2016年01月29日20時12分掲載  無料記事
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文化

【核を詠う】(203) 「短歌研究」誌の『2015綜合年刊歌集』から原子力詠を読む  屬里召泙兇觝堂堝への動きにてさきの川内けふの高浜」 山崎芳彦

 今回から、月刊短歌総合誌「短歌研究」(短歌研究社刊)が「2016短歌年鑑」として発行した2015年12月号に収載した「2015綜合年刊歌集」から原子力にかかわって詠われた作品を読む。この年刊歌集は、短歌研究社編集部が「寄贈を受けた短歌綜合誌及び全国結社短歌雑誌等に掲載のものより選出」した作品と「平成27年に寄贈を受けた歌集から2首を基準に採録した」作品群で、4000余名の歌人の作になる約1万2000首が収録されている。その作品群から筆者が原子力詠として読んだ歌を抄出した。誤読、作者の意図に添わない抄出があることを恐れるが、あればご容赦を乞う。 
 
 同誌は、「短歌年鑑」の中での特集企画の一つとして「歌人アンケート・戦後七十年を記憶する歌」を掲載している。 
 その前説として「戦後七十年のことし、戦争に駆り立てられていく戦前のような空気を感じる、という戦争体験者の発言も聞かれます。戦後、という言葉からか、昭和二十年から平成二十七年までの七十年の内、戦中、戦争にまつわる歌が多く挙げられました。・・・ここに挙げられた歌に、いかに現代の歌人たちが共感を覚えたかと考えますと、時代の空気はやはり、七十年前に通じるものがあるのかもしれません。ことしはまた、戦後七十年を経て、衝撃的な映像が一般のテレビ画面でも公開され、いやでも戦後をふり返えることを強いられた一年でもありました。短歌にもそれにまけない記録性をもってうたわれたものも多く、短歌三十一音に込められた力を改めて実感します。・・・」と記されている。 
 この特集では、「戦場」、「学徒出陣/出征」、「銃後の女たち・軍国少女」、「特攻」、「空襲」、「広島・長崎への原爆投下」、「終戦」、「戦後」、「家族の死」、「貧困/飢餓」、「沖縄」、「シベリア抑留」、「戦後の風俗」「帰還兵・復員」、「戦争によって奪われた世代」、「戦犯の処刑」、「東西冷戦、核実験、核武装」、「対アメリカ」、「60年安保」、「ケネディ暗殺」、「70年安保」、「昭和の終焉」、「東日本大震災・原発事故」、「右傾化」、「戦後60年、サイパン島慰霊」など、それぞれの項目を立てて、アンケートに寄せられた作品を掲載している。1940年生まれの筆者としても感慨を深くする短歌作品を改めて読みながら、思うことは多かったのだが、数多い作品を記すことは出来ないため、「核を詠う」の連載の中なので、それに添った作品のみを抄出しておきたい。(これまでに読んできた作品と重複する歌も少なくない。) 
 
 ◇「広島・長崎への原爆投下」 
くろぐろと水満ち水にうち合へる死者満ちてわがとこしへの川 
人に語ることならねども混葬の火中にひらきゆきしてのひら 
まぶた閉ざしやりたる兄をかたはらに兄が残しし粥をすすりき 
死の前の水わが手より飲みしこと飲ましめしことひとつかがやく 
原爆を知れるは広島と長崎にて日本といふ国にはあらず 
                       (5首 竹山 広) 
 
大き骨は先生ならむそのそばに小さきあたまの骨あつまれり 
                       (1首 正田篠枝) 
 
人骨を片寄せて野菜の種播きはここらあたりぞビル並び建つ 
                       (1首 山本康夫) 
 
燔祭の炎のなかにうたいつつ白百合少女燃えにけるかも 
                       (1首 永井 隆) 
 
その日そこに居なかっただけの偶然の十五歳 八月六日、九日 
                       (1首 田井安曇) 
 
突撃のための教練とはげみしに今、原爆の炎の中走る 
                       (1首 前川明人) 
 
頭の傷かくして帽子かぶる子の一割をりし街のそののち 
                       (1首 二宮冬鳥) 
 
 ◇東西冷戦、核実験、核武装(抄) 
核弾頭五万個秘めて藍色の天空に浮くわれらが地球 
                       (1首 加藤克己) 
 
二万発の核弾頭を積む星のゆふかがやきの中のかなかな 
                       (1首 竹山 広) 
 
 ◇昭和の終焉(抄) 
一分の黙禱はまこと一分かよしにあきことを深くうたがふ 
                        (1首 竹山 広) 
 
低レベルと謂へど放射能廃棄物二十余万本積む町に住む 
                        (1首 佐藤祐禎) 
 
 ◇東日本大震災・原発事故(抄) 
大雪の東京の夜に母は問ふ原発ゼロで凍え死なぬか 
                        (1首 栗木京子) 
 
蜂の巣に鉢の羽音のせぬ真昼 除染といふは移染にすぎず 
                        (1首 高野公彦) 
 
オリンピックのさなか八月六日あり九日ありて火群立つこゑ 
                        (1首 小島ゆかり) 
 
花散れば花を忘るる人間の悲(ひ)なるやヒロシマののちのフクシマ 
                        (1首 馬場あき子) 
 
 抄出した作品の他に、戦争にかかわって詠われた作品、「戦争に駆り立てられていく戦前のような空気を感じさせる」今日の政治、社会状況を短歌表現した作品が多く掲載されている。「戦後七十年を記憶する」とともに、いまどのような時代に生き、詠っているのかを考えさせられる作品が多く記録されている。「記憶する」ことが何に繋がっているのか、いくのか、詠う人びとにとっての深く鋭い課題として受けとめたいと思う。 
 
「短歌研究」誌に掲載の「2015綜合年刊歌集」から原子力詠を抄出、記録していく。 
 ▼短歌研究・「2015綜合年刊歌集」の原子力詠 
医師として被爆者治療に尽し来し詩人重篤の師走年明け 
新年のあいさつすれば目をあげて窓に流るる雪雲をいう 
                        (2首 相原由美) 
 
血の色のごとく川面がそまるけふ竹山広をふいに想いつ 
四半世紀前より折々くれたりし細き文字の手紙と葉書 
                        (2首 青輝 翼) 
 
原発の日本列島花ふぶき静御前が歩いてくるよ 
心臓の止まった被災地揺れているロックのリズム原発しびれて 
原発を洗うような冷たい雨に遠く離れた村人かなし 
                        (3首 青山 兟) 
 
生き物が死に絶えてなほ深閑と使用済燃料棒のせて地球は 
                        (1首 井上敦子) 
 
地震続き原発の毒消ゆるなし空に綿雲のどかなる日も 
                        (1首 伊部尚子) 
 
お坊ちゃまいけないことよ武器を売り原発売ってはカジノだなんて 
                        (1首 市原敏司) 
 
災害ラジオの時報が不意に鳴りだして友はおどろく受話器のなかに 
                       (1首 遠藤たか子) 
 
六年生の一人のみなる卒業式被災地の廃校次々つづく 
耐へがたき原発事故なり仮設にて一人暮らして逝く老多し 
                       (2首 大方澄子) 
 
自衛艦の犇く浦を奥に見て憚るさまに核空母泊つ 
                       (1首 大倉忠彦) 
 
原爆も原発もウランの大爆発平和利用の業には非ず 
                       (1首 大塚敬三) 
 
放射能に強き生物生まるるを待つしかなきか地球の力 
                       (1首 鬼丸貞彦) 
 
クリミア半島編入を歴史的快挙としプーチン遂に核にむかふか 
                       (1首 海輪美代司) 
 
行けたら行くと応えはしたが広島の叔父の法要行けぬと思ふ 
行かないと行けないの差寂しみて叔父のケロイド見た日を思う 
                       (2首 勝井かな子) 
 
万を超す原発部品震度七を想定したるや揺れ絶えぬ国 
                        (1首 桂 千代) 
 
長崎の田上市長は不戦の誓ひ立てて無投票当選三度 
                       (1首 神崎クニ子) 
 
砂漠となりし稲田除染し再びを西風に実る新米をみす 
                        (1首 神谷佳子) 
 
沈みける「武蔵」に伝へず原発の汚染水洩れ知らさぬごとく 
                        (1首 川崎勝信) 
 
いぶかしき事の一つに原爆に死せし児数多口中に石有りとう 
                        (1首 菅かづ江) 
 
原爆に死せる同胞悼む碑は完成したりいまだ置けざる 
韓国人死者を悼む碑魂とさすらう設置反対の声に 
                   (2首 キム・英子・ヨンジャ) 
 
事故を事象と言ひくるめ原発栄えていのちは亡ぶ 
                        (1首 木部敬一) 
 
放射線量の数値は無きにしも非ず可視化の雨にけぶれる 
                        (1首 菊池 裕) 
 
原爆の語りべとして尽しゐし人ら逝きますぽつりぽつりと 
浦上の被爆聖者の石像のうつろなる目よ、をりをり迫る 
                       (2首 久保美洋子) 
 
友の住む仮設住宅すえおかれ四度の冬に連なる氷柱 
                       (1首 熊谷淑子) 
 
のぞまざる再稼働への動きにてさきの川内けふの高浜 
核のゴミは未来の技術を待つとする無恥の言辞を吐くも科学者 
再稼働を諫める多くの世のこゑを現政権は無にして汲まず 
                       (3首 剣持輝雄) 
 
初雪が根雪になれば思い出す大震災の八カ月後を 
福島原発建設反対の署名せし日に話題は及ぶ 
                       (2首 小林優子) 
 
福島の米は全量検査済みとCM流る四年を過ぎて 
                       (1首 小山尚治) 
 
蚊帳を知る子ら三人いて嬉しもよ平和学習の葛城の生徒ら 
一人でもヒロシマを刻みて帰れかし栃木に帰る生徒ら送る 
「会場に被爆の死者の魂が」舞台にて絶句の米倉氏逝く 
                       (3首 河野きよみ) 
 
若者の帰還意識の一割に満たぬに町の存続憂ふ 
東電は汚染の水を海原に長く流しつつ隠してゐたり 
                       (2首 今野金哉) 
 
 次回も「短歌研究」誌の「2015綜合年刊歌集」の原子力詠を読む。 
                           (つづく) 


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