2015年08月06日14時33分掲載  無料記事
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文化

【核を詠う】(192) 『福島県短歌選集』(平成25・26年度)の原子力詠を読む(5) 「原発に仲間も家族も引き裂かれ安住の場なく彷徨ふわれら」 山崎芳彦

 いま参議院の特別委員会で「戦争法」案の審議が続いているが、8月5日に中谷防衛大臣が答弁のなかで、自衛隊が核ミサイルの輸送、提供が可能であるとする発言を行った。戦争法案を構成する重要な法律である「重要影響事態法案」、「国際平和支援法案」における戦争中の他国軍への後方支援に関して、「後方支援」の輸送任務として核ミサイルの輸送を行うことは「法律上は排除していない」と答弁した。8月6日付朝日新聞朝刊によると、「法案では後方支援の「輸送」任務に、何を運ぶかの制限がなく弾薬も武器も輸送できるため、『核兵器、化学兵器、毒ガス兵器は輸送可能か』と問われた中谷氏は『法律上は排除していない』と答えた。後方支援の『補給』をめぐっても、中谷氏は核兵器を搭載した戦闘機や原子力潜水艦への補給は『法律上除外する規定はない。現に戦闘が行われていない現場であれば給油はできる。』と認めた」と報じている。付け加えて、非核三原則があるので核兵器輸送は想定していない、政策上の判断として実施しない、などと述べても、戦争法案が成立すれば自衛隊が核兵器を戦闘中の他国軍に提供することになることは、閣議決定のみで明白に憲法違反のことを合憲と解釈する政府のもとでは無意味である。8月6日の前日の出来事だ。 
 
 原発の保持・稼働に関して、しばしば浮上する「原発を持つことが、日本がいつでも核爆弾を製造できる潜在能力を持っていることを示し、核抑止力になっている。」とする言説があるが、事実原発によって生み出されたプルトニウムの大量保持国であるこの国に対する警戒の念は世界的に根強い。原子力マフィアグループが支配権力を持ち、侵略と戦争の歴史を無かったこととして、不戦を国是とする憲法を「解釈改憲」により無いものとして「戦争ができる、する国」にするための「戦争法」を成立させようとしている。その時「原子力発電」は単なるエネルギー源装置としてのみ考えることはできなくなる。自前の「核抑止力」つまり核武装した国への企みを持たない保障はない。「仮想敵国」の核武装、軍事力強化を言い募り、だから戦争法が必要なのだという政権の存続を許す限り、原発再稼働の流れ作業政権を認める限り、「国を守る、国民の生命、幸福追求の権利を守る」とのことばが踊るその裏で、国民の基本的人権を抑圧し、「国民保護」の名の下で戦争協力義務を課す、殺し殺される戦争に駆り立てる「国」、「原発事故被害受忍」を強いる「国」への道筋が強力に推進されることになるだろう。いや、もう既に始まっている。原発事故被害者にたいして今政府が進めている施策、再稼働しようとしている原発近隣住民に対する施策を考えてみれば、そのように考えないわけにはいかない。 
 
 そのような中にあって、7月31日に公表された東京第五検察審査会の、福島第一原発事故に関して、東京電力の勝俣恒久元会長、武黒一郎、武藤栄両元副社長を業務上過失致死傷罪で起訴すべきだとする議決は、原子力マフィアグループの主張を認めて不起訴処分を繰り返した東京地検の判断を誤りだとするもので、議決の内容は、東京電力の事故責任について的確に、ことの本質を明らかにしたものとして高く評価できる。 
 同議決によって、被疑者は今後裁判所が指定する検察官役の弁護士によって強制的に起訴されることになるが、原発事故の刑事責任が始めて裁判で問われることになったわけで、2012年3月に結成された福島原発告訴団(武藤類子団長)とその賛同者の粘り強い運動、そして東京第五検察審査会の審査員11人に敬意を表するとともに、これから長期化し原子力マフィアグループの様々な妨害が予想されるが、この裁判のなかで原発についての本質的な問題、進められている原発再稼働の不当性について明らかにされることを期待したいと思う。注目し、正当な裁判がなされるよう大きな運動の広がりを作り出さなければならないだろう。 
 
 東京第五検察審査会の議決の内容については、この『日刊ベリタ』の記事で明らかにされているので詳しく触れないが、チェルノブイリの原発事故の教訓について 
「原発事故は、ともすると放射性物質を大量に排出させ、その周辺地域を広範囲に汚染することで、多くの人々に多大なる被害を及ぼしてしまう。さらに放射性物質が大気中に大量に排出されると、半径数十キロメートル以上の地域が放射能で汚染されてしまうことになり、そうなると長い期間そこには何人も出入りすることができなくなってしまう。加えて放射能が人体に及ぼす多大なる悪影響は、人類の種の保存にも危険を及ぼす。/原発事故は、ひとたび発生してしまうと事故が発生する以前の状態を取り戻すことが非常に困難で、取り返しのつかない極めて重大な事故であることから、過酷事故とも言われている。」 
「このような事故の恐ろしさは、我が国でも認識されるところとなっている。」 
「原発事故が深刻な重大事故、過酷事故に発展することに鑑み、その設計においては、当初の想定を大きく上回る災害が発生する可能性があることまでを考えて、『万が一にも』、『まれにではあるが』津波、災害が発生する場合までを考慮して、備えておかなければならないということである。」 
「原子力発電に関わる責任ある地位にある者であれば、一般的には、万が一にも重大で過酷な原発事故を発生させてはならず、本件事故当時においても、重大事故を発生させる可能性のある津波が『万が一にも』、『まれではあるが』発生することがあるということまで考慮して、備えておかなければならない高度な注意義務を負っていたというべきである。当時の東京電力は、原子力発電の安全対策よりもコストを優先する判断を行なっていた感が否めないが、ここでの原子力発電に関わる責任ある地位にある者のあるべき姿勢としては、コストよりも安全対策を第一とする考え方に基づくべきである。」 
「既に本件地震が発生し、それによる重大事故、過酷事故によりどれほどの甚大な被害が発生したかということを想起しなければならない。本件地震が発生し、甚大な被害を及ぼした結果から振り返って思うのは、安全対策よりも経済合理性を優先させ、『万が一にも』、『まれではあるが』発生する可能性のある災害について予見可能性があったにもかかわらず、それに目をつぶって何ら効果的な対策を講じようとはしなかった東京電力の被疑者らの姿勢について適正な法的評価を下すべきではないかということである。」 
 などと述べた上で、被疑者勝俣恒久、被疑者武黒一郎、被疑者武藤栄について、具体的な事実を挙げて、「過酷事故の発生を具体的に予見できたにもかかわらず、適切な津波対策を検討している間だけでも原発の運転停止を含めたあらゆる措置を講じるべきであったのにしなかった」として、起訴すべきだとする議決を行った。 
 
 事故が何故起き、何をもたらしたのか、誰が責任を負うのか、検察の不起訴で闇に葬られようとしていたが、その検察の判断を非とし強制起訴の議決が行われたことにより、この裁判のなかで明らかにされるべきことが明らかになることによって、いま読んでいる福島歌人の短歌作品がもつ価値もさらに明らかになると思う。『福島県短歌選集』から原子力詠を読み継いでいく。 
 
 
  ◇佐藤トミヱ◇ 
身につけしガラスバッチとう線量計にわれの命を託さん日々か 
廃炉まで三十年否五十年と聞くたびごとにわが身を思う 
四季ごとに我の登りし吾妻山いまだ放射能に蔽われいるや 
                     平成25年度 3首 
 
  ◇佐藤直康◇ 
福島の梨食べたしと三陸の孫の電話に涙がうるむ 
放射能に負けてたまるか曼珠沙華ぐれんの炎庭にあげをり 
み社に聳ゆる銀杏の実のなるを放射能ありて誰ぞ食むるや 
セシウムを浴びし銀杏(ぎんなん)み社に数多散り敷き拾ふ人なし 
放射能の干柿食べる人もなくあまたの蜂屋穴に捨てたり 
放射能に負けじと色づく柘榴の実強く生きよと元気を貰ふ 
放射能浴びし福島老いの身も希望を捨てず生きて祈らむ 
真夏日の庭に牡丹はセシウムに負けじとばかり凛と咲きゐる 
                     平成25年度 8首 
 
  ◇佐藤紀男◇ 
ぽってりと見渡す限り実をつけしままの柿の木フクシマの里 
除染せし村を通れば汚染土の袋の傍に青田静もる 
除染済み観察園に甲虫羽音大きく子らを待つごと 
県境をふと越えてみる平穏の普通にありて幸せな街へ 
                     平成25年度 4首 
空霽れて陽の甦り風もなし「線量さえ・・・」と心を過ぎる 
山芋のセシウム今年もNDに三年目なれば子らに分かちつ(ND=ノットデテクト) 
原発の事故に避難者四年目に飯舘の南瓜伊達に勢う 
                     平成26年度 3首 
 
  ◇砂土木一路◇ 
原発ゼロ爆弾発言の心地よき小泉元首相の意気に乾杯 
                     平成25年度 1首 
 
  ◇三瓶利枝子◇ 
原発の海より昇る十五夜の月重たげな月忘すられずをり 
いつからか反原発の歌人とぞ呼ばれし人の死に給ふなり 
贈られし『青白き光』手に取れば明るき声の蘇り来し 
                     平成25年度 3首 
 
  ◇島 悦子◇ 
身ひとつに原発事故より逃れしと農婦は縋るセラピー犬に 
暑き日の除染作業の差し入れに漬けし胡瓜のほどよく冷えぬ 
汚染水漏れに出漁阻まるる友に掛けやる言葉さへ無し 
鍋ン中暴るる魚を憂ひなく食ぶるが夢 相馬の海の 
獣害を免れしコメに放射能全袋検査の関門が待つ 
                     平成25年度 4首 
 
  ◇下重トシ◇ 
青白き光となりぬ原発は爆ぜ大農豪邸大熊は消ゆ 
大熊を捨て内郷に家を建てこの地で逝くと師の文字かなし 
原発事故に無人となりし故郷の空に思いぬ犠牲者の涙 
この暑さいつまで続く屋根低き仮設住宅に住む人案ず 
夏は去り冬訪れる老いの身に三年は長し仮設の住まい 
牛を飼う家なくなりて道の辺のすすき茂りて花穂がそよぐ 
                     平成25年度 6首 
何十年振りの大雪と原発の被災者暮らす仮設を案ず 
                     平成26年度 1首 
 
  ◇白石琴子◇ 
原発の歌を残せよと言はるるも歌より先に涙の出でく 
原発の避難の苦しみ乗り越えむ歌作らむに語彙すら忘れ 
知る人も話す人なき避難地の昼の公園に桜見てをり 
緑無く話す人なきビル街に潰さるるごとく避難者われは 
一時帰宅の荒れたる庭に一輪のバラの咲きをり風に吹かれて 
前向きに生きむと思へど原発の避難はつづく見知らぬ街に 
原発の収束復興も見えぬまま日はいたづらに過ぎてゆかむか 
                     平成25年度 7首 
子供らの健康やいかに公園の線量計は0・九八八とあり 
原発に仲間も家族も引き裂かれ安住の場なく彷徨ふわれら 
原発の安全神話に浸り来て汚染廃棄物増ゆるのみなり 
帰還困難区域と決められし古里思(も)へば心が冷えゆくばかり 
帰りたし帰れぬけれど帰還困難区域宣告受止めがたし 
何時迄を続く原発避難かな老いの暮しに不安を抱へ 
原発の避難も三年離(さか)り住み友との交はり遠くなりたり 
原発の避難も三年(みとせ)前向きに命をつなぐ夕餉を作る 
わが町の小中学校も避難地に待ち望みたる開校となる 
                     平成26年度 9首 
 
  ◇新明悦子◇ 
公園の遊具の巡りこまやかに除染してゐる茶髪の若きら 
甲状腺を病みゐし吾は原発事故をことに気にするセシウムの値 
被災してここは嫌ひと妹は山の仮設に小松菜を播く 
                     平成26年度 3首 
 
  ◇杉本慧美子◇ 
この稲にセシウム無きを願ひつつしばし立ちみるひろき稔り田 
漁に出るあてなき船の舫ひをり海はどこ迄汚染されゐる 
海も山も汚染されゐる故郷かいつ迄あるやわが残生の 
                     平成25年度 3首 
わが住める仮設住宅より孤独死のついに出でたり春長ける中 
わが町に住める日はいつ赤錆びし線路を四度の夏日に曝す 
三年半共に避難せし夫の遺骨秋兆す墓に今日納めたり 
来む年は良き年にあれ福島の復興加速すと首相の言葉 
                     平成26年度 3首 
 
  ◇杉本征男◇ 
一本の釘も禁止の借家ゆえ土産の壁掛も机中に眠る 
事故続く原発のため唯一の帰郷の夢の又も遠のく 
                     平成25年度 2首 
仮住いゆえに花壇も無き身にて花苗見れば夢に出る庭 
食事より好きな花植えも出来ぬまま避難生活早も三年 
いつまでもくよくよするなと他人(ひと)の云う郷里(さと)に戻れぬ我らを前に 
                     平成26年度 3首 
 
  ◇鈴木こなみ◇ 
三年の時間はだんまり 積まれたる袋の汚染土行き処もあらず 
見えざれば見えざるままに怖れなきふくしまの空いま花がすみ 
いかほどの残り生ならむ放射能除染を受けて安けきいのちか 
人の世の被曝、汚染は知らざらむ白き木槿も紅き椿も 
庭の木ら除染の深傷(ふかで)負はずあれこの家と共に歳古りしもの 
                     平成26年度 5首 
 
  ◇鈴木 進◇ 
仮設住宅の媼が花とお菓子持ち友達の家朝に訪ねぬ 
日本一の煙草産地船引は耕作停止に激減をする 
縁無くて仮設住宅に住みし吾放射能の話何時まで続く 
                     平成25年度 3首 
孫たちと生きる宅地を選び出し若者もまた同意しにけり 
わが家は大熊町にありたれど部落二十三戸に帰る者なし 
放射能の数値は高く古き家なつかしくあり捨てざるを得ず 
                     平成26年度 3首 
 
  ◇鈴木 武◇ 
遠世より負を担いきしみちのくに明るさ満つる夢の日はいつ 
海よりの風が運びし放射能三年たてど山菜食われず 
仮設にて人生終わりたくなしと言いつつ逝きし人の多きと 
                     平成25年度 3首 
 
  ◇鈴木貞子◇ 
放射線の数値ことしは安全と干し柿ののれん冬陽に光る 
さまざまの生活(たつき)のありや暮れどきの仮設住宅灯のともりゆく 
原発に追はれし人々故郷へ帰還は無理とふ嘆きを思ふ 
                     平成25年度 3首 
若者が生きてゆく道平和なるフクシマの復興切に祈らむ 
                     平成26年度 1首 
 
  ◇鈴木トシ子◇ 
震災と原発事故に避難し二年帰ることなく短歌の師逝けり 
春雨の寒きひと日を師の遺作『青白き光』の歌集読みいる 
                     平成25年度 2首 
春雨の寒きひと日を師の歌集『青白き光』をしみじみと読む 
                     平成26年度 1首 
 
  ◇鈴木紀男◇ 
真っ直ぐに稲が育ちてゐる田んぼもう福島は立たねばならぬ 
                     平成25年度 1首 
 
  鈴木文子◇ 
原発の事故より二年経ちし今日四人目の孫の産声を聞く 
除染まだ始まらぬ庭にこぞりたり一人静の紅の芽の 
                     平成25年度 2首 
除染終え静もる土の割れ目より東一華の花芽立ち来る 
除染済みし庭に縄跳びする孫ら数うる声の垣根越えゆく 
除染土を庭に埋め置く日々にして目印の杭芝草おおう 
いかり草ちご百合の花咲く里は線量計の値一・七七 
                     平成26年度 4首 
 
  ◇鈴木美佐子◇ 
うつくしま福島はいづこ行き場なき汚染水けふも増えつづけゐる 
除染は移染にすぎぬ野を山を剥ぎ取りし土いづこへ向かふ 
今年また咲きたる躑躅(つつじ)人らみな戻らぬ町をあかく色どる 
古畑を耕す夫よあり余る美田はなべて警戒区域 
夾竹桃の花あふれゐし故郷は異界のやうに静まりてをり 
いづこにも綿毛とばせる蒲公英のやうに生きたし帰れなくとも 
                     平成25年度 6首 
春なれど触れる事出来ぬくろつちに棒のやうなる泡立草乱る 
これ以上良くも悪しくもならぬ町復興復興なみの音に消ゆ 
三ヶ所の検問を経てたどりつく近くて遠きとほきわが家 
原発にふるさと追はれ高台の団地に住むもドラマにあらず 
山ゆりは今年も咲けり検問を受けて入りゆく産土への道に 
                     平成26年度 5首 
 
  ◇鈴木八重香◇ 
放射能の汚染薄(うす)まり避難民の町に住民戻り始めぬ 
ふつくらと黄葉紅き葉に染む山に原発汚染いか程被るや 
をちこちの通学路のみ除染には疑問抱くもせずよりましか 
原発事故の国の対応米国よりあまりに低きに愕然とせり 
                     平成25年度 4首 
原発事故の汚染恐れて花見などする人少なく花のみ美(は)しき 
無人なる実家の裏の畑隅に家守るがに水仙咲き並ぶ 
                     平成26年度 2首 
 
 次回も『福島県短歌選集』の原子力詠を読む。     (つづく) 


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