2019年06月11日10時22分掲載  無料記事
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文化

フランスの歴史学者、イヴァン・ジャブロンカ氏の講演「社会科学における創作」 歴史学や社会科学の研究は文学にもなりえるか?  

  6月24日(月)18時半から、東京の日仏会館でフランスの歴史学者、イヴァン・ジャブロンカ(Ivan Jablonka)氏による講演「社会科学における創作」が行われる。ジャブロンカ氏には「歴史は現代文学である」とか、「私にはいなかった祖父母の歴史」といった著作があり、歴史学における研究成果の出口に文学をあげているようだ。いったい、それはどのような営みなのだろう。文学になることで歴史が歪曲されることはないのだろうか?事実と記憶と想像力はどのような関係にあるのか?などなど興味は尽きない。 
 
   日仏会館の紹介欄によると「イヴァン・ジャブロンカは、フランスの歴史学者、作家。アラン・コルバンに師事し、現代史を専門とする。現在はパリ第13大学で教授を務める一方、オンラインマガジン『La Vie des Idees』の編集長、出版社『スイユ』の『La Republique des idees』コレクションの共同ディレクターをピエール・ロザンヴァロンと共に務める」とある。 
 
  彼の師である歴史学者のアラン・コルバンはアナール派と呼ばれる歴史研究のグループであり、王や大統領など政治権力者の縦の系譜の研究よりも、時代時代の庶民の生活の実像を重視する。アラン・コルバンには「記録を残さなかった男の歴史〜ある木靴職人の世界〜」という本がある。10年前、筆者は日刊ベリタにこういう文章を書いている。 
 
 「フランスの歴史家アラン・コルバンの『記録を残さなかった男の歴史』はそれに対する興味深いアンチテーゼのように見えます。コルバンは19世紀、フランス農村に生きた木靴職人ルイ=フランソワ・ピナゴの生活を推理します。ピナゴを主人公に据えた理由はピナゴが文盲で戸籍簿の出生と死亡欄以外に一切の記録を残していないためです。 
  コルバンは記録を残さなかった人間を注意深く選び、その人間の足取りを周囲の地理、歴史、人口動態、経済などの記録に基づき徹底したリサーチと想像力で描いたのです。『記録を残さず消えてしまった人々について我々は一体何を知ることができるのか?』コルバンはそんな新しい歴史学を提唱しました。」 
 
  ジャブロンカ氏がコルバンの指導を受けて歴史学者になったとしたら、その彼が歴史学と文学を橋渡ししようとする試みを行っていることは、ある種の必然を感じさせる。ただ、その場合、歴史学という立場はどうなるのだろうか。そのあたりは今度の講演で聞きたいところだ。 
 
https://www.mfj.gr.jp/agenda/2019/06/24/ivan_jablonka/index_ja.php 
 
※「歴史は現代文学である 〜社会科学のためのマニフェスト〜」 
http://www.unp.or.jp/ISBN/ISBN978-4-8158-0908-9.html 
 
※「私にはいなかった祖父母の歴史 〜ある調査〜」 
http://www.unp.or.jp/ISBN/ISBN978-4-8158-0879-2.html 
 
※イヴァン・ジャブロンカ 歴史書元老院賞 受賞講演 
 (田所光男氏の訳による。田所氏は「私にはいなかった祖父母の歴史〜ある調査〜」の翻訳者である) 
http://www.unp.or.jp/shared/img/879jablonka_al.pdf 
  今回の講演で日本人として対話するのが作家の小野正嗣氏である。小野氏はフランス文学者でもある。筆者は以前、日仏会館で小野氏らが参加した「今日文学になにができるのか?」というシンポジウムのことを思い出す。 
 
  「今、なぜノンフィクションが相対的に低迷しており、小説が活気があるように見えるのでしょうか?」 
 
  筆者は登壇していた小野氏にこう尋ねた。すると小野氏からの回答は次のようなものだった。 
 
  「小説にはいろいろな分野を融合できる強みがあります」 
 
  その時は、漠然と分かっただけだが、今回の講演はその具体的なものなのかもしれない。 
 
 
※ジャブロンカ氏が編集長を務めるオンラインマガジン『La Vie des Idees』 
https://laviedesidees.fr/_Jablonka-Ivan_.html 
 
 
 
■パトリック・モディアノ著「ドラ・ブリュデール」(邦訳タイトル「1941年。パリの尋ね人」) 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201602180848024 


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