2016年02月09日14時26分掲載  無料記事
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文化

【核を詠う】(204) 「短歌研究」誌の「2015綜合年刊歌集』から原子力詠を読む◆ 崋己責任誰が取るのか靄の中経済と言ふ二文字が走る」 山崎芳彦

 九州電力の川内原発1、2号機が昨年後半に再稼働したのに続いて、この1月末に関西電力高浜原発3号機がプルサーマル発電を開始し、2月中には同4号機も発電を始める。安倍政権の下で原子力発電をはじめ、原子力の利用推進に共通の利害関心を持ち共に支え合い、共同する広範にわたる「原子力複合体」の動きは激しい。その勢力がまず目指すのは国内の原子力発電の復活、「福島原発事故以前」への回帰であり、その上に立って日本の原発モデルの海外への輸出や原子力関連事業の拡大に違いない。「3・11」以前にこの国を戻すことによって、「3・11」を飛び越えた地点に着地しようとするのだが、その先に何があるのだろうか。「戦後」から「戦前」へ、そして「戦中」に行きかねない時代への道を作っている安倍政権とその仲間たちと、「原子力複合体」は重なっている。危うい「現在」である。改憲の旗を掲げ、首相に"国民総動員"の権力を与えかねない「緊急事態条項」の新設すら言う安倍首相が、この夏に衆参同時選挙に打って出る可能性もある。 
 
 この安倍政権と「原子力複合体」が、原発回帰のために何をしているのだろうか。何よりも、福島原発事故を無かったことにはできないにしても、その被害の深刻さを覆い隠し、「回復」し「復興」することができると見せかけることである。原発の過酷事故が起きても、その被害は「回復」できる、現に復興に向かっているとして、核放射線のもたらす危険を「リスク評価基準」の不当な「見直し」を行い、実態とかい離した過小評価、隠蔽を行うことで、為されるべき被害者に対する対策を行わず、汚染地域への「強制」帰還推進を進めている。被害者と被災地域の「人間の復興」を妨げる基本的人権、地域の自治を無視した施策が人々を苦しめ、被災者内部での対立と相克を深刻にし、問われるべき加害者である国と電力企業の責任を回避、極小化しようとしている。まことに許しがたい加害者のふるまいである。(原子力市民委員会「年次報告2015」に詳しい。2015年6月、ウェブサイト http://www.ccnejapan.com/) 
 
 そして、既存の原発の再稼働のための審査申請を受けた原子力規制委員会が次々に、規制基準合格証を発行し、政府の後押しと誘導により、立地自治体に対する「財政支援」施策、電力企業による安全宣伝とさまざまな「自治体の活性化利益」誘導工作、地域住民に対する分裂工作などが行われ、再稼働の体制を作っている。立地自治体の首長と知事の再稼働への同意を得れば、もし事故があれば重大な被害、影響を被ることが必至の近隣地域の住民や自治体の意向を無視して原発の稼働が可能になるという「原子力複合体」本位の欠陥だらけの法制度が「稼働」するのである。人間社会、人間の生命の現在だけでなく未来の社会と生命に責任を負わなければならないことなど、「原子力複合体」にとっては思考と行動のあるべき倫理の埒外のことなのであろう。 
 
 「原子力複合体」という言葉を使ってきたが、これは原子力市民委員会著の『脱原子力政策大綱』(2014年6月、宝島社刊)からの借用であり、その内容は、「原子力利用の推進という点で共通の利害関心を持ち、原発などの原子力諸施設の建設や運営を直接的に担ったり、間接的に支えたりしている行政組織、政界、産業界(電力・原子力産業)、学会、メディア業界などの総体である。この中には、原子力産業の関連労組、原子力ビジネスに深くかかわる金融機関や商社及び、国際原子力機関(IAEA)などの国際機関なども含まれる。」としている。まさに、現代社会の支配権力をなす構造だ。 
 また、同書では、「原子力複合体は、その文化風土の前近代性を強調するならば、「原子力ムラ」と呼ぶこともできる。原子力複合体の強力な形成根拠は、『原発マネー』『核燃マネー』とも呼ばれる巨大な金銭の流れが、法制度によって確保されていることである。しかも、その源泉は国民の負担している電気料金や租税である。」とも述べている。 
 
 「その後の生を虚しくするようなトータルな破局を破滅と私は呼ぶが、・・・破滅的な事故の確率は絶対的にゼロでなければならない。つまり、どんなに僅かでも破滅の可能性が残るような技術は、究極の『死の文化』であり、そのような技術の選択はすべきでない。」と、今は亡き高木仁三郎さんは書き遺した(『巨大事故の時代』弘文堂刊、1989年)。核発電の技術は、人間社会において廃絶されなければならない。 
 
 「戦争をする国」を目指し、原子力発電・原子力関連事業の推進を急ぐ政府・与党の支配のもとにとどまることを、拒否しなければならないと、今回で終るが、「短歌研究」誌の「2015年綜合年刊歌集」の原子力詠を読みながら、改めて思う。この「年刊歌集」には、この連載の中で抄出できなかったが、憲法、平和、戦争などをテーマに、現在の政治、社会について深く危惧する思いを詠った作品が多くあった。 
 
 
 ▼「短歌研究」誌の「2015年綜合年刊歌集」の原子力詠◆
 
むつに行くたびに実感する東北の県の大きさ人の少なさ 
下北の核の施設は依然なり再処理工場未だ審査中 
                       (2首 佐竹宏文) 
 
この人を知りませぬかとポスターに住所は下記と平和無縁塔 
母の名のエノラゲイ機に「坊や」載せ闇に祈りてテニヤンを発つ 
七十年に競売に出づエノラゲイの航行日誌と投下計画書 
                       (3首 佐藤伊佐雄) 
 
わたくしの故郷はフクシマではなくて福島と告る滝のやうな歌 
話題にはもはやせざれど内深き傷み持ち合ひて人は集ひ来 
愚痴をいへばみじめになると黙り込む人がこの国に二十三万 
声に出していへばいふほど自らが汚れてゆく 桜に雨が 
                       (4首 佐藤通雅) 
 
血みどろに皮みどろにて浦上の坂を登りし被爆者の碑よ 
                       (1首 貞松秋生) 
 
受付けに原爆手帖をさし出して面を伏せし老爺のありき 
                       (1首 寒川靖子) 
 
樅の木の根方に置けぬ福島の砂は丑三つ時を天降り来 
                       (1首 清水正人) 
 
除染とは移染にすぎず四年経ち行き場無くした袋の山は 
戻るとも帰るとも謂い飛び出した古里はいま限界集落 
春泥に思い馳せたる故郷あり父持ち上げし大きな鍬が 
                       (3首 鈴木正作) 
 
英雄はテレビに居ない罅割れし原子炉にゐる防護服着て 
                       (1首 竹内乃里子) 
 
ツルガよりタカハマまでの小旅行 巡礼めきて原発めぐる 
根腐りのもとにしあれど原発に拠る他はなき冬枯れの街 
平仮名で書けば何かが靄の奥「もんじゆ」の本性饕餐なるに 
                      (3首 武下奈々子) 
 
山藤の枝垂れし峡に偲ばるるわれより若く逝きたる君の 
戦ひに父原爆に母までも失ひて幼く健気に生きし 
父母の亡き幼を祖母のいとほしみ育みし後夫の支へき 
                      (3首 遠役らく子) 
 
虫取りの網も幼のゴム長も/原発建屋も/みているか月 
                      (1首 内藤賢司) 
 
地球人の化石が放つ放射線万年後に見む火星の君ら 
                      (1首 中川明義) 
 
核の火を神の火などと戴きて爆ぜしこの町そのがらんどう 
原発に失くしし町を呼ぶ人ら過去世の方より来しも交りて 
水林とう橅林あるを福島に今欲しきもの 水起つ心 
南天の実のくれないを揺りいるは鳥ぞや鳥のほかに又居る 
福島に未来はありやフクシマの奥処ひらかん我がノックかも 
                     (5首 波汐國芳) 
 
四年目の被災の映像延々と続くに吾の眼乾けり 
年毎に筍呉るる友あれど今年も暗き目を返すなり 
わが庭の柿の実柚子の四年経つも未だセシウム検査通らず 
                     (3首 波汐朝子) 
 
故里にいつか帰ると言いながら生活築くこの地に残る 
遠き世に偲ぶ誰かがおらむとは思わざりけり安倍仲麻呂 
                     (2首 西澤恵子) 
 
この春に双葉の苗より育てしが花を付けたり三春の桜 
千年の命を継げる滝桜の実生なりけり讃岐に育つ 
滝桜の実生の若木花付けぬ桃栗三年の三年目にして 
                    (3首 西山幸子) 
 
長き戦後をうすずみ色の平和とぞ戒めつづけし竹山広 
椅子の人竹山広をかなしめりわれも点眼のまぶたを閉じて 
                    (2首 西山千鶴子) 
 
自己責任誰が取るのか靄の中経済と言ふ二文字が走る 
住民の避難の在り方規制委の責任の外われら知らずと 
靄の中に電力会社の献金の黒き頭が見えつ隠れつ 
                    (3首 野村久雄) 
 
四年目の雪つめてえべ楢葉町応急仮設住宅の屋根 
放射性物質ふふむ雪ならむ白き時間がふくしまをふる 
復興は何をもていふふくしまのからだは雪の声を抱けり 
歳晩の夜を嬬とゐて目にみえぬ雪のことばをふたり聴きをり 
いはしろの月のひかりに濡れにつつ幾千の雪、幾万の雪 
                     (5首 本田一弘) 
 
この子等の百年後いや二十年秋津島すこやかな緑湛ふや 
震源は上関原発予定地の近くなり震度五の地震 
                     (2首 又野 萋) 
 
敗戦後六十九年原爆の苦しみ抱へ生きて来にしと 
原爆死の方がよかりしと思ふまで苦しみ続け今に至れる 
惨状を思ひたくなしと心閉ぢ耐へ来し六十九年今明かすなり 
                     (3首 松本ちよこ) 
 
「平和の火」わが家の前を通りゆく八月近きヒロシマの夏 
育みて五葉となりぬ四年目の被爆アヲギリ二世の鉢 
                     (2首 三浦恭子) 
 
安全は願望のみの原発に不安のつのる春寒の雨 
                     (1首 三ツ木稚子) 
 
「ふくしま」と聞こえるほうに耳は向く仮寓の居間の団欒のとき 
くりかえしくりかえし話す友のこと祖母にときどき相槌を打つ 
                     (2首 三原由起子) 
 
脱原発アクションは一二四回目寒くなるけど諦めないぞ 
一泊で三年分の放射線浴びてフクシマから帰り伝える 
                     (2首 宮坂 亨) 
 
核兵器増えゆくが見ゆ 一面に名の花咲ける死後の列島 
                     (1首 宮澤 ) 
 
冷却水止まってしまえば暴走をしてゆく原理そのものが悪 
                    (1首 向山文昭) 
 
再始動の釦だれ押す つみかさね罪かさね来し人のいとなみ 
                    (1首 村上敬明) 
 
方丈記また書かれなばその一つ警戒区域にイノブタ繁殖す 
                    (1首 村瀬伊織) 
 
核戦争・石油枯渇・食糧不足みんなはずれて七十歳となる 
                    (1首 村田 修) 
 
速贄の百舌鳥の知恵にも劣らんや残土処分の人知と言うも 
核の骨片桜のごとく地に散らば不文の刑も餓鬼もあらざり 
                    (2首 山田美露鬼) 
 
沖縄の核密約が証されどいまだに示さぬ日本政府は 
                    (1首 山本 司) 
 
蛙の詩人・心平反戦反核の人にてフクシマの現在を知るなし 
                    (1首 結城千賀子) 
 
線量はどうでもよしと老い母は皺深き手で柚子の皮剝く 
この土地の正月はこれで四度目と仮設の人が呟くを聞く 
                     (2首 吉田健一) 
 
 「短歌研究」誌の「2015綜合年刊歌集」からの原子力詠抄出・記録は今回で終る。読み落とし、誤読については作者にお詫び申し上げる。次回からも原子力詠を読んでいく。               (つづく) 


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