2017年02月12日10時53分掲載  無料記事
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文化

【核を詠う】(223)『平和万葉集巻四』から原子力詠を読む(4)「お金よりいのち認めた差し止めに漁火は燃ゆる若狭の海に」  山崎芳彦

 『平和万葉集巻四』を読み、原子力詠として筆者が読んだ作品を記録してきたが、今回で終る。同集のすべての作品を読んだのだが、この連載の意図が「核を詠う」短歌作品を読み記録することにあるので、同集に収録された貴重な、今日の時代と向かい合い、平和と民主主義、憲法の精神に立って、許し難い逆流政治と対峙する多くの作品群を記録することができないことに強い心残りがある。同集に収載された作品一首一首の背後には、作者一人一人にとどまらない多くの人びとの強い思いが込められているはずである。そのことを思いながら、もとより作品それぞれに寄せる筆者の感慨は必ずしも単純ではないが、しかし大切に読んだ。「平和」を冠した万葉集が編める時代を失ってはならない。 
 
 いまの安倍政権とその同調勢力が企む内外政策が、安倍以前からの長く、さまざまな手法を重ねての、現憲法の平和と民主主義、主権在民の根幹を切り崩し、腐食させようとする企みのさらなる大きな一歩であることは、現在の自民党とその同調勢力につながる系譜が支配してきた戦後政治の歴史の底流を点検すれば明らかだと思う。もちろんのことだが、その逆流に抗し、堰き止めようとする粘り強く強靭な闘い、抵抗が一本道の反民主主義、憲法破壊、国民の基本的人権の剥奪、専制的な支配を許さない力を発揮してきたこと、いまもそのたたかいの構築のための取り組みが行われている。『平和万葉集巻四』の刊行もその取り組みの一つであろう。 
 
 同集の「あとがき」は「(『平和万葉集巻四』の作品募集後の)一年だけでも、つぎつぎと目のあたりに展開したものは(「現在、戦後に国民誰しもが心から願ったはずの平和と民主主義の現実はどうか」という)杞憂を、まるで現実化していくかのように、国民の大多数の声や疑問に応えることもせず、ついに昨年9月19日、国会の中だけでの多数で『安保法制』(『戦争法』)を強行成立させるという、政権の暴挙でした。戦争放棄から、戦争讃歌へと、戦後の『平和と民主主義』の無謀で、最悪な転換であり、危険な岐路に立っています。」と記している。 
 
 
 『昭和万葉集巻七』(昭和20〜22年)に「新憲法成る」の項に、 
○われらとはに戦はざらむかく誓ひ干戈(かんくわ)はすてつ人類のため 
                          (土岐善麿) 
○ひかりある時世(ときよ)来んとぞ新憲法(にひのり)の戦争抛棄をまさに記しぬ 
                         (田辺杜詩花) 
○新憲法成りたるときの国会の一瞬のしじま忘れて思(も)へや 
                          (入江俊郎) 
○敗れたる国のまほらに新しきおきてをつくる責(せめ)のゆゆしさ 
                         (井出一太郎) 
 などの歌が載っている。そして、『昭和萬葉集巻九』(昭和25〜26年)には、朝鮮戦争を機に占領軍司令官マッカーサー元帥の命令により警察予備隊が創設され再軍備への歩みが急速に進んだことを歌った短歌作品が採録されている。そのいくつかを抽いて記しておきたい。 
 
○言ふはみな祖国のためと拾万に余る警察予備隊志願者 
                          (中山 勝) 
○予備隊に志願するてふ若者の遊びに行く如きもの云ひをせる 
                        (佐佐木正太郎) 
○カービン銃の操作にふれつつ弟が予備隊五ヶ月の言葉するどし 
                          (島村高志) 
○農を疎(うと)み職の無ければ予備隊に行きし何万人かその中の弟 
                          (小谷 稔) 
○遠くより近づき来るを意識してわれは聴きをり再武装の声 
                          (倉科果村) 
○たたかひを放棄(すて)たる国を武装せよと海越えて遠きくにより伝ふ 
                          (金子鈴穂) 
○再軍備言ふ世となりて今更の遺族補償策憎みつつをり 
                          (島千里) 
○軍隊がなくて六年軍隊をおこす言葉が日本に満つ 
                          (中井正義) 
○再軍備説きやまぬ君の右頬に光るわが縫ひし弾創の痕 
                          (笹川路加) 
○人的資源といふ語がまたも世に出でぬ路傍に蜜柑を叩き売る声 
武器捨てよ武器取り立てといふ声すわずか五年の月日と思ふに 
                          (太田青丘) 
○一様にほろを垂れたる護送車の柩の如く今朝もつづけり 
農村は今は戦ひを待つと言ふことばの後にむなしき時間 
戦争を拒まむとする学生ら黒く喪の列の如く過ぎ行く 
                          (近藤芳美) 
 
 逆コースへの道が進んでいったのであった。『昭和萬葉集』の歌を抽いたが、戦後間もない時期からこの国が、憲法ができても、その精神を傷つけ、形骸化するアメリカ・日本政府による策動と平和と民主主義を求め守る人びとの闘いが続いてきていることの一端を振り返りたいと思ったからである。 
 
 『平和万葉集巻四』の原子力詠を記録していく。 
 
▼桃の皮そうっとむけばフクシマの果物農家の無念思わる 
                         (札幌市・姉崎雅子) 
 
▼ごうごうと日本が哭く地震・津波・火山・原発・秘密保護法 
                       (さいたま市・沖ななも) 
 
▼満州で 原発事故で二度棄民 三度許さぬ 戦争(いくさ) 原発 
                      (須賀川市・片野ミチ子) 
 
▼原発も武器も売ります—―次第では完全装備の"兵"もあります 
                        (立川市・小石雅夫) 
 
▼武器輸出・原発稼働・カジノ誘致アベノミクスは誰を潤す 
                       (深谷市・下村すみよ) 
 
▼ヒロシマを「まどうてくれ」と叫ぶ声 聞こえていますか総理大臣 
                        (守口市・中嶋順子) 
 
▼「核なくせ」弥生の空に乙女らは白き腕(かいな)を汗ごと上げる 
                        (都城市・萩原静夫) 
 
▼原発を再稼働させ戦争を手伝うと決めた神住まう国 
                        (東京都・山田 泉) 
             (以上第4章「忍び寄る足音と目覚め」より) 
 
▼日焼けした孫の背流す戦地へは行かせぬ決意 被爆国我等 
                       (松山市・青木香代子) 
 
▼孫たちの目につく所に並べ置く『はだしのゲン』を全巻揃え 
                       (東京都・赤司喜美子) 
 
▼ヒロシマとナガサキの日を忘れまい母の命日八月四日 
                        (長野市・磯野智子) 
 
▼原爆の悲惨と平和を語りつぐアルゲリッチのベートーベンを聴く 
                        (高松市・上田光子) 
 
▼夫と旅せしペトロザポーツクの街角で「ヒロシマ・ナガサキ」声かけられたり 
                        (宇治市・奥田宣子) 
 
▼弟の亡骸背負いて直立す凛々しき少年長崎の夏 
                       (狛江市・小俣眞智子) 
 
▼嘘の壁厚くなりゆくフクシマの原発事故地に三度目の梅雨 
                        (京都市・菊田弘子) 
 
▼意をこめて原爆語り継がん放射能いまだ降りつづく国の八月 
七十年の歳月語り伝えつつことさら暑しこの八月は 
                       (伊勢原市・古菅康子) 
 
▼杖に凭るひとりが見入る白黒の写真一枚「原爆展」に 
                       (川崎市・須永由紀子) 
 
▼嫁ぐ孫に原爆の悲惨見せたしとシルバーカー押してゆく長崎の旅 
                     (東久留米市・手先久美子) 
 
▼子と妻の寝息静かに聞こえくる部屋に編みたる反核特集 
                      (横浜市・内藤嘉利 故人) 
 
▼寂しければ日記に胸の内洩らし被爆の妻の四回忌せむ 
半年余は旅行自粛に耐へをれど会津みしらず菊の二本松 
                        (北本市・三好あきを) 
 
▼原発と武器を輸出しカジノまでつくらむとして美(は)しき国とは 
                         (高知市・山本晶子) 
                  (以上第五章「日常のなかに生きる) 
 
▼原空母入港するとう横須賀港今ぞ聴くべしわだつみの声 
                        (横須賀市・安藤寿子) 
 
▼原爆は戦争終結早めたと物知り顔に日本女性が 
カナダにて朝のラジオを聴いている潘氏のスピーチ広島の蝉 
                         (カナダ・鵜沢 梢) 
 
▼星野村の平和の塔に青々と炎三つ四つ原爆の火は燃ゆ 
                        (宗像市・大山志津子) 
 
▼ナガサキの「あの日」を語る聾唖者の激しく動く手話の指先 
                        (横浜市・小川仙太郎) 
 
▼ニューヨーク核禁止署名訴える名を記し人の肌の多様さ 
                         (千葉市・筧美智子) 
 
▼原爆忌の祈りは深し 空色の朝顔あまた咲ける朝を 
                        (枚方市・加嶋のぶ) 
 
▼お金よりいのち認めた差し止めに漁火は燃ゆる若狭の海に 
                         (堺市・金森 薫) 
 
▼巻原発炉心に近きは反対の住民の手にありきつと永久に 
                        (新潟市・亀山和子) 
 
▼造反をもたざることが負目にて核兵器反対の署名に参加す 
                        (平塚市・亀山桃子) 
 
▼暗き世に希望の種はここにあり若きら叫ぶ原発ゼロにと 
                        (岐阜市・河村美枝) 
 
▼原発は核兵器への証だというのがゼロにならない理由 
                       (上田市・小井土幸好) 
 
▼弁当は詰めたてのまま炭化せり八月六日のその朝のまま 
                        (町田市・小松徹子) 
 
▼広島に届く一千万の折鶴とわたしの十羽も飛び立て未来に 
                        (桐生市・佐藤幸枝) 
 
▼デモ・署名・集会も大きな力にて今「原発」はすべて止まりぬ 
四年経て廃炉の思いより強し怒りて今日も官邸の前 
                        (東京都・佐藤よし) 
 
▼長崎に原爆が投下されし日に生を受ければ「平和の申し子」 
                        (東京都・杉原日出子) 
 
▼原発は/あの原爆の/異母兄弟/一皮むけば/人間をボロ布(きれ)にする 
                         (福岡市・高原伸夫) 
 
▼宣伝カーに立ち/原発廃止を訴える/候補者も、集まった聴衆も、/炎天下である 
                     (春日井市・田中 収 故人) 
 
▼ポツダムのヒロシマ・長崎の被爆石に陽は降りそそぎ月は照らしぬ 
チェルノブイリ事故訴うるナターシャグジーは「故郷(ふるさと)」歌う福島の子らと 
                         (奈良市・道満喜子) 
 
▼フクシマの廃炉の道も見えぬのに原発稼働を誰が喜ぶ 
                       (八尾市・ぬのびき球子) 
 
▼紅白のタチアオイ咲く尾張野を「ノーモアヒロシマ」と行進は行く 
                       (北名古屋市・半谷弘男) 
 
▼大宇宙にただ一つ 核に焼かれたる国あり。太陽系第三惑星 
猛暑いつまで、「姿なき女の子」とびらをたたく。「署名を下さい」 
                       (川崎市・ふくだゆきを) 
 
▼核・武器の製造などは許さないいのち詩いあう緑の星に 
                         (東京都・森 照美) 
                    (以上第6章「希望へつないで」) 
 
 次回からも原子力詠を読んでいく。           (つづく) 


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