評価は悪化せり広域・高レベルの放射能汚染 
 
不明者を捜しに行けぬ異界の地 二十キロ圏を鳶が越え行く 
 
ドイツにて二十五万人のデモ行進 反原発の世論高まる 
 
避難せし下請け労働者が原発へ 過酷なるとも生きねばならず 
 
生きがいをうばわれし農夫自死したるキャベツ畑の放射能汚染 
 
内部留保二兆円たくわえし東電ぞ早く補償の支払いなさんか 
 
 ◇問わるる絆―2011年4月◇ 
 
国外で輸入拒否さるる農産物 風評被害は全国に起き 
 
汚染水の流出原因つかめざり海の線量増加するまま 
 
原乳も出荷停止で地に捨つるどこまで広ごる放射能被害 
 
小女子(コウナゴ)の出荷停止の茨城県 放射能汚染は魚貝にいたる 
 
事故レベル国際評価の7とせり隠しきれぬ放射能放出 
 
最悪のチェルノブイリ事故に匹敵すと国際的批判受けて正せり 
 
農漁業風評被害も含めて責任負うべし東電・政府 
 
白色の防護服で作業せる十キロ圏内 ダリの世界ぞ 
 
イタリアが原発の無期限凍結を表明したり変わるや世界 
 
許容量の二万年分の汚染水 流出したり凪ぎたる海に 
 
原発の二十キロ圏内封鎖せり民を守るに決断遅き 
(4月22日午前零時) 
 
米作付け禁止されたり福島の七万戸・一万ヘクタールの田 
 
二十キロ圏内の牛を安楽死と放射能汚染の罪深き処理 
 
東電の本社前にて抗議せり牛や野菜を示しし怒り 
 
天下り政治献金でつくられき“原子力村”と“安全神話” 
 
 ◇声を上げねば―2011年5月◇ 
 
一時帰宅川内村よりはじまりぬ滞在二時間のなすことわずか 
                (原発二十キロ圏内につき) 
 
渋谷で原発禁止のデモのあり一万人(いちまん)集えど報道わずか 
 
礼文島より平和大行進出発す核兵器廃絶と原発禁止を 
                (5月8日午前8時、町役場前より) 
 
原発を襲いし津波の映像ぞ一分間にて水没したり 
(5月19日東電が公開) 
 
神奈川の足柄茶も汚染せり出荷自粛に驚く吾も 
                (5月11日、原発より250キロの地) 
 
農地の除染実験はじまりぬすべてゼロからの出発なれど 
 
十キロ圏に県庁等のある島根 原発廃炉の声高まりぬ 
 
 次回も『揺れいる地軸』の作品を読ませていただく。 


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