2016年09月07日01時59分掲載  無料記事
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文化

フランスの前衛的作家ミシェル・ビュトール氏が死去   

  フランスの前衛的作家として知られるミシェル・ビュトール氏が亡くなった。89歳だった。もっとも著名な作品は1957年に発表された「心変わり」という小説であり、原題はLa Modification。これは主人公の男がパリからローマに向けて移動していく際の心境をつづった旅の物語だが、主人公の人称を「 vous = あなた」として書いた新しい文体として話題になったという。 
 
  主人公の人称を「僕」とか「私」という一人称ではなく、二人称にするというこのアイデアは1980年代にアメリカの作家、ジェイ・マキナニーの小説「ブライトライツビッグシティ」で再び脚光を浴びたが、もともとのアイデアはビュトール氏の文学にあるようだ。 
 
  ニューヨークタイムズの追悼記事によると、学生時代はソルボンヌ大学で哲学者のガストン・バシュラールに哲学を習ったという。しかし、教員資格試験に落ちたために、フランス語と文学の教師としてエジプト、ギリシア、英国などに旅をしたとされる。アラン・ロブ=グリエ、ナタリー・サロート、クロード・シモンらとともにヌーボーロマン(新しい小説)と呼ばれるフランスの前衛文学運動の旗手の一人だった。 
 
 
■清水徹訳「心変わり」(岩波文庫)から 
 
「セシルを知るまでのきみには、ローマの主要な遺跡を訪れてみても、また、ローマの気候のよさをいくら認めてはいても、いまのようなローマへの愛情は湧かなかった。彼女とふたりで歩くようになってはじめて、きみはローマをいくらかたんねんに踏査しはじめ、彼女がきみに吹き込む情熱がこの都市のすべての街々をあざやかに彩り、その結果、きみがアンリエットのそばにいてセシルを夢見ると、パリにいてローマを夢見ることとなるのだ」 
 
 
■ミシェル・ビュトール氏の最近の映像 
https://www.youtube.com/watch?v=rT3GGet8wFs 
 
■フランスキュルチュールによる追悼番組(ラジオ) 
https://www.youtube.com/watch?v=RfgzLQDVnYk 
 
■ミシェル・ビュトール氏が自分を変えた生涯の1冊を選べと言われて、アルチュール・ランボーの「イリュミナシオン」を挙げている。それはフランス語で、こんな表現が可能なのか、という驚きと発見を若い学生だったビュトールに与えたという。そして、人生は「イリュミナシオン」を読んだことで大きく変わり、それ以前に比べて知的になれたと思うと語っている。 
https://www.youtube.com/watch?v=0KUCJkhDbK0 


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