2017年01月19日11時28分掲載  無料記事
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文化

[核を詠う](221)『平和万葉集 巻四』から原子力詠を読む(2)「牛飼いの双葉の女(ひと)は置き去りの黒毛白骨と化ししを嘆く」  山崎芳彦

 「わが軍と国会で言ひし安倍首相 その昂揚は限りもあらず」(山崎芳彦) 
筆者のつたない一首だが、「わが軍」は言い間違いではなく、「安保関連法」の成立によって自衛隊が新しいステージに入ったことを、安倍首相だけでなく自衛隊の制服組幹部をはじめ、この国を戦争ができる国にするために営々として、時には「匍匐前進」、また時には「堂々行進」してきた勢力の本音を国会の場で口にしたのであっただろう。言い直しや訂正の方が、彼らの本心とは違うのだ。この歌を作ったあと筆者は、「『戦争をしてはならぬ」と常(つね)言ひし母の墓処に孫と香焚く」、「この孫らいかなる生をとげゆくや戦争法思ひて脳(なづき)の火照る」とも詠ったのであった。『平和万葉集 巻四』を読みながら、つたないながら、敢て筆者の既作を記した。 
 
 防衛省は2017年度予算として総額5兆1685億円を要求しているが、これは前年度比2.3パーセント増の史上最高額である。その中に、「安全保障技術研究推進制度」(2015年度制度開始)予算110億円が盛り込まれ、2016年度の6億円から18倍増の予算案となっていることが注目されている。金額の増加もさることながら、安倍政権が従来からの国是であった「武器輸出三原則」を投げ捨て「防衛装備移転三原則」を閣議決定(2014年4月)して武器輸出に舵を切り「死の商人」国家となる方針を定め、それに見合って軍事研究に大学や研究者を誘い込もうとする明確な意図をもっての施策であることが大きな問題である。 
 
 池内了氏(名古屋大学名誉教授)は「軍学共同」が進みつつある現状と将来に警鐘を鳴らし、反対運動に積極的に取り組んでいるが、軍学共同について、 
 「安倍政府の下で急速に進展している。そのキッカケは3つの閣議決定だった。2013年の閣議決定の直前に特定秘密保護法を通し、その後すぐに国家安全保障戦略と防衛大綱の閣議決定をした。軍学共同はこの3つの閣議決定の下で以下の3点が現在実際に進行しつつある。(1)『防衛生産の技術的基盤の戦略』は主に防衛省が進めている戦略『デュアルユース技術の利用』というもので、軍事にも転用可能な民生技術を積極的に活用しようとしている。(2)『軍学共同の本格的推進』では、大学・研究機関との連携を強めようとしている。『安全保障技術研究推進制度』によって防衛省が大学・研究機関、企業と連携していくことを指している。(3)『軍産複合体の形成と武器輸出の本格的推進』で具体的に出てきたのが武器輸出三原則の見直し、防衛装備移転三原則の閣議決定である。これが引き金になって次次と具体的な政策として、あるいは戦略として打ち出されてきたことは明白だ。 
 軍学共同、軍=防衛省、学=大学・研究機関の研究者との共同研究ということで、あたかも対等な関係にあるように見えるが、明らかに大学・研究機関が軍事研究の下請け機関となる。正直にいえば金に釣られて学者が軍事研究に走るということだ。(略)2015年度から始まった安全保障技術研究推進制度は競争的資金制度であって、防衛省と研究機関の委託契約で、研究者は研究分担者である。研究機関と防衛省が契約する。研究者には研究分担金が出る。研究者を釣りながら、研究機関を丸ごと取り込むものではないか。(以下略)」(2016年5月29日に京都大学で開催された「"軍学共同"反対シンポジウム―—平和のための学術を求めて」(安保関連法に反対する学者の会主催)における基調講演「軍学共同の現在と学術の将来」より引用)と指摘している。 
 
 池内氏はさらに、日本学術会議の動向について、「かつての日本学術会議はいろいろあったが、基本的には軍事研究に携わった戦争への反省から軍事研究はしないとしてきた。(略)1950年の第六回総会では『科学者としての節操を守るために、戦争を目的とする科学の研究には今後絶対に従わない固い決意を表明する』と決議した。『科学者としての節操を守る』というのは、戦前戦中の科学者は軍部に対して科学者としての節操を失った、これは恥ずかしいことであるとされた。(略)現在の日本学術会議にはこのような明確な態度は見られない。(略)そのような中で今年の総会の議論になり、ようやく5月20日、『安全保障と学術に関する検討委員会』が設置された。会議は公開されるべきで、したがって傍聴も自由にすることを私は要望したい。…科学研究は国民によって支えられている。…だから国民からの意見をきちんと聞くべきだと思う。そして、これまでの決議を変更する場合は総会で決議すべきだと思っている。国民の目の前で態度を明確に示すべきだ。日本の学術がこれから軍事化されていくかどうかの正念場である。」と述べ、 
 「自民党国防部会は軍事研究予算を100億円(当初30億円)に増やせと圧力をかけている。そうなれば大学が、学術が変質しないわけがない。日本学術会議の検討委員会がどんな結論を出すか、大きな影響を与える。」 
 「有り体にいえば誰もが研究援助機関、補助機関からの研究費で研究を行うことを望んでいるわけで、研究資金がないことが引き金になっている。・・・研究費が貧困、枯渇する状態にして、軍事研究に頼らざるを得ない状況に研究者を追いこんでいく。まさに"研究者版経済徴兵制度"ともいえる軍事研究への誘導制度だ。…軍学共同が進行していけば大学の自治は失われ、学問の自由を奪われる。秘密研究は成果を秘匿する。そして研究現場は委縮していき、研究者の精神的堕落が起こる。真理のための研究でない空しさに陥る。そして学生への悪影響など深刻な問題となる。」と警鐘を鳴らす。(同上の講演) 
 
 「戦争法」の下で、さまざまな局面、分野で「戦前」への逆流ともいうべき策動が進められている。『平和万葉集 巻四』の「まえがき」には、「いま憲法九条を無視して日本を戦争の出来る国に作り変えようとする勢力と平和憲法を守り、平和国家に踏みとどまろうとする平和・民主・進歩勢力との間に、日本の平和と戦争の岐路をめぐるたたかいがさし迫ったものとなっています。」と記されているが、上記した池内氏の講演の内容はそのことを明確に告げるものと言える。 
 
 池内了氏の講演から多く引用させていただいたが、『平和万葉集』の作品を読むうえで、筆者は強い感銘を受けた。(池内氏の講演内容は、「軍学共同の現在と学術の将来 池内了」で検索した中から一部を引用したものてある。なお、1月12日付『朝日新聞』朝刊のオピニオン&フォーラム「大学と軍事研究」に池内氏と大西隆日本学術会議会長の「争論」があり、筆者は興味深く読んだ。) 
 
 『平和万葉集 巻四』から原子力詠を、前回に続いて読み継ぐ。 
 
▼原爆の灯(ひ)は雲林院に守りつがれあかあかと燃ゆ障るものなく 
太田川に水を求むる被爆者のすがた目に見ゆ八月六日 
                        (大阪市・尾上郁子) 
 
▼崩れゆく原発列島に盾のごと汚染水タンク列なして立つ 
ふるさとを奪われし人の無念さよ「原発ゼロ」署名に力をこめる 
                       (東京都・小野田俊男) 
 
▼富岡の時計は二時四六分にて三年過ぎたり三・一 一 
汚染土を詰めし袋は黒々と農家の庭に人寄せつけず 
                      (東京都・小野田明理子) 
 
▼原発の最終処理が子や孫らに禍根のこさずや危機感覚ゆ 
                        (館林市・笠原容子) 
 
▼原爆歌一首が初作それ以来読み続け来しわが半生か 
被爆三世の会の成りたり原爆の伝承可能にひとまづ安堵 
                        (伊東市・加藤紀子) 
 
▼年々に怒り深くし八月の忌日を迎ふ 原爆は大罪(二〇一五年) 
                        (京都市・神谷佳子) 
 
▼むしろ旗を船にかかげて拒否したる歴史の丹後に原発はなし 
                        (京都市・河嶋朝代) 
 
▼「ヒロシマで来年も又会いましょう」若き語気にて被爆者は言う 
▼原爆で死にし人らも七十年「ヒロシマの悲歌」蝉時雨降る 
                        (大垣市・河村 恵) 
 
▼ドイツ首相脱原発へと転換すなぜわが首相決断せぬのか 
                       (各務原市・木村峰子) 
 
▼「納骨も法要もできぬ」と楢葉町の住職涙を拭い絶句す 
                        (稲城市・草間俊子) 
 
▼被災地の復興示し原発は要らぬ国とて五輪迎えん 
                        (日向市・黒木直行) 
 
▼「仮設住宅でがんばってっから」と墓に告げるこんな家族に誰がなしたる 
                        (稲城市・小泉修一) 
 
▼巻町の住民投票は「原発NO」未来を恃む一途さに哭く 
                       (国分寺市・小柳靖子) 
 
▼原発の三〇キロ圏に住む義姉がためらいて問う新じゃが送付 
飯舘に二度目の秋の巡りきて無人の家にコスモスの咲く 
                       (横浜市・斉藤まさ子) 
 
▼原発も沖縄の基地もひとつ目の禍なりてひとは苦しむ 
                        (深谷市・斉藤毬子) 
 
▼五月雨に深紅のバラは炎えたちて原発NOの怒り満ちくる 
                        (岡山市・斉藤玲子) 
 
▼当り前の如く首都圏基地化して原子力空母も絶えず出入す 
                        (横浜市・坂本雄一) 
 
▼死の商人アベノミクスで復活し世界に売り込む原発兵器 
                       (立川市・佐々木ひろ) 
 
▼アトムズ・フォー・ピースの偽るその極み3・11フクシマに見る 
原発は廃炉と唱う今なればラップ調にも違和感は無く 
                        (高島市・佐藤靖彦) 
 
▼核の傘とうことば古びて核あまた地球を埋め傘にならざる 
                        (横浜市・佐波洋子) 
 
▼核兵器廃絶の署名に核兵器絶対ダメヨ!と初老の女性 
                        (神戸市・塩野菜美) 
 
▼めぐりこし八月の一日(ひとひ)鶴を折り平和をねがう幼とともに 
                        (川崎市・白神幸子) 
 
▼原爆に友を亡くせし老人が命の長さ誰が決めるとう 
                        (日立市・菅原恵子) 
 
▼幾十万のみ霊は叫ぶ「広島をまどうてくれ」と七十年過ぎしも 
                        (吹田市・須藤淑子) 
 
▼原爆の日の黙祷を捧げ合う原発ゼロへの誓いも固めて 
                        (所沢市・春原利夫) 
 
▼被爆者と呼ばれし父母に誓う夏 原爆使用みたび許さず 
                        (大津市・角 悦子) 
 
▼核兵器の紛うことなき抑止力ナガサキ・ヒロシマは火のことばなり 
                        (町田市・千把京子) 
 
▼牛乳をしぼり廃棄をくりかえし牛飼(か)いは自死す原発はいらぬ 
                        (大津市・挊田富子) 
 
▼いくたびの被曝体験ありてなお原発輸出を言う国に住む 
                        (前橋市・滝沢 貞) 
 
▼「生命(いのち)返せ」「人間返せ」の声聞こゆカンナ燃え咲く今年の夏も 
被爆せし樹より創られしコカリナは核廃絶を響かせており 
                       (大阪市・多久島淳子) 
 
▼牛飼いの双葉の女(ひと)は置き去りの黒毛白骨と化ししを嘆く 
                        (久喜市・武井幸子) 
 
▼人の他にどれだけの命消えただろう原爆投下の広島、長崎 
                       (八幡平市・竹内裕子) 
 
▼自然破壊の原発事故を顧みず再稼働急ぐ政権怖し 
                        (東京都・田中房子) 
 
▼原発の反対行動重ね来て百七十回目の月を眺める 
                        (徳島県・田村幸子) 
 
▼ピカの日の骨埋まるはも公園を素足で歩めととたれも言わなくに 
                        (広島市・田村陽子) 
 
▼原爆展のパネルに見いる若者の背に明るい窓辺の光 
                        (茨城県・寺門三男) 
 
▼杖二本と電柱にもたれマイク持ち脱原発を夫は訴え 
                        (士別市・寺下栄子) 
 
▼山裾を廻れば原発潜み居る常宮の浜ののどかなる今日 
                        (京都市・寺田國男) 
 
▼ふるさとの祝島なる原発の中止を願ふ美しき海を 
                       (立川市・遠役らく子) 
 
▼式典前の話題はなやぐ新成人にうながしてゆく核廃絶署名 
                        (松坂市・中島通子) 
 
▼ヒロシマの救護看護婦なりし君 花の十八歳(じゅうはち)、夏、被爆せり 
蛆にまみれもだえ死にゆく被爆者に無力なりしと君は哭きたり(戦後五十年にして) 
                       (大阪市・長畑望登子) 
 
▼大量の被ばくで心が折れるとう事故収束の言葉かすみぬ 
                        (盛岡市・中村則男) 
 
▼子や孫に残しちゃならないものがある原爆原発米軍基地よ 
八月六日(あのひ)から止りしままのこの時間(とき)は帰らぬ吾子待つ母も逝く 
                        (宝塚市・西澤 慎) 
 
 次回も『平和万葉集 巻四』から原子力詠を読む     (つづく) 


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