2017年03月22日13時08分掲載  無料記事
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TPP/脱グローバリゼーション

『保護貿易 vs. 自由貿易』ではなく『公正に基づいた貿易』 池住義憲

 英国は、昨年6月の国民投票でEU離脱を表明。今年1月発足した米・トランプ政権は保護主義を掲げ、同月下旬、英国のEU離脱を称賛しました。これににより、世界が大きく揺れています。 
 
◆保護貿易か、自由貿易か 
 
 本来、自由貿易は経済成長を促し、その果実で傷みを受けた人々を支援する、とされてきました。しかし、そうはならなかった。それどころか、行き過ぎた経済グローバル化は、格差を拡大し、先進国の賃金を下げ、雇用を奪った。自由貿易は「善」、保護貿易は「悪」とする新自由主義経済を謳歌してきたのは、米英両国です。その米英両国で、揺り戻しが起こっているのです。 
 
 3月17〜18日ドイツで開催された財務省・中央銀行総裁会議(G20)は、これまで堅持してきた「保護主義に対抗する」という文言を声明から削除。貿易体制そのものが揺れ動き始めています。G20が終わるやいなや、安倍首相は、EU加盟主要国ドイツ、フランス、イタリヤ、ベルギーを歴訪。自由貿易推進の重要性を説いて回っています。 
 
◆もう一つの選択肢 
 
 私は、「A(自由貿易)かB(保護貿易)?」という単純化した二者択一の議論には、与(くみ)しません。「自由貿易」と「保護貿易」の二つの選択肢しか設定されない考え方・枠組みに、私は与しまえん。もう一つの、選択肢があるのです。それは、「公正に基づいた貿易」。 
 
 私は、国際貿易そのものを否定していません。異なる民族や異なる文化・価値観・宗教が行き来することは、人を、社会を、国を豊かにする。ただし、条件があります。その条件とは、 
(1)各国経済、各地域経済の多様性を損ねないこと、 
(2)社会・文化の多様性を損ねないこと、 
(3)環境保全と生物多様性を損ねないこと。 
 
 この三つの多様性を判断する基準は、すでにあります。労働・雇用に関しては、国際労働基準を定めた国際労働条約(ILO条約)。二国間・多国間問わずいかなる経済協定であっても、ILO条約に沿ったものでなければならない。その基準を下回ってはならない。 
 
 経済および社会・文化の多様性については、1995年にデンマークで開催された世界社会開発サミットでの「コペンハーゲン宣言及び行動計画」 。さらには、飢餓人口8億人の半減を宣言し、世界食料安全保障の達成を謳った、1996年の世界食糧サミットでの「ローマ宣言」。二国間・多国間問わずいかなる経済協定であっても、これを下回ってはならない。 
 
 環境と開発に関しては、1992年、リオ・デ・ジャネイロで採択された「リオ宣言」 と、その行動計画である「アジェンダ21」を下回ってはならない。二国間・多国間問わずいかなる経済協定であっても、この宣言と行動計画を最大限、尊重しなければならない。 
 
●「公正に基づいた貿易」 
 
 保護貿易か自由貿易かの二者択一でなく、もう一つの選択肢。それは「公正にもとづいた貿易」です。 
 
 辞書にはまだ載っていませんが、「ジャストピース」(Justpeace)という言葉があります。「公正にもとづいた平和」、という意味です。ジャストピースのジャスト(Just)は、「公正・正義」。この場合、大切なことは、自分たち地域だけの公正・正義でなく、他の地域・社会・国の公正・正義も含む、ということ。その「ジャスト」(Just)と「平和」(Peace)の二語を組み合わせたのがこの言葉です。 
 
 別の言い方をすると、ある人・ある地域を犠牲にして成り立っている平和はジャストピースではない、ということ。たとえば、先住民であるアイヌの人たちの土地を収奪し、北海道旧土人保護法(1899〜1997年)の下で長きにわたる差別(意識・無意識を問わず)の上に成り立っていた日本の”平和”と”繁栄”は、ジャストピースではない。ジャストピースとは呼ばない。米軍基地/施設の74%を、国土面積のわずか0.6%の沖縄に押し付けて成り立っている日本の”平和”と”繁栄”と”安全”は、ジャストピースではない。ジャストピースとは呼ばない。 
 
 貿易も、同じです。他者、他地域、他国を傷つけた上で成り立っている自国の経済繁栄は、平和でない。平和とは呼ばない。各地域経済、各国経済の多様性を損なう貿易協定は、公正ではない。他地域、他国の社会・文化の多様性を損な貿易協定は、公正ではない。他地域、他国の環境と生物多様性を損な貿易協定は、公正ではない。 
 
 私たちが望むのは、他者を、他地域を、他国を傷つけず、損なわず、公正に基づいた「ヒト、モノ、サービス、文化等が行き来」できるルール作り(貿易協定)です。私は、それを「公正に基づいた貿易」と呼んでいます。 
 
●おわりに: 「Economy」と「平和」の語源 
 
 経済を意味している英語の「エコノミー」(Economy)は、二つのラテン語から組み合わさってできています。「エコー」は均衡、「ノーム」は規範。つまり、すべての人が均等に、均衡に生きることができる社会に必要な規範、ルール、仕組み。それが、エコノミー。 
 
 次に、日本語の「平和」。この文字・言葉は、三千数百年前に中国から入ってきたもの。この語源も、意味深い。「平」は、平等、皆同じという意味。和の左側の「禾」は、穀物。右側の「口」は、字のとおり口(mouth)。つまり、「平和」の語源は、「すべての人が、等しく、穀物を口にする、穀物を食する」ことができる社会の状態、関係を指しています。エコノミーも、平和も、語源を辿れば、同じです。これこそまさに、ジャストピース、です 


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