2019年01月19日21時07分掲載  無料記事
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文化

[核を詠う](277)朝日歌壇(2018年1〜12月)から原子力詠を読む(2)「汚染水八十九万トンのタンク群上空には八年目の秋雲」  山崎芳彦

 前回に引き続き「朝日歌壇」(2018年)から原子力詠を抄出するが、その前に今年1月13日の同歌壇に、安倍政権による沖縄県の辺野古沖埋め立て強行についての作品が多く入選して掲載されているので、その歌を抄出・記録しておきたい。まことに許し難い安倍政治の蛮行について、多くの主権者が強く批判しているが、詠う人々も早くから作品化してきている。今回は1月13日の「朝日歌壇」入選作品のみを記録するにとどめるが、今後どのようなかたちでか、沖縄を詠った作品をまとめたいと考えている。 
 
 ▼朝日歌壇・2019年1月13日の沖縄を詠った作品 
次つぎと土砂の汚れの広がりて辺野古に辺野古の海は還らず 
                (観音寺市・篠原俊則 高野公彦選) 
 
土砂とても己が運命(さだめ)を哀しまん民を傷つけ海汚すこと 
                (高崎市・小島文 高野選) 
 
空母持ち戦闘機買ひ土砂投ずすでに九条なきがごとくに 
                (長野県・千葉俊彦 高野選) 
 
土砂投入逸(はや)る政府は西郷(せご)どんを追ひつめし政府軍に重なる 
                (山形市・岩瀬信夫 高野選) 
 
 (筆者注 選者の高野氏は「先日、いよいよ沖縄・辺野古の海に土砂が投入され、米軍基地の建設が始まった。第一首〜第四首はその状況を詠んだもの。いわば短歌による怒りの表明である。」と評している。 ) 
 
沖縄の民意が無視をされるのは民では無いと言う事なのか 
                (筑紫野市・二宮正博 永田和宏選) 
 
トップではないのか今日の土砂投入 このニュースでもあのニュースでも 
                (町田市・村田知子 永田選) 
 (筆者注 永田氏は「評」に「辺野古埋め立ての歌が圧倒的に多かった。」と記している。) 
 
心にも重たき土砂を置き辺野古の海は埋められ始む 
                 (水戸市・中原千絵子 馬場あき子選) 
 
黄濁の海が美(ちゅ)ら海だったことマンタ、ジュゴンも皆知っている 
                 (高松市・島田章平 馬場選) 
 
 (筆者注 馬場氏は「第三、第四、沖縄を憂うる歌がきわめて多かった。」と記している。) 
 
 以上、新年1月13日の「朝日歌壇」から、沖縄・辺野古を詠った作品を抄出したが、選者の「評」からも、投稿歌に、沖縄を詠って、安倍政権による沖縄に対する理不尽極まりない権力行使に対する批判、怒りを短歌表現した作品が多かったことが明らかだ。安倍政治が反民主主義、主権者無視、軍事力強化、憲法破壊の本質をむき出しにしていることへの怒りの表明であろう。 
 
 「朝日歌壇」(2018年1〜12月)からの原子力詠の抄出・記録を、前回に引き続いて行うが、今回で終る。 
 
  ◇2018年8月◇ 
センス良いお洒落(しゃれ)な建物だったのに原爆ドームと呼ばれる悲しさ 
                (東京都・清水真理子 高野公彦選) 
 
「途方にくれる」という表情の撮れるまで被災者の顔這(は)いいるカメラ 
                (水戸市・中原千絵子 永田和宏選) 
 
家呑みし泥を掻(か)き出す手作業の生きてゆかねばならぬその手よ 
                (福島市・美原凍子 馬場あき子選) 
 
空しきは核禁条約に触れもせぬ広島忌での首相あいさつ 
                (三原市・岡田独甫 永田選) 
 
  ◇2018年9月◇ 
核兵器禁止条約に署名せぬ国にヒロシマ・ナガサキはある 
                (柏市・菅谷修 高野選) 
 
原潜の前触れもなく入りくる黄砂にけむり小雨ふるなか 
                (西海市・原田覚 佐佐木幸綱選) 
 
福島へ来て観て泊って食べて飲んで正しく理解し安全と伝えて 
                (いわき市・守岡和之 高野選) 
 
生きている限り被爆者 死の恐怖身に刻みつつ老いを生き抜く 
                (西海市・原田覚 高野選) 
 
原発の神話が消えたその後にカジノが開くという明るい未来 
                 (ひたちなか市・十亀弘史 馬場選) 
 
香月のシベリアの絵も原爆の記憶の絵画もみな赤と黒 
                 (石川県・瀧上裕幸 佐佐木選) 
 
  ◇2018年10月◇ 
被爆地の平和公園夜も更けて月のやさしく照らす噴水 
                 (長崎市・田中正和 佐佐木選) 
 
小気味よきサンバのリズム響かせて「原発要らぬ」とデモの列過ぐ 
                 (舞鶴市・吉富憲治 馬場選) 
 
被爆せる母子に水をやるために再び戻る白昼の夢 
                 (西海市・原田覚 高野選) 
 
浪江・双葉・大熊町民ら避難地へ集い一同に「ふるさと」を歌う 
                 (いわき市・守岡和之 馬場選) 
 
まんじゅしゃげ生きるはつらしまんじゅしゃげ安達ケ原の鬼のかんざし 
                 (福島市・美原凍子 馬場選) 
 
八月に防護服着て作業する彼らの汗を知らないは罪 
                 (横浜市・森教子 馬場選) 
 
一年に満たぬ短き休暇後に昏(くら)く静かに原子炉は燃ゆ 
                 (高松市・島田章平 佐佐木選) 
 
九つの核保有国言えぬくせ反対かよと子は吾を見ず 
                (高松市・一宮佳 佐佐木選) 
 
汚染水八十九万トンのタンク群上空には八年目の秋雲 
                (福島市・美原凍子 高野選) 
 
  ◇2018年11月◇ 
太陽光発電、派遣の労働者?少し余ればすぐに切らるる 
                (西海市・前田一揆 永田選) 
 
ふくしまの牛には競りのランプ減り牛も牛牽(ひ)く男も俯(うつむ)く 
                (福島市・青木崇郎 馬場選) 
 
田の形残して続く蕎麦畑生き残るとはこういうことか 
                (須賀川市・山本真喜子 高野選) 
 
被爆後の瓦礫(がれき)のなかを姉捜し彷徨(さまよ)いたる児が九十となる 
                (西海市・原田覚 永田選) 
 
ラッセル・アインシュタイン宣言に湯川の名もありし一九五五年 
                (千曲市・米澤光人 永田選) 
 
原発事故風化の中に帰る所無きまま彷徨(さまよ)う八年目の苦悶 
                (いわき市・守岡和之 佐佐木選) 
 
本当にやる気あるのか核禁止出来ない理由ばかり並べる 
                (筑紫野市・二宮正博 佐佐木選) 
 
  ◇2018年12月◇ 
福島はフクシマを抱き酒倉に新酒の満ちて「郷酒(さとざけ)」と言ふ 
                (浜松市・石原新一郎 馬場選) 
 
まっ先に冬は仮設の屋根に来るじいんとともる灯りが寂し 
                (福島市・美原凍子 高野選) 
 
原発の電力みじんも使わざる福島の地に核積もりゆく 
                (横須賀市・梅田悦子 馬場選) 
 
阿武隈の空広くして葛尾(かつらお)に七年ぶりの牛棟(むね)に充つ 
                (福島市・青木崇郎 馬場選) 
 
汚染土の埋まる庭先黄杭四つ掘り出しは年明けとなるらし 
                (郡山市・柴崎茂 馬場選) 
 
福島のサルに異常が起きてる小さな記事がとても気になる 
                (東京都・野上卓 佐佐木選) 
 
 次回も原子力詠を読む。              (つづく) 


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