2016年12月20日16時25分掲載  無料記事
http://www.nikkanberita.com/print.cgi?id=201612201625392

文化

フランス人の風刺歌 「7月14日(パリ祭)」   "14 JUILLET" par OLIVIER HEBERT / DESSINS MUZO

  フランス人の権力批判は風刺漫画だけではなく、歌や詩の分野でも盛んです。フランス人にとってフランス革命こそは近代史上最大の出来事と言えるものですが、その革命を祝う国民的行事、7月14日のパリ祭をモチーフに作られた風刺歌があります。シンガーソングライターのオリビエ・エベール(Olivier Hebert)氏が作った「7月14日(パリ祭)」です。歌のビデオクリップが以下です。フランス人らしいフレッシュでキレのいい歌になっています。 
https://www.youtube.com/watch?v=h2VPpyjMD2Q 
  パリ祭の日に朝早く起きて息子とシャンゼリゼに軍隊の行進を観に出かけた。ぎっしりの人垣の中で午前中いっぱい立ち見していた。夏で暑く、炎天下のお巡りさんは茹っている。 
  行進が終わるとエリゼ宮で野外パーティが行われ、そこにはサルコジ大統領に招待されたジャーナリストや取り巻きの人々が集まっている。彼らはシャンパンを飲みながら権力者に取り入り、お世辞を言っている。またある者は美しい女性にくっついてグラス片手に話し込んでいる。パリ祭を誰も風刺することはない。批判的な人々がパーティに招待されることもない。エリゼ宮にはサルコジ大統領と奥さんで歌手カーラ・ブルニがいて大統領は誇らしげだった。特に美人の奥さんが自慢なのだ。歌い手は息子と二人で一部始終を観察する。 
  そういえば今夜、自分たちの住まいの近くで消防士たちがダンスパーティが開く予定だったと主人公は思い出す。こっちのパーティは招待状なんかいらない。堅苦しいことは抜きの音楽とビールのパーティだ・・・こうした内容の歌です。 
 
  パリ祭の起源は革命だったはずですが、どこか特権の匂いがぷんぷん漂っているようです。この歌を作り、自ら歌ったオリビエ・エベールさんにお聞きしました。 
 
Q どういう動機でこの風刺歌を作ろうとされたんでしょうか? 
 
“C'etait l'epoque ou Sarkozy etait president. Son style egocentrique enervait beaucoup de gens, moi le premier. J'ai voulu me moquer de sa megalomanie. J'avais accompagne mon fils Augustin pour voir le defile, un quatorze Juillet. Ca c'est vrai. Ensuite, j'ai invente une histoire autour de la Garden Party organisee ce jour la par le president (a l'Elysee) a partir de ce que j'ai lu dans les journeaux melange avec notre veritable journee passee avec mon fils Augustin.” 
 
  オリビエ・エベール 
 「この歌を作ったのはサルコジ大統領の時代でした。サルコジ大統領の自己中心的な政治の姿勢は多くの人を憤慨させていました。私は一番最初に憤慨した者です。私は彼の誇大妄想的なところを馬鹿にしたいと思いました。私は息子のオーギュスタンを連れて7月14日、パリ祭に出かけました。そこで軍隊の行進があるんです。ここまではこの歌と同じです。そこに私は創作を加えました。大統領がパリ祭の日にエリゼ宮で野外パーティを催した時の物語です。新聞で知ったその野外パーティをモデルにした創作に私たち親子を潜り込ませてみたわけなんです」 
 
   歌の中の野外パーティのくだりで大統領の取り巻きたちの中にオプチミスト(楽観主義者)という言葉が出てきます。作者のエベールさんによると、サルコジ大統領の周りには何を大統領がしても「OK」と褒めたたえる人たちがいたのだそうです。彼らの目的は褒美が欲しかったのだろう、とエベールさんは言います。その中にはもちろんリビア攻撃も含まれていたのでしょう。 
 
 フランスは一見、思想も表現も自由な国という印象が強くあります。しかし、主要なメディアが販売不振もあり、企業グループの傘下に入っていく現実があり、印象ほどフランスには報道の自由がないと言われています。その意味ではこの歌はサルコジ大統領批判でもあると同時に、ジャーナリズム批判でもあります。 
 
  フランスでは第二次大戦後、ジャック・プレヴェール(Jacques Prevert)という詩人が登場し、庶民の愛を歌うと同時に権力者への批判精神を喚起しました。戦時中に書き続けられ、戦後すぐに編纂されて出版された彼の「言葉たち」(Paroles) と題する詩集はフランス史上最大のヒットを記録しました。この詩集は今日も読み継がれています。権力へのアンチはフランス人の国民的性格と言ってもよいものでしょう。でも、それは同時に権力を取り巻く人々もまた少なからず存在することでもあります。 
 
  このユーチューブにUPされたミュージッククリップの絵を描いたのはパリで活躍中の風刺漫画家、ジャン=フィリップ・ミュゾー(Jean-Philippe Muzo)氏です。歌手のエベール氏と友達でもあるミュゾー氏もまた権力への抵抗を表現してきた漫画家です。このビデオクリップにはミュゾー氏の思いと解釈が色濃く出ています。エベール氏の歌では取り巻きたちの1要素としてさらっと歌われている政府公認のジャーナリストたちが、クリップでは「フランスのTVはサルコジ大統領のテレビだ」とわざわざ文字まで描き込まれています。ジャーナリズムの機能が不十分な国では、こうした風刺作家たちが真実を描くものです。 
 
 
村上良太 
 
 
(以下は歌詞の原詩 フランス語の特有の文字は文字化け対策で英語のアルファベット表記にしています) 
 
"Ce matin avec Augustin, on s'est leve tot, on a pris le metro, Direction les Champs Elysees, pour voir le defile du 14 juillet.Arrives a destination, on etait des centaines de milliers. Agglutines sur le pave toute la matinee.Il faisait chaud sous les kepis a l'heure de la garden-partyEn passant devant l'Elysee, on s'est retrouve parmi les invites: Des journalistes accredites, des habitues du genre optimistes,Et des gens doues pour rester sur la liste, de vrais artistes. 
 
C'EST NORMAL, C'EST QUAND MEME LA FETE NATIONALE. 
ON VA PAS CRITIQUER, ON VA PAS RICANER 
C'EST SPECIAL QUAND MEME LE 14 JUILLET 
ON AIME LE 14 JUILLET 
 
On a appris une grande nouvelle : Le president est tres content.De lui, mais aussi - et c'est important - que sa femme est belle.Alors evidemment, La France a retrouve sa place: Celle de modele de l'humanite.Vous en doutez? oui mais, helas, vous, vous n'etiez pas invites. 
 
C'EST NORMAL, C'EST QUAND MEME LA FETE NATIONALE. 
ON VA PAS CRITIQUER, ON VA PAS RICANER 
C'EST SPECIAL QUAND MEME LE 14 JUILLET 
ON AIME LE 14 JUILLET 
 
L'orchestre alignait les standards, ca jouait aussi des coudes autour du bar. Un vieux senateur se goinfrait, les filles etaient belles et le champagne au frais. 
La bas ! c'est 'Arno Kislapete', Comme toujours attentif a son ego... Et Doc Gyneco qui se colle aux minettes. Quel joli tableau ! Enfin ce soir, dans mon quartier, il y aura le bal des pompiers. On a degage le protocole mais on a garde... la musique et l'alcool !!! On fera bien mousser la biere, Les jeunes danseront la Tektonik. 
Moi je prefere l'accordeon mais je n' suis pas sectaire. 
 
C'EST NORMAL, C'EST QUAND MEME LA FETE NATIONALE. 
ON VA PAS CRITIQUER, ON VA PAS RICANER 
C'EST SPECIAL QUAND MEME LE 14 JUILLET 
ON AIME LE 14 JUILLET " 
 
Paroles et musique: Olivier Hebert (Olivier de Joie) 
Free download: http://soundcloud.com/olivier-hebert/... 
More Downloads: http://olivierhebert.zimbalam.com/ 
 
 
■パリのジャン=フィリップ・ミュゾー(Jean-Philippe Muzo)氏  芸大1年で個展を開いて中退 好きなイラストを描いて50年 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201610140948075 
 
■フィリップ・カテリーヌ(Philippe Katerine)のマリーヌ・ルペンを風刺した歌 
https://www.youtube.com/watch?v=LFa-Qs-GK1g 
 街角でナンパしていたらうっかりマリーヌ・ルペンに声をかけてしまった。やばいので走って逃げたら、追いかけてきた・・・というナンセンスな歌。 
 
■フィリップ・カテリーヌの「ユダヤ人・アラブ人」 
https://www.youtube.com/watch?v=UbbWPDwAVq4 
  フィリップ・カテリーヌ扮するローマ法王らしき人物が半裸の黒人男ばかりたむろしているバーで「ユダヤ人 アラブ人 アラブ人 ユダヤ人・・・」と連呼しながら呪術のように回転し始める。やがて「みんな一緒に・・」と語りかける。 
 
■イタリアの報道の自由と政治の圧力について、未来について、独裁について  Francesco Mazza(イタリアの映画監督) 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201610220207266 


Copyright (C) Berita unless otherwise noted.
  • 日刊ベリタに掲載された記事を転載される場合は、有料・無料を問わず、編集部にご連絡ください。ただし、見出しとリード文につきましてはその限りでありません。
  • 印刷媒体向けの記事配信も行っておりますので、記事を利用したい場合は事務局までご連絡下さい。