2019年11月13日16時59分掲載  無料記事
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TPP/脱グローバリゼーション

今国会での強引な批准をめざす日米貿易協定  その本質と問題点を探る

 いま国会で審議中の日米貿易協定。いったいどこが問題で、この協定のもとで何が起こるのか、といった肝心のことはほとんど見えてこない。80年代以降の世界をつくってきたグローバリゼーションの流れは多国間協定を軸に進められてきた。それがここへきてなぜ二国間貿易協定なのか。それはいかなる意味を持っているのか、もわからない。(大野和興) 
 
◆グローバリゼーションの終わりの始まり 
 
 世界中の多くの研究者やジャーナリストがグローバリゼーションは終わったという。その主張がトランプ米大統領の出現だともいう。“アメリカファースト”を掲げ、多国間協定を否定して2国間を強要し、何かにつけて安全保障を持ち出して自国の要求を自分より弱い国に押し付け、中国にケンカを売り、さらには核軍縮や温暖化対策に背を向ける。日本政府はこともあろうにそんな相手と貿易交渉に臨んだ。 
 
 日本政府は交渉期間中、何が話し合われているかさえ国民にほとんど知らせず、両国首脳が合意して協定書に署名した後も、全体像は明らかにされていない。安倍首相は「(交渉は両国が)ウィンウィンの関係で合意した」と強調したが、後で紹介するように農産物で日本が一方的に譲歩する一方で、日本が獲得をめざした自動車関連関税その他はすべてこれからの協議ということになっている。日本政府は、軍事の安全保障の従属性の上に経済の分野でもこれまで以上の対米従属性を強めることになったことが、これを見てもわかる。 
 
 ここから、日米経済交渉あるいは日米貿易協定とは何か、という疑問が浮かび上がる。結論からいうと、トランプ米政権の狙いは米国経済圏の形成にある、とみることができる。 
日米に先立ちトランプ政権は米国、カナダ、メキシコで作っているNAFTA(北米自由貿易協定)の見直しを迫り、交渉は米国に有利な形で2018年に新NAFTA(米国・メキシコ・カナダ協定=USMCA)として合意した。メキシコはこの協定を議会で批准をしたがカナダはまだ批准に至っていない。 
 
 格差の拡大と貧困の広がり、移民問題にみられる排外主義の広がりと政治の混乱、民主主義の危機、といった現象が広がる中で、グローバル化は明らかに行き詰まりを見せている。その潮目の変化を象徴するのが日米貿易協定の推移だと考えることができる。 
 
 
◆日米貿易協定の中身は 
 
 では日米貿易協定はどんな内容なのか。簡潔に言えば、日本政府は譲るものをすべて差し出し、逆に米国政府は日本が期待していた項目について、「これからの交渉にしましょう」とはぐらかした。“食い逃げ”されたといえばわかりやすいかもしれない。 
 
 トランプ大統領が誕生して、米国はすぐに、米国を含む12ヵ国で合意に達していたTPP(アジア太平洋経済連携協定)を離脱した。日本政府は懸命に米国の復帰を願ったが、不可能とわかって米国が望む二国間交渉を受け入れた。その時点で日本政府はTPPで合意した水準は無条件で受けtれるという交渉の出発ラインを打ち出した。交渉が始まる前から譲歩案を提示したのだ。あとはずるずる下がるしかなかった。 
 
 こうして牛肉、豚肉の関税を日本政府は大幅に引き下げるしかなくなり、その見返りに獲得していた、相手国に自動車輸入関税を引き下げさせるという要求は、いつ始まるかもわからない継続協議にまわされた。日米貿易交渉はすべてがこういう形の合意で収まった。 
 
 
◆貿易協定で国内農業の市場が1割縮小した 
 
 日本政府は国会に日米貿易協定による農林水産物(主として牛肉、豚肉、牛乳など)の生産減少額は1100億円にあんるという試算を提出した。本当か。 
 
日米貿易協定が両国首脳間で合意され、署名した9月26日、トランプ米大統領は「アメリカの農家や牧場主、テクノロジーを大いに助ける、すばらしい新しい貿易協定に署名した」と成果を強調した。米政府筋はこの協定によって日本の農産物市場を50億ドル獲得したという数字をあげている。1ドル100円として5500億円、国内産農産物の総販売額は輸出を含め7兆円そこそこだから、日本の農漁業生産者は8%ほど売り先を失ったことになる。 
 
 日本の食品市場は高齢化や人口減で次第に小さくなっており、一方で米国からの農産物輸入は今回の貿易協定によって次第に増えていくから、日本の農民は、1割は売り先きをもっていかれたことになる。一足先に協定が動き出したTPP11や日本とEUの経済連携協定を加えると、この数年で農民は2割くらい市場縮小という憂き目にあっている。 
 
 これでは農産物の値段が下がるはずだ。その有様はスーパーの食品売り場をのぞくとすぐわかる。肉売り場に立って眺めると、まず国産豚や牛のスペースが小さくなり、輸入肉が増えている。豚肉の値付けを点検すると、値段の安い部位、例えば小間とがバラでは100グラム当たりの価格差はなくなった。国産も輸入も98円前後で差はないのだ。安い輸入ものに押され、国産が下がっている。労働者の実質賃金は安倍さんのおかげで次第に下がっているから、みんなどうしても国産より安い輸入物に手が出る。農業は地域経済の基盤を形成している。農業の衰退はそのまま地域の衰退を引き起こす。今後格差の拡大と貧困の広がりはいっそう進むことになる。 


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