2015年07月19日10時05分掲載  無料記事
http://www.nikkanberita.com/print.cgi?id=201507191005180

世界経済

ギリシャ財政危機の一因にドイツの偽善

  ギリシャ財政危機の関しては、多くの報道がなされ、この日刊ベリタでも解説がなされて、多くのことを学ぶことができたが、どうしてギリシャがあのような財政危機に陥ったのか、その原因はなんだったのか、という点があまり議論されていないように感じた。ギリシャの放漫財政と経済を支える産業の低迷ぐらいかと思われる。その原因の一端に関する、アメリカのサイトでの情報が参考になるかと思い、簡単に紹介します。それは、「ギリシャ債務についてのドイツ側の大変な偽善」という題名(1)のものです。(落合栄一郎) 
 
本山氏のこの欄の記事(2)で、詳細に語られているように、ギリシャの第2次世界大戦後の政治問題が関係しています。戦後、共産系による内戦─冷戦の幕開け─が、アメリカ・イギリスの援助で、なんとか収まった。アメリカの軍事援助は、NATOに属するギリシャとトルコにも与えられたが、トルコ10に対してギリシャ7という割合であった。その後、トルコとのキプロスをめぐる紛争などもあり 、以来ギリシャは軍事費にかなりの予算が取られている。政治は右、左と動いたが、それぞれの政権は、自分達を良く見せるためにかなりの画策を行ってきた。こうした中で、1998年、ギリシャは、潜水艦を3隻ドイツに注文した。4隻目の可能性も含めて28.4億ドル。そして第1隻目はドイツ企業(フェロスタール社)で建造するが、残りはギリシャで建造する─これがギリシャに雇用をもたらすとされた。 
 
その頃から、ギリシャはユーロ圏に加入する動きを起こしていた。そのためには財政状態を良く見せなければならない。そこで、ヨーロッパ側は、ドイツとフランスに、ギリシャがEUに加盟するための財政援助を軍事援助の形で行うようにした。ギリシャ側は、財政の失策を糊塗するなど、様々な誤摩化しを行っていた。ギリシャの司法側は、これらの動きを調査することを2010年5月から始めた。それによりわかったことは、ドイツ、フランスとの軍需取引に莫大な裏金が動いていたことである。ドイツ自身もドイツ側の潜水艦建造企業を調べ始めた。 
 
こうした動きのなか、潜水艦はどうなったか。1隻目の建造途中でギリシャ軍部関係者が視察した結果、建造中の潜水艦は欠陥が多く、受け入れられないということになった。しかし、ギリシャの政治家達は、第2隻からの建造をギリシャでという雇用増大の機会を逃したくなかった。そこで、ギリシャ政府は、2009年までに第1隻目の料金のおよそ70%の20.3億ドルをドイツに支払った。ドイツ側企業は、残り30%の支払いも要求し、ギリシャが拒否すると、契約を反故にした。ということは、1隻の潜水艦もギリシャにわたらなかった。 
 
ドイツ企業シーメンスも、2004年のギリシャオリンピックに関連してかなりの裏金を用いて契約を獲得しようとしたようである。 
 
潜水艦は、ドイツ、フランスのギリシャへの武器輸出の一部に過ぎない。この2国はギリシャにかなりの兵器を輸出している。ドイツの武器輸出の15%、フランスのそれの10%がギリシャ向けである。この両国とも、ギリシャの財政危機を無視して武器輸出を続けて来た。ギリシャは世界第10位の通常兵器輸入国である。この財源は、ドイツ、フランス(アメリカも)の銀行群である。ということは、このカネはギリシャにわたり(ギリシャの債務となる)、武器輸出先のドイツ・フランスの企業に戻る。ギリシャの財政危機を援助しようとすると、ヨーロッパの公的機関すなわち、ヨーロッパの市民の税金が使われるということになる。そしてギリシャでは、緊縮財政を強制され、市民は苦しまざるを得ない。ヨーロッパ全体の市民にもそのしわ寄せは及ぶ。そして、市民から奪われたカネは、企業の懐(それを仲介した政治家その他)へ。 
 
(1)http://www.opednews.com/articles/1/The-Unspeakable-German-Hyp-by-Gary-Busch-Syriza-150709-705.html 
(2)本山美彦 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201507120549390http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201507120139250 http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201507111630296 


Copyright (C) Berita unless otherwise noted.
  • 日刊ベリタに掲載された記事を転載される場合は、有料・無料を問わず、編集部にご連絡ください。ただし、見出しとリード文につきましてはその限りでありません。
  • 印刷媒体向けの記事配信も行っておりますので、記事を利用したい場合は事務局までご連絡下さい。