2016年09月20日21時39分掲載  無料記事
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文化

米劇作家エドワード・オールビー氏、死す  「動物園物語」 「ヴァージニア・ウルフなんかこわくない」ほか

アメリカの劇作家エドワード・オールビーが逝った。享年88.代表作の1つ、 「ヴァージニア・ウルフなんかこわくない」が新聞の追悼記事で最も触れられている。この劇は映画化もされているが、アメリカの地方大学の教授夫婦の日常を赤裸々に描いた喜劇的な作品だった。しかし、かつてオールビー氏は「不条理演劇」というラベルで紹介されていた。デビュー作の「動物園物語」が普通のドラマとは相当に異なる物語だったからだ。 
 
  30代末の芸術家崩れのような男ジェリーと40代初頭の身なりの良い男ピーターがニューヨークのセントラル・パークの1つのベンチを巡って争うという特異なシチュエーションの話である。ピーターは日曜の午後をベンチで読書にあてている。するとやってきた見知らぬ男が話しかけてくる。最初は適当に返事をしていたピーターだが、ジェリーは次第にそのようなピーターの対応に腹を立て、ピーターの触れられたくない部分まで話でずけずけと踏み込み始める。やがてはベンチを取り合ってジェリーは自分で自分をナイフで刺して死んでしまう。 
 
 ジェリー「ばかばかしいよ、まったく。大の大人がさ。日曜日の真っ昼間の公園でだよ、だァれもなんにもしないのに、金切り声をあげておまわりを呼ぼうってんだからね。もしかりに、だれかノルマを果たしたおまわりがいて、こっちのほうまでぶらついてきたとしてもだ、おそらくあんたが変人扱いされてつかまるのがおちだぜ。」 
 
 ピーター「(不快だが、なすすべもなく)ああ、なんてこった。本を読もうと思ってやって来たら、ベンチをよこせと言うやつがいる。そういうきみこそ狂ってる」 
 
 ジェリー「ねえ、ちょっとしたニュースがあるんだ、お知らせってやつが。あんたの大切なベンチにすわるのはぼくだよ、そうしてあんたはこの先二度とここにいすわることはないぜ。」 
 
 ピーター「(憤激して)おいおい、これは私のベンチだ。理屈に合おうと合うまいともう知っちゃいない。このベンチはほかの人には渡さないぞ。サァ、立て!」 
    (ハヤカワ演劇文庫 鳴海四郎訳から) 
 
 
  ニューヨークの孤独のすさまじさが描かれていると同時に、他人とのコミュニケーションに飢えた人間の姿が印象深い。今日、ソーシャル・メディアで他人と情報や写真をシェアしている人たちも、「動物園物語」と無縁ではないように思える。他人に振り向いてほしい、関心を持ってほしい、適当ではなく深い話もしたい、という欲望。そうした人間が、話し合える相手を持たず、公園にやってきて誰か手当たり次第に絡んでなんでもよいから話をしたいと思う。だが、話しかけられるピーターにとってはよい迷惑だろう。しかし、他人の生活に無関心でいられるピーターもまた私たちの分身でもある。私たちの中には徹底的に自己完結して他人に無関心な自分と、他者に振り向いてほしい、という自分とが同居しているのである。これはアメリカ文明の象徴でもあり、そこにメスを入れたエドワード・オールビーはアーサー・ミラーやテネシーウイリアムズと並んで、現代アメリカ最高峰の劇作家と讃えられている。 
 
 
■1978年のインタビュー 
https://www.youtube.com/watch?v=mYzO2_IbWl4 
(Barbaralee Diamonstein-Spielvoge氏によるインタビュー) 


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