2016年04月20日23時33分掲載  無料記事
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文化

【核を詠う】(番外篇・憲法詠) 九条歌人の会編『歌集 憲法を詠む 第八集』を読む(3) 「戦死せし父の生涯を問い続くる友の歌集は挽歌におわる」 山崎芳彦

 総合短歌月刊誌の『現代短歌』(現代短歌社発行)の4月号から注目すべき連載「連続対話・平和と戦争のはざまで歌う」が開始された。歌人の吉川宏志が時代に危機意識を持つ歌人たちとの対話をしていく企画であるが、第一回目には、SEALDs(自由と民主主義のための学生緊急行動)に参加している歌人・矢野和葉と「分離した個人を繋ぐ、個としての言葉」と題しての対談を行っている。内容に触れることはできないが、小見出しに「日常の感覚でデモを語る」、「<私>の言葉の回復運動」、「私が生きる小さく多様な社会を詠む」が立てられ、矢野の作品も取り上げて、興味深い対談が展開されている。短歌雑誌としては、ユニークな、しかし時を得た企画として今後も注目していきたい。 
 
 吉川宏志は、福島原発事故の問題、安保法制、平和と戦争の問題などについて、さまざまな発言をし、昨年9月には京都で緊急シンポジウム「時代の危機に抵抗する短歌」を開いて関心を呼び、それを継走して12月には緊急シンポジウム「時代の危機と向き合う短歌」(「強権に確執を醸す歌人の会」三枝昂之の主催)が東京で開催される端緒をなすなどの役割を果たし、また11月には「短歌時評集二〇〇九―二〇一四年 読みと他者』(いりの舎刊)を刊行して注目を集めている歌人である。この「核を詠う」連載の中で氏の歌集『燕麦』(2012年刊)を読ませていただいたことがある。 
 
 『現代短歌』4月号の「連続対話・平和と戦争のはざまで歌う」で、氏は「連載のはじめに―対話する意志」と題する文章を書いている。一部を引用させていただく。 
 「『平和と戦争のはざまで歌う』というタイトルを見て『大袈裟だ』と感じた方もいるのではないでしょうか。確かに今の日本は、普通に暮らしていれば、平穏無事に見えるかもしれません。/しかし昨年の九月、経団連は『国家戦略として、武器輸出をすべきだ』と提言しました。そして自衛隊の海外での武力を可能にする安保法案が可決されました。また、日本の大学での兵器研究も進められようとしています。つまり近い将来、日本製の武器が海外での殺傷に使用されるかもしれないし、自衛隊員が敵を殺したり殺されたりするという事態も起きるかもしれません。それでも『平和』と呼べるでしょうか。」 
 
 「さらに、現在、日本では貧困層が増加しており、貧困に苦しむ若者を、自衛隊員として募集しようとする動きも現れています。『経済的徴兵制』と呼ばれ、アメリカでは現実に行われているそうです。(堤未果『ルポ 貧困大国アメリカ』岩波新書などを参照してください)。」 
 「自衛隊が海外で軍事行動を展開するようになれば、大規模な報復テロが、日本の都市で発生することも十分にあります。昨年十一月、フランスのパリでは百名以上の死者を出すテロが起こりました。そのとき仏大統領は『これは戦争だ』と述べたそうです。もし日本でテロが起きたら、一気に戦時色が強まるのではないでしょうか。」 
 
 「戦後七十年かろうじて続いてきた平和な状況が、現在大きく揺さぶられていることは間違いありません。そんなとき、沈黙してしまうより、自由に議論をする場が存在するほうがいいのは確かでしょう。多くの国民が納得しないままに、いつの間にか日本が戦争に協力する国になってしまうのは、非常に危ういことです。/特に短歌は、日中戦争や太平洋戦争の際に、熱狂的に戦争協力をしてしまった歴史があることを忘れてはならないと思います。(略)『短歌と政治は別物だ』といった割り切った結論には飛びつかない方がいい。さまざまな価値観をぶつけ合いながら、情熱的に、しかし一方で冷静に議論し合う言語空間が必要なのだと思うのです。」 
 
 「短歌で社会を歌っても無力だ、という人もいます。しかし東日本大震災では、多くの人々が短歌を作ることで、リアルな人間の記録が生み出されています。デモもよく似ているのですが、一人一人は無力だけれども、多くの人が結集することによって、時代は変化していきます。(略)無力だからといって何もしなければ、未来は変わりません。一首一首の力は非常に小さいけれども、何も表現しなかったら、状況に流されるだけになってしまうのではないでしょうか。」 
 「この連載では、さまざまな立場から短歌に関わっている人たちと対話することで、時代の危機の中でどのような言葉が求められているのかを考えていきたい。もちろん結論が出る問題ではありません。ここで問題提起することによって、さまざまな議論が生まれることを期待しています。生産的な批判は、大歓迎です。」 
 
 一部を引用と言いながら、多くを引用してしまったが、吉川氏の時代認識、危機意識、そして「『歌う』という行為の根幹には、他者に伝えようとする意志があるのだと思うのです。『うたう』=『うつたふ』ことが、今、、非常に重要になっていると感じます。」とする考え方に、筆者は共感を深くする。 
 
 「九条歌人の会」の『歌集 憲法を詠む 第八集』の作品群を読む前に、吉川宏志氏が歌誌『短歌現代』4月号に書いた文章を長く記したが、お許しを願う。 
 
 ◇応募作品集(1人1首)◆ 
オレアベアベ振り込み詐欺のフレーズだ平和安全国民まもる 
                        (東京 小池 勲) 
 
山原も辺野古の海も渡さない九条活かし全基地撤去 
                      (沖縄 こいけいさを) 
 
武器をもて戦ふ道を捨てたりき〈非戦〉の岸に行きむと我ら 
                        (川崎 小市邦子) 
 
八・一五靖国に参る三閣僚すべて女性とは唖然としたり 
                        (東京 河野行廣) 
 
街路樹に吊り下げられし七夕の短冊に有りぬ「九条堅持」と 
                      (神奈川 五木田 功) 
 
茜いろに染まり穏しき夕雲の流されまいぞ無戦派われら 
                        (東京 兒島春代) 
 
久々に三連休とう非正規で働く息子(こ)はひと日眠り続ける 
                      (神奈川 小林加津美) 
 
老鶯の啼ける径の梅雨晴れ間「違憲イケン」と谺のごとし 
                       (東京 小林達之助) 
 
靖国の夫の遺影に語りつつ妻は戦後を生きて百歳 
                        (東京 小林広子) 
 
七十年、奇しくもなどと、みんなみの海に武蔵を顕たしむるあり 
                        (東京 小山榮治) 
 
憲法を護り来し友と憲法が育てし青年今し肩組む 
                        (埼玉 小山尚治) 
 
許さない思いひとつに壇上の人と繋がる三万のひと 
                        (埼玉 斉藤毬子) 
 
はらからのはかり知れぬ血に得し憲法九条に危きことばかまびすし今 
                       (神奈川 酒井典子) 
 
乳飲み児の弟とわれを分つもの 三月十日の壕の泥水 
                       (千葉 佐方美千枝) 
 
ラーゲルの鉄条越しに咲き満つる杏の花に帰国の日を問う 
                       (大阪 佐々木芳春) 
 
沖縄のブーゲンビリアよ永遠に咲け基地なき悲願見届けてなほ 
                      (北海道 笹島こう子) 
 
梅雨晴れに源氏物語の寂聴さん国会前で戦争ノーと 
                        (群馬 佐藤貞雄) 
 
一輪一輪花の命を強(つよ)めつつ九条守れとコスモスは燃ゆ 
                        (千葉 佐藤早苗) 
 
九条を守る女性の輪の中に新しい家族を誘って来よう 
                        (群馬 佐藤幸枝) 
 
わが町の集会・パレードのチラシ手にわたしも歩く戦争法反対 
                        (国立 佐藤洋子) 
 
籠いっぱい手づくりの花に結わえゆく「九条こわすな」ピースアクション 
                        (板橋 佐藤洋子) 
 
幼日も今も恐ろし帰還兵の父が夜な夜なうなされし声 
                        (東京 佐藤豊子) 
 
世の中を大眼で見る平和の花か戦争の雨か 
                       (北海道 宍戸 忠) 
 
筆太に「子孫に残そう九條を」壁新聞國學院大學 
                       (神奈川 清水東子) 
 
「戦争は擬態をなしてしのび寄る「秘密〈保護〉法」「国家〈安全〉保障法」 
                       (埼玉 城間百合子) 
 
憲法を守りまもられ七十年戦後をつなげ平和な日日を 
                        (山形 鈴木 広) 
 
凛として9条がありその日より戦で誰も殺さず死なず 
                        (埼玉 須田英子) 
 
若きらの掲ぐプラカード「九条壊すな」その中にわれも声挙ぐ 
                      (神奈川 須永由紀子) 
 
笑み初めし初曽孫抱けり我が命あるまで平和の世守りゆかん 
                        (埼玉 炭谷素子) 
 
憲法の平和を守る九条と国民を守る九十九条 
                        (東京 相馬里子) 
 
戦死せし父の生涯を問い続くる友の歌集は挽歌におわる 
                        (千葉 園田昭夫) 
 
「九の日」に九条改廃ゆるさじとマイクを握る県民広場 
                        (沖縄 平良宗子) 
 
九条は私のお守り、日本のお守り、世界のお守り、大切に。 
                       (茨城 高井よう子) 
 
急な坂転がるように改憲を急ぐ首相のあの手やこの手 
                        (埼玉 高木昭子) 
 
風評と風化の風が今も吹く智恵子育ちし福島の地に 
                        (茨城 高野フク) 
 
軍艦の模型ばかりが並ぶ店に近づく軍靴人の模型は並ばせまいぞ 
                        (東京 高橋栄子) 
 
「富者の垂らす滴りを待てば福来たる」待てど暮らせど 明日はメーデー 
                        (大阪 高橋貞雄) 
 
「じいちゃんはB29を知ってるよ」ようく聞いとけ五人の孫よ 
                        (埼玉 高橋房子) 
 
不条理のいくさに狩られしはらからとうからの涙今にあらすな 
                        (大阪 高橋光弘) 
 
たんぽぽ/ふぅーっと。/この子らの未来に、/戦争を/持ち込ませない 
                        (福岡 高原伸夫) 
 
病床の妹に送る写メールは「九条壊すな」国会包囲図 
                        (東京 高山永子) 
 
新憲法を学びたる日の黒板の「自由」とう文字今に忘れず 
                        (茨城 田口光子) 
 
戦争をしないという良き伝統十五の少年まっすぐに書く 
                       (群馬 田島千代子) 
 
閖上の防潮堤は七メートル余背のびするなり海は何処かと 
                        (千葉 武田文治) 
 
戦争をしないという良き伝統十五の少年まっすぐに書く 
                       (群馬 田島千代子) 
 
聖戦と逝かせし命ふたたびか日増聴こえる軍靴の響き 
                       (群馬 田中マサ子) 
 
ふたたびは軍靴の響き聞かすまじ歪曲さるる憲法九条 
                        (東京 棚瀬妙子) 
 
九条に守られ平和七十年今こそ守らな愛する九条を 
                       (神奈川 玉水則子) 
 
 次回も『歌集 憲法を詠む』の作品を読んでいく。    (つづく) 


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