2017年02月18日12時44分掲載  無料記事
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TPP/脱グローバリゼーション

TPP亡き後の自由貿易交渉はどうなるか 日欧、東西アジア太平洋を結ぶメガFTAを中心に考える

 トランプ米大統領の出現で、TPP(環太平洋経済連携協定)は破たんした。トランプの米国は「アメリカ・ファースト」を掲げ、保護への傾斜を強めている。対外的な通商政策は、多国間ではなくアメリカの強さを直接反映できる二国間交渉で行う方向を打ち出している。日米FTA(自由貿易協定)に安倍政権も舵を切り始めた。その中で今、国内では改めて日欧EPA(経済連携協定)とRCEP(東アジア地域包括的経済連携)が注目を集めている。それはいったいどういうものか、そこでは何が進もうとしているのか、まとめてみた。(大野和興) 
 
◆すべて秘密交渉で 
 
 メガFTAと呼ばれるこれらの経済連携交渉に共通しているには、これまで何度も実務者レベルの交渉を繰り返しているにもかかわらず、政府からの情報提示はほぼ皆無といってよい状況にあることだ。その意味ではTPPと似ている。TPPの場合は、市民・関係団体の反対運動などがあって、海外の市民組織などとも連携を取りながら交渉経過をある程度ウオッチすることができた。しかし、日欧ETAやRCEPの場合、市民の関心も高くなく、メディアの報道も少ないため、政府の情報を隠すことができた。 
 
 例えば2016年9月26日から30日にかけ、ブリュッセルで日欧EPAの交渉が行われた。EUのウエブサイトをのぞくと、13分野の交渉経過について7ページにわたる報告が出てくる。これに対して日本の外務省のサイトは、箇条書きで4項目6行のみ。分野名も6分野しか挙げていない。つまり日本の国民は、何が交渉されているかすら知らされていないことになる。 
 
 RCEPは、AEAN(東南アジア諸国連合)10か国と日本、中国、韓国、インド、オーストラリア、ニュージーランドの16カ国で交渉が行われている巨大な貿易・投資。サービスを含む交渉だ。TPPがアメリカ主導だったのに比べ、RCEPは中国主導で進んでいるともいわれている。 
 
 いずれにしても、東アジアから西アジア、太平洋にまで広がる広大な市場を包み込む文字通りのメガFTAである。RCEPはこれまで16回の交渉会合を持ってきたが、交渉経過は秘密とされ、案文などは一切公開されていない。 
 
◆多岐にわたる交渉分野 
 
 日欧もRCEPもこれまでTPPと並行の形で交渉は進められていたが、日本政府は通商交渉の主力をTPPに集中し、アベノミクス成功のカギを握るものとして、力を入れてきた。しかしTPPが頓挫したことで政府は通商戦略の見直しを迫られ、来るべく日米FTAを含め日欧EPA、RCEPなどを総合的、戦略的に扱う交渉の体制づくり整備を余儀なくされている。なにしろ「日本+EU」、RECEP16カ国とも、GDPはそれぞれ世界の三割を占める巨大市場なので、そこで何を譲り、何を獲得するかは日本の国民生活に直接響く事柄なのである。 
 
 交渉の分野も、TPPに匹敵する多岐の分野にわたり、さまざまの交易、投資をめぐるルールが決められる。その範囲も工業製品、農産物、生活用品、電子商取引、サービス。政府調達、投資、紛争解決その他に拡がる。EUの場合は環境問題が重視され、RCEPでは多様な文化・民族・宗教といった多様性をどう尊重しあうかという課題が浮かび上がる。 
 
 同時に交渉国はいずれもスピード感をもった早い合意を目指していることでも、二つのメガFTAは重なる。EUは3月以降オランダ、ドイツ、フランスと国政選挙が相次ぐ、イギリスにEU離脱交渉も始まる。その前に大筋合意にもっていきたいというのが、双方の思惑だ。またRCEPの場合は、中国が主導権を発揮してとりまとめ、大中華圏構想ともいうべき「一帯一路」の推進力としたいという思いがある。 
 
 だが、トランプ大統領の出現に象徴される世界の激動と反グローバリゼーションの台頭のなかで、メガFTAそのものの存在さえ問われる次代はいったいま、この先の予測は難しい。 


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