2014年09月02日09時31分掲載  無料記事
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中東

イスラム国 「国」としての可能性

  イスラム国について最初に知ったのは今年6月の頭頃だった。そのとき、初めてアルカイダとは異なる勢力が派生して無法状態になっているシリアの東部からイラクへ侵入を繰り返していることを知った。しかし、まだこの時はイスラム国と言う名前ではなく、略称ISISというシリアとイラクをかぶせた名前だった。http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201406112244083 
  この勢力が南下してバグダッドまであと150キロという記事などがその頃欧米紙に出ていた。ISISはアルカイダとかつては同じグループだったが、その後、一層過激化して分離したと説明されていた。ニューヨークタイムズでは去年からすでにシリア東部からイラク西部がイラク軍もアサド政権軍も防衛が及ばない無秩序状態になっていることがたびたび報じられていた。 
 
  もとより思い返してみると、2011年にシリアのアサド政権への抗議デモが広がり、やがて武装闘争が始まった。この頃、日本人のフリージャーナリストが何人かシリアに渡り、地元の「自由シリア軍」の同行取材をしている。当時、記憶に残っているのは「僕が見た限り、自由シリア軍にイスラム原理主義勢力の影はまったくありません」という意味合いの言葉である。この言葉が語る意味内容は彼が同行して目にした自由シリア軍にはイスラム原理主義勢力の影響がまったくない、という限定した意味合いであり、彼が目にしていないその他の各地の兵力でどうか、ということは未知数のはずである。 
 
  ジャーナリストは自分の目で見たことを基盤に語るものだが、だからと言って目に触れたものだけでは真実の一部に過ぎない可能性もある。シリアには当時、すでにアルカイダ勢力が侵入していたし、また自由シリア軍の一部から武器がアルカイダグループに横流しされているという報道が欧米紙で出ていた。この武器はシリアの民主化を名目として米国やサウジアラビアなどが後方支援していたものだ。 
 
  今起きているイラクの現状は元凶となったものはイラク戦争だが、と同時にシリアのアサド政権打倒の闘争も原因となっている。アサド政権にロシアが武器を売っていることは欧米紙でかなり叩かれてきたが、米国や湾岸諸国も自由シリア軍に武器をテコ入れしていた。シリア人だけであればこれだけの内戦にはならなかったはずである。結果的に<独裁者VS民主主義>の構図はここシリアでも崩れることになった。米国製兵器がアルカイダの手に渡っている実態が報道され始めてから、米国はのちに自由シリア軍への武器支援に慎重になり始めた。 
 
  独裁者を倒せば民主主義の時代が来る。こういうモットーでイラク、アフガニスタン、リビア、エジプト、(シリア)で政変が起き、欧米諸国は武器支援を行ってきた。しかし、結果的には諸勢力が群雄割拠し、民主主義とはほど遠く、イスラム原理主義勢力が大幅に伸長している。この勢力は国家が崩壊して権力が空白になればそこに進出する傾向がある。アフリカのマリでも同様である。このような傾向は一度体験すれば理解できそうなものだが、なぜ何度も何度も繰り返されるのだろうか。米国では1991年のソ連崩壊後、社会主義との対決が終わった後にイスラム諸国との対決を打ち出していく方針をとった。当時の米シンクタンクではイスラム原理主義について相当の研究が行われている。彼らの研究成果はどこにいかされているのだろうか。(もっと奥の深い意図があるという見方もある)いずれにしても軍産複合体にとっては次の20〜30年間の飯の種が確保できたわけだ。この民主化ビジネスには金の匂いがプンプンする。 
 
  話をイスラム国に戻せばイスラム国が武装勢力である間は世界を震撼させ続けることが可能だろうが、ひとたび彼らが「国」を創設した場合、そこには首都もあれば政府もあり、正規軍も外務省も、商務省もおかざるを得なくなるだろう。それとも流浪の勢力として動き続けるのだろうか。彼らが「国」を標榜する限り、いずれは定住せざるを得ないだろう。その時、ひとたび国となった時、彼らもまた国家の苦悩を味わうことになるだろう。国家となれば核攻撃の対象にもなるからだ。今までのような略奪や人質ビジネスを経済の核にはできなくなる。国民を食わせていかなくてはならない。肥料や農業器具はどうするのだ。しかも、国民には政府への不満も出てくる。 
 
  イスラム国は短期的なスパンだけでなく、その源流からその後の「国」としての台頭まで想像する必要がある。抗日闘争では英雄だった毛沢東もひとたび国を治めるにあたって苦悩することになった。1950年代末に毛沢東は自ら強行した無謀な経済政策「大躍進」で自国民数千万人を飢え死にに追い込んでしまった。戦時と平時ではリーダーに必要な能力はまったく異なるのだ。カダフィ亡き後のリビアの場合はあまりにも官僚たちが無能だったという話を聞く。国の統治ができる人材がいないというのである。国を壊すことはできても、建て直す能力がなければ統治がたちゆかなくなる。ソ連崩壊後のロシアの場合は資本主義経済の運営ができる人材が一人もいなかった。だから壮大な経済実験の場となり、物価は高騰し、店から商品は消え、マフィアが跋扈し、ロシア人の男たちはストレスと飲酒が原因で50歳そこそこで多くが死んでいった。 
 
  イスラム国の未来を考える時、国の創設に当たってあまりにも多くの血を流したことは〜ロシア革命やフランス革命の例のように〜彼らの未来を厳しいものにするはずである。人を能力と可能性で判断せず、宗派が違えば簡単に殺す。そういうことをしている限り、国としての未来は暗いだろう。 
 
 
 
■Rue 89’L’offensive djihadiste en Irak qui redessine le Moyen-Orient(聖戦主義者のイラク攻撃で中東地図が塗り替わる) 
http://rue89.nouvelobs.com/2014/06/12/loffensive-djihadiste-irak-redessine-moyen-orient-252872 
  *英文のISISは仏文ではEIILとなる。 
 
■《インターナショナルヘラルドトリビューンの論客たち》(2)  アフガンからの撤退を説く元CIAカブール支局長グラハム・フラー   村上良太 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=200908130026264 
■キッシンジャー元米国務長官「シリアは分割されるべきだ」〜ヴォイス・オブ・ロシアより〜 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201306292133146 


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