2014年06月17日00時09分掲載  無料記事
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文化

【核を詠う】(155) 山本司歌集『揺れいる地軸』の原子力詠を読む(5) 「日本の地軸揺れ来しこの後の行方を問わんいかなる国へ」 山崎芳彦

 山本司さんの歌集『揺れいる地軸』から原子力にかかわる作品、と作者が読んだ短歌を読ませていただいてきたが、今回で終わる。この歌集の「あとがき」で山本さんは東日本大震災、福島第一原発事故に向き合って、「歌人としては徹底してこれらの事態の今後の推移を作歌すべきだと思いが至り、この歌集の刊行を得た」と記したが、2011年3月11日から一年間で実に2590首を詠み、その後も精力的に詠み続けた果実から、この歌集に719首を収められたという。筆者も拙く歌う者の一人であるが、山本さんの作歌への情熱的な取り組みに敬意を深くした。日々、たゆまず、思いを凝らし、社会の動きをとらえ、作品化し続けている山本さんは、今日も歌っておられることだろうと思いながら、この連載に歌集から抄出掲載させていただいた。お礼を申し上げたい。 
 
 今週月曜日(6月16日)の「朝日歌壇」のなかに、社会詠として印象深く読んだいくつかの作品がある。転載させていただく。 
○民主主義冒さるるとき民として何人(なんびと)にも抗へとドイツ憲法 
              (フランス・松浦のぶこ 永田和弘選) 
 この作品について撰者の永田氏は「ナチズムの台頭による第二次世界大戦の苦い歴史的教訓から、自由と民主主義を防衛する義務を課したのがドイツ憲法の精神。政府が憲法と国民に背いた場合、抵抗権を発揮できる。松浦さんは今の日本にその精神をと訴える。」との評言を記している。 
 
○本当に心配なことは知らされないそれすら知らず送る毎日 
               (上田市・笠原幸子 永田選) 
○真夜中の爆音すさまじ 厚木には占領軍がいまも居すわる 
               (相模原市・松並善光 馬場あき子選) 
 
○「吉田調書」やはりてんでんこ逃げていた危険感じたその場にいた人 
               (盛岡市・堀米公子 佐佐木幸綱選) 
○衝撃の吉田調書が明らかに特報なくば未だ知られず 
               (千葉市・鈴木一成 佐佐木選) 
 選者の佐佐木氏は「『朝日新聞』の特ダネ「吉田調書」をうたった作。『やはり』という思い、非公開に終わったかもしれない可能性をうたう。」と評している。 
 
○福島に住むなは天の声として他に住むひとの永遠のご無事を 
               (福島市・山田 毅 佐佐木選) 
○吾が首長らは避難者側と対座する国の職員の横に並びて 
               (田村市・久住秀司 佐佐木選) 
○巨き輪を内から外(と)へと越せばまた同心円の続くふくしま 
               (福島市・青木崇郎 佐佐木選) 
○使用済み燃料棒は釜の外プールで白む「五重の防御」 
               (宇部市・崎田修平 佐佐木選) 
 「吉田調書」の二首も、この四首も原発にかかわっての作品であるが、歌を詠む多くの人が原発詠をそれぞれの視点、思いから短歌表現をすることの大切さを改めて考える。 
 
 今回が最後になるが、吉田さんの歌集『揺れいる地軸』の原子力詠を読みたい。 
 
 
  ◇希望への鐘―2011年12月(2)― 
 
放射能の暫定規制値の危険さを指摘されしも他国学者に 
         (六月に一キロ当たり5百ベクレルと規定) 
 
「作っても喜ばれないのがつらい」と述ぶ出荷停止や風評被害で 
 
原発の「事故の収束」宣言せり何をもって収束となす 
    (十二月十六日、野田首相が“原発事故収束”を宣言) 
 
放射性物質は今も漏れており原子炉内部の見えぬ恐怖が 
              (推定毎時六千万ベクレル放出) 
 
住民の帰郷と廃炉なしてこそ収束と言えり 姑息ぞ宣言 
        (廃炉には約三十年必要といわれているのに) 
 
収束へ命をかけて報われぬ作業員こそが国を守れり 
 
二年後に帰郷開始せんとする飯舘村よ祈る想いに 
 
人類が原発跡地を見つけるまで生存しうるか岐路にたつ現代(いま) 
 
何起きるか想像つかぬ海までもストロンチウムの多量流出 
        (事故以後、約四百六十二兆ベクレルの流出) 
 
ツィッターで集まりしデモに三鷹市もサンタも子らも「原発ノー」と 
     (十二月十一日、“さよなら原発!”三鷹アクション) 
 
三台の線量計を購入し放射能避けつ暮らせる家族 
                (南相馬市の指定解除区域) 
 
放射能基準案あらたに提案さる数値下げたり被曝は毒なる 
 
廃炉まで四十年近くかかるとう掛かる費用の予測もつかず 
          (十二月二十一日、政府・東電が工程発表) 
 
幌延の核処分場の意図隠す研究資料黒塗りのまま 
 
東電へ賠償請求行動せり生死のはざまに耐えいる農家 
    (十二月二十六日、農民運動全国連合会主催で五万人参加) 
 
双葉郡に中間貯蔵施設をと要請なせり罪過の原発 
          (十二月二十八日、環境相が福島県知事に) 
 
 
  ◇願えど寒し―2012年1月◇ 
 
正月にあれどフクシマの原子炉に休みはあらずつづく故障が 
   (十二月三十日、二十六時間のシステム故障判明と公表) 
 
この事実賄賂と言わん業界が安全委員に多額の寄付を 
  (四年間で原子力業界から安全委員二十四人に八千五百万円を) 
 
避難地区の飯舘村の老夫婦 病む妻看んと自宅に残りぬ 
 
原発の寿命四十年とせり原発維持をなお続けんと 
       (一月六日、細野原発相の規制法改正方針発表) 
 
福島に中間貯蔵施設をと要請す脱原発の約束せずに 
          (一月八日、首相と福島県知事との会談) 
 
首相に福島の知事が求めたり廃炉と収束いまだにあらずと 
      (一月八日会談、県内十基の原発廃炉と完全復興を) 
 
「やらせメール」追及されいし九電の社長ら辞任す反省もなく 
      (一月十二日、臨時取締役会で、会長、社長が辞任) 
 
放射線を浴びしを殺さず研究の材料にと牛飼いの声 
 
「脱原発世界会議」が開かれぬ三千人以上の参加のもとに 
  (一月十四日から十五日、横浜市で開催、延べ一万一千五百人参加) 
 
大切なものは子供の命ですか、お金ですか。と問う悠史(ゆうり)君 
              (一月十四日、「脱原発世界会議」にて) 
 
削るべし原発推進費や軍事費を被災地はいまだ寒き仮設ぞ 
 
新築のマンションより高線量 汚染コンクリが使用されしと 
(福島県二本松市、砕石会社より販売、数百ヶ所の工事に使用されたらしい) 
 
またしても放射性物質が海水へ三百七十五億ベクレルも 
      (一月十六日東電発表、昨年十二月に流出せし汚染水) 
 
SPEEDIの資料がスピーディに米軍へ日本での公表はその後と知る 
 
いまにして事故四ヶ月前の工事ミス放置のままが明かされて来し 
 
ロボットでなければ作業出来ぬとは原発建屋は恐怖の異界 
 
人類の“終末時計”は進みおり放射能増えゆく原発の灰 
 
落ち葉類のごみの収集禁じらる焼却灰に溜まるセシウム 
           (栃木県や首都圏にて、灰の最終処分場なし) 
 
エジプトの原発予定地の座り込みフクシマの事故が世界を変え行く 
 
女川の原発囲む活断層 無視して再稼働もくろみており 
 
セシウムの放出量は日々増せりフクシマ原発あやういばかり 
(昨年十二月の毎時六千万ベクレルが現在七千二百万ベクレルと東電発表) 
 
 
  ◇世界の虎落笛―2012年2月― 
 
「日本は一つ」にあらざり原発を推進せしと 被害の民と 
 
すぐさまに解雇され来し作業員 白血球の数値上がれば 
 
子供らに他県産物 大人らは自家栽培と聞きてかなしも 
                    (福島県にて) 
 
業界の寄付を受けし三教授 原子力新大綱査定委員たるに 
 
いまにして思えば原発安全性強調す業界寄付を受けたる教授 
 
蚯蚓にも高濃度のセシウムが食物連鎖の危機の深まる 
 
原発の熱出力のデータまで操作されしと知らぬが仏 
 
またしても安全神話を創らんと新設もくろむ名は規制庁 
 
出荷せる福島産の野菜類 除染の苦労と心こもりて 
              (十ベクレル未満と表示され) 
 
東電での賠償和解五件とは内部留保の貯えあるに 
    (二月十五日現在、申し立て件数九百四十八件に対して) 
 
子供らの就職の世話や金漬(かねづ)けになりし下北 原発語らず 
           (下北半島に新たに大間原発等が建設中) 
 
福島の外部被曝は健康に影響なしとはつのる疑問が 
 
東京は一万二千人参加せり原発を「モラルに反す」と大江氏が 
 (二月十一日、代々木公園で「さよなら原発一千万人アクション行動」) 
 
人間も絶滅危惧種になる危機をかかえて核に頼る愚かさ 
 
クウェートで原発計画中止せり危機を知らせしフクシマの事故 
 
事故直後の放射能拡散測定がミスなしたると明かせりこの期に 
   (二月二十四日記事、昨年の大事故後の放射性物質大量放出を) 
 
原発の地域にヨウ素剤配布とう予防より原発廃止を急げ 
 
生者も死者のごとき墓参り白装束のみ異界に入れる 
 
想像も出来ぬセシウム放出量 四京(けい)ベクレルと公表されしが 
              (二月二十八日、気象研究所発表) 
 
汚染灰の処分進まず限界に近きというに再開策す 
         (七都県の焼却場はむろん、原発の灰すらも) 
 
いつの日か地下に埋めることならん十万年を誰が管理す 
 
 
  ◇春なお寒く―2011年3月◇ 
 
核兵器・原発などと核多し隠すに隠せぬかかえし危機は 
 
失業せし被災地の人の夢遠し除染作業の低き賃金 
 
核燃料サイクル計画無謀なるに夢また夢に税を注(つ)ぎ込み 
  (四十三兆円以上の国民負担を予定すれど、稼働の見通しなし) 
 
福井県の“原発銀座”に脱原発の集会準備 はじめてなされぬ 
       (三・一一“さよなら原発福井県集会”の賛同運動) 
 
原発事故避難者のための「仮の町」検討されおり目処なき帰郷 
               (被曝警戒区域の町村について) 
 
不手際の工事が四号機を救いしと明かされぬ身震いやまぬ朝 
(震災直前の工事で補助器具寸法違いで最悪の事態に至らなかった) 
 
除染すれど有効期限のあるばかり森林山野のすべてをなさねば 
 
韓国で脱原発の集会がフクシマの苦難わがごとに聞く 
  (三月十日、ソウルで一万人が。避難中の福島の人が訴える) 
 
双葉郡に中間貯蔵施設をと会合なせり八町村と 
         (三月十日、政府案をめぐって政府との会合) 
 
京都での“バイバイ原発”デモ行進 会場揺るがす五千人の声 
             (三月十日、円山公園音楽堂で集会) 
 
福島の脱原発の集会の声に応えよ政財界は 
(三月十一日、郡山市で「原発いらない3・11県民大集会」一万六千人) 
 
東京で井の頭公園・永田町・日比谷公園と集い止まざり 
 
一年経し新宿区での放射能 事故発表量より増えて怖ろし 
 
世界中が反原発の行動せり我も歩みぬ三・一一デモに 
 
十四基の原発囲みし六万人 反原発のフランスの叫び 
 (三月十一日午後三時、リヨンからアビニョンを結ぶ国道沿いに) 
 
作業員に危険手当の渡らざり幾重に奪う下請け企業 
 
地中にも浸透せりと判りたり放射性物質は手に負いがたく 
            (三月十四日、日本原子力機構が発表) 
 
雪融けと共にセシウムの量ませり古里捨つる民の増えゆく 
 
ただちには健康被害出ぬと言う後(のち)の保証のあらざる言葉 
 
 
  ◇行方を糾さん―2011年4月以降― 
 
放射能測定しながら生活す 日々そのようになりかねぬ国 
 
 
五月五日すべての原発停止せり子鯉の游(およ)ぐ空晴れ晴れと 
 
停電と日本経済おどしとし原発再稼働なさんと策す 
 
<よだかの星>とはなれぬ原発ぞ造りし人の罪は不問に 
 
防波堤もオフサイトセンターも不備なるに安全強要の原発再開 
          (六月十六日、政府が大飯原発再稼働決定) 
 
新しき運動起きたり毎週の金曜日の反原発デモ 
(今年の三月十六日に三百人ほどから始まり六月二十九日は二十万人参加) 
 
原発を廃棄せよと官邸や議事堂かこむ声ある意志が 
 (七月六日・十三日ともに十五万人参加。六十年安保闘争以来の規模) 
 
“さようなら原発集会”の新聞のカラー大写真 あふるる花々 
            (七月十六日、代々木公園に十七万人参加) 
 
四号機の未使用燃料一本をクレーンで引き出す不安なる画像 
          (七月十六日、損傷激しき原子炉建屋五階にて) 
 
原発の新設予定のリトアニア 反対激しく投票求む 
              (十月に国民投票予定となる) 
 
原発を推進して来し日本の政権争いなおもつづくる 
 
日本の地軸ゆれ来しこの後(のち)の行方を問わんいかなる国へ 
 
 次回も原子力にかかわって詠われた短歌作品を読み続けたい。(つづく) 


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