2015年04月08日14時13分掲載  無料記事
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文化

【核を詠う】(178) 『短歌研究2014綜合年鑑歌集』から原子力詠を読む(1) 「福島の子と言ひかけて止めらるるごとき蹉跌を繰り返すのみ」 山崎芳彦

 今回から短歌研究社発行の「2015短歌年鑑」(月刊「短歌年鑑」2014年12月号)に綴込として収録されている「2014綜合『年刊歌集』」から、筆者が原子力詠として読んだ作品を記録させていただく。これは短歌研究社編集部が寄贈を受けた短歌綜合誌及び全国結社短歌雑誌等に掲載の作品から選出して編まれたものだが、「全国歌人4000余名の '14年度作品を抜萃収録」しており、作品数は1万を大きく超えて膨大である。この歌集の中から、原子力にかかわって詠われたと筆者が読んだ作品を抄出させていただくのだが、読み違いなど不適切があればお詫びしたい。昨年の同年刊歌集も読ませていただいたが、「核を詠う」と題してこの連載を続けてきている筆者としては、短歌界がさまざまな形で原子力にかかわる作品を記録し、後世に残していくことの大切さを思っている。この年刊歌集から原子力詠を抄出させていただくのも、そのような思いからである。 
 
 4月6日付朝日新聞の「朝日歌壇」に、原発事故をテーマにした作品が選者各氏によって選ばれている。記しておきたい。 
 
 
  ▼永田和宏選 
○蕗(ふき)味噌の苦味を舌に思ひ馳す摘まるることなき福島の蕗を 
                    (小城市 野中 曉) 
○原発の事故見て止める国あれば稼働続ける当事国あり 
                    (川崎市 小島 敦) 
 
  ▼馬場あき子選 
○汚染水は海へ汚染土は仮置き場へ人々は棄民への流れ故郷想う 
                    (日野市 植松恵樹) 
○浜通りは汚染土の山仮置き場・仮仮置き場にあわゆきの降る 
               (下野市 若島安子・高野公彦共選) 
 
  ▼佐佐木幸綱選 
○満ちて来て水面で微かに早春の雨は溶けゆく除染待つ池 
                    (福島市 澤 正宏) 
○あれからの重たさこれからの長さふくしまの春かすんでゆれて 
                    (福島市 美原凍子) 
 
 ▼高野公彦選 
○シロアリとネズミが荒すフクシマよふるさとありてふるさとなき民 
                    (ホームレス 坪内政夫) 
○原発事故「起こした」日本は続行し「知った」ドイツが廃止す原発 
                    (交野市 遠藤 昭) 
 
 これらの入選作品の背後には多くの原子力にかかわって読まれた投稿作品があるはずで、全国各地の人々が原発事故にかかわる作品や原爆短歌を詠み続けている。 
 ところが、政府、電力企業をはじめとする原子力マフィアグループは、現在はゼロ発電の原子力発電を「ベースロード電源」と位置付けて原発回帰の姿勢を鮮明にしている。福島第一原発事故をなかったことにするかのごときである。原発事故による被災の深刻さを軽視し、すでに危険はなくなったと実態を覆い隠して原発事故による核放射線の「無害」を宣伝、一部地区を除いて被災地域への事故被害避難者の帰還促進策を進め、さらに使用済み核燃料の「最終処分場」について「国が科学的に適正が高い地域を示す」として国の権力的な押しつけの方針を打ち出そうとしている。被災者に対する補償・賠償責任の軽減を図ろうと、さまざまな画策をもしている。 
 沖縄の辺野古基地に関する政府の権力主義的な強行策の現状、さらに集団的自衛権の行使容認閣議決定をはじめとする「戦争のできる国」作りへの安倍政権の暴走を見ると、原子力政策についてもいっそう危険な方向が強権的に進められることを思わないではいられない。 
 こうした中で、原子力に関わる短歌作品を詠いつづけることの意義を思いつつ、「短歌研究 2015短歌年鑑」に収載の「2014綜合年刊歌集」から原子力詠を読んでいく。なお、同歌集の作品は作者の姓の五十音順に排列されている。 
 
 
 短歌研究社「2014綜合年刊歌集」より抄出の原子力詠作品。� �
 
◇果てもなく事故後の汚染水溜めて再稼働急ぐ原発大国 
                    (足立敏彦) 
 
◇原発の行く末を案じているらしや弥勒菩薩の半跏思惟像 
                    (青山 ) 
 
◇広島に被爆の少女禎子在りき「生きたくて生きたくて」鶴折りし指 
                    (秋元千恵子) 
 
◇拝むように反戦・反核のビラ渡す彼女のコートに春早く来い 
                    (淺川 肇) 
 
◇出稼ぎか原発処理に留まるか寒さは思考まで凍らせる 
                    (雨宮 司) 
 
◇古来より繰りかへさるる列島の災害の地に棲みゐるを知れ 
 想定の甘さを想定外と呼び責任の在り処が曖昧となる 
 目眩ましの言葉ならむや減染と言ふべきところを除染と言ふを 
 いづれはも火の粉を被ることあらむ風評流しゐる人人よ 
                    (綾部光芳) 
 
◇「除染済み」の貼り紙風にゆれてゐる人影のなき朝の公園 
 牛蛙の啼ける団地の沈砂池は葦生ひ茂りホットスポット 
                    (飯塚武彦) 
 
◇汚染水のタンク幾百増え続け福島の地に氷雨ふり頻く 
                     (板谷喜和子) 
 
◇被曝避けて春にはCT検査をと医師はわが胆管ガンを疑ふ 
                     (今井邦子) 
 
◇蝙蝠は核反応を起こす灯の届かぬ川の闇を飛び交う 
 とこしえに原発止まれ廃屋を好むこうもり棲家となさむ 
                     (入谷 稔) 
 
◇放射能も津波も知らず報されず寒さに耐へし三日の時間 
                     (内田多賀生) 
 
◇福島は三年たちしと黙禱のサイレンが鳴る時津の空に 
                     (小野田勉) 
 
◇DNAの閃光痕永遠に増殖する 今にして知る体内被曝を 
 仄光と崩壊轟音とだへたる原子炉を沈黙おほひゐるとぞ 
 高濃度の汚染除去作業息づまる沈黙に声をあげしは老い人 
                     (緒方美恵子) 
 
◇自宅には帰り得ずして被災者の難民といふ諦念哀れ 
                     (大方澄子) 
 
◇この時に二十七万人に三十三人か甲状腺癌子の数字なりき 
 百万人に一人か二人か常と言ふこの数値さへ参考にせず 
 放射能の健康検査を不安煽りメリットなしと人は言ふとぞ 
 声を繋ぎ心を繋ぐあり方をこの時にしてただ拒むもの 
                     (大河原惇行) 
 
◇戦後四年原爆ドームのすぐ側の川にて遊ぶ児らの写れり 
                     (大木恵理子) 
 
◇小田のみか広ら田丁も荒らしめて原発を売る坊ちやん首相 
                     (大岸由起子) 
 
◇福島の子の我慢讃へらるる夏 流れるプールにわれは流され 
 嫌ひなものは嫌ひと言へざる日常の秋刀魚の目玉すでに来ている 
 福島の子と言ひかけて止めらるるごとき蹉跌を繰り返すのみ 
                     (大口玲子) 
 
◇福島のデコ平より喜界島に来し蝶もあり風をたよりに 
                     (大倉忠彦) 
 
◇口内炎とたたかふ四月 わが生はチェルノブイリの人と出会はず 
                     (大森益雄) 
 
◇被災者の怒りをよそに原発をベースのエネルギー計画決まる 
                     (太田 博) 
 
◇原子力規制委員会足腰の強さは意外再稼働させず 
                     (太田 豊) 
 
◇原発は一つの思想安易なる再稼動きむるこの疎隔感 
                     (奥住 毅) 
 
◇原発の無残な姿見つつ来て鷗の群が啼き交わす声 
                     (長田泰公) 
 
◇放射能に汚染されいる田や畠今日はむれいる小鳥水鳥 
 渡り来し放射能の里に巣作りの場所如何にせし明日の自然 
                     (鬼丸貞彦) 
 
◇砂の国の絶望の嵩おもひがたしふくしま未だしも怒りあるなり 
                     (恩田英明) 
 
◇体内にながく潜める放射能 後遺としての前立腺がん 
 何ゆゑに私なのかと詮の無きことと思へどまた思ひゐる 
 偏見の殆んど消えし現在なれどなほ僻み持つ己れを厭ふ 
                     (加瀬和夫) 
 
◇使用済み燃料棒は地中ふかく埋めよとばかり科学者の弁 
 地中ふかく幾十万年の燃料棒而して危険薄るるとも思はず 
                     (海輪美代司) 
 
◇「被災地からの声」放送は延期され日米首脳会談映る 
                     (兼原あゆみ) 
 
◇「美味しんぼ」騒動に追いうちかける「吉田調書」隠ぺいの記事 
                     (禿 正海) 
 
◇「武器輸出」「原発再稼働」個のこころあらぬ企業が政治操る 
                     (川崎勝信) 
 
◇原爆忌過ぎて夜通し何を泣く鈴虫こころに染み通りゆく 
 原爆忌過ぎて夜通し鈴虫は命の限り鳴き続けおり 
                     (川添英一) 
                           (つづく) 


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