2015年01月19日13時42分掲載  無料記事
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文化

【核を詠う】(171) 波汐国芳歌集『渚のピアノ』の原子力詠を読む(3) 「原子炉は陽(ひ)の火盗むをその怖れ知りしこの国他に売るという」 山崎芳彦

 「あの3・11から三年と八カ月が過ぎた。冷静に周りを見てみると、意識や思いの二極化が進み、それがさらに深刻な分断を生んでいる。離婚、自殺、突然死・・・。そうした暗い部分にはあえて目を背けて蓋をし、無理に3・11前に戻ろうとする動きも見える。それでいいのだろうか。身近には百人百様の喜びや悲しみ、苦しみがある。それに目を凝らして、いま何が起きているのか、起ころうとしているのかを、きちんと伝えなければならない。強くそう思う。」(日々のブックレット3『このさんねん』、日々の新聞社刊2014年11月より。)、いわき市から2011年3・11の東日本大震災・福島第一原発事故について『日々の新聞社』(編集責任者・安竜昌弘)が報道したものを中心にまとめたブックレット3の「おわりに」で安竜氏が記している。これまでに『このいちねん』『このにねん』も発行、その三号目である。 
 
 日々の新聞社(電話・ファクス0246-21-4881)について、まことに不勉強ながら筆者はこれまで知らなかったのだが、同社は10年以上前から、いわき市を根拠地として「いわきで暮らす人たちの物語・・・を拾い上げ、伝える、表面に見えるものではなく、その奥底に潜む声なき声をすくい、自分たちが暮らしているいわきのことを一緒に考えたい。」との理念をもって地域新聞の『日々の新聞』を発行してきているが、震災・原発事故についての報道をブックレットによって貴重な情報や解説、記録、提言を発信している。『このさんねん』(定価は税込み1000円)は、「震災三年目の報道から、月日の経過とともに覆い隠されていた原発事故の状況が露出されてきているなかで、明らかになってきたことを知らせるとともに、その状況下で生きていく人々の姿勢、思いを伝える内容」の企画となっている。190頁にわたって、筆者にとって多くのことを伝えてくれた。 
 
 このブックレットを読んでいる最中に、学生時代からの友人である小磯さん(川崎市在住)から、レポート「福島原発被災地を巡る 2」(2014年8月9,10日)を送っていただいた。福島県南相馬市から川崎市に避難している山崎健一さん(元高校教師、68歳)が首都圏の人たちと福島で避難生活を送るかつての教え子たちとの交流の橋渡しをする取り組みを知り、一昨年、昨年と山崎さんの案内で仲間たちと一緒に原発被災地を巡り、福島県内で避難生活をしている人たちとの交流をし、現地の状況、人びとの苦難の多い生活について、友人、知人をはじめ様々な機会に多くの人々に伝えていくためのレポートを作っているのだ。直接被災地を訪ね、避難生活をしている人々に聞かなければわからない実情を教えられた。その内容を記す機会を持ちたいと思っている。 
 
 筆者は、福島の歌人の原発にかかわっての短歌作品をはじめ、広島、長崎の原爆短歌を読み、さらに様々な情報に接することに努めているのだが、いま改めて思うのは、原発事故の被災や原爆被爆の人間の苦しみについて、ともすれば人が生きることの実際、自分自身が生きていることの生活の具体や感情、感覚、悩みや苦しみや喜びと別の次元のこととして、報道や政府の意図的な動向、あるいは科学や医学の情報にからめとられてしまう過ちに陥りかねない危険についてである。事の本質をまっとうに受け止め、わかるためには、そのための、いまこの時代に生きていることについての観念に流されない自覚、認識を能動的な生き方によって、わがものにすることが大切なのだろうと思う。そのための学びの場や機会は、求めればすぐ隣にある。短歌を読むとき、先に揚げた情報をはじめ、自分自身のありようにひきつけ、これまで教えられたことに思いをつなげる。あの人の声や行い、筆者に様々なことを教えてくれた、くれる人々がいる。自分が生きていることを、生きてきたことを無駄にしないようにしようと思う。 
 
 原子力工学の専門家であり、「原子力をやめることに役立つ研究」に取り組み、原発問題について積極的に発言し行動している今中哲二氏が、 
「チェルノブイリにかかわりながら私が強く感じているのは、科学的なアプローチで明らかにできることは、原発事故という災厄全体のほんの一部にすぎない、ということです。『放射線のレベルはどの程度か、予測されるがんの発症確率はどれぐらいか』といった視点だけでは、本当の被害は見えてきません。/被災者がそれまで営(いとな)んできた生活、事故によって一変してしまった現在の生活、それぞれに抱えている不安、不満、怒り、鬱屈(うっくつ)・・・。そこまで見据(す)えなければ、本当の意味の被害を明らかにすることはできないと思っています。/そういう意識をもたないと『100ミリシーベルト以下は安全です。』などと、数字だけでものをいってしまうことになるのです。」(『サイレント ウォー―見えない放射能とたたかう』講談社刊、2012年11月)と述べているが、そうだと教えられた。 
 
 いま、いわゆる大ジャーナリズムは、どのような役割を果たしているだろうか。福島原発事故の被災の実態、被災者の生活、苦難の真実を具体的に、そして掘り下げて伝えているだろうか。原発の再稼働問題、再生可能エネルギーつぶしの政策。核汚染廃棄物、使用済み核燃料の処理問題、放射線被爆による健康被害対策・・・。底が浅く、政府・大企業・電力企業のペテン・詐欺師的な姿勢に対する的確な批判の眼を疑わないではいられない現状だ。 
 
 「このままでは日本がなくなってしまう。こんな言葉を使っていた民族がいた、なんてことになるのではないか。そうならないためにも、いますぐ核と手を切らなければならない。どうやって核と手を切るか、その一点でつながっていく必要がある。それには非暴力、言葉の力、市民の生活で闘っていくしかない」と前掲した『このさんねん』の「ビナードさんかく語りき」(詩人のアーサー・ビナードさん)の記事(「悪質なペテンを許すな 日本がなくなってしまう」)に記されているが、この記事の中でのビナードさんが南相馬で語ったこと、「戦争や核実験、原発の背後に横たわる、核利権という大きな闇の正体」、広島、長崎への原爆(ウラン爆弾)投下にかかわっての言葉などを伝える記事は、ことの本質を的確に突いている詩人の視点と表現をしっかりと、筆者の心に届かせてくれた。 
 
 いろいろなことを書いてきてしまったが、波汐さんの歌集『渚のピアノ』の作品を、前回に続いて読んでいきたい。福島に生きる歌人の作品をしっかりと読み継ぎたい。 
 
 
 ◇雲よ◇ 
   佐藤祐禎氏の死を悼む 
 「おうい雲よ」で始まり、「ずつと磐城平の方までゆくんか」で結ばれる「雲」は詩人山村暮鳥(1884〜1924)の作。暮鳥は磐城平で喀血し、大洗海岸の磯浜に転住し、そこで没した。詩はその地で行く雲に乗せて磐城平への思いを述べたもの。 
 原発事故でいわき市に避難した佐藤祐禎氏は暮鳥の「雲」に重ねて、古里の大熊町に想いを馳せていたと聞く。氏は避難地のいわき市の浜辺が終焉の地となったが、流れる雲に「ずつと大熊の方までゆくんか」と呼び掛けていたに違いない。 
 
◇原発に追われ追われて病む友の意識戻らぬ生の空洞(うつろ)や 
 
◇貧ゆえの町が誘致の原発に追われ追われし友の死に息 
 
◇今荼毘(だび)に付さるる友ぞ薄雲のすいすい故郷の山越えていん 
 
◇煙となりもう雲である祐禎氏元の「大熊」へ還って行けるか 
 
◇本当の写実とはそれ 原子炉の見えない奥も見た君である 
 
◇原発に関わりし友 身罷りて重荷下ろして楽になりしか 
 
◇農の人自然歌人の葬(はふ)りにぞ小さき土筆(つくし)の群れも連なれ 
 
◇農詩人汝(なれ)の葬列 露ながら野の遠きより曳き出(い)だされし 
 
◇祐禎氏の葬列なればさやさやと汝(な)が古里の浜風も添う 
 
 <供‘の譜> 
 「文明への問い(抄)」 
   () 
◇友の頭(づ)にレンズもて陽(ひ)の火移ししを今は長じて核の盗人 
 
◇人類は哀れな盗人 核の火を陽(ひ)より盗みて火に焼かるるを 
 
◇核反応そのみなもとの陽(ひ)より火を盗む人らぞ悪戯(いたずら)に過ぐ 
 
◇太陽光(こう)発電といい 陽(ひ)の中の火をし奪えば燃え殻見んか 
 
◇陽(ひ)の核を盗み盗みて文明とう人らへもう一人のキリスト生(あ)れよ 
 
◇街路樹の百日紅(さるすべり)空に続きいて被曝の死者も帰る盂蘭盆 
 
◇ああ福島救われざるや原発を招き原発に仇なされたり 
 
◇福島は永久(とわ)に住めぬと説きしとう学説寒く光る夕闇 
 
   () 
◇原子炉は陽(ひ)の火盗むをその怖れ知りしこの国他に売るという 
 
◇向日葵園あまた陽(ひ)の顔 陽の笑みの陽より分くればもうすぐ尽きん 
 
◇歌びとら多きが原発事故詠むを詠んでも呼んでも尽きぬ怖れや 
 
◇原発を良しとする人 文明はストップで良(よ)しとここらで言えよ 
 
◇ねずみ一つ原発操作さまたぐとう笑って済ます些事(さじ)にはあらぬ 
 
◇活断層の上の原発危うきに揺さぶりかくる手力男(たぢからお)ぞや 
 
◇活断層手繰(たぐ)る人らぞ原発に百万年を下(お)りてゆくなり 
 活断層調査団、活断層は過去約百万年間にずれたことのある断層をいう 
 
「ベラルーシのウオッカ(抄)」―ベラルーシ視察団の友より土産のウオッカを戴きて 
◇ベラルーシのウオッカに酔い吐く息の見る見る火焔帯びゆくわれぞ 
 
◇チェルノブイリ他人事(ひとごと)ならず古里に原発爆ぜて欠けし町はや 
 
◇貧しさや原発容(い)れしを憎むべし其(そ)を操(あやつ)りてきたる政治も 
 
◇原発を招けり惨も招けりと評する他者の眼(め)のなかの剣(けん) 
 
◇津波 津波 原発攫(さら)い古里の木の末(うれ)青き空も攫えり 
 
◇ああ福島 空に鴉の啼き声の何処まで行っても尽きぬ嘆きぞ 
 
 「鬱(抄)」 
◇福島産の果実食(く)えぬという人ら福島産の電気食いしを 
 
◇信濃産りんご賜わる 被曝地の鬱をほつほつほぐし呉るるか 
 
◇福島よ頑張れの声 福島の被災牛らをなだむるほどに 
 
◇福島産りんご旨(うま)きをセシウムが味(あじ)に出(い)でしと言いて苦笑す 
 
◇福島産野菜も果実も買わざるを何を起(た)てとて振り振る旗ぞ 
 
◇被曝地の古里興(おこ)しを諾(うべな)えど古里の桃にためらうわれか 
 
 「雪下ろし(抄)」 
◇雪が舞う雪の花びらひらひらとセシウム舞うを愛(め)でてはおれぬ 
 
◇原子炉爆(は)ぜ建屋(たてや)も爆ぜて福島に天傾くをどさりと雪が 
 
◇雪分けてセシウム運ぶを雪明り 振り向き見れば死者ら連なる 
 
◇雪が降るセシウムしんしん連れて降る先が見えなくなるまで降るを 
 
◇雪深野 セシウム深野その奥に棲みつつ命希薄のわれぞ 
 
◇被爆三年 摺上川(すりかみがわ)の雪解水(ゆきげみず)迸りゆけわれの怒りも  (摺上川は阿武隈川の支流) 
 
 次回も波汐国芳歌集『渚のピアノ』を読み続ける。    (つづく) 


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