2015年12月14日15時19分掲載  無料記事
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文化

【核を詠う】(199)『現代万葉集』(2014年・15年)の原子力詠を読む(3) 「被爆せし人間として生きる身の救えぬままのフクシマ四年目」 山崎芳彦

 『現代万葉集』(2014年・2015年)から原子力詠(筆者の読みによる)を読み記録しているが、今回で終る。今回は作品の抄出に先立って、前回に記した「世界核被害者フォーラム」(11月21日〜23日、広島市に海外9ヵ国からの参加を含め約900人)において採択された「フクシマを忘れない、繰り返させない特別アピール」全文を記しておきたい。「来年はチェルノブイリ原発事故から30年、フクシマから5年という節目の年を迎える。私たちは『核と人類は共存できない』という原点に立ち、世界中が原発に頼らない再生可能なエネルギーへの転換を図るとともに、核兵器の廃絶をめざし、人類の生存とこの地球を守るために、繋がりあい連帯しながら行動する。。このことを特別アピールとして決議し、チェルノブイリとフクシマの思いと痛みを自らの問題として受け止め、みんなの行動で核のない未来の実現を目指していこう。」との呼びかけである。 
 
 ◇「フクシマを忘れない、繰り返させない特別アピール」(世界核被害者フォーラム、2015年11月23日採択)◇ 
世界中に大きな衝撃を能えた3・11福島原発事故から、4年8カ月が経過した。今なお事故は収束せず、「汚染水」はコントロールされることなくたれ流され続けている。何十年、何百年も続く環境の放射能汚染によって、家族は引き離され、被災地の生活と産業、地域の文化は奪い去られている。放射線被曝による健康被害、世代を超えた健康影響ははかりしれないものがある。 
 
毎日多くの労働者たちが、放射線に曝されながら過酷な労働条件の中で原発や環境汚染と対峙し、事故の収束・廃炉や除染作業に奮闘している。以前の暮らしを取り戻すには何年、何十年、否、何百年かかるだろうか。どれだけの資金を必要とするだろうか。何人の犠牲者が生まれるだろうか。気が遠くなってしまう。 
 
私たちはフクシマを忘れない、忘れてはならない。それは被害者の「命」と「生活」に寄り添うこと、被害者への補償はいうまでもなく、「事故を繰り返してはならない」とのフクシマの「思い」に真摯に向き合うことである。 
 
今年のノーベル文学賞には、ベラルーシの作家、スベトラーナ・アレクシエービッチさんが選出された。彼女の書いた「チェルノブイリの祈り」が評価されたからである。この著書に記されているチェルノブイリ被害者の証言は、チェルノブイリ原発事故から25年後に起こってしまったフクシマ事故の被害者の姿に重なる。 
 
広島もナガサキも、ベラルーシの作家が語るチェルノブイリも、さらにフクシマも、歴史的「大惨事」として、時代の転換を画するものである。 
 
これだけの惨事を起こしたにもかかわらず、その元凶である東京電力も、また「国家」として原子力発電を推し進めてきた政府も、誰ひとりとして責任をとろうとしていない。それどころか、国民の大多数が原発推進に反対しているにもかかわらず、政府や電力会社は、原発重大事故が起こりうることを前提に「再稼働」を強引に進め、また原発労働者に高線量被曝を強いる「緊急時被曝限度」の引き上げをしようとしている。福島原発事故の原因の十分な解明も、事故の収束も、事故対策も進まず、何よりも被害者に対する救済が切り捨てられる中での凶行である。 
 
このような状況の中で、政府は世界各地に原発輸出を成長戦略の目玉として推進している。これに対しては、日本国内はもとより世界中の市民から「福島原発事故の反省もなく、原子爆弾の被爆国が・・・」という強い怒りと抗議の声が大きくあがっている。 
 
来年はチェルノブイリ原発事故から30年、フクシマから5年という節目の年を迎える。 
 
私たちは「核と人類は共存できない」という原点に立ち、世界中が原発に頼らない再生可能なエネルギー政策への転換を図るとともに、核兵器の廃絶をめざし、人類の生存とこの地球を守るために、繋がりあい連帯しながら行動する。このことをを特別アピールとして決議し、チェルノブイリ、フクシマの思いと痛みをを自らの問題として受けとめ、みんなの行動で核のない未来の実現を目指していこう。 
 
2015年11月23日 
広島・長崎被爆70周年 
核のない未来を! フクシマを核時代の終わりの始まりに! 
世界核被害者フォーラム参加者一同 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 
(世界核被害者フォーラムのサイト http://www.fwrs.info/より転記 筆者) 
 
 
 『現代万葉集』の作品を読む。 
  ▼『2014年版現代万葉集』(抄) 
 ◇四季(抄)◇ 
原爆忌 汝が魂の運ばるる鉄塔の草のひしひしと光る 
                      (1首 兵庫・本田勝彦) 
 
列島の暗部を抜けしさわやかさ川目覚めたり街目覚めたり 
被曝地に住むほかなきを緋柘榴の裂くる口にて物申さんか 
                      (2首 福島・波汐國芳) 
 
 ◇生活(抄)◇ 
セシウムは不検出との紙入りて埼玉産の葡萄届きぬ 
干柿を食めば遠き日返り来る祖母と吊るしし軒の干柿 
                      (2首 東京・内田くら) 
 
原発の汚染せし地を黙もくと這ふ蟻の人に似るがいたまし 
                      (1首 群馬・木部敬一) 
 
 ◇家族(抄)◇ 
原爆症の従兄は傘寿祝ひしに広島忘れ我が身も忘る 
                      (1首 島根・畑 忍) 
 
戦争を震災をも耐へ百余歳の父母弛まざる老境と言はむ 
ゆくりなく孫の訪ひ来て仮設舎の澱みし空気を動かしてゆく 
                      (2首 福島・吉田信雄) 
 
 ◇旅(抄)◇ 
被爆死者つぎつぎ運び焼きにきとその日の茂木を知れる人言ふ 
                      (1首 長崎・椿山登美子) 
 
 ◇戦争(抄)◇ 
「平和の誓ひ」修学旅行の広島に捧げしを言ふ若からぬ生徒(こ)ら 
「あやまちはくりかへしませぬ」主語なき碑約束いまだ果されぬまま 
川底に横たふわれか身の上を燈籠あまた過ぎりゆくなり 
                      (3首 茨城・緒方美恵子) 
 
あの日から六十九年の長崎は平和の祈りと静かな怒り 
ふたたびの戦火許さじ 今少し生き信じたし人類の知を 
                      (2首 高知・叶岡淑子) 
 
爆死者を餓死者を戦死者を出さぬため憲法九条守りゆくべし 
                      (1首 長崎・管野多美子) 
 
教室の中程ににゐて閃光を浴びし記憶よ六十九年前 
被爆せし人にチンク油と赤チンをひたすら塗りき学生われら 
泣きさけぶ火傷の痛み水・水と我らを呼びし声を忘れず 
                      (3首 島根・古志節子) 
 
大切な八月六、九、十五日をさなの生れし十四、二十二日 
原爆忌の鳩放たれてはばたきは光るさざなみ我らのうへに 
わがままな息子が潰す九条か夾竹桃が火を噴く国に 
                      (3首 広島・鳥山順子) 
 
爆風に飛ばされし小石今もだく山王神社の楠の七十年 
七十年養生つづくる被爆楠声あらば何をか語らんものを 
山王神社被爆の楠の若葉満ちみどりのベールケロイドかくす 
                      (3首 長崎・西岡洋子) 
 
八・九平和を祈る浦上の丘にこだますアンゼラスの鐘 
被爆死の姉の遺影をさがせども在りし姿は思い出のなか 
原爆忌おなじ忌み日の墓ならび墓守(も)る人もなべて老いたり 
                      (3首 長崎・原田 覺) 
 
エノラ・ゲイもリトルボーイも知らぬ世代が平和の日本を闊歩してゐる 
                      (1首 埼玉・藤森巳行) 
 
壊してはならぬ平和と叫ぶ声六十九年目の胸にひびける 
学徒碑の前に佇ちます媼の背傘のしづくのなかにしづまる 
終りなき里程をゆけるただよひに元安川の灯籠の連 
                      (3首 広島・三浦恭子) 
 
幾千の翼を広げ集ひ来て禎子(サダコ)の像をかこむ折鶴 
被爆死の無縁仏にぬかづけば安らはぬ人の声の圧しくる 
ひつそりとビルに囲まれ小さくなる原爆ドームは時代(とき)の谷間に 
                      (3首 広島・三原豪之) 
 
一年に一度の風に吹かれいる被爆死者名簿の兄十九歳 
被爆せし人間として生きる身の救えぬままのフクシマ四年目 
フクシマに黒き袋の放射線積まれていいのかみんな人間 
                      (3首 長崎・山本トヨ子) 
 
 ◇社会(抄)◇ 
原発は事故を起せば更にさらに電力欲しがる例へば凍土壁 
                     (1首 神奈川・亞川マス子) 
 
スリーマイル島チェルノブイリを憶ふとき原発稼働への思考進まず 
かの戦禍と原発事故の復興を比べておもふ答出せぬまま 
                     (2首 新潟・笠原さい子) 
 
三・一一住まひ追はれて佐渡に住む友の新居に祝ひ酒くむ 
原発に住まひ追はれて三年目新居なしたるわがふるさとに 
あいさつの言葉つまらすもろもろの気持伝はりいきとめてきく 
                     (3首 新潟・佐々木伸彦) 
 
震災より三年過ぐる飯舘村の復興遠しと息は桜植う 
                     (1首 大分・佐藤博子) 
 
列島の汚染を知らぬ桜雨潤しゆけり春の万象 
長からむ廃炉の道をわが死後も負ひて生くるや若き世代は 
                     (2首 神奈川・田代弥生) 
 
後戻り出来ぬしがらみ絡ますが原発らしい発電せずとも 
在るだけでお金を食べる原発は暴れぬように飼わねばならぬ 
                     (2首 大阪・本土美紀江) 
 
 ◇災害・環境・科学(抄)◇ 
放射能の電力に日々携わる人達の苦しみ如何ばかりかな 
ソーラーパネル空港際に並び立つ大きな電力集めんとして 
                     (2首 福島・有賀智枝子) 
 
汚染されし海草揺らぎ滄海は何も語らず夏色を帯ぶ 
海の色いつになつたら純粋に詠へるだらう四年目の夏 
故郷に還れぬ哀しみ負ふ人らともに歩まん浜つづく地に 
                     (3首 福島・伊藤雅水) 
 
震源は伊予灘六・二と言へり伊方原発その海の辺に 
一週間くらゐが目安といふ余震ことなく四日五日(よつかいつか)と過ぎぬ 
                     (2首 愛媛・今泉 操) 
 
時雨ゐる岬の原子炉止まりゐて道はここにて行き止まりなり 
原発を恃みとしたるわが町もシャッター通りの商店街となる 
原発の入江と知りゐる鴨なるか早帰心の気配見えてをりたり 
                     (3首 福井・上田善朗) 
 
旧仮名も文語も何かよそよそしアウトサイダーの3・11 
放射能まみれになりてロボットが人の代りに働く師走 
                     (2首 秋田・臼井良夫) 
 
廃炉作業の建屋カバーが口を開くニュースの前にしばらく座る 
放射能みえねば測るはかること知ることなりとターレス言ひき 
柚子捥がぬ冬も四年目 風響(な)りを連れてあゆまむ年のはじめに 
                     (3首 福島・遠藤たか子) 
 
福島の原発事故四年経て忘れられつつ有るを憂ふる 
セシウムも瓦礫もあらず雪原と化(な)りし福島雪降りつみぬ 
                     (2首 神奈川・大作和子) 
 
三年の消息不明は死を意味するに肯定、否定の思い交錯す 
震災の放映辛し3・11の今日はテレビを観られずにおり 
歳月は心を癒すのみならず悲しみ深むることも知りたり 
                     (3首 福島・大堀槙子) 
 
放射能の土を埋めしあたりより今宵も蝉は地上を目指さん 
柚子の実はセシウム吸収するらしく捥がれざるまま腐りていたり 
除染済みし公園またもや基準越ゆどこに潜める放射能ならん 
                     (3首 茨城・片柳せつ子) 
 
剥がしたるふるさと積まれ黒びかる一個一屯の汚染土袋 
ヒナンミンと言ふ十五万難民産みてゐる〈安全〉科学〈安価〉産業 
十万年穢さるる地へイヌフグリ空の雫をふくみ咲きたり 
                     (3首 宮城・北辺史郎) 
 
行く当てのなき汚染土が溜まりゆく中間貯蔵といふ曖昧に 
汚染土の袋昏ぐらと並ぶ景 風化はすでに始まりてゐる 
子の撮りしフクシマ 彩の無きものがしみみに並ぶを見るは重たし 
                     (3首 静岡・君山宇多子) 
 
除染せし土禍々しく積まれありブルーシートに冬の雨降る 
浄化するごと雑草に覆はれて四年目となる除染汚染土 
線量を計ることなくこの年も庭の京蕗食卓に載る 
                     (3首 千葉・黒岡美江子) 
 
被曝より鼠の臭ひに住めざりと避難三年目の君の言ひたり 
風評に売れざる野菜も季来れば播種する我の習ひなるべし 
                     (2首 福島・今野金哉) 
 
ヨウ素剤を求めて薬局まはりしは弥生十二日 三年前の 
まだ若い二人のためにと懇願しその錠剤をやうやう得たり 
お守りとして持たせゐる錠剤のヨウ素よ永遠にお守りであれ 
                     (3首 福井・紺野万里) 
 
「福島です」と答ふれば揺るる空気感その微妙なる揺らぎも知りぬ 
モニタリングポストも自然の景として馴染みゆく 児らも見守るわれも 
「被災すれど被害者ならず」凛然と新たなる一歩踏み出し行かむ 
                     (3首 福島・佐藤輝子) 
 
原発の再稼働に血糖値、血圧あがる鈍痛寂し 
                     (1首 富山・柴垣光郎) 
 
枯芝に東風(こち)冷え冷えと沈む庭災禍三年(とせ)の両手を合はす 
ひそやかに放射線水垂れ流す広く大きなる海(うな)を冒して 
                     (2首 茨城・園部みつ江) 
 
原発に揺れる福島の友思い電話をすれば声が上擦る 
受話器から福島訛温かく大雪だよと友は大笑 
早春の土手に土筆を摘む童原発廃墟真向いにして 
                     (3首 静岡・竹井英夫) 
 
フクシマの友との電話にまだ雪のすくなきなどにせめて慰む 
原発の事故後の故郷のさびれ様遠く電話に非力にて聞く 
フクシマよりさっそく電話来 わが街の震度4とに安否を問いて 
                     (3首 神奈川・戸谷澄子) 
 
除染作業五回はすれど放射線〇・二三までは下がらぬ 福島の家 
除染作業の立ち合ひ終えて帰りくる列車の中にて頭痛のおこる 
                     (2首 神奈川・中村規子) 
 
片仮名は要らず 山を抱ける表意文字広島長崎そして福島 
黙祷に阪神戦の始まりぬ前田健太の左腕に喪章 
                     (2首 東京・中山春美) 
 
被災地の祈りにあらん紅(くれない)の折り鶴のはね襞ふかくして 
福島の赤き折鶴くるしみを負いてはばたけ手にのせてみる 
                     (2首 長野・深井喜久代) 
 
死の灰の原爆マグロの生証人 原発立地の不安を語る 
                     (1首 静岡・藤生良則) 
 
首実験運転免許証をコピーされ原子力発電の健診に入る 
承認の見透し立たぬ原発が千幾百の人を養ふ 
                   (2首 北海道・ふるやおさむ) 
 
 『現代万葉集』(2014年・2015年)は今回で終るが次回も原子力詠を読み続けたい。                       (つづく) 


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