2018年07月02日16時29分掲載  無料記事
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文化

ブレヒトの芝居小屋の仕事   志賀澤子 ( 東京演劇アンサンブル ) 〜移転に伴うクラウドファンディングの呼びかけ〜 

 東京演劇アンサンブルはこの度、ブレヒトの芝居小屋を閉じ、劇団を移転することになりました。そして新しい拠点をみつけ、演劇公演を続けるための応援基金のお願いをはじめました。今、支えてくださった皆様の存在に深く感謝し身が引きまる思いです。改めて私たちの歩みを手繰りなおしながら、次への継承と飛躍を期しております。ブレヒトの芝居小屋は、1977年にベルトルト・ブレヒト作『ガリレイの生涯』を練馬区武蔵関にあった映画スタジオで上演したことから始まりました。オープンスペースのブラックボックスの空間をブレヒトの芝居小屋と名付けました。1978年にブレヒト作『コミューンの日々』を上演した後、1979年から約1年間、劇団員が総がかりで床を張り、壁をつくり建築、それまで高円寺に持っていた稽古場を手放し引っ越し、1980年チェーホフ『かもめ』をこけら落とし公演にしました。 
 
   1954年にアーサー・ミラー作『みんなわが子』を鹿児島での公演で旗揚げした劇団三期会は俳優座養成所三期生が創立しました。演出家・広渡常敏を中心に『かもめ』を10年後にはやりたいという憧れを持った若者たちでした。1972年ころからは東京演劇アンサンブルに改名し、全国に観客組織‘労演’がひろがることと歩みをともにし、おやこ劇場、高校演劇鑑賞教室などとも芝居をつくり日本全国の旅を続けてきました。ドイツの劇作家ベルトルト・ブレヒトの‘今日の世界は演劇で変革できるか’という問いかけで、日本の社会の現実に向かう演劇をめざし、劇団名はブレヒトの劇団ベルリナー・アンサンブルに因みました。1960年、70年の安保反対闘争、1975年までのベトナム戦争、沖縄返還などの運動と連帯する演劇人であろうとしてきました。観客運動が‘演劇の大衆化’をめざし、政治から離れる流れになっていたなかで、劇団は観客組織やマスコミに頼らない自立した創造をめざす必要を感じていました。それはシステム化していくスタニスラフスキーの方法論やブレヒトへの演劇創造上の挑戦でもありました。 
 
   演出家広渡常敏の演劇論が‘いのちの空間’としてブレヒトの芝居小屋で沢山の芝居を創りました。岸田國士、久保栄、木下順二、秋元松代など日本の革新的な現代戯曲や広渡の創作戯曲に、ブレヒト、チェーホフの繰り返しの上演は新しい視点とスタイルでの既成の演劇への挑戦でした。体制から脱落した小集団の生き方に共感し、芝居を上演するだけではなく窪川、水俣、標津、三里塚などと連帯するフェスティバルを催し、現実の闘争の魂に出会いました。 
 
  若者に向けて創られた芝居『走れメロス』や『銀河鉄道の夜』に広渡常敏の演劇論は集約されたともいえます。闇にむかって走るメロスは‘演じる’のではない、役者はそこで‘生きる’しかない。銀河鉄道の傾斜は決して後には戻れない、ジョバンニはコールサックに吸い込まれていく瞬間に見える鮮やかな景色を生きる。役者は演じるのではなく‘生きる’。沢山の俳優たちのスタッフが出会いと巣立ちの空間として、日本全国を旅する芝居がつくられました。 
 
   そして世界へ発信!として、1990年の『桜の森の満開の下』のニューヨークにおけるラ・ママ劇場へ飛び込みがあります。エレン・スチュアートさんが即座に10日間の上演を決めてくれたことからはじまり、以来ブレヒトの芝居小屋で生まれた芝居6作品を9か国16都市で公演しています。『桜の森の満開の下』の世界の沢山の都市での上演、チェーホフの『かもめ』を初演したモスクワ芸術座での上演、ブレヒトの劇場であるベルリーナ・アンサンブルでの『ガリレイの生涯』の上演、これら3作品はチェーホフとブレヒトと広渡常敏の演劇論が交錯するブレヒトの芝居小屋の記念碑です。 
 
   2007年の広渡常敏の死を契機に、新しい歩みがはじまりました。ブレヒトの芝居小屋の改修では沢山の方からご援助をいただきました。ブレヒトからその流れを受け継ぐドイツ現代演劇の上演、沖縄・韓国・福島の運動に関わる芝居、イベントなどようやく新しい東京演劇アンサンブルの姿がみえてきたところです。そんな中、この度、大家さんのご都合により、2019年3月を最後の公演としてブレヒトの芝居小屋を閉じることになりました。あたらしい拠点を探すことは同時にこれからの東京演劇アンサンブルを探すことです。これからの1年は未来を決める時間になります。前の改修のお願いから間もないことになり恐縮ではございますが、どうぞ東京演劇アンサンブルに皆様のお力をお貸しくださいませ。まもなくクラウドファンディングもはじまります。現代演劇の多様の花咲く未来を、東京演劇アンサンブルに託してくださいますようお願いします。 
 
志賀澤子 
(東京演劇アンサンブル 共同代表 ) 
 
※志賀澤子氏の演劇のあゆみが以下 
http://www.tee.co.jp/haiyu-shoukai/shiga.htm 
 
※同劇団の移転応援基金のサイト 
http://www.tee.co.jp/?p=555 
 東京演劇アンサンブルの移転応援基金の呼びかけ人(2018年7月6日現在) 
 
安里英子(沖縄恨の碑の会)  池田ともゆき(舞台美術)   池田幹子(元都立高校音楽員)   池辺晋一郎(作曲家)   石川樹里(演劇翻訳家)  稲村朋子(衣裳美術家)  今村修(演劇評論家)  岩井里子(劇団月曜会)  岩波剛(演劇評論家)  鵜飼哲(フランス文学)   江原吉博(演劇評論家)   大笹吉雄(演劇評論家)   大谷賢治郎(company ma)   大谷紫乃(神戸演劇鑑賞会)   大塚直(ドイツ演劇研究者) 大友良英(作曲家)  大鷲良一(照明プランナー)   岡真理(京都大学教員)   岡田尚(弁護士)  岡本有佳(編集者) 岡村幸宣(丸木美術館学芸員)  奥秋圭(デザイナー)   小倉利丸  株式会社音映  かとうかなこ(アコーディオニスト)   鎌田慧(ルポライター)   亀岡恭二(広島市民劇場)   川述文夫(福岡市民劇場)    菊池大成(ピアニスト)   北原和子(いなほ保育園園長)  きむ・きがん(劇団石主宰・役者)   キム・グァンボ(演出家/韓国)   キム・ジェヨプ(演出家/韓国)   工藤英明(名古屋演劇鑑賞会)   国広和毅(音楽家)   小林沙羅(声楽家)   小松原庸子(舞踊家)   坂手洋二   佐々木愛(日本新劇俳優協会会長)   志賀重仁(翻訳家)   七字英輔(演劇評論家)   篠原久美子(劇作家)   スズキコージ(絵本作家)   関根信一(演出家・フライングステージ)   有限会社創光房  徐 勝   高岩震(写真家)   高橋豊(演劇ジャーナリスト)   竹内陽子(衣装デザイナー)   田中克彦(言語学者)   田村悳(音響プランナー)   崔善愛(ピアニスト)   鄭仁秀(東京朝鮮第九初級学校校長)   土田真一(東北芸術工科大学非常勤講師)   土屋安見(京都労演)   土井敏邦(ジャーナリスト)   ト・ブ・ルーン(ベトナム貿易)  内藤誠一郎(国立天文台広報普及員)   永田浩三   新野守広(立教大学教授ドイツ演劇)   西川信廣(日本劇団協議会会長)   西崎竹男(岡山市民劇場)   西堂行人(演劇評論家)   グェン・ティ・ビン(ベトナム舞台芸術家協会)   根津公子(君が代不起立被処分者)  萩原健(明治大学准教授ドイツ演劇)   朴金優綺(在日朝鮮人人権協会事務局員)   広中省子(長久手市文化の家館長)  福島明夫(芸団協常務理事)   ふじたあさや(演出家)   藤原央登(演劇評論家)   古川美佳(朝鮮美術文化研究)   ホ・スンジャ(演劇評論家/韓国)   堀 潤(ジャーナリスト・8bit News主宰)   洪成潭(画家/韓国)   松浦範子(写真家)   松本昌次(編集者)   馬奈木厳太郎(弁護士)   水谷内助義(日本新劇製作者協会会長)   宮城康博  宮本憲一(環境経済学)   三輪玲子(上智大学教授)   宗重博之  安田廣武(周南市民劇場)   山田勝仁(演劇ジャーナリスト)   山本健一(演劇評論家)   梁澄子(一般社団法人希望のたね基金代表理事)   吉村安見子(ピアニスト)   流山児祥(日本演出者協会理事長)   渡辺えり(オフィス3〇〇主宰・劇作家・俳優)   渡辺美佐子(女優) 


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