2020年07月26日21時57分掲載
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文化
[核を詠う](311)『現代万葉集』(2016〜2019年版)から原子力詠を読む(2)「原爆砂漠にて躓きしもの炭化した幼子の遺体でありました」 山崎芳彦
今回は『現代万葉集2017年版』の作品から原子力詠を抄出させていただく。1872名が参加、5400首を超える短歌作品はそれぞれに、いまを生き、詠う歌人の5616首が収載され、この時代の状況を映し出しているわけだが、福島原発事故から5〜6年、広島・長崎の原爆被害から70余年を経て、核と人間、生活と生命にかかわってさまざまに詠われた作品の一端が、この『現代万葉集』によって残されていること、さらに今後も続いていくことは、貴重である。様々な場で、さまざまな歌人が核にかかわる作品を詠い遺していく、そして核兵器、核発電を人間の力で廃絶できる時へと向かう時代を実現することを願いつつ、作品を読んでいる。
▼自然(抄)
汚染され戦の絶えぬこの地球を見守るがごとく空に月あり
(福島・伊藤雅水)
▼四季・春(抄)
磐梯は重きを負えりふくしまの今をし負えり背沈むまで
日本一深き闇なりああ福島 原発爆ぜてえぐれしからに
(2首 福島・波汐國芳)
▼四季・夏(抄)
原爆忌七十一回と活字載る 歳重ねただの一日(ひとひ)となりぬ
(石川・山��国枝子)
▼植物(抄)
被爆樹の丸葉柳の葉の一枚こよなきものをしをりとぞなす
(山口・原田美枝)
▼生活(抄)
「ふくしま」と聞こえるほうに耳は向く仮寓の居間の団欒のとき
復讐と同じくらいに復興という語おそろし人が恐ろし
復興と言われてしまえば本当の心を言葉にできない空気
(3首 東京・三原由紀子)
ふるさとを逐はれ建てたる新宅に持ち来しみ祖の遺影を掲ぐ
思ひ浮かぶふるさとの景は夏の日の原発見ゆる白き砂浜
(2首 福島・吉田信雄)
▼仕事(抄)
原発の炉心溶融ある由に田畑の収穫ひとつだになし
東京の電気のためと東電の作りし原発われらは悩む
東京へ来るなと言はれ憎みにき原発事故よ誰由の物
(3首 福島・木下 信)
▼愛・恋・心(抄)
語りたき聴きたき母はもうゐない母のふるさと原発汚染
(神奈川・川井盛次)
▼旅(抄)
放射線に汚染されたる被災地よ車窓開けず住む人もなし
(鹿児島・岩澤秀子)
竹島や原発まして神話さえ抱き島根の夕暮れ迅し
(岡山・大谷真紀子)
永井隆家族と共に暮したる如己堂とふ名の二畳の庵
ロザリオを双の手に巻く臨終の博士の写真けざやかにあり
(2首 茨城・北原美津子)
▼戦争(抄)
広島をめぐれば思ふ一瞬に十万人余りを殺す原子爆弾
原爆ドームに近き被爆のビルの地下男がひとり生きゐしといふ
核兵器廃絶ならず退任の大統領がオバマ氏となる
(3首 愛知・安達正博)
ヒロシマは地獄ぢや地獄ぢやあ、地獄見たあー伝へる父の苦界の始まり
(秋田・石黒 久司)
長崎がナガサキになりこの星の悲の合言葉 ヒロシマもまた
ならびたつ墓碑の隙間(ひま)より陽は昇る被爆者の胸温めながら
落陽うけ炎(ほむら)だちをりたましひの容物(いれもの)ならむ爆心地あと
(3首 東京・岡 貴子)
核ボタン離さずオバマ氏広島へ目には目を核には核をと言うか
七十年汝が曝ししケロイドはオバマ氏のハグ等に消ゆる筈なし
白血病に逝く間際迄祈り続けし貞子の鶴よ世界へ羽ばたけ
(3首 和歌山・唐津麻貴子)
広島に陸軍基地はあつたけど幼子もいつぱい住んでゐました
原爆砂漠にて躓きしもの炭化した幼子の遺体でありました
「ある日突然死が降ってきた」と広島でオバマ氏は言ふ 原爆は貴方の国が落としたものを
(3首 広島・切明千枝子)
核兵器は平和のためにあると解くどこかちがうと思えてならず
二万発の核弾頭を乗せたまま廻る地球に粥すすりおり
(2首 兵庫・楠田智佐美)
大統領オバマの祈りし紙の鶴見し人毎の夢に舞ふべし
広島の被災者オバマと抱き合ふ昭和九十一年の夏
(2首 宮崎・田尾英一)
ホットケーキのバターがとろり溶けはじめ米大統領広島を訪う
(愛媛・高橋征子)
八月六日のその刻(とき)想はむバラク・オバマまなこの先に平和の灯(ともし)
苦しみは繰り返さぬと大統領子らの手に載す和紙の折鶴
折鶴に込めたる祈り核を持つ世界の国に届く日ありや
(3首 山梨・中村章子)
噴水のしぶきを浴びつつ被爆せし兄偲びいる炎天下
八月の蝉の合唱きこえくる被爆の楠の木洩れ日のなか
原発の被災者いじめの報ありて「被爆者嫁にするな」よみがえる
(3首 長崎・西岡洋子)
二十歳「三度許すまじ原爆を」八十路の今日も歌い続ける
(徳島・板東 武)
ヒロシマにナガサキ、フクシマそう記す原発どうするドイツはNOだ
(愛媛・眞部孝司)
▼社会(抄)
難民と被爆者が住む星の上に生かされて八十四歳となる
(東京・相澤東洋子)
原爆は売りて火星を買はんかな商人トランプ算盤はじく
(広島・天瀬裕康)
おくれつつ蕾うみたる百日紅 原爆忌言ふこゑごゑおとろふ
(千葉・影山美智子)
日日(にちにち)の放射線量新聞に異状なしとふ日本の異状
(山梨・久保田壽子)
辺野古埋め立て・伊方原発再稼働・南スーダン駈けつけ警護
(山梨・三枝浩樹)
オバマ氏の森さん抱きたる大き手に折られたる鶴平和を呼ばむ
(新潟・佐藤愛子)
大津波に襲われセシウム浴びせられ浜の校舎は廃墟となれり
これでもかこれでもか日本の地は揺れて原発動かす危険を知らす
(2首 埼玉・下村すみよ)
なにごともなかつたやうに列島に原発ともる ひとおつ、ふたつ
(埼玉・丹波真人)
かの日から「菌」と呼ばれし避難児と五輪招致へ騙りし「統御」
(埼玉・千葉勝征)
原発避難の生徒いぢめる少年らプチプチシートを隅から潰す
(東京・東野千穂子)
「もんじゅ」とふ夢の原子炉ニュースの中地震速報テロップ流る
(岐阜・日比野和美)
嗚呼つひに爆心地広島に立ちてゐる大統領オバマの核廃絶の祈り
被爆国へ隠し作動機持ちて行く現在(いま)の矛盾を悲しむかオバマ
若き日の反核の思ひに被爆者と抱擁なしゐむ大統領オバマ
(3首 島根・�禿膺�子)
反戦も反原発も護憲等もみなテロリスト我はどうする
(千葉・三浦好博)
▼都市・風土(抄)
三キロ先の除染に通ふ車絶え冬至の峡の朝の閑けさ
(福島・紺野 節)
八月の丘のぐるりを男らが終日刈りてはげしくにおう
(広島・檜垣美保子)
▼災害・環境・科学(抄)
水張田とならぬひと隅白壁に囲まれて放射線除染土置場
(福島・池田桂一)
波出づ避難先から戴きし葉書に転居五度目なるとぞ
フレコンバッグだらけの村に夢を描き幼馴染の案内(ガイド)は続く
(2首 宮城・伊藤誠二)
まだ五年すでに五年の日月の人の思ひの中に雪降る
五年経ていまだ戻れぬ町なかの桜を映すあの春のまま
(2首 秋田・臼井良夫)
人類の叡智を尽した福島原発自然の猛威に敢えなく潰る
大津波過ぎて迎ふる五度の秋野に積まれ在り汚染土数多
人間の寿命を超ゆる半減期放射能汚染目には見えねど
(3首 千葉・江澤幸子)
ふくしまに廃炉作業のつづく日を咲くはな辛夷 顔上げ行かむ
(福島・遠藤たか子)
人住めず猪走る町なれど桜花咲くわれのフクシマ
(茨城・太田萬理子)
果てしない宇宙に挑む人間の文明と被災地の瓦礫の山と
(大阪・小畑百合子)
原発の避難余儀なき戸渡(とわたり)の里にあふるるばかりの山百合
(福島・加藤日出子)
要塞のごとく「もんじゅ」はしずもりて巨きドームが真白くひかる
週ごとにテニスを競いし君なりき原発廃炉にてこの地を去りぬ
増殖炉は菩薩「もんじゅ」の名を借りて安全思わしめ今にいたるか
(3首 福井・武長陽子)
復興は未だならずも予報士の東北は雪と繰り返し告ぐ
(広島・田辺かつえ)
「福島と同じことは起こらぬ」と知事言へり避難ルートの整備なきまま
原子炉の事故あらば逃るる土地は無し三十キロ圏外に住むとも伊予は
風向によりて四国全土に及ぶとふ放射能防ぐ策ありや総理に知事に
(3首 愛媛・三島誠位知)
汚染されし鵜が突然ゴジラ化し現れさうな原発の森
フクシマの汚染土詰めしフレコンバッグの山山山に薄ら日の差す
(2首 埼玉・宮田あつ子)
次回も『現代万葉集』を読む (つづく)
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