2017年06月19日13時01分掲載  無料記事
http://www.nikkanberita.com/print.cgi?id=201706191301401

文化

【核を詠う】(235)『朝日歌壇2016』から原子力詠を読む(2)「放射線のガードが固く覗(のぞ)けない溶け落ち沈むデブリの姿」  山崎芳彦

 前回に続き『朝日歌壇2016』から原子力詠を読み、今回で終るのだがそのなかに、「唯一の被爆国なり発議して賛成すべきを『反対』と言う」(諏訪兼位)という短歌がある。今月15日から国連本部で再開されている「核兵器禁止条約」の成立を目指す交渉会議に、日本政府が核保有国とともに不参加であることへの怒りと失望を詠っていると読める。実際には、この作品は昨年11月21日付の「朝日歌壇」入選作品であるが、その時には日本政府の同交渉会議不参加が明らかになっていたことから詠われた作品であり、詠った通りになったことに、作者は改めてこの国の政府の核政策、外交への怒りを強くしていると思う。「核兵器禁止条約」案は、その前文に「核兵器使用の犠牲者(ヒバクシャ)や核実験による被害者の苦難を心に留める」の一節を盛り込むことになっていることを思えば、日本政府が同条約に反対し、核保有国に同調する態度は国内外の理解を得られない。原発事故でも国際的な批判を浴びており、日本政府の原子力政策への批判は強まる。 
 
 国連が「核兵器禁止条約」を成立させることによって、核兵器を使用することはもとより、その開発・製造・取得・保有・備蓄・移転を禁止し、自国領内であっても配備を禁止し、世界で最も危険な大量破壊機である核兵器を廃絶する法的拘束力のある国際条約の文書を策定するために、昨年の国連総会でコスタリカやオーストリアをはじめとする圧倒的多数の国連加盟国の賛成によって、条約交渉会議を開始することが採択され、今年3月の第一会期に132ヵ国の政府と220以上の市民団体が参加した、かつてない取り組みが始まった。しかし、第一会期に出席した日本政府が取った態度は国際的に大きな不信感を持って受け止められた。 
 第一会期の各国の意見表明の場で、高見沢将林軍縮会議日本政府代表部大使は今回の核兵器禁止条約交渉に反対し、「核兵器国が参加しない形で条約を作ることは、国際社会の亀裂と分断を一層深めるだけの結果に終わるだろう。」と発言し、また北朝鮮の状況について触れ「禁止条約がつくられたとしても、北朝鮮の脅威という現実的な安全保障問題の解決に結びつくとは思えない。」などとして、「今後の交渉には参加できない。」とする態度を表明した。唯一の核被爆国と事あるごとに言いつづけて来ている日本政府のこのような態度は、国際的に異様なものとして受けとめられた。高見沢大使は「わが国は、引き続き核廃絶のための具体的かつ効果的な措置の積み上げを追及し、核廃絶を可能にする安全保障環境の整備に努力していきたい。」とも発言したが、その発言は信じられていない。「核の傘に依存する国々の政治勢力が、生命すべてを絶滅させることができる国々と連携し続けるのではなく、核兵器禁止条約を選択するよう自国政府に圧力をかける必要がある」(「国際平和・地球ネットワーク」共同呼びかけ人・ジョセフ・ガーソン)という主張こそ正当ではないだろうか。 
 
 核保有大国、その「核の傘」に依存する日本などによる否定的な態度ある中で、この6月15日から核兵器禁止条約の交渉会議の第二会期がスタートしたが、日本政府代表の席は空席になった。松井一実・広島市長や被爆者団体、広島、長崎の被爆者などが出席し、松井広島市長は「被爆者は、存命のうちに核兵器の禁止を見届けたいとの願いを持っている。」と訴えるとともに議長が示した条約の原案を評価するとともに「核禁止条約に批准する国を増やしていく」ことへの期待を込めた発言をしたことが報じられている。核兵器禁止条約成立に向けての交渉の場で、日本政府代表の席が空席である中での日本の被爆者団体や核兵器の廃絶を目指す人々、広島市長の思いはいかばかりであったかと推察するのも辛いことだ。日本政府、とりわけ安倍政権のもとでは予想されたことではあるが…。 
 
 核保有国、なかでも米国の「核の傘」の下にありながら、「戦争の出来る国」を目指しての体制づくりに励む安倍政権、核兵器禁止条約の策定に向けたこの会議に「参加できない」とする安倍政府は、この時何をしていたか。憲法違反、国民を縛る「共謀罪」成立のために、国会をあってなきが如き状態にして、本当ではない「安倍一強」(小選挙区制度の下で、低投票率の選挙で自民党が得た得票数はどれほどのものだったのか)の「数の力」を揮っていたのである。政府の指揮下にある日本原子力研究開発機構の事故が明らかにしたこの国の原子力にかかわる空恐ろしい危険な体制、福島第一原発事故が今なお進行中であっても次々と原発再稼働を進め、さらに在ることを無いことにする制度や施策によって進められている原子力政策はさらに危険な事態を招きかねないのが現状であろう。そこに、人間の生きている真実を見る視点は失われている。原発の維持・推進、「戦争の出来る国」の先には、「核兵器の持てる国」への企みがあるのではないか。 
 
 そのような現状を許すことが出来ないからこそ、詠う人びとは、詠い続けている。『朝日歌壇2016』の原子力詠を、今回で終るが、読み、記録したい。 
 
平和公園の小さき植ゑ込み覗き込む私服警官の膨らみし腰 
            (7月4日 永田和宏選 広島市・楯田順子) 
 
集落に六年ぶりに鯉幟嬉しいことに旧節句まで 
            (7月4日 佐佐木幸綱選 田村市・荒井正一) 
 
幾つかの核の光がこの星に櫨家て静かな遊星となる 
            (同 高野公彦選 本庄市・福島光良) 
 
陶磁器の貫乳(かんにゅう)のごとき活断層列島地図に朱の線走る 
            (同 高野選 名古屋市・木村久子) 
 
土削り砂敷き踏みし除染後に葉を出し咲きぬ朝顔一輪 
            (7月11日 馬場あき子選 福島市・青木崇郎) 
 
「帰り来よ」山里の風呼ぶ声のかわうち村に、かつらお村に 
            (同 佐佐木選 福島市・美原凍子) 
 
迸(ほとばし)るものはあるかとホトトギス火口のごとき喉でまた鳴く 
            (7月18日 馬場選 福島市・美原凍子) 
 
放射線のガードが固く覗(のぞ)けない溶け落ち沈むデブリの姿 
            (8月1日 高野選 郡山市・柴崎 茂) 
 
ふくしまの廃炉の困難高浜の老炉の延命夏ふと暗き 
            (8月8日 馬場選 福島市・青木崇郎) 
 
五段に積むフレコンバッグの飯野過ぎ避難解く日の小高に人見ず 
            (同 佐佐木選 福島市・澤 正宏) 
 
銃然(しか)りスマホも然り原発も依存したまま依存度が増す 
            (8月15日 高野選 宇都宮市・渡辺玲子) 
 
緑濃きわが故郷の夏空を線量計測のドローンが飛ぶ 
            (同 高野選 名取市・志賀令明) 
 
「石棺」は取り消されても語の陰の見えぬ廃墟の見えて来る夏 
           (8月22日 高野・佐佐木選 福島市・青木崇郎) 
 
 水田にフレコンバッグが連なって避難解除は机上で進む 
          (同 高野選 会津若松市・赤城昭子) 
 
季語なればあはひ三日のとき重し夏の広島秋の長崎 
           (8月29日 永田選 東京都・大村森美) 
 
核兵器絶対悪の筈なれど必要悪と囁く声が 
           (同 永田選 筑紫野市・二宮正博) 
 
燃料プール冷却水の底なしのゆらめく青さに死を思ひゐき 
           (同 馬場選 丸亀市・金倉かおる) 
 
生きている限り被爆者死の恐怖身に刻みつつ八十路を生きる 
           (同 佐佐木選 西海市・原田 覚) 
 
日系の移民がリオで旗を振る広島原爆投下の時刻 
            (同 佐佐木選 八尾市・水野一也) 
 
廃絶の祈り続けむ二発から一万六千に増ゆ核兵器 
            (9月5日 馬場選 福生市・斉藤千秋) 
 
亡霊のように現れすぐ消える七一年経た原爆の忌 
            (同 馬場選 西海市・前田一揆) 
 
原発事故に廃校となるわが母校校歌唄ひて往時をしのぶ 
            (同 高野選 国立市・半杭螢子) 
 
わが父母の眠りし墓地の柵下は沼田場(ぬたば)となれり帰還困難区域 
            (同 高野選 名取市・志賀令明) 
 
ひっそりと出番待ちいる気配して想定外とは思えぬ石棺 
            (同 高野選 福山市・武 暁) 
 
原発に追われし楢葉五年経て雨に点(とも)れる外灯一つ 
            (9月19日 馬場選 宮城県・須郷 柏) 
 
突然に汚染基準が緩くなり底這ふ魚も市場に並ぶ 
            (同 馬場選 いわき市・馬目弘平) 
 
真野川に近き仮設住宅(かせつ)に妹の在れば気になる台風進路 
            (9月26日 佐佐木選 下野市・若島安子) 
 
あの国の潜水艦のミサイルに狙われている日本の原発 
            (同 高野選 三郷市・木村義煕) 
 
玉子焼き焦がし舌打つ夕餉どき核実験をテレビは伝う 
            (10月3日 高野選 名古屋市・磯田睦子) 
 
ものごとにこうして慣れてゆくのかとミサイル発射またかと思う 
            (同 永田選 船橋市・山��三千子) 
 
一年に二百億円の維持費食べ二十年間働かぬ「もんじゅ」 
            (10月10日 高野選 名古屋市・諏訪兼位) 
 
汚染水どぼどぼ流れているけれど本当にやるの東京五輪 
            (10月17日 佐佐木選 須賀川市・伊東伸也) 
 
猿知恵のごとき凍土壁遮水壁猿も苦笑の結果となりぬ 
            (同 佐佐木選 東京都・野上 卓) 
 
将来のことわざ辞典に書かれようもんじゅの知恵は釣瓶(つるべ)落とし 
            (同 佐佐木選 奥州市・及川和雄) 
 
ふくしまは黄金の稲穂の揺れるころか赤とんぼ舞ふわが里を恋ふ 
            (10月24日 佐佐木選 国立市・半杭螢子) 
 
痛々しい美しさなり大切にくるまれてくるふくしまの桃 
            (10月31日 馬場選 調布市・鈴木美江子) 
 
申請と検閲うけて許可一〇分、彼岸の墓参も五年の浪江 
            (同 永田選 福島市・澤 正宏) 
 
耳慣れぬ被告東電被告国傍聴の部屋エアコン涼し 
            (同 永田選 岡山市・曾根ゆうこ) 
 
列島のどこかでまたも地震(なゐ)ふりて今朝中空にうすき残月 
            (11月13日 佐佐木選 福島市・美原凍子) 
 
十万年後その日本語が判るのか核廃棄物を残された人に 
            (11月21日 永田選 福岡市・渡邊健治) 
 
山林に自由は在(あ)れど家近き山除染せず帰還(かえ)るに難しと 
            (同 馬場選 福島市・青木崇郎) 
 
唯一の被爆国なり発議して賛成すべきを「反対」と言う 
            (同 馬場選 名古屋市・諏訪兼位) 
 
ランニングコストが安いと原発の廃炉に掛かる金は無視して 
            (同 高野選 甲府市・内藤勝人) 
 
核反対に反対をするその国は日本(にっぽん)でないやうな日本 
            (11月28日 高野選 東京都・上田国博) 
 
原発の不惑年齢変わるらし六十年に定年延びて 
            (12月11日 佐佐木選 奥州市・及川和雄) 
 
うすれゆく記憶減らない放射能黙らぬ原発4基福島に 
            (12月19日 佐佐木選 埼玉県・島村久夫) 
 
フクシマの被災地の核のごみは除染し移染し果てしなき未来 
            (12月26日 佐佐木選 東京都・松崎哲夫) 
 
 次回も原子力に関わる短歌を読み続けたい。      (つづく) 


Copyright (C) Berita unless otherwise noted.
  • 日刊ベリタに掲載された記事を転載される場合は、有料・無料を問わず、編集部にご連絡ください。ただし、見出しとリード文につきましてはその限りでありません。
  • 印刷媒体向けの記事配信も行っておりますので、記事を利用したい場合は事務局までご連絡下さい。