2015年11月28日21時26分掲載
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文化
【核を詠う】(197) 『現代万葉集』(2014・2015年)の原子力詠を読む(1) 「半減期三十年後は百十歳天網恢恢疎にして漏らす」 山崎芳彦
短歌界最大の超結社歌人団体である日本歌人クラブ(三枝昂之会長)は2000年から毎年、全国の歌人に自選3首の応募を呼びかけ、編纂した日本歌人クラブアンソロジー『現代万葉集』を刊行(日本歌人クラブ編、NHK出版発行)している。この連載の中では、以前に『2013年版現代万葉集』から原子力詠を読み抄出、記録させていただいたが、東日本大地震・福島原発事故後に歌人がこの大事件をとらえて短歌表現した数多くの貴重な、後世に残すべき作品を読んで、改めてこの国の短歌文学の果たしている一つの重要な役割について考えさせられたことを思い起す。今回からは、2014年版、2015年版の『現代万葉集』を読み、筆者が原子力詠として読んだ作品を記録させていただく。2013年、2014年に作られ『現代万葉集』に収載された作品群からの抄出になる。非力な筆者だが、両歌集合せて約12000首に及ぶ全作品を読み、原子力詠としてとらえた作品を抄出したのだが、誤読、読み落としがあることをお詫びしお許しを乞いたい。
まず2014年版から読み始めるが、三枝会長は「はじめに」のなかで、
「東日本大震災に遭遇してからの『現代万葉集』は大震災の記録集といった色彩も帯びることになりました。意図してそうなったのではなく、作者一人一人の切実さがそうした特徴を生んだのです。」
と、2013年版、2014年版に収められた作品各2首を挙げた上で記している。
○放射線個人線量計を下げ児らはひととき祭りに遊ぶ
(福島 薄井弘子)
○草はらにもどりし町は音絶えて津波の高さに塔は立ちをり
(宮城 北辺史郎)
○音信が不通となった飯舘村(ふるさと)の同級生の夢ばかりみる
(宮城 伊藤誠二)
○玉あぢさゐ藍を点して霧ふかし汚染水海に漏れつづく日を
(福島 遠藤たか子)
三枝会長は、「掲出の前の二首は2013年版から、後の二首は今回の作品です。無心に遊ぶはずの子どもたちは線量計を下げ、汚染水は今なお海に漏れ続ける。曠野に戻った町に立つ塔は墓標のようにも見え、幼馴染は消息不明のまま夢の中に現われる。/震災をどう詠いつづけてゆくか。私たちに切実なこの課題を、年々のこうした作品を重ねることによって『現代万葉集』は担うことになるでしょう。わが国最大の歌人組織である日本歌人クラブならではの仕事と言っておきましょう。」とも記している。
『現代万葉集』は、15の項目(自然・四季、動物、植物、生活、仕事、愛・恋・心、生老病死、家族、教育・スポーツ、旅、戦争、社会、都市・風土、災害・環境・科学、芸術・文化・宗教)に分類(作者の指定による)して編集・構成されているが、原子力詠は多くのジャンルの中にあり、2014年版では「災害・環境・科学」の項の中に設けられている「東日本大震災」に多くの作品があるけれども、他のジャンルの中に原爆、原発にかかわって詠われた作品も多く収められている。筆者はできる限り、それらの作品を読み落とさないように努めたつもりだが、及ばなかったことも少なくないかもしれない。
『現代万葉集』を読みながら、筆者は多くの刺激を与えられ、とりわけ原発について、福島原発事故が人々に与え続けている苦難、その中で生きている被災者の現実、そして原発社会への回帰を目指し再稼働政策を進めている許しがたい政府とその同伴者の妄動などについて考え、為すべきことを絶え間なく自らに課していかなければならないと、非力を嘆きながらも思う。いま、『原発避難白書』(関西学院大学災害復興制度研究所・東日本大震災支援全国ネットワーク・福島の子どもたちを守る法律家ネットワーク編 人文書院発行、2015年9月1日刊)を読んでいるが、改めてこの国の政・財・原子力村在住の学者その他が、原子力に固執し、そのために権力を揮っていることへの怒りを禁じえない。原子力への固執勢力は、まさに戦争法勢力と重なり合う。
短歌人が、それぞれの視点と感性、表現する力をもって詠う、訴えることの大切さを思いながら『現代万葉集』の作品群を読んでいきたい。
◇2014年版『現代万葉集』より� �
▼「東日本大震災」(抄)
原子力恃みて夜ごと煌々と灯を輝かせ眠らぬ街(ソドム)
セシウムの海の底ひの闇ふかくあひなめ棲むとぞ哀しやも魚
(2首 東京・青戸紫枝)
汚染水またもや海に流れしとういつおさまるや原発事故は
(1首 宮城・赤坂洋子)
音信が不通となった飯舘村(ふるさと)の同級生の夢ばかりみる
高らかにトランペットよ鳴り響け! 飯舘村民(そんみん)のため弟のため
肥沃なる大地に戻す話して福島は今桜好日
(3首 宮城・伊藤誠二)
汚染水などと呼ばれて原発の地下うごめくは小さきマグマか
孝の始めと古人言ひしを吾と子の身体髪膚にまでもセシウム
ああ原発 人の脳(なづき)もぽろぽろと事故の風化が進みゐるらし
(3首 福島・伊藤正幸)
汚染魚のひそみてをらむ海原に漁火ともり秋に入りゆく
原発に揺るる空の下なれどゆうるりと解く蝌蚪と出会へり
(2首 青森・梅村久子)
玉あぢさゐ藍を点して霧ふかし汚染水海に漏れつづく日を
関連死などと呼ばるる避難して逝きて葬儀さへできぬ伯母の死
家建つるふえきて更地もふえる町ひと住めぬ町フクシマにある
(3首 福島・遠藤たか子)
フクシマを訪(と)はず歌詠むいささかのうしろめたさをわが覚えつつ
一齣のフィルムのやうに顕(た)ちてくる父母の姿と松風の音
(2首 神奈川・大作和子)
花冷えのさくらの下のほのあかり脱原発の旗ひるがえる
「念のためヨウ素を配布」非常時は教えてくれます?そを飲むべきと
(2首 茨城・小沼青心)
汚染水またまた洩るる放射物質一リットル当たり八千万ベクレル
汚染水海に広がり三陸の魚類や海草いかばかりなる
福島の原発事故の終らぬに途上国へと売込む原発
(3首 静岡・片山真貴子)
三年経て忘れた頃にわが家にも放射線測量測定が来る
測定結果の通知まだ来ずごてごてに慣らされいつか桜も散りぬ
(2首 茨城・勝井かな子)
とこしへに福島びとのふるさとと思へばわれは福島と書く
枯蔓草のからむ自転車駅裏に倒れたるまま 過ぎたる二年
(2首 青森・兼平一子)
放射能汚染の恐怖日々に増す原発事故より二年過ぎたるも
(1首 東京・木沢文夫)
風評といふ責め負はぬものありてわが福島を蝕みてゆく
東電に賠償請求するといふ兄の言葉の静かなるまで
(2首 静岡・君山宇多子)
セシウムの浮遊おほきか庭の梅異様に繁るその葉小さく
汚染水のもるる報道ある日々に帰宅うながす記事をも見るか
線量の安危おもはず露時雨かがやく土手を濡れつつ歩む
(3首 福島・桑島久子)
セシウムの廻れる野山となりたるか落葉は土にそして花へと
わが好む桜のもとの編笠茸(モリーユ)もセシウム循環の例外にあらず
震災の前にはもはや戻れない桜も若葉も空しく見えて
(3首 千葉・今野英山)
原子炉の爆ぜて漏れたる地下道の水の示せる億のベクレル
大臣のロゴスは哀し夕立が仮設の屋根を打ちつけてゆく
畑打てる吾に集まる椋鳥と未除染畑に終日過ごす
(3首 福島・今野金哉)
茸筍蕨楤の芽独活に蕗みな食べました 椅子に座し言ふ
肉厚の原木しひたけ旨かりき線量いかほどふふみてをるや
半減期三十年後は百十歳天網恢恢疎にして漏らす
(3首 福島・紺野 節)
飯舘の農家の庭に手綱なき仔馬一頭影のごと立つ
殺処分の牛の頭蓋を野に晒し原発被害に人ら抗ふ
震災の土嚢作りし庭の穴芥積みつつ時かけ埋む
(3首 茨城・斎藤すみ子)
海神(ネプチューン)の怒り鎮むる術もなし 汚染水海に流し続けて
人間と放射性物質の時間軸かみ合はぬまま半減期待つ
文明を得て原発事故を生み還らざる青き海を悲しむ
(3首 福島・佐藤輝子)
一本柱となりしも被爆遺構とて山王神社の鳥居生きつぐ
「原爆を生みし人間の知恵憎し」嘉代子桜の今年も満ち咲く
原発の再稼働の是非問はれゐるこの列島より逃げようもなし
(3首 長崎・高瀬佐奈恵)
原子力学びし息子の夢破れいま被災地の取材に走る
原発の事故の取材に子が行ける被災地今日も余震に揺るる
存続か否かに揺るる原発の白きドームは黄砂にけぶる
(3首 愛媛・高橋征子)
酒樽のように積まれて廃棄物くろぐろとあり山の斜面に
車窓より安達太良の山見えてきてもやもやひとつ吹き飛んでゆく
「ふくしまを変えよう」とある朱の幟(のぼり)あちこち立ちて秋は深まる
(3首 茨城・飛田正子)
津波の後(のち)あまたにつづく原発汚染野菜も魚も家畜もきびしき
原発の後(のち)館(たてや)の処分難かしく先端化学の進歩きびしき
(2首 愛知・中野弘靖)
とめどなく流れ出てくる汚染水もの言はぬ地がひたすらに吸ふ
海に入る水は昔の水ならず泳ぐ魚の行く先いづへ
線量の未だ高かる植ゑ込みを避(よ)けて訪ふ若冲の展
(3首 埼玉・中村美代子)
放射能食(は)みいる日々ぞ食み次ぐに牙(きば)生えしやと顎(あご)に手をやる
原発事故 福島でよきと余所人(よそびと)らぽろりこぼしし本音の重さ
原発を招けり惨も招けりと評する他者の眼の中の剣
(3首 福島・波汐國芳)
初夏(はつなつ)の山形からのさくらんぼこの艶っぽさは汚染を知らぬ
被災地の闇に舞えるや蛍たち生きゆく人らの胸に灯(ひ)点せ
東北の野に放たれし牛たちのその後を思う寒さ募れば
(3首 高知・西岡瑠璃子)
核のゴミ最終処分地ぼかされて熄(や)むことのなき奥歯が疼く
さみどりに萌えたつ地球悠然と汚れしものを棄てて廻れ
(2首 青森・古舘千代志)
原発に住めなくなりし村に咲く桜ひととき仰ぐ村人
汚染されしふるさとの村にひとときの花見をせしと聞くがかなしき
フクシマへさくらの花を見にゆくと立ち上りたり手を握りしめ
(3首 東京・堀江玲子)
フクイチの配電盤にて事故死せるマウスの記事をマウスもて開く
(1首 大阪・本土美紀江)
新聞の四頁を占める原発記事 除染廃炉の道のり遠し
それ程に危険な物とは知らされずわれら原発受け入れたりき
疑わず刈羽原発の見学に目を見張りしは三十年前
(3首 福島・山口キヌイ)
次回も『現代万葉集』から原子力詠を読む (つづく)
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