2015年08月12日11時44分掲載  無料記事
http://www.nikkanberita.com/print.cgi?id=201508121144383

文化

【核を詠う】(193) 『福島県短歌選集』(平成25・26年度)から原子力詠を読む(6) 「被曝物行き場の無きを被曝してあらばわれらも行き場の無きや」 山崎芳彦

 まことに許しがたいことだが、九州電力の川内原発1号機が今日8月11日に起動して再稼働、14日には発電・送電を開始、9月上旬には営業運転に入る予定だ。東京電力福島原発の過酷事故発生からほぼ4年半、この間、大飯原発の一時的な再稼働(2012年7月〜13年9月)期間を除いては原発ゼロが続いたが、その間電力不足による「危機」はなく、再生可能自然エネルギーの拡大への取り組み、電力消費のあり方に関する社会的な関心の高まり、脱原子力エネルギー社会に向かおうとする広範な運動も活発になっている。原発維持・再稼働を目指す政府の方針、電力企業をはじめとする原子力マフィアグループに対する異議申し立ての声は高まり、この間、福井地裁による画期的な関西電力大飯原発「稼働差し止め判決」(2014年5月)、高浜原発3・4号機の「稼働禁止仮処分決定」(2015年4月)、さらに最近の東京第5検察審査会による東京電力の勝俣恒久元会長ら旧経営陣3名を被疑者として福島第一原発事故による業務上過失致死傷罪を問う「強制起訴」の議決(2015年7月17日議決)などもある中での川内原発再稼働の暴挙だ。 
 
 川内原発の再稼働は福島原発事故のあとに定められた「新規制基準」による原子力規制委員会の審査を合格したとして、いわば原発再稼働路線の先陣を切るものとなり、政府の「原子力発電復活政策」により原子力マフィアグループが福島の事故とその被害を無かったことのようにして、また新規制基準そのものが持つ多くの問題点と審査のあり方の問題についての多くの指摘を無視して強行されるもので、例えば「審査は基本的部分で地震学を無視した杜撰なもの」、「新規制基準自体、地震関係に限らず多くの重大な欠陥が指摘されている。原発を使うならば、それを抜本的に改訂すべきだ。ところが、その基準すら破っているのだから言語道断である。・・・この調子で甘い審査が続けば、いづれどこかの原発が基準地震動を大きく超える揺れに見舞われて、第2の『原発震災』が起こりかねない」(神戸大学名誉教授、地震学者の石橋克彦氏、岩波書店刊の月刊「科学」2015年5月号巻頭エッセイより)と批判され、火山学界からはカルデラ噴火と火砕流に関して川内原発の立地不適が強く指摘されてもいる。さらに事故発生の場合の住民避難計画についての致命的な問題点の指摘も強い。 
 
 この川内原発再稼働に関して、安倍首相は「事業者と規制当局が安全性を不断に追及していくことが大事だ」とした上で「世界最高水準の新基準で認められた原発から再稼働していく」と言い、菅官房長官は「第一に稼働の責任者は事業者」と言い、田中原子力規制委員会委員長は「絶対に安全だといってはいない。新規制基準にもとづいての審査に合格したということであって、再稼働については政府、事業者の判断だ」と言うのである。九州電力は「川内原発再稼働が遅れれば電気料金の再値上げが避けられない」と「原発不在による経営リスク」を訴え、1号機に続いて2号機の再稼働へと急いでいる。 
 この国の市民の多くは原発ゼロへ進むことを支持し、原発再稼働に反対している。そして、原発事故の被災者である福島の人々は依然として苦難の日々を送りながら、原子力マフィアグループによる「放射線安全神話」、一方的な被曝線量基準の引き上げ、避難者の帰還促進「強要」、補償の引き下げ・打ち切りの策動に曝されている。福島原発事故は、今も継続中であり、問題は何も解決していない。これから何が起こるか、40年以上かかると言われる廃炉作業の行方、そして全く見通しのない使用済み核燃料や放射能汚染物質の管理・処理など、原発再稼働が許される条件はない。 
 
 川内原発再稼働は、「戦争法」案の成立強行を進めつつ、その法律の下では自衛隊の戦争している同盟国に対する後方支援として核兵器の運搬・提供をすることも「法律上は排除されない」とする防衛相答弁が行われ、8月6日の広島の平和祈念式典の安倍首相挨拶で「非核三原則の堅持」について言及しないという異常な事態があり・・・という政治情勢の中で行なわれ、政府の原子力政策の今後に、深い闇があることを表象していると痛感させる出来事ではないだろうか。「戦争できる・する国」と「原子力・核発電の維持」「核の傘・核抑止力」、この国の権力者が時に見せる「銃眼」を思わせるような眼は、真夏の寝苦しさに加えて、人びとを不眠にさせる。 
 
 8月10日の「朝日歌壇」に選ばれた短歌作品のいくつかを記しておきたい。 
 ▼佐佐木幸綱選 
◇戦争に巻きこまれたらきつと言ふ「想定外」と口を揃へて (前橋市 荻原葉月) 
◇責任は自分にあると言ひ続け誰も責任とらぬ現実 (高松市 島田章平) 
◇過ちは繰返しませぬという碑文安保法案成らば嘆かむ (三原市 岡田独甫) 
◇『陸軍』と言う映画あり手を合わす昔も今も母は子のため (春日市 伊藤流水) 
◇原発事故に抗(あらが)ふ如く荒れ果てし土地に凛然とわが家立ちをり (いわき市 多田千恵) 
◇事故後四年関西訛りの交じりたり原発集会に集いし避難者 (田村市 久住秀司) 
◇信号の青待つときに電柱の影さえ恋し沖縄の夏 (那覇市 我喜屋けい子) 
◇<賛成の諸君>がのったり起立して安保法案強行採決 (安中市 鬼形輝雄) *永田和宏と共選 
◇解釈で憲法を変えた人物として教科書に載りたがってる (宮崎市 大田原良治) 
◇読み返す『思い出袋』鶴見氏の反戦の意志リレーしたくて (常滑市 井上啓子) 
 
 ▼高野公彦選 
◇骨壺に石ころひとつからんころん東洋平和のいくさの果てに (名古屋市 諏訪兼位) 
◇強いられて父が使いし日本名金子健太郎を捨てた八月 (飯田市 田中陶子) *馬場あき子と共選 
◇祖父さんが農地改革で取得せし田んぼに孫は雑草生やす (三原市 岡田独甫) 
 
 ▼永田和宏選 
◇国民に充分理解はされてないと言ひつつ審議を打ち切る不思議 (新潟市 伊藤 敏) 
◇理解した上で反対なにゆえに「理解進んでいない」と言うのか (東京都 井ノ川澄夫) 
◇読み返す『思い出袋』鶴見氏の声が聞こえる人を殺すな (常滑市 井上啓子) 
◇安保法案話題にするを何となく互いに避ける今日の飲み会 (中央市 前田良一) 
 
 ▼馬場あき子選 
◇名古屋場所高校野球盆踊り平和であるから九条あるから (松山市 宇和上 正) 
◇金子兜太の「アベ政治を許さない」てふ太筆の文字揺れる間に法案通る 
(横浜市 坪沼 稔) 
◇衛生兵たりし叔父なり卒寿過ぎて病みいる妻を一人し看ると (神奈川県 冨田茂子) 
 
 安保法制、原発、戦争、平和などにかかわって詠われたと筆者が読んだ作品を記したのだが、かなりの数になった。「俳壇」にも印象深い句が多くあったが、歌作、句作する多くの人々が現実を見据え、思うことの作品は選に入らなかったものを含めると膨大であっただろうと推察する。 
 
 『福島県短歌選集』の原子力詠を引き続き読みたい。 
 
 
 ◇泰楽ハツヨ◇ 
家跡に除染土集め覆いたるブルーシートを照らす名月 
雑草の一本もなく除染され山砂敷かれし庭になじめず 
除染すみ庭に戻ししクリスマスローズ今年の花の咲いてくれるや 
                     平成25年度 3首 
 
  ◇高木征子◇ 
仮設にてあい寄り作りし吊しびな憂いを知らぬ幼顔して 
笑顔断ちつながりを断ち人々の住めなくなった空間の重さ 
野積みされし汚染物質の上にさえ粉雪つもりあまねく清し 
                     平成25年度 3首 
猛暑なか汚染除染の日常に寂光土さながら古代蓮の咲く 
                     平成26年度 1首 
 
  ◇高木佳子◇ 
淡色の線量計は警戒の鳥のさへづりうるさきほどの 
この森の断片として実を拾ふためらひながら拾ふさびしゑ 
                     平成25年度 2首 
「復興」の文字はかすれてそのかみに花呉れし人皆死せること 
えらく難儀してゐる事案でしてええと言ひたる白髪の男 
何度でも灰汁を掬ひて澄み切りしスープだといふことにしてゐつ 
スプーンで掬ふくらゐの用足して満つるなんていふを求めぬ 
                     平成26年度 4首 
 
  ◇高橋文男◇ 
セシウムを集めて早く流れゆく阿武隈川はこの梅雨の時を 
除染始むる前に行ふモニタリング芝ザクラの中線量たかし 
除染後の線量さがるも雨風に線量もどると聞くはまことか 
宵覚めて闇にしみじみ思ひをり除染の事も詮なきことか 
原発の廃炉を迫る県知事に東電の社長は具体に触れず 
                     平成25年度 5首 
それぞれに集ひし除染の作業員か車両のナンバー秋田と香川と 
原発の再稼働反対の声高し東電の目論見理解得られず 
線量の含める水を垂れ流すそのさまを伝ふ東電のこと 
線量の多き地なれど此処に住むわが来し方のテリトリーならば 
荒れ畑に何時よりか立ちて光りゐる太陽光発電板の銀の色 
風評の被害に嘆く生産者野菜のすべての線量を測る 
まんさくの花も過ぎたる此の山の放射線量幾程なるや 
除染にて皮の削がれし柿の木の畑に立つさま人の居るごと 
                     平成26年度 8首 
 
  ◇高橋正義◇ 
信じ難き思ひで見入る広き海放射能汚染に底なき怒り 
                     平成25年度 1首 
兵役の日に比ぶれば何のその原発避難の百歳語る 
                     平成26年度 1首 
 
  ◇田上しん一◇ 
原発の事故のあはれか夫々の屋敷周りの柿は採られず 
原発の事故に罹災し仮設に住む先輩よりの賀状受取る 
                     平成25年度 2首 
 
  ◇高村輝雄◇ 
安全も安心もまだ不確に原発再開成されんとせる 
人絶えて無人となりし家の窓開きしままに三年が過ぐ 
                     平成25年度 2首 
 
  ◇高山美子◇ 
村をまわり放射線量測る人戻れはせぬと立ちつくしおり 
公園に季節移るも除染土の黒き袋の積まれたるまま 
                     平成25年度 2首 
よりどころを求め叶わぬ人多き仮設の家に長からん冬 
震災後のこころもとなさマスクなどかけて地上をただよう人ら 
                     平成26年度 2首 
  ◇�果鄙攬譟� 
線量の高き山には人気なし通草は熟れて黒く乾けり 
朝刊に内部被曝の記事を読み孫らのために切り抜きて置く 
                     平成25年度 2首 
 
  ◇津田 智◇ 
里山のみどり日に増し濃くなるも避難者帰還のとき定まらず 
「幾山河」歌ふは哀し山脈(やまなみ)を越えて還れぬ双葉の人よ 
「原発禍」「石」の違ひはあるけれどふるさと追はるる悲しみ消えず 
三年過ぎ内部被ばくの検査受く「不検出」なる結果に安堵 
甍落ち人住まぬ家三年(みとせ)過ぎつひに壊さる築四十年 
現実は甘くないぞと怒りたき国と被災地意識のズレに 
住民の帰還未だに進まずに仮設は今朝もラジオ体操 
子らの舞ふひとつ遺りし田植踊り被災者は見む涙ながらに 
線量の低きを願ひ耕して稔りし稲田の米まだ売れず 
霜月に入りても未だ除染なく庭の落ち葉日の添へて多し 
                     平成26年度 10首 
 
  ◇津田光子◇ 
見渡せばふるさとの山は不条理な汚染といふを沈めて青む 
                     平成25年度 1首 
 
  ◇坪池てい子◇ 
小さき掌にひろひ持ちたるドングリはセシウムおそるる親が捨てさす 
真綿色して飛び立てるタンポポの細き光に含むセシウム 
被災地のひとが叫びぬ観光地でないから来ないで欲しいと 
                     平成25年度 3首 
タンポポの綿毛飛び立つ公園に線量数値を測るひとをり 
握り持つどんぐりの実を捨てさせる線量恐るる親のおりたり 
                     平成26年度 2首 
 
  ◇鴇 悦子◇ 
原発後生れし健尊(たける)はたまに来て「とんぼのメガネ」を笑顔で踊る 
土五センチ、雨樋の塵アプローチ除染を終えて孫連れ庭に 
にぎやかに走り回る児数多居る屋内遊びの場福島の現 
                     平成25年度 3首 
 
  ◇長岡恒二◇ 
七日間吾が家の除染して貰い作業員らの苦労身にしむ 
                     平成25年度 1首 
原発の影響受けて二年振り訪れし孫は吾より伸びて 
                     平成26年度 1首 
 
  ◇波汐朝子◇ 
原発の汚染水漏れに故里の水揚げいよいよ遠退きゆくも 
古里の海開きとふを諾へず食へぬ魚泳ぐ それでもいいの 
原発の風評ここ迄登りしやホテルの幾つ閉ざししと聞く 
                     平成25年度 3首 
家々の庭に積まれし汚染土のシートの蒼が人寄せつけず 
除染より守りし薔薇の花溢れこぼす香りに癒されてをり 
食べられぬ柿の木ばつさり伐りたるをその切り口の牙むく如し 
果樹園の友が歎くを風評の未だおさまらず売れ行き悪しと 
被曝より三年経つも離れ住む子等へりんご送るをためらふ 
                     平成26年度 5首 
 
  ◇波汐國芳◇ 
原発事故 福島でよきと余所人(よそびと)らぽろりこぼしし本音の重さ 
原発を招けり惨も招けりと評する他者の眼(め)の中の剣 
薔薇が咲く風吹く度に揺り出でて被曝の地にも明るむところ 
被曝せる海に余所者(よそもの)の釣り人ら釣り糸垂れておのれも釣るや 
福島の林檎は旨し セシウムのさくさく旨しと居直るわれぞ 
フクシマに何が何でも陽に向きて今起(た)つ心 ひまわりの花 
フクシマの叫び聴かせてと言う人ら 福島牛の「モウ…」聴きたきか 
被曝物行き場の無きを被曝してあらばわれらも行き場の無きや 
                     平成25年度 8首 
千年の夢も奢りも一どきに抜きとられたる街の殻はや 
汚染土の入れ替え庭に終えたれど入れ替え叶わぬ我が心ぞや 
汚染土を覆うシートの累々と海の如きに波立つ心 
原発のメルトダウンに引き込まれ噫(ああ)すかすかとなりし町はや 
被曝地に住むほかなきを緋柘榴の裂くる口もて物申さんか 
福島の汚染土よりぞ上ぐる芽の紫蘭の小さき希望愛(いと)しむ 
                     平成26年度 6首 
 
  ◇二瓶みや◇ 
原発の記事あまたなる新聞を今朝も開きて一日始まる 
除染して表土の替わる我が庭に日本水仙の芽吹き初めたり 
                     平成25年度 2首 
 
 次回も『福島県短歌選集』の原子力詠を読ませていただく。(つづく) 


Copyright (C) Berita unless otherwise noted.
  • 日刊ベリタに掲載された記事を転載される場合は、有料・無料を問わず、編集部にご連絡ください。ただし、見出しとリード文につきましてはその限りでありません。
  • 印刷媒体向けの記事配信も行っておりますので、記事を利用したい場合は事務局までご連絡下さい。