2015年10月16日20時39分掲載  無料記事
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文化

【核を詠う】(番外篇・戦争法) “暑い夏”の新聞歌壇に戦争法詠を読む(3) 「朝日歌壇」(7〜9月)◆ 峪笋総理だからと云ふ総理だから危険と感じる我ら」 山崎芳彦

 前回に続いて『朝日歌壇』(朝日新聞)に掲載の短歌作品から、戦争法にかかわって詠われたと筆者が読んだ作品を抄出、記録するが、各紙の新聞歌壇を読みながら『朝日歌壇』の入選歌に戦争法にかかわる作品が他紙と比べ格段に多いことを改めて感じている。戦争法というべき安倍政権の「安保法制」をめぐって国民的な議論がかなりの期間にわたって行なわれ、「戦争法案反対」の声と運動の大きな高まりのなかで、それをわが事として多くの短歌作品を詠んだ作品が増えていることを『朝日歌壇』が映しているのだろうと思う。それは、同歌壇への投稿作者の作歌のありようと選者の視点ともかかわることであろうが、選者の一人である佐佐木幸綱は、2014年『朝日歌壇』において、次のように書いている。「社会詠の増加」と題する文章だが「大きな流れとしては、個人の日常の生活に取材した投稿作が圧倒的に多い、そんな時代がつづきました。それが一昨年後半から昨年にかけて、流れが変わってきたような気がします。」として、次のように社会詠の増加について述べているが、それがいまも続いているといえよう。 
 
 佐佐木幸綱は次のように見ている。 
 「憲法改正、集団的自衛権、原発再稼働、特定秘密保護法・・・・とたてつづけに日本の国のかたちを変える重大問題が相次いで政府によって出されてきたからです。・・・むろん個人の日常をうたう歌がいけないと言っているわけではありません。それはそれでいいのですが、一方で、新聞歌壇という場ならでの社会詠にも、是非力を入れてほしい。そんな感想を持ちながら年間秀歌十首を選ばせてもらいました。」 
 
 佐佐木が選んだ年間十首(2014年)には次の作品が含まれている。 
▼驚きぬこの人からの賀状にも秘密保護法憂えることば(静岡市・篠原三郎) 
▼物言へば弾き出さるがの雰囲気に集団的自衛権に拍車のかかる(厚木市・藤本信雄) 
▼「平和賞」平和を祝う賞でなく平和を願う賞なのだなぁ(横浜市・中野麻保) 
▼福島へはもう戻れない富士山の見ゆるこの街にいつか慣れたり(国立市・半杭螢子) 
 
 また、選者の馬場あき子は「現実的な生の底力」と題して言う、 
「朝日歌壇の一年を読み返して思うことは、日々報道されるニュース的事象を受け止めながら、孜孜(しし)として励み、憂い、悲しみ、そして愛の絆を保とうとする人々の現実的な生の底力の強さである。/私が年間秀歌として選んだものをみても、たとえば松浦のぶこさんの人生には戦前の治安維持法によって投獄された父の無念が脈々と生きており、今日の情況を不安とともに見つめる眼を失っていない。」 
 
 馬場の年間秀歌十首には次の歌が含まれている。 
▼ながき獄父の青春奪ひにし治安維持法夢に現はる(東京都・松浦のぶこ) 
▼鮮やかな緑色なす封筒で内部被曝検査通知来ぬ(福島市・美原凍子) 
▼ぼくも非正規きみも非正規秋が来て牛丼屋にて牛丼食べる(小平市・萩原慎一郎) 
 
 さらに、選者の永田和宏は「危機感を共有できる場」と題した文章で次のように書いている。 
「2014年の一年間に私が選んだ歌を振り返ってみて、秘密保護法をはじめとする社会状況を詠った歌が多かったのに改めて思いをいたしている。・・・私は何がなんでも社会的な歌をと主張するつもりはまったくない。むしろ社会的事件や風潮を、鵜の目鷹の目で探して器用に詠ってみせるような作歌姿勢には違和感を覚えるものである。/しかし歌にすることと、関心を持つこととはおのずから別物である。歌にせずとも、これだけは決して見逃しにはできないといった出来事には肚をくくって敏感なアンテナを張っておいてほしい。私の場合は、特定秘密保護法だけは黙って見過ごすことのできない怖ろしい問題だと思わざるを得なかった。選歌を通じて、少しでもそのような危機感を共有できる場になればと願いつつ選歌をしたことになる。そのような問題意識の尖鋭な多くの歌を得たことを心強いことだと思っている。」 
 
 永田の年間秀歌十首には次の歌が含まれる。 
▼解っても解らなくても読まねばと全文切り抜く秘密保護法(日野市・大田原イツ子) 
▼なにゆえに旗日に旗を出さぬかとそのうち誰かが言ってくるだろう(鎌倉市・佐々木 眞) 
▼啓蟄だね今年も村は無人かね除染は駄目かね出たくはないね(いわき市・馬目弘平) 
▼円周率を三でいいとするやうなわけにゆくまい憲法解釈(厚木市・櫻田 稔) 
▼わからへんなんぼ聞いてもわからへん平和のためにいくさに行くと(枚方市・石川智子) 
▼自らは侵略者だとは言わぬもの誰もが自衛と言って始める(堺市・根来伸之) 
 
 選者の高野公彦の年間秀歌十首には、次の歌が含まれている。 
▼山宣(やません)の墓にさざんか咲き盛る秘密保護法通す勿れと(高槻市・梅原美枝子) 
▼戦争を知らない人の大望で開かれてゆくパンドラの箱(横浜市・田口二千陸) 
 
 高野は次のように書いている。 
「梅原美枝子さんの作は、治安維持法の改悪に反対して殺された山本宣治を通して特定秘密保護法の危険性を暗示している。・・・田口二千陸氏は、安倍首相の行動がパンドラの箱をあけようとしていることを危惧している。」 
 
 以上は2014年『朝日歌壇』の選者各氏の「年間秀歌十首」について書いた文章からの抜き書きで、不適切な部分があればお詫びしたい。 
 
 
 「朝日歌壇」(今年7〜9月)の戦争法にかかわっての作品を抄出させていただく。 
 
 ▼「朝日歌壇」(7〜9月) 
 ◇8月16日◇ 
金蚉(かなぶん)に歓声あげる園児たちきみらがだいじ「改憲」阻もう 
                 (高野公彦選 東京都・十亀弘史) 
 
デモの中おひとついかがと配られる老女持参のキスチョコゆかし 
                   (高野選 青梅市・宇津木まや) 
 
支持されてゐるからと言ひ支持率を下げてもやると今度は言へり 
           (高野・永田・佐佐木共選 熊谷市・内野 修) 
 
九条を傷だらけにして孫に継ぐ七十年目の哀しき節目 
                   (永田選 座間市・田中洋一) 
 
「戦争なんてする訳ないじゃん」十八の俺も思っていたよ娘よ 
                   (永田選 春日市・伊藤流水) 
 
戦にて手榴弾投げさせられし投手沢村ついに還らず 
                   (永田選 青森県・中村範彦) 
 
〈戦争による平和なし〉と言ひ切りし清水寺の貫主すがしも 
                  (馬場選 鹿嶋市・加津牟根夫) 
 
押しつけでできた憲法と言いながら変える時こそ押しつけである 
                   (馬場選 登別市・松木 秀) 
 
祖父の戦死こころに在りて娘らは国会前へ出かけて行きぬ 
                   (馬場選 青梅市・園城寺順子) 
 
原爆を二つもあびた国なのに「特殊な国」を何故放棄するの 
                 (佐佐木選 加古川市・長山理賀子) 
 
夏帽子汗と怒りに包まれて国会囲む憲法危ふし 
                   (佐佐木選 青梅市・津田洋行) 
 
 
 ◇8月24日◇ 
国の爲陛下の爲と言われたら抗弁できぬ暗い世があった 
                   (永田選 大阪市・由良英俊) 
 
ここまで来たらやるしかないって戦争もそんな具合に始まっていく 
                   (永田選 東京都・野上 卓) 
 
固い団結より緩やかな繋がりをと枠組み嫌いし鶴見俊輔は 
                (永田・高野共選 三島市・浅野和子) 
 
廃案を求めて再び集まりし群衆の上にまるい月出る 
                   (馬場選 名古屋市・塚田陽子) 
 
日本人のような顔して会場の端に座わりつ九条の会 
                   (馬場選 大阪府・金 忠亀) 
 
ヒロシマとナガサキの後の三つ目の街 見たいの誰決めるのは誰 
                   (佐佐木選 横浜市・毛涯明子) 
 
教師ゆえ征かずに済みしと言いし父は教え子の墓参欠かさざりけり 
                   (高野選 上尾市・鈴木道明) 
 
妻強し嫁いだ娘とデモに行く兜太先生のポスター持って 
                   (高野選 横浜市・沓掛文哉) 
 
地球儀をまわせどこの国だけにある百日紅(さるすべり)の花咲く原爆忌 
                   (高野選 水戸市・中原千絵子) 
 
若者が自己中心で何故悪い自由主義はそこから始まる 
                   (高野選 川崎市・小島 敦) 
 
 
 ◇8月31日◇ 
心して安保法案審議せよと言うがごとくに原爆忌来る 
                   (馬場選 三原市・岡田独甫) 
 
結論は出てるじやないかと言ひた気な首相の苛立ち苛立たしかり 
                   (佐佐木選 名古屋市・浅井克宏) 
 
あの頃も危機感ばかり煽(あお)られてみじめな戦(いくさ)がじまりました 
                   (佐佐木選 名古屋市・諏訪兼位) 
 
あと出しのジャンケンみたい九日の式辞には盛る〈非核三原則〉 
                 (佐佐木選 さいたま市・紺野ちあき) 
 
戦争を是とする人がのうのうと原爆忌に来てあいさつをする 
                 (佐佐木選 三原市・岡田独甫) 
 
戦争のできる普通の国よりもできない不二の国にてあらな 
                 (佐佐木選 宇部市・崎田修平) 
 
戦争を未然に防ぐと首相言ふ戦争放棄の憲法措(お)いて 
                 (佐佐木選 浜松市・松井 惠) 
 
動かないことが後日の悔いになる予感のありてデモ初参加 
                  (高野選 宇都宮市・鈴木孝男) 
 
国よりも民の絆を信じたるトルストイ読む夏の盛りに 
                  (高野選 島田市・水辺あお) 
 
戦争に行きたくないは利己的だ 昔言ったよ「非国民」だと 
                  (永田選 小牧市・白沢英生) 
 
私か総理だからと云ふ総理だから危険と感じる我ら 
                  (永田選 流山市・角田 勇) 
 
賛成と言えぬ空気がたちこめて誰もが反対というおそろしさ 
                  (永田選 京田辺市・藤田佳予子) 
 
赤紙を拒否する勇気持たぬゆえそうならぬよう絶対反対 
                  (永田選 西海市・前田一揆) 
 
ナガサキは最後か唯の二番目か戦争知らぬ我らの原点 
                  (永田選 福生市・斎藤千秋) 
 
 次回も「朝日歌壇」の作品を読む            (つづく) 


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