2016年10月24日23時24分掲載  無料記事
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TPP/脱グローバリゼーション

行き詰まる新自由主義と“もうひとつ”の世界

 戦後世界を形成していた枠組みが崩れ、新自由主義に基づくグローバル化に時代に入って30年は経つ。東西冷戦が解消し、グロ―バリゼーションの新しい国際的な枠組み・秩序がつくられると誰もが期待したが、そうはならなかった。逆に今、世界は混乱のただ中にある。人びとを豊かにすると考えられてきた市場経済と成長至上主義が逆に中間層の崩壊と貧困の拡大を招いた。それは、長年積み上げられてきた民主主義とそれに基づく近代政治システムを崩し、ナショナリズムと排外主義の横行、「テロリズム」の拡大をもたらした。(大野和興) 
 
 いま人びとは真剣に“そうではない”“もうひとつの世界“の模索を始めている。この9月には、韓国の社会運動が提起した連帯と協同・共生の社会づくりをめざす「ソウル宣言」の国際会議がカナダ・モントリオールで開かれ、日本からも協働運動を引っ提げ、関西生コンを始めいくつかの地域実践からの報告が予定されている。絶望と希望が織りなす世界の現実を追った。(大野和興) 
 
 
◆アベノミクスは終わった 
 
 くどくど言わないでも、現在の経済指標をみれば明らかだ。総務庁「家計調査」でみると、例えば1人当たり消費支出(2人以上世帯)の前年同月比。2014年3月以降、プラスだったのは14年5月だけであとはすべてマイナス。16年7月はマイナス0・5%だった。2000年7月に約36万円だった消費支出(2人以上・勤労者世帯)は16年7月には30万円に下がり、エンゲル係数は21%から25%に上昇した。原因は労働者の実質賃金が減っていることにある 
 
 消費が振るわないからGDP(国内総生産)も伸びない。今年4―6月期の伸び率は前期比0・048%と横ばい。アベノミクスが描いた「企業収益増→賃金増→消費増→企業の投資増」は画に書いた餅に終わり、日本経済は負の循環に入った。経済成長を追求することで全体が豊かになるというシナリオは破たんし、成長を追求すればするほど、一部が富み、大多数が貧困化する時代に入った。世界でも同じことが同時進行している。 
 
◆難民と排外主義の時代 
 
 21世紀は“難民に時代”だったと後世の記されるかもしれない。国家が、地域が、コミュニティが、家族が壊れ、流浪する人々の群れが世界に散っている。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が今年6月20日明らかにしたところによると、世界の難民や難民申請者、国内で住居を追われた人の数の合計が昨年末時点で推計6530万人に上り、第2次世界大戦後で最多となったという。この1年間で500万人の増加を示しており、世界で113人に1人が難民化している。 
 
 難民の増加は、国際政治に新たな状況を生んでいる。UNHCRのフィリッポ・グランディ高等弁務官は、欧州が移民危機への対応に苦慮するなかで高まる「外国人排斥の空気」に懸念を示した。移民・難民の流入は、極右勢力や反移民政策への支持拡大につながっているというのだ。昨年10月にはポーランドで保守強硬派の新政権が誕生。12月に行われたフランスの地方議会選挙の第1回投票では、移民排斥を掲げる極右政党の国民戦線が 大躍進した(決選投票では全敗)。オーストリアでは今年5月24日に投開票された大統領選挙で、難民対策の厳格化を訴える極右政党の候補が首位となり、決選投票進出を決めた。難民受け入れに寛容だったドイツでも、近頃は国民の反難民感情をあおる右派政党が支持率を伸ばしている。 
 
◆システムの破たん 政治も経済も 
 
 アメリカの大統領選は民主党クリントンと共和党トランプの間で争われることになった。当初泡沫候補扱いだったドナルド・トランプが共和党候補にまで上り詰める過程、民主党でクリントンに決まる過程で巻き起こったもう一人の候補者だったバーニー・サンダースをめぐる熱狂をみていると、アメリカだけでなく民主主義国といわれている国家の民主主義政治制度の要に位置する政党というシステムが壊れかけているということを痛感する。 
 
 移民排除を唱える排外主義者トランプと社会民主主義者を自任するサンダースは、両極に位置する政治家である。共通しているのは、どちらも所属する政党の中では異端に属し、最近まで党員でもなかったということと、社会の現状からに不満を持つ人びとの熱狂的な支持を集めたことだ。おまけに二人の支持層はワシントンやウォール街のエスタブリッシュメントに反感を抱く人たちであることで共通する。 
 その背景には、市場経済という東西冷戦終結後の世界の経済をつくりあげてきたシステムの破たんがある。 


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