2020年08月11日11時58分掲載  無料記事
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関生反弾圧市民情報センター

権力は何を怖れたのか 1年9カ月の長期拘留を経た武委員長が語る反転攻勢と社会変革の道筋

 641日という長期拘留の末釈放された連帯労組関西生コン支部の武委員長を迎えて、月刊新聞『コモンズ』がインタビューを掲載した。戦後最大の労働運動弾圧が関生労組になぜかかけられたのか、権力は何を怖れたのか、武委員長は改めて関生型労働運動の本質に立ち返り、今回の大弾圧の本質を明確に解き明かした。延べ89人の逮捕者を出し、苛烈な経済的締め付けで同労働組合は大きな打撃を受けた。一方セメント資本もこれから本格化するコロナ不況と資本の進展を支えてきたグローバリゼーションの行き詰まりの中で矛盾を深めている。これからの展望について、武委員長は産業別労働運動と協同組合社会・経済構築という二本柱を軸とする反転攻勢についてもインタビューの中で明確に提示している。(大野和興) 
 
資本主義の根幹揺るがす関生産別労働運動 
戦後最大の大弾圧に屈せず反転攻勢へ決意 
 
掲載に当たって: 
 わが国労働運動史上類を見ない大弾圧は、2017年の12月のストライキ以降、2018年7月18日滋賀県警による弾圧事件に始まり、翌8月9日の連帯労組・関西生コン支部捜査、28日に関生支部武委員長の不当逮捕へと続き、労組幹部と組合員含め単一労組で延べ89名逮捕、組合員66名が起訴という大弾圧となった。 
 最後まで獄にあった武建一委員長の奪還は5月29日かなった。だが警察・検察・裁判所一体となった弾圧が終わったわけではない。裁判所は、組合関係者同士の接触・交流を禁じており、武委員長はこの苛烈な保釈条件の中、組合員との再会はいまだ果たせていない。その武委員長に7月6日、率直な胸中と反撃への決意を聞いた。 
(編集と文責・コモンズ編集部) 
 
 
1.「国策弾圧」の本質はどこに 
 
◆強い権力意思を感じた弾圧の異様さ 
 
――今回、641日にもわたる長い勾留でした。まだお疲れが取れていないと思いますが、今回の大弾圧について、権力の意図、この弾圧の本質をどのようにお考えですか? 
 
武 話に入る前に、まず全国の皆様に、この間の私と私達の組織に対する不当弾圧に対して、本当に親身になり物心両面にわたる支援をいただいたことに対して厚く感謝と御礼を申し上げたい。 
 私は、今回の弾圧は当初から警察・検察・裁判所が一体となった「国策捜査」であると認識していて、国策ゆえ決して短い勾留では終わらない、この勾留をもっと長期にしたいと政権は考えていただろうと。 
 しかし、この間の安倍政権の黒川検事総長問題など反動政治への全国の抗議のうねり、支援の皆さんの闘いと支えがあり、これ以上長期の拘留は難しくなったと思いますね。 
 この大弾圧は、関生支部に対しての弾圧ではあるが、決してここのみに集中しているのではなく、わが国産業別労働組合…今では全港湾とわが組合ぐらいだが、これら産別労組とその産業政策活動そのものを認めないとする確固とした権力意志があってのことで、日本においては企業組合=本工主義的な労組しか認めないとする攻撃であったと総括します。 
 
◆なぜ、企業別でなく産別労組か 
 
――関生支部の運動に大企業・権力層が非常な脅威、恐怖を抱いたということですね。 
 
武 彼らが抱く脅威や恐怖は、私どもの労働組合の性格、路線の核心、社会的任務としてきた活動やその成果をはっきりさせることの中で理解できます。つまり、日本の多くの労働組合は企業別で、下請け労働者を踏み台にして賃上げを行ってきた本工主義です。企業別労働組合は、資本には都合がよいが、労働者には良くない。 
 それは労働者の団結体が企業内に限定され、例えば多くの企業内労働組合は「能力給、成果配分」など労働者同士が競争しあう賃金制度を導入しており、これでは労働者の持つ力を結集し、発揮させることはできない。 
 関生支部は、企業の枠を超えた産業別労働組合として、組織形態も個人加盟で日々雇用・パート勤務問わずどんな雇用形態であっても、誰でも一人でも入れる労働組合であり、大衆性と日本に隷従を強いるアメリカと日本の独占資本・権力と闘う階級性を持った労働組合です。 
 また労組に入ろうとする人達はいろんな意味で人権抑圧・人格攻撃さらには様々な差別などを受けて苦しんでいる人が多い。 
 それで、労働者間の競争や差別をなくし、団結強化の下で、1つは同じ業種、産業に働く労働者の賃金は同一労働・同一賃金として一切の差別を認めない、2つは産業別雇用制度を実現し、企業が倒産してもその産業においての連帯雇用制度を協定し雇用を守る、3つは産業別福祉政策として、退職金の組合管理や福祉予算で労組の団結強化に使えるシステムを作る。 
 これら経済闘争とともに政治闘争、思想闘争を三位一体として追求し、その実行によって成果をあげ、私は頼られる労働組合、求められ組織を目指すと言ってきました。 
 
――そこで「他人の痛みを己の痛みとする」関生労組の作風が生まれてきたのですね。 
 
武 そういう労組をめざすと。つまり労組というのは、相互扶助の精神でお互い助け合いそして困難を束になって解決する、そういう機能を持ち合わせていたい。これは、支部創設直後の苦闘の中で、解雇され、タクシーの運転手や行商をしながら歯をくいしばって生活し、闘い、オルグ活動したことや、1つの分会にかけられた権利侵害には支部の総力あげた反撃でしか跳ね返せない事を身をもって学んだから、関生闘争路線の根底を貫く作風ですよ。 
 そのためには何が必要かと言うと、各職場単位で執行権とか行動権を持つことでなく支部に集中させる。それによって支部は、職場では一人でしかない組合員を支えるため集中的な動員をかけたりストライキをかけたり、そういう機能が高まるんですよ。 
 
◆産業横断的政策闘争の発展を恐れて 
 
――関生支部が、労働者の賃金や労働条件向上のために、中小企業との連携を進め、その過当競争を抑制することでセメントメーカーやゼネコンなど大企業との対等取引を求めて闘い、相応の成果を上げてきた。大阪広域生コン協同組合もその成果の現れの一つで、ところがその大阪広域協の4人の幹部が、関生支部の近畿一円に拡がった成果やその影響力を断ち切って己れの利害・権益を守ろうとして、2017年12月のストライキを口実に大弾圧が始まったと認識しています。 
 資本と権力は、この関生の産業政策闘争の発展を恐れた。その産業政策闘争というのがなかなか理解されにくいのですが、その核心はどこに? 
 
武 関生支部の産業政策闘争というのは、経済と産業構造の民主化を発展させることです。 
 日本の経済・社会構造は、重層的下請け構造で、少数の金融・産業資本が圧倒的多数の中小企業を分断支配し、一握りのものが大多数を収奪する構造です。これを打破するために、我々は「中小企業事業協同組合法」などを活用して、中小零細企業を事業協同組合に組織し、共同で受注し販売し、シェア運営し、大企業との対等取引の実現を目指してきた。 
 ここで労働組合が果たす役割は、企業を超えた集団交渉を実現し、その集団交渉で統一要求、統一行動、統一妥結を実践すること。このことが組合員の労働組合への結集力の強化、産業全体の未組織労働者にも労働条件の適用を拡げることになる。日本の企業は個社型で各企業間競争に労働組合を引き込んでいるが、これでは産業別的規制力を持った諸制度の確立は不可能ですね。 
 こういう個別企業の枠を超えた運動の展開の中で、 1973年に14社18工場の集団交渉が実現し、1980年には<大阪兵庫生コンクリート工業組合>との集団交渉も実現した。この80年の交渉時には、産業別的賃金制度…各社が勝手に決めていた制度=資格給・本給・住宅給・家族手当での各社の差異を一切認めないとの賃金制度に統一したという大きな成果を得た。 
 今日では、日々雇用労働者が1日2万5000円、本給での年収800万だが、このように賃金制度、さらに優先雇用制度を締結し組合推薦の人を雇うという制度を設立し、各職場における組合活動の自由も確立し、年間有給休暇も最低12日間、各職場に組合事務所〜掲示板の設置を企業責任で行い、各車には政治スローガンを掲げるのも設置させるなど職場における組合活動の自由が大幅に拡大できたわけです。 
 
◆今も続く総資本の本音「関生支部の闘争は資本主義の根幹を揺るがす運動だ 箱根の山を超えさせるな」 
 
――闘争に次ぐ闘争の70年代を経て80年代の闘いの中で、集団交渉方式によって集団的労使関係の構築を軸に産業政策闘争の原型が確立され、その飛躍的発展を遂げていったと聞いていました。 
 
武 80年代の大阪兵庫工業組合との集団交渉で、未組織労働者にも適用するという労働協約を締結した。全国に協組と名の付く組織は6万近くといわれているが、未組織労働者も適用するという協約の前例はなかった。 
 まさに産業別的賃金制度、雇用・福祉制度が確立されたという重要な意義があり、これ以降今日まで、私が逮捕されるまで続いて来たわけです。 
 
――なぜ、そのような集団的労使関係の確立を展開されたのですか? 
 
武 それは、関生支部は発足直後の苦闘の中で、中小企業が、一方で労働者を搾取している側面と、他方で大企業に収奪されている側面との2面性を見抜き、中小企業たる生コン企業がセメント独占資本や大手ゼネコン大企業に収奪・支配されている側面において、労働組合・労働者と中小企業が共通の課題で協力・共闘できることを掴んだからです。 
 その共通課題とは、セメント独占資本との対抗関係においては、生コン企業の経営を破綻に導きかねないセメント価格の引き上げに反対し、過当競争で弱小工場の破産・倒産につながるセメントメーカーの生コン工場の新増設に反対するなど、セメント資本の横暴を規制する。 
 生コンの適正価格などを確立し、産業基盤の安定化とセメント資本に対する自立・自主性を確立する。関生主導型のこの闘いで、中小企業の利益を擁護しつつ、賃金・労働条件を統一し企業間格差をなくすことで、生コン生産コストの平準化を達成し、生コン産業において連帯雇用責任をとれる産業構造を形成してきたのです。 
 
――そこから、怒涛のような産業政策闘争が発展し、歴史的な82年の「32項目」協定を勝ち取り、テレビでも放映されるなど、関生型運動が関西から関東へ、日本交通バスなど他産業に広がり始めた。この時ですね、三菱鉱業セメント資本を率いていた当時の日本経営者団体連盟〈日経連〉の大槻文平会長が「関西生コンの運動は資本主義の根幹にかかわる運動だ。関生型運動に箱根の山を越えさせるな」と号令して、空前の権力弾圧が始まったのは。 
 
武 そうです。この大槻文平の言葉に当時もそして今回の弾圧にも通じる資本と権力の側が感じている脅威、と階級的危機感、言いかえれば関生支部の闘いと国策弾圧の階級的本質がはっきりとしています。 
 とりわけ、今は80年代よりはさらにわれわれの闘いは成果を上げ、大阪広域協なり、あるいは和歌山、奈良、京都、滋賀も含め2府4県の近畿一円の生コン業界が民主化されてきたわけですから。冒頭に申し上げたように、弾圧の根本には、資本と権力が産別組合である関生支部の産業政策闘争によって、労働組合と中小企業が団結し、労組と協組が連携して大資本に対抗し、産業構造を「共生・協同」の方向に変えていくことを絶対に許してはならない、はっきり叩き潰そうということだろうと思います。すざまじいものです。彼らの思惑は。 
 彼らは、関生支部労組事務所の向い側のビル屋上から、望遠で常時監視し組合事務所への人の出入りをチェックする。さらには組合員を完全に組合から辞めさせる、企業には事業が継続ができないように圧力をかけるとか…。事実、今回の弾圧で数社の企業が廃業にまで追い込まれてしまった。 
 
2.今回の弾圧の特徴 
 
◆差別者集団・マスコミを動員し、暴対法適用、共謀罪視野に 
 
――今回の弾圧でこれまでにない特徴の一つは、大阪広域協が差別排外主義集団まで動員してきた…。 
 
武 事の始まりは2017年12月の近畿全域でやったストライキで、ところが大阪広域協組が関生支部の「ストライキは威力業務妨害」であるというキャンペーンを張り関生攻撃を開始した。 
 大阪広域協というのは大阪府と兵庫県の生コン企業による「大阪広域生コンクリート協同組合」のことで加盟社164社の日本最大の生コン協同組合のことで、この協組を利権がらみで牛耳った一部の幹部が「威力業務妨害・組織犯罪撲滅対策本部」を立ち上げ、10億円の予算をつけ、関生攻撃のために差別排外主義の在特会などを招き入れたのです。彼らに宣伝車を貸し与えたり、活動経費を潤沢に与え、口汚い街宣や関生事務所の攻撃などをさせた。 
 こうした動きと歩調を合わせ、奈良、和歌山、大阪、京都、滋賀などの県警が相次いで組合事務所や組合員自宅に繰り返し家宅捜査をかけ、逮捕していった。仮にも公人たる協同組合の役員が、在特会系の右翼暴力集団に資金を提供し、公然と引き連れて歩いている。それが「マズイこと」だとわからない(?)常識感覚がすごい 
 関生支部と産別政策闘争をつぶすためには、業界だけでは太刀打ちできないので、権力を最大限悪用し、権力もこんな関生型運動が全国化するのを恐れ、これを機会に、在特会にしろ利用できるモノは利用し、私をはじめ組織幹部を長期拘留し…その間に関生支部に打撃を与えようと企てたということですね。 
 
◆権力の先兵役、マスコミの大罪 
 
――今回の弾圧では反動マスコミを使い共同作戦も実行されました。 
 
武  特に産経新聞や週刊実話など、こういうところでは「生コンのドン」として、カネを取るために組織を動かしているとかでっち上げ記事を繰り出し、「関生支部は特殊=反社会勢力」との印象付けで世論を煽った。まあ、権力の常套手段ですが、まず叩く相手を社会的に孤立させる。今回そういうやり方にマスコミはしっかりお先棒を担いだのは事実です。 
 これに対し、昨年には『週刊実話』を提訴し、また今年3月17日付けで、和歌山、京都、滋賀に国家賠償請求訴訟を行っているところです。「罪なき人を罪に落とし入れること」は誣告(ブコク)罪にあたります。 
 
◆暴対法適用、共謀罪視野に民主主義の根幹への攻撃 
 
――これまでの弾圧と比べて他には? 
 
武 今までは大体が公安関係が動いていましたが、組織犯罪対策というのは今回が初めてですね。 
 私の逮捕時に滋賀県警から来て、「逮捕の理由は?」と尋ねると、「自分たちは覚悟を決めている」と。その話しぶりからこれは上層部からの指示が来てるなとの印象を受けたですね。暴対法の適用だと。1998年頃に最初の暴対法ができた。その日私は「これは労働組合〜市民団体にも拡張適用するな」と見て、だから唯一労働組合で反対したんです。実に今回の捜査内容を見ると、その暴対法の拡張適用で、もう一つは共謀罪の実施という視野で捜査している。 
 
――それはどういう教訓に通じますか。 
 
武 第二次世界大戦でのナチス統治下でニーメラーが言ってたことですよ。 
 
*編集部注:ドイツの牧師で反ナチ運動指導者Mニーメラーの言葉 
ナチスが最初共産主義者を攻撃したとき、私は声をあげなかった。 
私は共産主義者ではなかったから。 
社会主義者が牢獄に入れられたとき、私は声をあげなかった。 
私は社会主義者ではなかったから。 
彼らが労働組合を攻撃したとき、私は声をあげなかった。 
私は労働組合員ではなかったから。 
そして、彼らが教会を攻撃したとき、私は教会の人間であったから声をあげた。 
しかしそのときにはすでに手遅れであつた。 
私のために声をあげる者は、誰一人残っていなかった。 
 
 大体ヒトラーもそうだったのですが、戦前のわが国特高警察も同様のことはやっていた。共産主義者や資本主義を否定する団体を取り締まりする法律を決めて、ついには3人寄るだけで拘引した。戦後の今日でも、暴力団というのは社会の批判の対象になりやすい。 
 同様に、関生支部が成果をあげると、他がほとんどが企業内労組ですから突出することなり、だからそこを突いてきてまず目立つところを叩いてくる。それはうちの組合ではない、関係ないと傍観しているそのうちニーメラーの言ったように、だんだん企業内組合や市民団体も、弾圧の対象に拡張適用されていくのです。 
 つまり言いたいことは、今、関生支部にかけられている弾圧は、労働運動はいうに及ばず民主主義そのものを根底から破壊してしまうような攻撃なんです。ですが自分の所にはまだ直接的な攻撃がないから、自分のことだとピンと来ていない。という人たちがまだ残念ながら多いのではないですか。 
 民主主義は突然破壊されるように見えて、徐々に時間をかけて一つ一つ潰しやすい所から潰して…。結果、民主主義がかなぐり捨てられてしまうというの歴史を教訓として学んでいるはずですが。民主主義の破壊は、ファッシズム―戦争への道です。 
 
◆弾圧は友を呼び、関生の闘いを全国に拡げた。 
 
――今までの弾圧と比較すると、この逮捕者のあまりの数に腰が引けたところも多いので、資本と権力の当初の狙いは当たっているのかと思います。 
 
武 延べ89人も逮捕され、66人も起訴された。こんなことは戦後の労働運動になかった。産業別労働組合とはいっても、単組ですから。単組単位でこれだけ大量に逮捕・起訴されることはあり得ないわけで。これだけの大量逮捕、起訴が増えるというのは「よっぽど悪い組織だぞ」と。そういうイメージを社会に与えるという意味においては、効果的なやり方ではあったでしょう。 
 ただしかし、他の側面から見ると 、関生支部がお陰で、全国的に知られるようになった(笑)。 
 ですから、関生支部の本当の姿を、一気に広める可能性を相手の攻撃によって与えられたと言う側面もあるわけです。ここを活かしていけば、逆にチャンスが生じるんですね。 
 
 
3.反転攻勢へ 
 
◆主体強化、揺るがぬ戦略 戦術は「水の如く」 
 
――武委員長と湯川副委員が釈放された時、「さあ、反転攻勢だ!」というメールが飛び交いました。これから裁判闘争で全員無罪と当たり前の労組活動を取り戻す闘いを前に、あまり手の内を明かせないとは思いますが。 
 
武 戦略をしっかりとして、戦術は「水の如し」と言ってます。彼らの攻撃の数々は説明の通りですが、一番大事なことは、彼らがなぜ我々に攻撃をしているのか?その基本は、われわれを恐れているんだと。 
 これまで述べてきたような関生支部が従来行ってきた産別労組としての産業政策闘争…。これらの中での労働条件の改善であるとか、国の平和問題であるとか国際連帯を求める運動とかそういう基本戦略が正しかったとの証左をはっきりさせ、関生支部の闘いの歴史と伝統に確信と誇りを持つことですね。 
 
◆失地回復へ、「一点突破」で 
 
武 今回の弾圧で、彼らがズタズタに、われわれと多くの協力関係のラインを破壊してしまった。その失地回復について、これからの戦略は変わらないとしても、われわれがどのような戦術を組むかについてはまだ明らかにはできないが、ただ一点はっきり言えることは「一点突破方式」。 
 あれもこれもやらないといけないとかあるのですが、 一つの作戦を立ててそこで突破して行く。そのことによって、あれもこれもの流れを一気に反転攻勢に持っていく…こういう狙いですね。 
 当然やらねばいけないのは業界の民主化で、その民主化については、すでに2016年に発表した<6項目改革要求>があります。これを実現するというのが、業界をまともにする上においては必要です。 
 
編集部注※<6項目改革要求> 
1.労組と良好な関係を築く。2.協同組合の品位を汚さない。3.理事職は公人職であり、私的利益は慎む。4.生コン経営者会への全社加入。5.労使の協力関係を内外に公表する。6.ミキサー・セメント輸送運賃を引き上げる…など関生支部発信の提言 
 
――主体の問題の要はどこに 
 
武 内部で言えば、残念ながら今回の攻撃の中で動揺している人たちが出たわけです。歴史からの教訓を言葉では理解しているつもりでも、身体では得られてない。 
 攻撃は最大の防御というのですが、それは攻撃された時に自己犠牲をいとわずに闘う…そういう幹部が何人いるか。そんな組合員が何人いるのか、いわゆる戦略部隊です。これらをしっかりと固めていく必要がある。これさえすれば、私は10人でも千人以上の力になると思っているんです。そこに視点を置いておくべきではないかと。それを練り上げた方針のもとにその実現のための行動部隊というものに組織し、具体的な成果を、各人が目標を持って…いつまでにそれを達成するのか。 
 その任務こそが社会的な己れの義務として各人が自覚し行動しだすと…一気に失地回復することは可能だと考えます。 
 
◆敵資本は利権での結びつき、内部で矛盾発生 
 
――相手の状況をどう見ていますか? 
 
武 相手は金とモノだけの結びつき。思想的な団結なんて不可能で、利害得失の絡んだだけの結合体ですから、すでに内部でいろんな矛盾が発生しているようです。 
 広域協の執行部を牛耳る一部の連中は恫喝的な支配を行っている。ということは他はその犠牲になっているということです。 
 対立矛盾が発生するのは必然で、例えばセメントメーカーは裏で支配しているのですが、太平洋セメントと宇部とはシェアをめぐって対立を始めている。ただ労働組合対策では一致するが、市場をめぐる対立は避けがたい。そういう意味では、決して彼らは強い状態ではない。 
 そこに「コロナ恐慌」といわれる大不況の始まりです。リーマンショック時を超える経済的危機と解雇・失業者や倒産が出始めており、大企業は自分たちが生き残るためになりふり構わず中小零細企業に矛盾を押し付けていくことがすでに始まっています。 
 大阪広域協の幹部は、労使は対決でなく協調する以外に業界の再建は不可能だという、これまでの教訓を活かすことなくしては、崩壊の道しかないことを理解せねばならない情勢が、そこに来ている。 
 労働者の団結力と行動力、中小企業との協働の力により、大企業による中小企業支配から産業民主化により中小企業の経済的、社会的地位向上、労働者の雇用・労働条件の確保と安定に全力を尽くす。情勢負けをせずに、我々がしっかり闘えば必ず勝てるという法則を、これまでの闘いの歴史と今日の置かれている状況での現状認識が間違ってなければ、「一点突破」というのは効果あらしむモノと思います。 
 
◆コロナ・パンデミック禍 時代が共生・協同の世界求める 
 
――委員長が勾留されている間にコロナ・パンデミックが起こり、資本主義の限界とそれに代わる新たな社会が問われはじめ、無策・無責任の戦後最大の反動政権である安倍政権の本質も暴露され泥舟化していますが。 
 
武 今、コロナ感染拡大が世界的な規模で拡がり、感染者が1300万人越えであるとか…。はっきりしたのはグローバル化した資本主義だが一国の政治経済だけでは対応しきれない。同時に、持てる国、持たざる国との差別化・格差、その内部おいての貧富の格差、これが「命と生存の格差」に直結していく事が鮮明になった。 
 大企業同士でも対立矛盾を抱えており、国家間の対立矛盾以外でも企業間の対立も先鋭化している。特に、仕事を干し上げられて失業者が大量に出る。中小企業は潰される。社会的なフォローは一切なく、大企業のみフォローする事しか各国権力者は共通してやらない。この違いというものへの認識が誰にも分かりやすくなった。 
 そういう中で、アメリカ本位の世界体制は崩壊に向かい、トランプ政権は米中対立を激化させ、もう誰が見ても国際的連帯と協力の障害になり果てており、日本・欧州など帝国主義諸国の矛盾も危機的に深まっている。 
 しかし他方で、米国内のこの間の黒人差別に対する抗議への怒りから構造的人種差別撤廃への運動が世界に広がり、朝鮮半島、台湾、香港など東アジアでコロナ禍にもかかわらず闘いが激化している。そういう新しい階級闘争的な闘争が非常に先鋭化されて行く時代に入ったと考えます。 
 こうしてコロナ禍で一層はっきりしたのは、時代が資本主義に替わる<協同組合型、共生・協働型>の社会経済構造への変革を目指す運動を求めているということです。 
 そして、大きくこの国の進路の問題で言えば、やはり日米安保条約は破棄 して対等平等互恵の条約に変えるべきです。沖縄辺野古基地建設は認めない、と同時に米軍のやりたい放題を許す日米地位協定をイタリアとかドイツ諸国並みに最低でも変えるべきです。それは原発についても同じで、従属的なこの国の政治・社会構造がまさに露わになっている現状で、この構造を変えることも大きな課題です。 
 
◆今後の闘いへの決意 
 
――全国で支援する会が立ち上がり、京都地裁前での10日間連続行動など懸命の関生支部に連帯し支援する活動が拡がっています。最後に、これら全国の方々に一言…。 
 
武 冒頭にも申し上げましたが、全国の皆さんの闘いと支えがあって、こうして自由の身となり、厳しい保釈条件付きですが、闘いの前線に復帰しました。 
 ご支援をいただいた皆様にお返しするのは、彼らのやった組織破壊に対して日本の労働組合運動を再生する、この関生型運動を根本からやり直す気概で、しっかり闘い抜き、成果を出すこと。 
 これが最大のお返しに繋がると思います。私も78歳になりましたけれどもまだまだ元気に、成果を得るために全力を尽くそうと思います。今後ともよろしくお願いします。(了) 


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