2016年09月29日15時09分掲載  無料記事
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コラム

言葉とその中身  「左翼リベラル」とは何なのか?

  インターネットの世界におけるソーシャルメディアが盛んになって、毎日、各界の著名人のほか、一般の市民もあふれるほど多くの言説〜自己の発言であれ、他人の発言の反復であれ〜を行っています。特に、ツイッターやフェイスブックのように、書き込めるスペースが小さなメディアの場合は言説が基本的に単純化された短いテキストが中心になっています。そうした環境では言葉や概念がそれぞれ何を意味しているのか、その定義を確認し、共通認識を持つことが難しくなっています。 
 
  たとえば「左翼リベラル」という言葉。これが何を意味しているのか、実際には漠然とした印象に過ぎません。そもそも、「左翼」とか、「右翼」という言葉も曖昧になっています。「社会主義」とか、「ファシズム」という言葉もそうです。こうした言葉は時代によっても、人々の認識に変化が起きえます。さらに、その概念自体が「ファシズム」のように、簡単に「一語」で集約しきれない多様な性質を包括している場合もあります。だから、人によってその言葉で何を意味しているのか、前提の把握が異なってくると議論が機能しなくなってくるものです。 
 
  2013年にフランスの極右政党「国民戦線」のマリーヌ・ルペン党首が記者会見を開き、「今後はわが党を極右と呼んだメディアは告訴をする」と恫喝しました。本来、国民戦線は極右と呼ばれてもおかしくない政党であり、初代党首のジャン=マリ・ルペン氏には様々なとんでもない排外主義の発言がありました。しかし、2011年に二代目の党首に就任したマリーヌ・ルペン党首は大統領選で勝つためには二回目の決選投票で勝たなくてはならず、そのためにはソフトなイメージに変身する必要があり、党員にも過去のような甚だしい発言を控えるようにと命じるようになったのです。そのとき、フランスのメディアでは「極右」とは何か?という言葉の定義を、その言葉が生まれた時代から遡って考える特集が新聞・雑誌・ラジオなどでいくつも組まれました。 
 
  「極右とは何か」という言葉は、「極左とは何か」ということにもなり、そもそも右とか左が何を意味しているのか、様々な知識人が登場して持論を展開していたものです。そして、フランスにおける右と左の論争は、今年に入ってさらに新たな影を投じています。それは「労働法改正」問題で大揺れしたように、本来「左」だったはずの社会党政権が産業界と近しくなり、以前の社会党政権が築いた労働者の権利を削る方向に動いていることです。かつて社会党に抱いていた大衆の印象が変わりつつあります。オランド政権の経済大臣であるエマニュエル・マクロン氏は金融界の出身者でもあり、産業界と深いつながりを持っている人物。そのマクロン氏を抜擢したマニュエル・バルス首相はロマ(ジプシー)のキャンプを躊躇なく解体してきた人物です。スペイン系移民のバルス首相自身が東欧から渡ってきたロマの移民放逐を推進しているのです。さらにイスラム系移民によるテロ対策の強化を進めてきました。オランド政権下のこうした閣僚たちが、それまでの社会党とは違った新しい政策に打って出ているのです。 
 
  時代は変わっていくもの。だから言葉が何を意味しているのか、言葉の定義あるいは中身においては歴史的な経緯を考えることと、現在、社会に流通しているその言葉が何を意味しているのか、それら両者の微細なずれを認識することは大切なことではないか、と思います。対象が変化しているだけなのか、概念自体が変化しているのか、ということもあります。その作業をしないと、概念が実態を失い、あるいは実態とずれ、単なる記号と化した空虚な言葉が結果的に都合よく大衆誘導に使われる可能性があります。 
 
 
■ロマ(ジプシー)は国に統合可能か?〜フランスで議論白熱〜(2013年の記事から) 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201310180659035 
「ロマの問題が浮上したきっかけは欧州連合拡大にともなって、ルーマニアとブルガリアからロマが多数、フランスに流入してきたことだった。その数はルモンド紙によると推定1万5千人から2万人にのぼる。ロマのキャンプを解体する作業はサルコジ政権時代から続けられてきているが、オランド大統領のもと、社会党政権のマニュエル・ヴァルス(Manuel Valls)内務大臣も「ロマをフランス国家に統合することは無理。生活習慣があまりにも違っているからだ」と発言したという。ロマの存在は付近住民とのあいだに軋轢を呼び起こす、とヴァルス内相は考えているようだ」 
 
■フランスのロマ(ジプシー) 次々と追い立てられる 
(2012年の記事から) 
 
  ハフィントンポスト仏版は8月30日、さらにフランスでキャンプを撤去させられているロマ(ジプシー)の続報を出している。見出しは「Creteilの64人のロマのキャンプが撤去させられる」先日のEvryに続く行政措置である。マルセイユではおよそ100人のロマが追い立てを食ったとされる。 
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