2016年07月21日22時19分掲載  無料記事
http://www.nikkanberita.com/print.cgi?id=201607212219354

文化

詩人たちは逝った  エリ・ヴィーゼル著 「夜」  セブリーヌ・ダンフルー(著述家) Severine Danflous 

  詩人たち、証言者たちが息を引きとっていく。そして、再び夜がすべてを覆い隠す。だからこそ、私たちは世界に光を輝かせ、この世界で詩を失わずに生きていくために、力(超人の勇気)が必要だ。 
 
  以下は今月、亡くなったアウシュビッツからの生還者、エリ・ヴィーゼル著「夜」から。 
 
 <ある日、私たちが労働から帰ってくると、召集場所の前に3つの絞首台が設置されていた。3本の黒い縄がついている。召集だ。親衛隊員たちが私たちの前で、機関銃を向けていた。いつもの儀式だ。3人が罪人として鎖に繋がれていた。まだ子供もそこにいる。悲しい目をした天使だった。 
 
  親衛隊員たちは普段より心配そうに見えた。いつもより、不安を漂わせていた。子供を多くの人々の前で吊るすのは軽いことではない。収容所長は判決を読み上げた。みんなの眼差しは子供に注がれていた。少年は蒼白で身動きをほとんどせず、唇を噛みしめていた。絞首刑の台の影が少年に投影されていた。カポー(収容所におけるユダヤ人のナチ協力者)は今回だけは作業を拒んだ。そこで3人の親衛隊員が代わりに位置についた。 
 
  罪を問われた3人は椅子の上に並んで立たされた。3人の首は同時にロープの輪に入れられた。「自由万歳!」2人の男が叫んだ。小さい方は黙っていた。 
 
  「神はどこにおられるのだ?」 
  私の後ろの誰かが問うた。 
 
  収容所長の合図で、3人が乗っている椅子が倒された。絶対の沈黙が収容所全体を包んだ。地平線では太陽が沈もうとしていた。 
 
  「脱帽!」 
 
  収容所長が声を上げた。その声はしわがれていて不明瞭だった。私たちは泣いていた。 
 
  「着帽!」 
 
  行進が始まった。二人の大人はすでに息絶えていた。二人の舌がそれぞれの口から垂れ下がっていた。それは膨らみ、青みを帯びていた。だが、3つめの縄は未だ動いていた。子供は軽かったから、まだ生きていた・・・。30分以上、少年の中で生と死がせめぎ合っていた。私たちの目の前で苦しみ悶えていた。その姿を私たちは正面で見なくてはならなかった。私が行進で前を通りかかったとき、彼はまだ生きていた。少年の舌はまだ赤かった。その眼からはまだ光が消えていなかった。 
 
  私の後ろで男が問いかけていた。 
 
 「神はどこにおられるのか?」 
 
  私は心の中で、何者かがこう答え返すのを耳にした。 
 
  「どこにいるだって? ここだよ。神はたった今、絞首刑にされたのだ。」 
 
  その夜、夕食のスープは死体の味がした・・・> 
 
エリー・ウィーゼル著「夜」(1958年)から 
 
 
セブリーヌ・ダンフルー(Severine Danflous) 
著述家・高校教師 
 
 フランスの中西部に位置するシャラント県アングレーム在住で、高校の国語の教師をしながら本を書いている。著書に「飢餓を書く〜フランツ・カフカ、ポール・オースター、プリモ・レヴィ〜」(Severine Danflous ''Ecrire la faim 〜Franz Kafka, Primo Levi, Paul Auster〜''). 
 
 
※エリ・ヴィーゼル(1928〜2016) 
  ルーマニアのシゲトという町のユダヤ人の家庭に生まれた。1944年、ナチスの占領に伴い、家族ともどもアウュビッツ強制収容所に送られた。アウシュビッツで生き延びたものの家族を殺され孤児となった彼は戦後、フランスに移住。大学では哲学を専攻し、ジャーナリストとして活動を始めた。のちに自らのホロコースト体験を「夜」に記し、1986年にノーベル「平和賞」を受賞。今月の7月2日、ニューヨークで亡くなった。87歳だった。「夜」での体験は1944年から1945年にかけてのことであり、ヴィーぜル氏は未だ16歳くらいの思春期の若者だった。 
 
 
  Les poetes, les temoins s'eteignent et la nuit recouvre tout, il va nous falloir de la force (un courage de surhomme) pour continuer a puiser la lumiere et a habiter poetiquement le monde : 
 
  ''Un jour que nous revenions du travail, nous vimes trois potences dressees sur la place d'appel, trois corbeaux noirs. Appel. Les S.S. autour de nous, les mitrailleuses braquees : la ceremonie traditionnelle. Trois condamnes enchaines - et parmi eux, le petit pipel, l'ange aux yeux tristes. 
 
  Les S.S. paraissaient plus preoccupes, plus inquiets que de coutume. Pendre un gosse devant des milliers de spectateurs n'etait pas une petite affaire. Le chef du camp lut le verdict. Tous les yeux etaient fixes sur l'enfant. Il etait livide, presque calme, se mordant les levres. L'ombre de la potence le recouvrait. 
Le Lagerkapo refusa cette fois de servir de bourreau. Trois S.S. le remplacerent. 
Les trois condamnes monterent ensemble sur leurs chaises. Les trois cous furent introduits en meme temps dans les noeuds coulants. 
 
- Vive la liberte ! crierent les deux adultes. 
 
Le petit, lui, se taisait. 
 
- Ou est le bon Dieu, ou est-il ? demanda quelqu'un derriere moi. 
 
Sur un signe du chef du camp, les trois chaises basculerent. 
Silence absolu dans tout le camp. A l'horizon, le soleil se couchait. 
 
- Decouvrez-vous ! hurla le chef de camp. Sa voix etait rauque. Quant a nous, nous pleurions. 
 
- Couvrez-vous ! 
 
Puis commenca le defile. Les deux adultes ne vivaient plus. Leur langue pendait, grossie, bleutee. Mais la troisieme corde n'etait pas immobile : si leger, l'enfant vivait encore... 
 
Plus d'une demi-heure il resta ainsi a lutter entre la vie et la mort, agonisant sous nos yeux. Et nous devions le regarder bien en face. Il etait encore vivant lorsque je passai devant lui. Sa langue etait encore rouge, ses yeux pas encore eteints. 
 
Derriere moi, j'entendis le meme homme demander : 
- Ou donc est Dieu ? 
Et je sentais en moi une voix qui lui repondait : 
- Ou il est ? Le voici - il est pendu ici, a cette potence... 
Ce soir-la, la soupe avait un gout de cadavre. (...)” 
 
Elie Wiesel, ”La Nuit”, 1958 
 
 
■作家ピーエル・パシェの「眠る力」について  セブリーヌ・ダンフルー(著述家) Severine Danflous 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201606220458133 
 
■どうして事実に縛られるの? インゲボルク・バッハマン著「マリーナ」について  セブリーヌ・ダンフルー(著述家) Severine Danflous 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201607190117042 


Copyright (C) Berita unless otherwise noted.
  • 日刊ベリタに掲載された記事を転載される場合は、有料・無料を問わず、編集部にご連絡ください。ただし、見出しとリード文につきましてはその限りでありません。
  • 印刷媒体向けの記事配信も行っておりますので、記事を利用したい場合は事務局までご連絡下さい。