2015年10月24日21時34分掲載  無料記事
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TPP/脱グローバリゼーション

医薬品特許は健康に悪い TPPが進める生物製剤データ保護期間延長は何をもたらすか

 TPP(環太平洋経済連携協定)は現在、最後の交渉過程に入っている。10月初めにまとまったとされる「大筋合意」によれば、生物医薬品のデータ保護期間、つまり特許期間が、新興・途上国や「国境なき医師団」など弱者のための医療行為に携わる組織が主張していた5年から実質8年に延長されることになったとされている。このことは何を意味するか。「生命に特許はいらない!キャンペーン」ニュースレターは、米国におけるいくつかの裁判例をもとに、特許保護期間の延長は市場独占となって製薬資本に莫大な利益を保証するだけでなく、「医薬品の効能が、謳われている内容よりも低い可能性があることや、ときには有害でさえあることを示すデータを、隠そうとするインセンティブも働く」としている。医薬品特許は人びとの健康を損ねてしまうという指摘である。(大野和興) 
 
◆医薬品特許は健康に悪い――不適切な販売の代償 
「生命に特許はいらない!キャンペーン」ニュースレター 
(by マッカ―ティン・ポール) 
 
 米国のシカゴ市とカリフォルニア州の二郡が起こした、鎮痛薬の販売促進に関する訴訟について、ニューヨーク・タイムズ紙が報じた。実際には適切でないかもしれない、あるいは、必要でないかもしれない症例に対して、「OxyContin」などの医薬品の使用を勧め、中毒や過剰摂取のリスクを故意に軽く扱ったとして、企業を訴えた裁判である。 
 
 訴えられている企業が自社の医薬品の販売を押し進めた理由として、特許による市場独占がもたらす高額の利益が挙げられていることは、注目に値するだろう。より良い新薬の研究開発に取り組むインセンティブを企業に与える、というのが、新薬に対して特許を認める論拠となっている。市場の独占を一定期間認めることにより、製薬会社は新薬開発に投じた資金を回収し、利益を得ることができる。 
 
 もし、これらの医薬品が自由市場で販売されていたならば、つまり、製薬会社が、たとえば鉄鋼やパンを売る会社と同じ利幅で販売していたならば、何千万ドルもの資金を投じて不適切な使用を勧めることは、自社の利益にならなかったはずである。だが、特許による市場独占で、自由市場価格より数千パーセントも高い価格を設定することができたため、製薬会社は、適切でないかもしれない症例にまで自社の医薬品の使わせることによって、相当な利益を得ることができたのである。 
 
(C型肝炎治療薬「Sovaldi」は、米国では、3ヵ月の治療期間で使用する薬が84,000ドルで販売されている。インドでは、そのジェネリック版の薬が、1,000ドル以下で入手できる。) 
 
 また、医薬品の効能が、謳われている内容よりも低い可能性があることや、ときには有害でさえあることを示すデータを、隠そうとするインセンティブも働く。 
 
 死亡率や罹患率の上昇という点で見たコストについて、ある程度のイメージを掴むために、製薬会社が自社医薬品の安全性または効能について不正確な情報を提供した結果、裁判に負けた、または和解に至った、という有名な事例5件について、研究グループが関連コストを算出している。 
 
 それによると、これら5種類の医薬品の不適切な販売に関連した、死亡率や罹患率の上昇のコストは、1994年から2008年の14年間で、3,820億ドルに上っている。これは、医薬品業界がこの期間に研究開発に投じたと言っている数字と、おおよそ同額である。言い換えれば、これらわずか5種類の医薬品の不正確な販売や情報公開が与えた被害は、その同じ期間に、医薬品業界が行ったすべての研究の価値に相当する、ということになる。 
 
 誤解のないように述べておくと、これらの5件の裁判で訴えられた内容は、いずれも、製薬会社が故意に情報を隠した、あるいは、研究データを正確に伝えなかった、というものである。つまり、防ぎようのないミスの結果ではなく、利益が動機となった意図的な行為だった、ということになる。 
 
 ノーベル賞受賞者である経済学者ジョセフ・スティグリッツは、効能が認められる医薬品に対する特許を政府がすべて買い取った上で、それらをジェネリックとして販売することを認める「賞金システム」を提案している。そうすれば私たちは、政府を通して直接、研究に融資する道を選択することができることになる。 
 
 いま、このことが重要なのは、環太平洋戦略的経済連携(TPP)協定の大きな後押しによって、特許保護が強化され、特許期間も延長される見通しだからである。そうした措置が進めば、製薬会社が研究データを隠したり、正確に伝えなかったりすることで、さらに多くの患者が被害を受けることが予想される。加えて、そうした不正行為を抑制する政府の能力が、さらに弱まる可能性もある。現在、自社医薬品の「承認適応症外使用」に関する情報を提供する権利があると主張し、米国食品医薬品局(FDA)を提訴している製薬会社がある。この会社は、これは表現の自由の問題だ、と主張している。 
 
http://www.cepr.net/blogs/beat-the-press/patent-monopolies-the-reason-drug-companies-pushed-opiods?highlight=WyJwYXRlbnQiLCJwYXRlbnQncyJd 
http://english.hani.co.kr/arti/english_edition/e_editorial/690691.html 
http://www.cepr.net/blogs/beat-the-press/the-problem-of-protectionism-in-the-trans-pacific-partnership?highlight=WyJwYXRlbnQiLCJwYXRlbnQncyJd 


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