2015年07月01日15時42分掲載  無料記事
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文化

【核を詠う】(188) 『福島県短歌選集』(平成25年度・26年度)から原子力詠を読む(1) 「原発事故にいくさを重ね思ひをり避難の列が黒々と見ゆ」 山崎芳彦

 今回から福島県歌人会の発行になる『福島県短歌選集』の平成25年度版(平成26年3月刊)、同26年度版(平成27年3月刊)に拠り、福島県の歌人が平成25〜26年に詠った原子力にかかわる(筆者の読みによる)短歌作品を読み、記録させていただく。この連載の76回目から数回にわたって同選集の平成23年度版(平成24年3月刊)を読ませていただいたことがあったが、福島第一原発事故直後の時期に詠われた福島歌人の作品群に強い感銘を受けるとともに、原発社会について多くのことを考えさせられる契機の一つとなったことを思い起す。今回は25年度版と26年度版の作品を読むわけだが、原発事故後の厳しい状況が続く中で、多くの福島歌人が詠った作品の集積だけに、歴史的にも貴重な意味を持つ短歌作品群であると考える。 
 
 もちろん、同選集に収録された短歌作品は、原子力詠、原発をテーマにした作品に限られている筈はなく、さまざまな、人が生きている中での思いの表出、短歌表現が重層的に、また個性的に集積されていることはいうまでもない。その中から、筆者の読みで「原子力詠」として抄出させていただくのだから、同選集の全容とはいえないが、「核を詠う」と題してのこの連載にとって、やはり『福島県短歌選集』の作品の記録は欠かせないとの筆者の思いを諒としていただきたいと願うものだ。 
 
 『福島県短歌選集』の歴史は、昭和29年度に始まり、以来途切れることなく毎年度、福島県歌人会の努力によって継続されてきているという。並々ならない多くの福島歌人の意志の結集による果実であり、さまざまな歴史の経緯を経て今日に至っているに違いないが、やはりその中で平成23年3月11日の東日本大震災・福島第一原子力発電所の壊滅事故による惨禍とそれを背負わされての福島県人の現在と、さらにこれからの安易な想像を許さない日日は、この国の現在と将来の象徴というべきものであり、大きくは人類史的な課題の重要な一環をなすべきものとしてとらえなければならない事態を明らかにしていると考えなければならないと思う。 
 この国は、あの侵略戦争の果ての広島・長崎の原爆による人類史初めての原子力による惨禍を広島、長崎の多くの人々が身に受け、塗炭の苦しみを現在至ってなお苦しみ続けているのだが、政治・経済を支配する権力者たちはそのことについてどのような姿勢をとりつづけてきたであろうか。70年を経た今日なお原爆被爆者が被爆者認定に関わる裁判を闘わなければならない、そのような国であり社会なのである。 
 沖縄の現状についても同じことが言える。そして、今、再びの戦争の歴史をもたらそうとする「戦争法制」を、憲法の改悪に至るまでの、いわば経過的措置として、安倍自民党政権とその同調勢力は成立させようとしているまことに許しがたい事態のさなかにある。戦争法は、人びとを抑圧し、基本的人権を踏みにじる法制度と社会環境の醸成を伴う。いま問題になっている自民党若手議員による勉強会での、報道の自由・表現の自由を抑圧する国会議員の「無軌道」発言と、講師の百田なる人物の発言は、まさに現政権が行おうとしている逆流政治の本音が漏れだしたものなのだ。(日刊ベリタの記事に詳しいので、ここでは内容には触れない。) 
 
 福島原発事故がもたらした、今日までの苦難とこれからどれほどの事態が起こるのかを見通すことができない将来について、この国の政治・経済支配権力勢力は、かつての侵略的な軍国主義の歴史を無かったことにして再び「戦争ができる」大国日本への道を進みつつあり、それと同じ勢力が福島原発事故の惨禍、人びとの苦難を無かったことにして原子力社会体制を続けようとしている。先日の電力9社の株主総会で、政府の2030年度エネルギーミクス案(原子力発電をロードベース電源と位置づけ、総電力の20%を超える電源として原発に依存する電源構成)を推進力として、現在ゼロ稼働の原発を、早期に再稼働する経営方針を打ち出し、脱原発を求める株主提案を一顧だにせず否決したことは、まさに政経一体での原発回帰・強化の姿勢を示している。福島原発事故の教訓からまなび、負うべき責任を果たす姿勢のかけらも見られないその反倫理、不条理の極みは許しがたく、醜悪である。 
 
 まとまりがつかないことを記してしまったが、このような中で、福島の歌人たちは原子力について、原発事故による被災の現実と将来不安、核放射線への不安、生活基盤を深刻に傷つけられ、帰りたくても帰れない古里、政府や東電の被災者に対する補償の逓減方針、見通しのつかない事故原発の廃炉作業、生きる環境の基礎である土・水・空気の汚染へのおそれ、人びとの關係のありよう、それこそ「生きること」にかかわって何を詠うのか、詠っているのか、「原子力」にかかわる短歌作品を読んでいきたい。 
 
 
  ◇上妻ヒデ◇ 
放射能検査済みです表示添へ教へ子よりの新米うまし 
被災地の海を向きつつ首をたれ祈るが如き向日葵の花 
                      26年度 2首 
 
  ◇秋山和子◇ 
風評のセシウムゆゑか鯉幟少なくなりし吾が会津にも 
                      26年度 1首 
 
  ◇阿久津美子◇ 
除染後も線量値増す公園にブランコ揺れる風の意のまま 
セシウムを追い払うがに捨て案山子両手をひろげ目玉光らす 
空気水土壌汚染のわが郷に風評被害が追い討ちかける 
菜園の緑濃くなり線量値ゼロのキャベツの笑いはじける 
去年より色濃く咲ける一輪草「セシウム」ふっと頭をよぎる 
                      25年度 5首 
 
  ◇上石幸子◇ 
陸炉炭買い置き無くし問いたれば汚染で窯を止めしと言う 
                      26年度 1首 
 
  ◇朝倉富士子◇ 
原子炉にかの原爆を問ふべしやわれらホモサピエンスの罪のあり処を 
                      25年度 1首 
不意にわがこころの襞を抉じ開けて入りくるなよ無頼なるもの 
ともどもにフクシマの未来語り合ふ若きらに逢ふ胸熱く われ 
熱中症・腰痛そして心疲れ 除染の若ものに泪出づる日 
                      26年度 3首 
 
  ◇阿部勝子◇ 
被曝せし四人の孫にいつの日か嫁ぐ日あれと柏手を打つ 
                      25年度 1首 
 
  ◇阿部キミ子◇ 
放射能に汚染されたる柿悲し穫る人もなくこの日も暮れたり 
                      25年度 1首 
 
  ◇阿部まさ子◇ 
陽に映ゆる銀杏並木の清しさに放射汚染のありやなしや 
秋の陽に軒を彩る干柿に汚染の幕の延びて寂しく 
この年も柚に絡まる放射能汚染に去年の料理の味なつかしく 
季どきに彩りくれし庭土に沁むる汚染の心重たく 
くれないに霞むふる里恋しからん原発汚染に離り住む村人 
復興の計は幾多あれど土台なき柱のさまに土砂に埋もるる 
懸命に今を生きなんとす被災者の古里とおく渦巻く汚染に 
新米の汚染検査の事なきを心に念じ農夫見守る 
                      25年度 8首 
 
  ◇安倍美智子◇ 
友よりの七十ベクレルとう干し柿を高齢者我ら美味しと食いぬ 
町内の除染終えたる広場にて三年ぶりに盆踊りする 
                      25年度 2首 
 
  ◇阿部 緑◇ 
真夜中の部屋に大熊映りおり送られて来しタブレット画面 
なにがなし悲しい日なり大熊を追われて二年わが家は遠し 
大熊を離れて二年もうすでにわが身ひとつの命なりけり 
大阪に二年住みたり難民の根は大熊に残ししままに 
「フクシマを離れしあなたにわからぬ」と友の電話にただただ黙る 
友よりの電話に知らざる仮設とう名のつく家の悲しき現実 
大熊を離れて二年もう二年まだ二年かも遠くて近し 
猫が住みねずみが住みて大熊は童話の世界に戻りつつある 
この二年復興はなし大熊はゴーストタウンとなりしままなり 
さっぱりと忘れしごとく帰らぬ家も早誰のものでもない廃墟 
                      25年度 10首 
 
  ◇荒川楽陽◇ 
住みにくさ募るばかりの列島よ汚染の大気も攻めてくるなり 
                      25年度 1首 
窓越しに見ゆる犬小屋見る度に原発避難までの犬見ゆ 
三年と八ヶ月過ぎ犬七匹猫二匹みな心に生きる 
幸せは家族揃つて食ふことよ原発事故はこれも奪ひぬ 
国策で進めし原発 事故のあと先づは謝罪をすべきと思ふ 
                      26年度 4首 
 
  ◇荒 仁志◇ 
刈りあとの「ひこばえ」露にひかりおり風評(かぜ)と汚染(けがれ)におののく吾は 
                      26年度 1首 
 
  ◇有賀智枝子◇ 
難題なる「プロメテウスの罠」読みて吾の認識不足を知りぬ 
早く逃げろ防護の男怒鳴りゆく人びとは只右往左往す 
膨大な熱量に頼れと専門家の真もありて心重たし 
炊き出しに懸命なりし飯舘の人等はその後を汚染に追わる 
事故の収束いつまで続く先の見えざる避難所ぐらしに 
迷路より抜けきれぬまま二年半 国の方向いまだ直中 
人間の作りし毒を何故消せぬ放射能の脅威を具にも知る 
障りなき言葉穏しく書き綴りプロメテウスの罠は編まれる 
                      25年度 8首 
裏山より湧き来る水も井戸水も安全ですと笑む検査員 
                      26年度 1首 
 
  ◇安斎トキ子◇ 
除染せし庭に二度萌ゆりんだうの小さき花に蝶の戯る 
原発の事故に避難の吾が友は足弱まりて今車椅子 
セシウムの検出無しと云ふ柿に心安らぎあんぽを吊す 
                      26年度 3首 
 
  ◇安斉はや◇ 
すっぱりと切り落とされて除染さる庭の紅梅今年は咲けぬ 
踏み慣れし土剥がされて除染さる新しき土は足に馴染めず 
裏山の杉葉落ちくる吹く風に除染され無いままにてあれど 
                      26年度 3首 
 
  ◇池上恭子◇ 
手作りの二代限りの「みそぱん」に安らぎくるる長期被災者 
離れ難き古里離れて仮設に暮らす友に送りし郷愁和菓子 
                      25年度 2首 
 
  ◇池田桂一◇ 
原発に抗議したるは五十五年前石神とう駅名今も忘れず(東海原発) 
繰り言に気付けば己の言葉さえ虚しくなりぬ原発事故に 
原発の不祥事続くを見過しし数多を悔いぬ今となりては 
                      26年度 3首 
 
  ◇石井弘子◇ 
原発に抗ふ歌集『青白き光』祐禎の危惧は的中したり 
原発事故に追はれし人ら集ふごとに「ふるさと」を歌ふ切切と歌ふ 
                      25年度 2首 
 
  ◇板谷喜和子◇ 
ヒロシマに被爆せし夫放射線高きわが庭の草をむしりぬ 
                      25年度 1首 
 
  ◇伊藤早苗◇ 
原発が四基並びし風景を誇りと思いし若き日はあり 
原発の爆発の日より三歳半除染されぬもさざん花咲けり 
今日もまた汚染水漏れのニュースありアナウンサーの声両耳に聴く 
                      26年度 3首 
 
  ◇伊藤雅水◇ 
原発の地より避難の心労か意識もどらぬ師を思ひをり 
原発の事故より二年師は逝きぬ『青白き光』永遠に問ひかく 
こんなにも傷んでしまつたみちのくを忘れないでと谺がかへる 
スーパーも道路も車あふれたりいわきは避難の人でにぎはふ 
                      25年度 3首 
ふきのたうたらのめ食ぶ闇に慣れゆく眼のやうにセシウムに慣れ 
底ごもる軋轢あるらし原発の地より避難の人多くして 
こころから恕す恕さるることぞなき人しんしんと悲しみの器 
汚染されし海草揺らぎ滄海は何も語らず夏色を帯ぶ 
半減期三十年のうちにある吾が残生を思ふをりふし 
                      26年度 5首 
 
  ◇伊藤正幸◇ 
臨界の青白き光(かげ)が原子炉ゆ爆ぜ来ることを友は詠みゐき 
原発に追はれ追はれて去年(こぞ)今年友は床臥す管をつながれ 
原発の事故に追はれしその果ての友のベッドは断崖に似つ 
原発の事故に追はれしその日より二年となる日に友は逝きたり 
放射能汚染なき野をおお雲雀高き空より探してをりや 
秋の空隈なく晴るるを原発の汚染の水が地下にうごめく 
汚染水などと呼ばれて原発の地下うごめくは小さきマグマか 
放射能に汚れし水を抱へ持ちわが列島は難破船ぞや 
放射能汚染の水のじわじわと締めてゆくらし漁民の首を 
雷鳴が轟きやまず原発の事故収まらぬ世をし叱るや 
                      25年度 10首 
福島の原発敷地ゆ海見しに思はざりけり大き津波を 
放射能汚染の水の増えゆきてタンクが海へ海へと傾ぐ 
雪ならぬセシウム数多降り敷きし町に棲みつつ千日となる 
素枯れたる紫陽花のごとき吾なりや被曝はいつしか日常にして 
原子力の傘下に暮らす吾らなり事故の以前も事故後の今も 
原発のベースロードが国策か 朝三暮四の故事のごとしも 
安全神話作りし人ら言はざりき水素爆発を秘中の秘とし 
原発事故にいくさを重ね思ひをり避難の列が黒々と見ゆ 
原発事故に国家の中枢くづれゆく危機ありたるを忘れゆくらし 
福島に多く学ばず再びを作られゆくか安全神話 
                      26年度 10首 
 
  ◇伊東ミイ子◇ 
休耕の田畑は荒れて草茫々原発被災地モノクロの景 
復興のうたが聞こえる「はなは咲く」雪解のようにひかりのように 
オリンピック招致の高まる日本に矢のごとく問う原発汚染水 
語気強め安全という東京は「は」という文字が哀しみを知る 
東京と福島の距離250粗佑放しくる このときばかり 
オリンピック招致のごとく熱を持ちフクシマを見よわが福島を 
                      25年度 6首 
 
  ◇伊藤美智子◇ 
二年を仮設に暮らす人らみな帰してやりたき桜咲く中 
桜木の除染に耐えて咲きいるを同じ痛みの我ら見上ぐる 
原発の惨を予言する歌集なり『青白き光』の祐禎さん逝く 
人類の負の遺産なる原発事故地球に活かせ福島の地を 
                      25年度 4首 
誠実な物づくりをすると社是掲げ放射線遮断の扉作り来 
米作りを今年で終わりと決めた人あまたとなりて秋風の吹く 
汚染土を積み上げ景色の変わりゆくダリの時計のような福島 
                      26年度 3首 
 
 次回も『福島県短歌選集』の作品を読み続ける。    (つづく) 


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