2016年10月12日13時09分掲載  無料記事
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文化

【核を詠う】(219)『朝日歌壇2015』から原子力詠を読む(3)「福島は遠くにありて川内の原子炉二基が粛粛と立つ」 山崎芳彦

『朝日歌壇2015』から原子力詠を読んできて、今回で終るのだが、作品を読みながら改めて思うのはこの国の原子力政策が、今極めて危険な道を歩みつつあるということだ。広島・長崎の原爆、福島の原発事故によって明らかな、核と人間が共存することは出来ないこと、殺戮と破壊のための核爆弾も、ひとたび過酷事故を起こせば取り返しのつかない災厄をもたらす核発電も、持ってはならないという教訓から真に学ぼうとしないまま、核兵器開発の潜在能力の保持という企みを秘めながら、核発電を国策として推進しようとしていることが明らかになっている。「核武装について国家戦略として考えるべき」というかつての発言を撤回しようとしない防衛大臣を選任し、擁護する総理大臣が、核発電体制を国策として強化する施策の最高責任者である。 
 
 高速増殖炉「もんじゅ」について「廃炉を含む抜本的な見直し」を言いながら、プルトニウム利用の「核燃料サイクル政策を堅持する」のだという。日本の核武装「潜在」能力の確保の狙いが透けて見える。また、内閣府の原子力委員会に設けられた専門部会は、重大な原発事故を起こした電力企業などの賠償責任について、現行の無限責任制度を有限責任制にし、責任限度額を上回る分については国が負担することについての検討を開始した。これは「原発は国策民営で推進されているのだから、事故が起きた時事業者が責任を負わされる制度は不当」だとする電気事業連合会などの要望を受けてのものだが、「原発は国策」をより鮮明にすることで、電力企業の原発事業を支えることになる。東京電力は、廃炉費用への国の支援も求めている。 
 
 さらに、原子炉の制御棒など高レベルの放射性廃棄物の地層処分について、国は「科学的に有望」な場所を年内に提示する方針だが、300メートル以上の深さの地下に核のごみを埋め、300〜400年間は電力会社に管理させ、その後は国が引き継いで10万年間掘削を制限するという構想で、具体的に地図作りに進む、という。だが、核発電をプルサーマル重視で続けながらこのような放射性廃棄物の処分を進めることに同意することはできるはずもない。核発電をやめ、その上でこれまで原発を推進して来た国と原発関連事業者の責任を明確にしたうえで、核のごみの処分方法を国民的な合意と納得、理解の上で将来世代、この国の未来に責任をもてる確信のもとに、考え、決めていかなければならないだろう。 
 
 今、安倍政権とその同調勢力が構成する原子力推進体制は、広島・長崎の原爆被災、福島原発事故による被災によって惨憺たる苦難を強いられている人びとに対する責任をよそに、「戦争できる国」への道と並行して「核エネルギー依存」の道を急いでいる。そのことを、核を詠う短歌作品の多くは厳しく批判している。 
 『朝日歌壇2015』の原子力詠を、今回が最後になるが読む。 
 
「核兵器、絶対失くしてほしいかな」広まる「かな」のあまりの軽さ 
               (9月7日 高野選 富士見市・武川行男) 
 
除染土は永久に日本の一部分どこに置いても誰が埋めても 
               (9月13日 永田選 大船渡市・桃心地) 
 
原爆忌被爆の友とゆめで逢ふあの日思へばこころが痛む 
               (9月13日 佐佐木選 西海市・原田 覺) 
 
原爆を落した国の戦争に従いてゆくのか敗戦国は 
                (9月21日 永田選 堺市・梶田有紀子) 
 
「心配しね、帰村かなへば牛(べこ)育でる」老農は笑ひ目頭に手を 
                (9月21日 馬場選 福島市・斎藤一郎) 
 
赤とんぼとまりたいけどとまれないとまってほしい黒い牛の背 
               (9月28日 馬場選 いわき市・馬目弘平) 
 
避難地で四十五分の鹿舞(ししまい)を受け継ぎ舞う子ら異郷に生きる 
                (9月28日 高野選 福島市・澤 正宏) 
 
追われたる生徒の住みし楢葉町学年主任の教え子訪ぬ 
               (10月5日 佐佐木選 福島市・武藤恒雄) 
 
汚染土の袋を次々洪水が攫(さら)いてゆけりこの責めは誰 
                (10月5日 馬場選 岐阜県・棚橋久子) 
 
浜辺にはオイランアザミ咲き群れて川内原発見ゆるが哀し 
               (10月12日 高野選 熊本市・徳丸征子) 
 
「首都圏の原子炉」と言われる原子力空母当たり前のように居るではないか 
               (10月19日 馬場選 熱海市・宮島郁子) 
 
原爆を落した国への肩入れを涙しており帰らぬ兵士は 
               (10月19日 高野選 長野市・青木武明) 
 
八キロは全数致死のグラフありて原子力空母町に入り来る 
              (10月26日 馬場選 横須賀市・梅田悦子) 
 
相馬港市場の活気取り戻し競りの間(ま)に間に笑い声響く 
              (10月26日 佐佐木選 相馬市・木幡幸子) 
 
「来てくれてうれしかつたよ」無口なる兄言ひしかな塩尻の駅 
              (10月26日 永田選 いわき市・伊藤雅水) 
 
いつまでもこの瀬戸内の秋の日の鯊(はぜ)を釣りたし遠く原発 
                (11月2日 高野選 福山市・武 暁) 
 
子を抱き国境越ゆるシリア難民原発避難のわれらにも似て 
                (11月8日 高野選 国立市・半杭螢子) 
 
黒色のフレコンバッグの積まれゐる飯舘村は紅葉に染まる 
                (11月8日 馬場選 東京都・松崎哲夫) 
 
ヒロシマとナガサキは核フクシマは原子力ならオキナワはなに 
                (11月8日 馬場選 枚方市・石川智子) 
 
福島は遠くにありて川内の原子炉二基が粛粛と立つ 
              (11月16日 馬場選 埼玉県・石塚忠次郎) 
 
兎田(うさぎでん)、猿田、狐田、狸石除染されてく山里の道 
               (11月16日 馬場選 福島市・美原凍子) 
 
山裾の里も田圃(たんぼ)も霧の中ああ原発がまた動き出す 
              (11月16日 佐佐木選 三重県・高山幸子) 
 
またぞろの再稼働へとそちこちの原発すでに隠れ助走す 
              (11月16日 佐佐木選 福島市・美原凍子) 
 
原爆を落せる国の軍隊が七十年経し今も居座る 
              (11月16日 高野選 宇都宮市・渡辺玲子) 
 
曲がれる木のごとく生きよと言いし人長田弘をふくしまに惜しむ 
              (11月30日 佐佐木選 福島市・青木崇郎) 
 
なんてことしてくれたのと子や孫に言われたくなし原発稼働に 
             (11月30日 佐佐木選 船橋市・山三千子) 
 
候補者の名前の連呼ふと止まる「学校だっけ」とマイクに入る 
              (11月30日 佐佐木選 福島市・武藤恒雄) 
 
枯れしもの散りしものみな吹かれいてしぐれは人のこころにぞ降る 
               (11月30日 永田選 福島市・美原凍子) 
 
軍艦も原子炉さえも抱えつつ秋深まりゆくヨコスカの街 
              (11月30日 馬場選 横須賀市・梅田悦子) 
 
保管せる放射能汚染の牧草を被曝の牛に食わすかなしみ 
          (12月7日 馬場・佐々木共選選 南陽市・渋間悦子) 
 
帰還して被爆ひたすら生きてきた七十年よ夢じゃぁないよ 
            (12月7日 佐佐木選 相模原市・日野一閑子) 
 
ヒロシマの北ベトナムのアフガンのイラク、シリアのパリの。青空 
               (12月13日 永田選 宮城県・石川 鋼) 
 
小名浜の魚売り場に小名浜の海の魚の戻らぬ五年 
      (12月13日 永田・馬場・佐々木共選 いわき市・伊藤雅水) 
 
経済は政治の道具となり果てし原発動かし武器輸出する 
              (12月13日 佐佐木選 埼玉県・島村久夫) 
 
黒々と積み上げられしフレコンバッグわれらの帰還をかたく拒みて 
               (12月21日 高野選 国立市・半杭螢子) 
 
 『朝日歌壇2015』から原子力詠を読んできたが、今回で終る。次回も原子力に関わる短歌作品を読んでいく。           (つづく) 


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