2015年12月06日20時22分掲載  無料記事
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文化

【核を詠う】(198) 『現代万葉集』(2014・15年)の原発詠を読む(2) 「公のテロではないのか 海が死に民族が死ぬ原発事故は」 山崎芳彦

 前回に引き続いて『2014年版現代万葉集』から、原子力詠を抄出・記録する。前回は「東日本大震災」の項にまとめられた作品群からの抄出だったこともあり原発事故にかかわる歌が多かったが、今回はそれ以外の項目全体から筆者の読みによる原子力詠を抄出させていただくことから、原発にかかわる作品とともに原爆を詠った作品が少なくない。ともに「核被害」であり、原子力エネルギーの、あってはならない「利用」がもたらした人間の苦難、将来にわたっての地球的レベルでの苦しみと破綻につながる道筋の中での原爆被害、原発被害を経験しているこの国の人々が様々な方法で、そのことを明らかにし、伝え、破滅への道を閉ざす課題を担っていることを思えば、短歌文学にかかわり、作品を創造している全国の歌人、詠う人びとの作品は貴重であると思いながら、読ませていただいている。 
 
 去る11月21日〜23日に、原爆被爆70年を迎えた広島市に、世界の核被害者(9ヵ国から約900名)が集まり「核のない未来を! 世界核被害者フォーラム」が開催されて、原爆の投下による惨憺たる被害、核実験、ウラン採掘現場での労働とその周辺の人びとの放射線被曝被害、原発事故による被害などの実態と現実、今後の核被害者のネットワークの強化と核廃絶の取り組みの方向が報告、討論され、最終日の23日には「世界核被害者フォーラム 広島宣言」(世界核被害者の権利憲章要綱草案)が採択された。「憲章」を国連の人権委員会に提出、世界の核被害者支援団体などにも届けられることになる。 
 
 「広島宣言」では、 
「われわれは、核被害者を・・・狭義では原爆の被爆者、核実験被害者、核の軍事利用と産業利用の別を問わず、ウランの採掘、精錬、核の開発・利用・廃棄の全過程で生じた放射線被曝と放射能汚染による被害者すべてを含む。また、広義では、核時代を終らせない限り人類はいつでも核被害者=ヒバクシャになりうることを認識して、核と人類は共存できないことをあらためて確認した。」 
「われわれは、核の連鎖が環境を放射能で汚染し生態系を破壊して人間をふくむ生物にさまざまな放射線障害を引き起こしてきたこと、またチェルノブイリに続くフクシマの原発苛酷事故の体験から、原発周辺の広大な地域に住む住民と事故処理労働者が被曝させられること、この過酷事故への対処が不可能であること、さらにはグローバルな放射能汚染を引き起こすことを確認した。また、われわれは、『核の軍事利用』と『核の産業利用』が原子力産業を通じて密接につながっていること、さらに劣化ウランを利用した放射能兵器など核の連鎖が全過程で大量の核被害者を生み出してきたことを認識した。」 
「核の連鎖があるかぎり放射能被害の発生を防ぐことはできず、増え続ける核廃棄物の処理・処分の見通しは全く立たないうえ、核汚染は長期にわたり、環境の原状回復は不可能ということから、人類は核エネルギーを使ってはならないと認識した。」 
「われわれは、核エネルギー政策を推進した国家及び放射能汚染を引き起こした事業者と原発など核施設のメーカーはその株主、債権者が責任を負担することを含めて、加害に対して責任を負うこと、また、原発輸出は人権侵害と環境破壊をもたらす危険があることを主張する。」 
「われわれは、日本政府が、フクシマ事故後も、反省するどころか、適切な事実及び被害調査をせず、被害の実相を隠蔽し矮小化しながら被害者への支援を切り捨てる一方で、原発の再稼働及び海外輸出を行っていることを糾弾し、日本及び世界各地の原発と産業用施設の建設・運転並びに原発輸出に強く反対する。」 
 などの内容を含む。 
 
 「権利憲章要項」は、[��]核被害者の権利の基礎、[��]権利、で構成されているが、「現在と将来の核被害を防ぐために要求できる権利」(自然放射線・医療放射線以外の被曝は受けない、被曝労働を強制されない、被曝の危険性についての正確な情報の提供など)、「核被害者が要求できる権利」(人格権・健康権を含むあらゆる人権及び基本的自由に対する核被害者の国内法上の権利を認めること、過去・現在・将来の被ばくによる健康影響に対する持続的な健康診断と最善の医療の提供を自己負担なく受けること、加害者による謝罪と補償を求めること、放射能で汚染された土地・住居・地域社会の環境の回復、加害者から独立した信頼できる科学的な調査と情報公開を求めること、放射能汚染地域への帰還を強制されず選択の自由と被曝を避け健康と生活を守るための支援を受けること、放射能で汚染された環境での労働を拒否)などを明らかにしている。 
 (以上の記述は筆者の要約なので、全文は「世界核被害者フォーラム」ホームページから検索してお読みください。筆者) 
 
 この核被害者フォーラムについての内容を読みながら、福島原発事故による被害がなお深刻に続き、先行きが見えないなかでの「復興」宣伝、環境基準を引き下げ、健康影響についての恣意的な「100ミリシーベルト以下と推計されたから影響ない」などとする「安全神話」を打ち出しての帰還促進政策と避難者に対する補償の切り下げ、打ち切り策、被災者・地域に対する分断・対立につながる施策、そして原発再稼働の推進、核燃サイクルへの固執・継続方針…を進めるこの国の現政権とその同行勢力の跳梁跋扈に対する憤りを強くしている。 
 『現代万葉集』の原子力詠を読み続ける。 
 
 
  ▼『2014年版現代万葉集』�◆�
 ◇自然(抄)◇ 
放たれし被災地の牛の今を思(も)ふ夏草茂る川辺行きつつ 
                    (1首 兵庫・北村艶子) 
 
 ◇四季(抄)◇ 
元安の河岸に並み咲く夾竹桃川面の皺に紅葉を落とす 
後背の大小ビルの陰になり原爆ドームは目立たずなりぬ 
落日に赤く染まれるビル壁にドームの骨は黒く浮き出づ 
                    (3首 奈良・加瀬和夫) 
 
あの夏をおもい起せと夾竹桃血のいろに燃ゆ 平和はとおし 
                    (1首 京都・白子れい) 
 
つくづくと山もわれらも吐く息の沐雨の夜を晩秋は来る 
                    (1首 福島・斎藤芳生) 
 
しんしんと雪降る村はしずまりて老いはひたすら子の帰り待つ 
何十年振りの大雪か原発の被災者暮らす仮設を案ず 
                    (2首 福島・下重トシ) 
 
宿命と思ひて今日も雪をかく解けぬ呪縛に(じゆばく)にかかりし心地 
山々は雪振り落し叫びたり黒き地肌をむき出しにして 
                    (2首 福島・滝沢三郎) 
 
 ◇生活(抄)◇ 
福島を詠みつつ点けたる夜のテレビ小泉元首相(こいずみし)説く脱原発を 
                    (1首 香川・赤松美和子) 
 
「核燃料サイクル」は輪にならざりて核のゴミ増ゆ朝めぐるとも 
                     (1首 神奈川・木村雅子) 
 
原発廃止の文字見当たらず新聞を埋むる一万語の施政方針 
                     (1首 東京・鈴木明子) 
 
木枯しの街にて候補は原発のない国語る虚しさのわく 
                     (1首 長野・田口泰子) 
 
 ◇生老病死(抄)◇ 
祐禎さんの手があらはれて夜の空にするどき眉を彫(ゑ)りてゆくかも 
祐禎さんのゐない春の夜『青白き光』の二尾鈍(にび)の栞紐はや 
腹からこゑを出す人だつた 祐禎さんのこゑの貼り付く大熊の空 
                     (3首 福島・本田一弘) 
 
被爆してからがら引きあげふる里にペンを奮ひし師の食(じき)おもふ 
                    (1首 大分・山本和可子) 
 
 ◇家族(抄)◇ 
一晟君一切借金千兆円核のゴミ処理 ああ爺を許せ 
                     (1首 千葉・三浦好博) 
 
 ◇旅(抄)◇ 
風力と水力・地熱利用して原発持たずこの国は富む 
北欧の旅にしあれど歌友らと三・一一の黙祷捧ぐ 
                     (2首 群馬・小堀高秀) 
 
 ◇戦争(抄)◇ 
清見寺にこもり長崎原爆を目にせし夫のいたみ知るべし 
戦ひの渦の中より生かされし卒寿は彼の日の語り部たらむ 
                     (2首 山梨・関戸公子) 
 
被爆者の歌で始まる原爆の式典に立つ酷暑の夏に 
原爆のえにしを結ぶ被爆者のわが合唱団歌う『ひまわり』 
福島の桃は甘くて大きくて放射能などなにも語らず 
                     (3首 長崎・中川美苗) 
 
あの夏が青春消したと被爆者の友は逝きたり結婚もせず 
                     (1首 長崎・西岡洋子) 
 
原爆に故郷(こきょう)追われし母ゆえにいまの住処を都と言えり 
                      (1首 島根・畑 忍) 
 
弟の玉砕の島テニアンは原爆搭載機発進基地とぞ 
                      (1首 栃木・町井貞子) 
 
爆心地の追悼碑垂直に陽(ひ)を指して竹山広氏の姿を顕たす 
被爆国の原点に国は立ちかえれ 長崎市長の宣言つよし 
汚染水さえ止まらぬに"原発"を売り行きし総理が献花ささげて歩む 
                      (3首 香川・三崎ミチル) 
 
 ◇社会(抄)◇ 
原子力「アトム」と共に育ちたり今この社会を生きゐる子等は 
                      (1首 愛知・磯村政乃) 
 
なぜこうも伝わらないの原発に反対している民の心が 
祈りてもいのりても無くならぬ核憂いつつ被爆地長崎に生く 
                      (2首 長崎・岩永ツユ子) 
 
凌霄花(のうぜん)の朱のしたたる路をゆく原発ノーの票を抱きて 
原発と人の命を載せたらばいずれへ傾く神の天秤 
                      (2首 愛知・小川 玲) 
 
罪なくて罪を背負うかセシウムの降り積む海の底魚かなし 
                     (1首 東京・小山田ふみ子) 
 
恨みとか復讐でなく「伝えたい」被爆者の心知るオリバーストーン 
ちはやぶる神代の昔セシウムもプルトニウムもしらざるさきはひ 
                     (2首 愛媛・古角明子) 
 
「脱原発」模索の国が有ろうことか他国へ輸出する浅ましさ 
                     (1首 北海道・志田敏彦) 
 
新聞に載ら無くなりても原発の反対集会官邸前に集ふ 
                     (1首 千葉・須田 博) 
 
あらためて竹山広の歌集読む原爆二度と世にあらしむな 
                     (1首 東京・竹下典子) 
 
平穏と思へる日日も万象は原発と生く地球の上に 
                     (1首 神奈川・田代弥生) 
 
フクシマの収束のめどたたぬのに再稼働させる総理の狂気 
わだつみは怒りますらむ改憲の意図と原発事故にけがされ 
                     (2首 三重・田中仁哉) 
 
戦時中の大本営を思ひをり原発被害を明かさぬ国に 
                     (1首 北海道・中田慧子) 
 
今に問う収束宣言原発の汚染水いまだ海へ洩るるに 
                     (1首 千葉・野田忠明) 
 
願望は希望路線にかわりけり原発如何な日本の未来 
ふさわしいふさわしくない二人組原発ゼロはいのちのきわみ 
                     (2首 大阪・平岩照美) 
 
原発の冷却装置停電す ころげ出でたるねずみ一ぴき 
何十年原発冷却汚染水がたまりにたまるさても何処へ 
原発の廃炉のつけを孫子らに回すというや国債に加え 
                     (3首 東京・藤井 治) 
 
福島を見るな語るな五年先かかる言葉が国を覆はむ 
                     (1首 東京・三浦 武) 
 
公のテロではないのか 海が死に民族が死ぬ原発事故は 
                     (1首 北海道・宮川 稔) 
 
果樹王国を誇りたりしに「フクシマ」となりて叶はぬ地産地消の 
二年近くなるに処分場決められず誰が責め負ふ汚泥と焼却灰 
活断層走る列島に原発を建つるは正気の沙汰ではないぞ 
                     (3首 福島・宮崎英幸) 
 
五感にはふれぬ汚染に怯えつつ君の知らざる日々を生きをり 
おろおろと放射能汚染値に左右さる手に負えぬものを人は創りぬ 
事故処理の果てぬ原発を安全というこの日本語にわれは苦悩す 
                     (3首 千葉・山下雅子) 
 
雨のなか色あせてゆく紫陽花の想いせつなし祖父の被曝地 
                     (1首 北海道・山本 司) 
 
オリンピック開催きまり沸き立てり海に汚染せし水流しつつ 
中沢啓治『はだしのゲン』を遺し逝く右傾化しゆく不穏のときに 
                     (2首 北海道・渡辺静子) 
 
 次回は『2015年版現代万葉集』の原子力詠を読む。    (つづく) 


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