2017年05月06日15時16分掲載
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文化
【核を詠う】(231)『平成28年度版福島県短歌選集』から原子力詠を読む(2)「次々と再稼働する原発の報道憂ひふくしまに住む」 山崎芳彦
今は亡き大岡信さんが朝日新聞に連載したコラム「折々のうた」の平成15(2003)年2月7日付で福島の歌人・波汐國芳さんの作品、「汚染進む海と思えり生(あ)れ出(い)でし鰭(ひれ)欠け魚(うお)の傾き泳ぐ」を取り上げて次のように書いている。「『落日の喝采』(平成14)所収。うちくつろいで日々を送っている市民の食卓では、『鰭欠け魚』のような不気味な存在は姿を見せない。そんな魚は私たちの生活権には許されない、と無意識に思っている人も多いはずだが、作者は歌集あとがきで書く、『私の住む地域は原発十基を抱えるという環境にありますが、その安全神話が崩壊した今、不安がつのるばかりです』。右の歌など読むと、水俣病の予言性は実際大きかったと改めて痛感する。」(岩波新書『新折々のうた7』、2003年11月刊所収)。
波汐さんは、月刊「うた新聞」(いりの舎発行)の平成27年11月号のコラム「忘れないために」で「原発の危機感を詠み続けて」と題して、大岡さんが取り上げた前記の歌について、「折々のうた」に掲載されたことにも触れて、次のような文章を書いている。
「生家のあるいわき市での嘱目である。当時、魚に異変が起きているという噂があった。私は以前から作歌の命題として原発の危機感を詠み、警鐘を鳴らすことを己に課して来た。抄出歌は朝日新聞の一面に掲載され、福島原発に関する記事も引用されていたので、人々の眼に止まった筈だが、反論は無かった。噂通りであったからに違いない。この現実を裏付ける事件として挙げられるのは、昭和五十三年の福島第一原発三号機の臨界事故で、公表されたのが二十九年後の平成十九年という。その前にも何度か事故隠しが露呈していたから、棲息魚の奇形現象は原発事故が海を汚し続けていたことに起因するものであろう。そして今、原発推進を含め、文明のあり方も問い直すべきことを痛感するのである。」
波汐さんの短歌作品は、この連載の中でも多く読んできたが、原発詠の深化を歌人としての課題として渾身の取り組みを続けている波汐さんは、「福島の今を生きる歌人の課題は原発詠の深化でなければならない。そのためには詩心を起ちあげて、視えないものも視、捉える感性の矛先を一層研がなければなるまいと思う。」(歌誌『翔』第55号の巻頭言)ともいう。
『平成28年度版福島県短歌選集』を読み、原子力詠を抄出させていただいているが、福島の歌人がこのようにして自らの現実の生活、暮らしの中から紡ぎ出している短歌作品の真実を思わなければならないと、改めて思うのである。今村前復興大臣の「暴言ではない本音」がどこから生まれてくるのか、安倍首相が時たま福島に出かけて「復興節」を歌いながら、実際には原発推進、原子力産業の振興策を、福島原発事故の被災者の思いとは真逆に進めていることの表れにほかならない。
福島歌人の原子力詠作品を、前回に続いて読んでいく。
五年経れど風評被害はなお未だし県外産には高値つきおり
震災を期に髪染むるを辞めて五年名実共に白髪の媼に
こんなにも活断層のひそむ上に原発52基作りたる国
原発の運転期間四十年の方針は早も骨抜きとなる
福島より遠き原子炉の再開を轍を踏むなと暗く見詰むる
(北郷光子)
公園の片すみに立つ線量計見る人のなく五年目の春
汚染土かと疑ふわれをり新緑の山路にどつしり積みおく袋
(木村セツ子)
東電の元経営陣の起訴成りぬ原発事故より五年の歳月
自主避難者の沈痛な叫び届かざり国・国会に県政にすら
里山に山菜きのこ採りたるは汚染より五年経て遠き追憶
「契約の第一号です」とわれに告げ新電力の支店は意気込む
悲し気に啼いて呉るるか山鳥よ原発訴訟に向かうわが身に
屈せざる福島の矜持ぞ賠償の訴訟の集いにわれは馳せゆく
「不知・否認・争う」の単語列挙して加害者東電の答弁書来る
悲しみと怒りに「半減期」のあらずして心の底に重く渦巻く
原発禍に気強く生きんと思えども消すに消せなき敗残意識の
(久住秀司)
書店にて化学の本を立ち読みし周期表よりセシウム探す
放射能の検査受けむと自家製の梅干し一キロ丹念に選る
安全を見届けぬまま突き進む技術立国制御が効かず
(児玉正敏)
招かれし古希の集いは大地震と原発事故とに幻となる
原発の事故より五年線量とう見えざる壁の崩るるは何時
(小林綾子)
どこへでもゆけるおまへをどこまでも追ひゆかむ甲状腺検査は
逃げろと言ひ戻れと言ひいまどこへでもゆけと言ふ我ら大人は勝手
ふるさとをきつと頼りにしてほしい 皮剝けばなほ白き大根
あかるい家にせむと選びし大き窓 雪が白くて何も見えない
(小林真代)
わづかなる復興あるも被曝地に悲しかるべし多数なる自死
川岸に高く積みたる汚染土のフレコンバッグに夏の日強し
融け落ちし燃料デブリは何処ならむ爆ぜし建屋に氷雨降る今日
今日もまた除染作業員の逮捕あり少女被害の強姦事件に
核災に遭ひたる町は施策替ふ「町興し」より「町残し」へと
乏しらに茱萸の花咲く山峡に線量計の明滅赤し
公園に戯れを楽しむ児らを見ず核の事故より五年経ちたり
自死自尽自殺の続く仮設舎の壁に絵を描く高校生あり
道端の汚染土袋(フレコンバッグ)劣化して破れし孔(あな)に雑草の伸ぶ
(今野金哉)
巣の藁に吹き来る風音聴きながら燕よ知るやセシウムあるを
(紺野 敬)
任命責任問はるる首相の答弁のこれが詭弁ぞ長々映す
聞く力も伝へる力もすでに無きか首相の野次をマイクが拾ふ
権力の権化と化しし首相言ふ「私が言ふのだから間違ひなし」と
「メルトダウンの事実知らすな」の箝口令ソビエトにもありきわ吾が国にもまた
融け落ちしデブリを如何にせむものか三十年経しロシアも知らず
非日常が日常となりて五年経つ隠蔽の連鎖の中に生きつつ
(紺野乃布子)
籠一杯「しめじ」を採るもセシウムの気になり山にみんな捨てたり
(西木 甚)
原発の風評被害もうすれつつ高原の風車ゆつたり回る
(斎藤昭夫)
畑起す人無き地には除染土のフレコンバッグ夕映えにあり
桃畑に三〇〇戸なる家建つとう被災せし同胞何処に待たん
十月の完成を記す看板の早々立ちて工事遅遅とす
(斎藤恵美)
秋明菊揺れいる傍(かたえ)除染土は掘り返さるる 数人がかり
祖母のまだ在りしころ白きコンテナに除染土を詰めて深く埋めにき
埋めたのも秋天のもと 掘り出され並ぶ除染土重きコンテナ
向こう三軒両隣にも礼(いや)して除染土回収のひとらは去りぬ
除染土を取り除きたる庭に降る雨 一叢の菊を揺らして
(斎藤芳生)
沈丁花の根本に一輪福寿草除染を逃れさびしげに咲く
(佐川 光)
除染後のフレコンバッグの雨ざらし事故の悪夢を見るたび思ふ
庭の表土削らるる日の前日にルピナス数多鉢に移せり
(佐藤栄子)
次々と再稼働する原発の報道憂ひふくしまに住む
震災後猪出没聞こえくる此の日頃にて当地にも出る
(佐藤ツギ子)
原発の廃炉作業が始まりぬ事故発生後四年過ぎたり
一号機廃炉カバーの解体をニュースに見るも結果知らざり
避難者は帰宅の指示を受けたるも廃炉の実情知らざるままに
ふるさとは遠くなりしか戻り来ぬ若き家族を待つ老夫婦
避難指示解除に向かう被災地に戻り来る人少なしと聴く
(佐藤トミヱ)
年ごとに「松茸食うか」と来る友にどこの山かを今年は訊かず
五年経てようやく娘ブロッコリー採りゆくを見て心安らぐ
余震ごと「福島原発異状なし」と「あり」ならいかにと抗いてみる
(佐藤紀雄)
原発の備へ津波に不十分対策の脆弱浮き彫りとなる
浪江より越し来る家族つつがなく町の暮らしに慣れて親しむ
(砂十木一路)
出産は故郷と決め北海道より孫は来たれり母の避難地に
原発の非難の五年を堪へたれど曾孫六人生れし喜び
一時帰宅も最後にせむと子の云ふを受止めがたしもただに頷く
一時帰宅ねずみの糞や悪臭にわが家は朽ちゆく涙も出でず
常磐道の山の合間に我が家見ゆ庭に草木の伸びるがままに
原発に翻弄されて五年過ぐ八十三歳われ耐へむとす
(白石琴子)
震災の心の健康調査とて同じアンケートの幾度も来る
震災五年入学児童の少なきに四校合同の入学式終る
補助金を付けて開業医を募集する震災後五年再生の町
原発ゆゑ廃校となりし高校跡公営住宅の工事進みぬ
街の灯の届かぬ道に仰ぐ空震災前と何変はるなし
(杉本慧美子)
移り住み地にまだ足のつかぬ日日 いわきの空に初雪の舞う
避難とはかくも厳しきことなるか新入児童の僅かにひとり
ことのたび夢にまで見し安らかな終の住処をいわきと決めぬ
被災五年住めぬ我が家に見切りつけ新居に備えむ神仏灯明
(杉本征男)
除染して草木とぼしき里庭に母の植ゑたる撫子の花
(鈴木恵美子)
汚染土を埋めし標の杭二本落葉尽きたる庭に変らず
夏陽が灼き雨雪沁みゆく庭土の中に汚染土いかになりしか
(鈴木こなみ)
放射能が大熊町の部落には二十軒あれど一人も居らずに
来年の三月までに借受けの住宅返す期限来るなり
(鈴木 進)
隣組の被災者の家建て始む槌音高く秋空に響く
国道が通りて過疎を免れたる今避難者の宅地となれり
線量数値高きがゆゑに筍を今年もとれず竹林繁茂す
浪江より避難せし人の苦悩とは除染の遅れが帰還のびると
挨拶後次第に親しく話掛くる目に見えぬ禍の恐怖語れり
(鈴木八重香)
放射能規制とかれて新屋内運動場に子らなだれ入る
(鈴木結志)
不便なる峡の吾が田も除染すと作業の人ら確認に来ぬ
稲作の中止となりて四年すぎ峡の吾が田も除染の話
(�果鄙攬�)
今もなお除染作業の続く街罪重かりし原発のつけ
(津田 智)
次回も『福島県短歌選集』の原子力詠を読む。 (つづく)
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