2025年11月03日22時32分掲載  無料記事
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文化

川柳は抵抗だ 戦後80年・治安維持法百年の秋、抵抗川柳句集が世に出た

川柳とは何かと問われたら、全くの素人談論に過ぎないけれど、諧謔、皮肉、そして抵抗と答える。どこに重点を置くかと言うと、人さまざまだけど、ぼくはやっぱり抵抗だなあと思う。抵抗と一口で言っても、何に抵抗するんだ、という問題が出てくる。当然、「権力に対する抵抗」である。(大野和興) 
 
この本のタイトルがまず気に入った。『抵抗川柳句集』。副題に「戦後八十年 治安維持法百年」とある。編集し著したのは「レイバーネット日本川柳班」。 
 
レイバーネットってなに、という人も多い(ぼくも会員でそこそこ付き合いはあるのだけど、まともに聞かれたら答えられない)と思うのでAIに聞いてみた。「労働・人権・社会運動などに関する情報を発信する独立系の市民メディア」とある。そこの「権力に対する抵抗川柳を作り発信している」グループが著した句集なのである。 
 
「まえがき」を読む。防空壕の中でポツンと灯るロウソクの灯の思い出から始まる。八十年前の光景である。そして反戦川柳を発信して獄死した鶴彬に筆が飛ぶ。 
 
高粱の実りへ戦車と靴の鋲、と日本の満州侵略を詠み、手と足をもいだ丸太にしてかえし、と戦死した兵士をしのんだ。「まえがき」の筆者は川柳班のひとり笠原真弓さん。感性が研ぎ澄まされた文章で川柳を詠み映画評を書いた。前月の10月4日、偲ぶ会を開いてみんなで送ったばかりで、この「まえがき」が絶筆となった。 
 
本書からいくつかの句を紹介する。ぼく好みの偏った選句になるが、勘弁いただきたい。 
 
笠原さんを見送った10月、ガラスの天井を破って、この国に極右政権が生まれた。それは新しい戦前が本格的に動き出したことを意味している。戦前、戦中、戦後が絡み合い、もたれ合い、ほどこうとしてもほどけない時代ー。 
 
赤紙とマイナンバーが紐づく日   一志 
戦火まで加わる地球沸騰化    しんのすけ 
列島は自爆装置を埋め込まれ    蘭綺麗 
戦争が選挙するたび近くなり    乱鬼龍 
 
そこにスマホとSNSが加わり、世の中がいっそうおかしくなった。 
 
AIがヒトの未来に生返事     J・ポンド 
便利だと買ったスマホに支配され なずな 
 
そして差別と排外が広がる。 
 
実習生最初覚えたシネ テメー   笑い茸 
 
レイバーネット川柳班の重鎮、乱鬼龍さんは反戦、反原発、反貧困、反差別などの行動があるたびに、自作をの川柳を墨黒々と大書したむしろ旗を持って駆けつける。本書に「この時代状況の中で川柳は、何を、どう吐くべきか」という一文を寄せ「この世に矛盾があり、不正義があり、噓がある限り、そのようなものを”討つ”のが、本来の川柳の精神」と述べている。 
 
 いま川柳人口はひそやかに増えていると聞く。 
 
頒価 700円 88ページ 
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〒173-0036 東京都板橋区向原2-22-17-108 レイバーネット日本。 fax03-3530-8578 


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