2025年05月16日22時15分掲載
無料記事
http://www.nikkanberita.com/print.cgi?id=202505162215525
文化
【山里から�А枉�さな地方都市の神社に、ある日突然、戦争の旗、旭日旗が
「戦後80年」という言葉が氾濫している。戦後80年とは、1945年の太平洋戦争終結からの80年である。ノンフィクション作家の保坂正康さんは悲戦と誓った戦後80年というような言い方をすべきではないだろうかという（25年3月5日東京新聞）。非戦を誓ったはずが、いつの間にか安保法制ができ、米軍と一体となった軍事行動、軍事予算増加など軍拡路線ままっしぐら。だが、そのきなくさい匂いさえわからない空気だ。ひたひたとしのびよる国家誘導の危うさを、身体で戦争を知っている最後の世代の責任として伝えたい。（西沢江美子）
終の住み家と決めて四十余年年。埼玉県秩父市に奇妙な場所が出現した。秩父夜祭りで知られている秩父神社の社務所の玄関に、日の丸と旭日旗が立っている。
元日に初参りに行ってびっくり。これまで見たことのない秩父神社の正月。なぜ、誰がどうして日の丸と旭日旗（戦争の旗ともいわれる）を立てて新しい年を迎えようとしたのか。秩父に来てから、必ず正月中にお参りしていた。日の丸があっても旭日旗はなかった。
秩父で生まれ育ち、宗教社会学の学者として京都大学名誉教授であった秩父神社宮司薗田稔さんは、何よりも自然を愛し、戦いを嫌い、常にそうして拠り所こそ神仏だと言っていた。
秩父市全体を丸ごと博物館に、と活動しているNPO法人「秩父まるごと博物館」の館長も快く引き受けてくださっていた。また宗教学学会のひとつ社叢学会（別名 、鎮守の森学会）を創立し、全国の鎮守の森が、開発や災害によって次々失われていく事態に危機感を持って、研究・調査、そして保存、復元に動いている。
同学会はアジアの宗教学研究者を結び、国際的にも活動していた。筆者は秩父まるぎち博物館と社叢学会という このふたつの活動の仲間に入れてもらい、お世話になってきた。そんな中で、忘れられないことは、世界で起きている戦争や温暖化による大災害のことを、人間はもちろん草木、動物、虫あらゆる生命の問題として話されたことだ。私が知る薗田さんはどうしたのだろう。
後になって知ったことだが、薗田さんは元日の前夜に亡くなっていた。物心ついたころ、身近なおじさんを戦地に送り出し、灯火管制で暗い電灯の下で読んだ戦争絵本がよみがえる。どのページをくっても黄土色の軍服、軍帽に包まれた兵隊さん、一緒に日の丸と旭日旗が描かれていた。
次に出てくる言葉は「兵隊さんのためならば...」。まだ字が読めないい私は、ページをめくりながら、「兵隊さんのためならば」をそらんじていた。山村の村で主食は芋類と雑穀（ヒエ、アワ、キビなど）。男手を兵隊に取られ、老人と女子供の百姓の収穫は惨めなものだった。その上、芋まで供出で持っていかれた。水っぽい雑穀がゆを日に一椀くらいしか食べられなくなってきた敗戦まぎわ。空腹でた立つことも声を出すこともできないのに、毎日「兵隊さんの....」と念仏のように唱えると空腹が弱まった。
今から80年前のこんな苦しかったことを 秩父神社の日の丸と旭日旗が思い出させた。その頃、水田の少ない秩父のスーパーから米が消え、あっという間に「令和の米騒動」、そして、3月30日の「令和の百姓一揆」と社会の空気が流れた。
この先に何があるのか、嫌な胸騒ぎを持ちながら、絶対に行き先「戦争」を阻止しなければ、と思う。旭日旗はそのまま秩父神社に掲げられ、日常の光景と化している。
（ジャーナリスト）
Copyright (C) Berita unless otherwise noted.
日刊ベリタに掲載された記事を転載される場合は、有料・無料を問わず、編集部にご連絡ください。ただし、見出しとリード文につきましてはその限りでありません。
印刷媒体向けの記事配信も行っておりますので、記事を利用したい場合は事務局までご連絡下さい。