2015年05月02日15時11分掲載  無料記事
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文化

【核を詠う】(181) 澤正宏さんの原子力詠「フクシマ四年目の春」他を読む(1) 「風花にもう同じ冬は来ぬ思い廃炉の行方は日々の棘ゆえ」 山崎芳彦

 今回から澤正宏さん(福島市在住、福島大学名誉教授)の原子力詠を読み、記録させていただく。澤さんについて筆者は、朝日歌壇にしばしば入選されていること、この連載の中で読んできた『朝日歌壇』の年刊(2012年、13年、14年)に収録された作品を記録したことによって存じ上げていたが、まことに不勉強なことに福島大学で教鞭をとる近現代文学研究者として『西脇順三郎の詩と詩論』など多くの著書を持ち、さらに『福島原発設置反対運動裁判資料 全7巻、別冊1』(クロスカルチャー出版)、『伊方原発設置反対運動裁判資料 全7巻』(同前)の編集に携わり解題、解説の執筆をされていることについては知ることがなかった。最近になって、『今 原発を考える―フクシマからの発言(対談 安田純治・元福島原発訴訟弁護団長×澤正宏・福島大学名誉教授)』(改訂新装版、クロスカルチャー出版、2014年5月刊)を読み、また澤さんとの少しのメール交流によって、一端を知るのみである。 
 
 前記の『今 原発を考える―フクシマからの発言』は、安田弁護士と澤さんによる、福島第一原発事故以前のこと、同以後のことについての対談(2012年6月16日、クロスカルチャー出版社主催の文化講演会)、澤さんの「東京電力福島第一原子力発電所事故後の福島の現在」と題する論考(「対談」以後の経過を含め、福島原発事故による被災の状況、事故を起こした福島原発の現状と課題などについての問題提起が明確に示されている)、さらに『福島原発設置反対運動裁判資料』の概要、各巻の目次、その他が収録されていて、80数頁の充実した内容の冊子で、筆者にとって大変に刺激的であり、『福島原発設置反対運動裁判資料全7巻』が図書館をはじめ法曹関係機関、その他の關係研究機関などに揃えられ、多くの人が読める環境になることを願っている。筆者も地元の図書館に購入の要望を行っている。すでに海外の大学などからの購入もあり、日本の最高裁でも購入しているとのことだが、今後全国各地で「原発訴訟」が拡大することを考えると、貴重な資料として活用されることが期待される。ぜひ、最寄りの図書館等に購入・蔵書を働きかける動きが高まることを願うものだ。 
 
 『今 原発を考える』のなかで澤さんは、福島の現在について「福島は今なお、放射能汚染、進まない除染、復興できない農業・林業・漁業、子どもの甲状腺被曝、仮設住宅での老人の死、絶望的な帰郷などといった問題に苦しんでいる。これらは決して福島県だけの問題ではなく、明日の日本の問題である。」と記し、政府の原発再稼働推進、原発事故後の政府、東電などによる原発維持のための様々な不当な動きについて指摘し、「こうした政策や姿勢や事実などは、明らかに原発事故の無視、無反省をあからさまに示すもの」と厳しく批判している。 
 「地震、活断層、津波に脅え、捨て場のない、また何十年、何百年も有害であり続ける大量の核廃棄物の場当たりな貯蔵施設を押しつけ、ひとたび大事故が起きて資金が不足すれば国家の予算を食い続け、癌に喘ぎ死に至るまでの原発に従事する被曝労働者を多産し続け、放射性物質が残存していても原子炉冷却水を排水として海洋に流し続けるなど、どこを取っても原発が地球に、社会に、生物に、人間に、真の意味での安全で将来的な豊かさ、益するものの一切をもたらさないことを、このたびの東京電力福島第一原発事故は福島を残酷な犠牲者にすることで実証した。」と記し、 
 「(スリーマイル島原発事故、チェルノブイリ原発事故の)次は日本だと叫んできた世界の警告(略)を、愚かなことに国家も、電力会社も、最高裁も一緒になって無視し、ひたすら原発稼働に邁進した。」「彼らが21世紀を迎えても原発を放棄し、原発を止めることに繋がる判決を下し得ないのは、東海村の元村長の村上達也が指摘するように『巨大な利権集団』(9電力体制、経済産業省、大資本の原子力メーカーの結合)が集団内の利益確保を目論むからであり(『福島民報』2013年11月4日)、裁判所が現在秩序を維持するためこの集団に追随する理屈を作為し権威化するからである。」とも論じている。(「東京電力福島第一原子力発電所事故後の福島の現在」から。筆者) 
そのうえで澤さんは事故が起きた福島原発の状況、状態について点検し、今後の課題について詳細に論じているのだが、その要点については次回に見ていきたいと考えている。この『今 原発を考える―フクシマからの発言』(クロスカルチャー出版、03−5577−6707 http://www.crosscul.com)を未読の方にはご一読をおすすめしたい。 
 
 澤さんの短歌作品を、この連載の中で読み、記録させていただくきっかけは、レイバーネット日本のサイトに澤さんの「フクシマ四年目の春(短歌26首」が掲載されているのに巡り合ったことである。レイバーネット日本事務局に問合せて澤さんのメールアドレスを教えてもらい、この連載へのご了承をお願いして、うれしい激励の言葉と合わせて、了承を得ることができた。お願いをして、26首以外の澤さんの短歌作品をいただくこともできたので、読み、記録させていただくことにした。 
 
 
  ◇「フクシマ四年目の春 短歌26首」◇ 
○山麓の野菜届けし人もまた九州へ越す四年目の春 
 
○ヨシキリの終わりをギリリと鳴く声に歯ぎしりばかり三年を思う 
 
○四年目も心は矢っ張り藻掻いてるやさしき人ほど去来するから 
 
○大臣は寄り添い復興支援すと言っては帰京し再稼働推す 
 
○「戻れます」と住まない人が住む人の基準値決めて帰るは老人 
 
○神主は避難区に残り死者の名を地脈は切れぬと毎朝告げる 
 
○死者の眼のなかを通れと原民喜わが核災の活路となりぬ 
  (原民喜=詩人・小説家。広島で被爆。原爆投下の惨状をメモした手帳を基に描いた小説『夏の花』がある。) 
 
○甲状腺、脾臓抜かれた一七〇〇牛骨地中で呪う声聞け 
 
○住民が帰還するので駆除されるイノブタ二百匹生きて来たのに 
 
○裂いて呑む地殻の脅威よ責任の核なきままに稼働へ進む 
 
○吉本が原発否定できず折る批評のエッジは「消費」に漬かる 
  (吉本=思想家の吉本隆明のこと。) 
 
○なぜ我慢と福島の生徒は激しく問う君もぶつかつているおぞましき国家 
 
○「美味しんぼ」鼻血でた子の親は震え避け得た被曝を訴うが本音 
 
○海へ海へ毎日漏れ出る汚染水防いでいるのは言葉の壁だけ 
 
○今日もまだトレンチを漏れた汚染水緊張感マヒさせ海に出ている 
 
○東北路最後のトンネル出れば那須与一の碑を見た避難時は乱世 
 
○風花にもう同じ冬は来ぬ思い廃炉の行方は日々の棘ゆえ 
 
○町内の清掃はまだ家周り道路の亀裂を雑草が走る 
 
○樹より落ち臆面もなく雀らは番って転がる除染後の芝 
 
○梅雨空に小さき兜の柿芽降る主なき家の除染待つ庭 
 
○葛が巻き松は巨大なトピアリー除染まだ来ぬ里山見おろす 
 
○初夏の海も眼に重き視野に入り来て廃炉作業者福島支える 
 
○二〇アール十六俵の米つくりやっと出来ると稲穂に花まつ 
 
○百年かけ田の土作りは一センチそれを五センチ除染で削る日 
 
○仄開く四年ぶりの園の薔薇の名は「マルセル・プルウストの思い出」 
 
○庭深く汚染土うめた標識を枯れ葉が隠す四度目の秋 
 
(以上26首は、レイバーネット日本のサイトに掲載された短歌作品を、作者の澤さんのご了解をいただいて転載させていただいた。筆者) 
 
○ハイウェイも「こうのくのうの」で母は分かる喋り初めの避難の幼児 
 
○あの日までは花びらは渦を巻いていた瞼に息づく双葉のバラ園 
 
○縁側の新聞紙に置く二組は余震の数を知ってる外履き 
 
○吾妻山に種まき兎が浮かび出て農夫は妻に今年はと告げる 
 
○除染待てず「糠味噌要らず」に「鳩殺し」播いたよと豆の名を言う老婆 
 
○ヒマワリが飯舘村を向いて咲く避難の畑も思いを汲んで 
 
 次回も澤さんの作品を読む。              (つづく) 


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