2020年06月13日10時16分掲載  無料記事
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文化

INA(Institut National de l'Audiovisuel, 国立視聴覚研究所)とは?  フランスのすべての番組を保管し、歴史的なインタビュー番組やニュースなどは一般にも公開

  YouTubeの映像検索をしていると、よくina frというロゴの入った映像に出会います。これはフランスの放送番組の保管・公開を担当する公共機関INA(国立視聴覚研究所)がUPしているものです。経験的に非常に有益な映像資料が多いことを感じます。たとえばフランスの構造主義のパイオニアの文化人類学者クロード・レヴィ=ストロースにジャーナリストのベルナール・ピヴォがインタビューした以下の映像もその1つです。 
https://www.youtube.com/watch?v=s7fANFEdf0Q&fbclid=IwAR3rAywolJ9Bg0L7G6aagHZI1Kw9ox4IybNiTQ9KAtbSeVjJwCo0gDJD_1E 
  日本でフランスの現代哲学を学ぶ人がいたとしたら、本で読むだけでなく、こうした学者当人のインタビュー映像があれば刺激を受けるよい機会であるだけでなく、その話す内容や話し方などからも理解を深めていく一助になると思います。上のリンクの番組では読書番組で知られるピヴォが一般人にも興味が持てるような聞き出し方をしています。たとえば、レヴィ=ストロースの代表的著作の1つ「悲しき熱帯」は<最初、小説として書くつもりで1939年頃に100ページくらいまで書いたところであまり良くないと思い、取りやめた>といった経緯をレヴィ=ストロース本人が話していますが、このあたりはフランスの文化史と絡んでくるエピソードでもあります。1955年に同じタイトルで学術書として発表した時に、もしこれが小説だったらゴンクール賞を受賞できたと言われた経緯があるようです。もはやこのようなインタビューは一放送局の、あるいは一国の文化的財産にとどまらず、人類の共有財産です。 
 
 文化的なものばかりでなく、政治や社会など様々な番組が保管され、放送の研究者のために公開されていますが、その中で一定数がYouTubeでも一般公開されているのです。公共番組だけでなく、民間放送も対象になっているようです。以下のリンクは1961年のドゴール大統領の記者会見の記録映像です。 
https://www.youtube.com/watch?v=ZprDRpof3UQ&t=200s 
  フランスではこうした過去に放送された番組は法律ですべてINA(国立視聴覚研究所)に納品が義務付けられ、学術研究目的や商用(新番組の際に再利用)などのために分類保管されますが、2006年以後はその中で一般公開可能と判断された映像についてはYouTubeなどにUPしています。その数も正確な本数はわかりませんが、何万本単位の相当な本数に上るようです。これは放送文化を考える上で、画期的な制度です。日本でも導入を求めたいものです。というのも、貴重な文化資料の山が蔵に眠っているのはほとんど犯罪的ですらあるからです。また、第二次大戦などの歴史資料あるいは証言としても、今後は経験者の死滅を考えると、公開が必要です。 
 
  フランスではこうした制度は映像以前に本の時代から、あのルネサンスのフランソワ1世の時代からあったというから驚きます。もちろん、その理由の中には権力者が言論をチェックし、統制する、ということがあったと思われますので、そうした統制に利用されないように注意することが必要です。これを書くにあたって、ロドリグ・マイヤール氏のレポート「世界最大規模の放送番組 デジタル・アーカイブ」を参照しました。以下がそのリンクです。大変興味深い内容です。 
https://www.nhk.or.jp/bunken/summary/research/report/2006_10/061006.pdf 


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