2005年09月03日08時37分掲載  無料記事
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検証・メディア

すっきりしない「朝日vsNHK」 権力のメディア介入阻止するため両者は努力を

 朝日新聞は7月25日、「NHK番組改変問題」についての同紙報道の検証記事を掲載した。しかし内容は新味に乏しく、一方これに対するNHKの反論も説得力を欠くものだった。ジャーナリストの池田龍夫氏は、各紙の報道や「月刊現代」のスクープ記事、自民党の対応などを分析し、権力の不当なメディア介入を阻止するために、朝日とNHKはできるだけ早く国民に責任ある説明をするべきだと訴えている。(ベリタ通信) 
 
 民主主義社会にとって、報道の任務は極めて重い。政治権力を監視することが責務であり、権力の不当な介入は断固排除しなければならない。「権力」と「報道」は常に緊張関係にあり、両者がバランスよく機能している社会こそ健全である。 
 
 朝日新聞1月12日朝刊が報じた「NHK番組改変問題」は、朝日×NHKの対決として成り行きが注目されていた。ところが、別の重大ニュースの背後に隠れてしまい、「あいまい決着で終るのか」とも囁かれていた折、朝日は約半年後の7月25日朝刊に「NHK番組改変問題 報告」と題する詳細な検証紙面を提供した。「今年一月の記事に対して、掲載後、当事者らが取材時の発言や記事内容を否定したため、NHKや総務省、自民党議員ら一五〇人以上に取材し、番組をめぐって何があったのかを改めて調べました。その結果、政治家の意向がNHK幹部を通じて制作現場に伝わり、放送直前に番組が大幅に改変されたという流れが改めて浮かび上がりました」との前文で、見開き2ページの大特集をつくって読者に訴えた。 
 
▽朝日の�犧童‐抬瓩任癲�解明に至らず 
 
 トラブルとなった事実関係を簡単に整理して本論に臨みたい。2000年12月に開かれた「女性国際戦犯法廷」を素材にしたNHK特集番組をめぐり、政府・与党の介入によって内容が改変されたとの問題提起が発端である。約4年経過した今年1月に内部告発などをもとに、朝日が1月12日朝刊で「政治の放送への介入」と報じて大問題になった。その番組は、NHK教育テレビETV2001「戦争をどう裁くか」(4夜シリーズ)�◆嵬笋錣譴訐鏤�法廷」。元慰安婦らの証言などを伝え、昭和天皇の責任を追及する番組内容を事前に察知した中川昭一、安倍晋三議員らが執拗に番組改変を迫ったと、朝日が指摘した問題だ。 
 
 朝日1月の問題提起の重大性に着目したものの、その後の展開をみると、朝日、NHK・国会議員の間で「言った」「言わない」の応酬が続くだけで、真相は藪の中。このため、関係者に再取材して、詳細に報告したのが今回の朝日�犖‐斂稔瓩如�当初の「44分番組」から「43分版」へ、そして「40分版」(これを放映)へと異例の削除・修正を余儀なくされたNHK内部の混乱ぶりが克明に描かれている。また、松尾武・元放送総局長のほか中川、安倍両議員と朝日記者との一問一答を紹介。「取材の総括」として、「松尾氏は今年一月の取材に、政治家の発言を『圧力』と受け止め、それから番組を守ろうとした、と述べています。今回の取材でも、国会対策の幹部による修正指示を、番組制作スタッフの多くが『政治介入』と受け止めていたことが確認できました。NHK側はあくまで自主的な修正だったとしていますが、今回の再取材で、記事の描いた『政治家の圧力による番組改変』という構図がより明確になったと考えます」と明言している。 
 
 NHKは7月26日、「番組改変はNHK独自の判断で、政治家の圧力によるものではない」と反論したが、当時のNHK内部の混乱ぶりを見れば、「修正せざるを得ない、何らかの圧力があった」と解釈する方が常識的判断と言えよう。一方、�|羸邉聴�が当時NHK幹部に会ったのは、果たして放映前だったか��中川、安倍両議員がNHK幹部を呼んだのか――の二点については再取材でも解明できず、「真相がどうだったのか、十分に迫りきれていません。この点は率直に認め、教訓としたいと思います」と、「総括」に書き加えていた。 
 
 「半年以上経過して(朝日紙に)掲載された記事は拍子抜けするほど新事実に乏しく、国民が知りたがった点に真正面から応えているといえない内容である。毎日新聞は当初から、本質は『政治に弱いNHKの体質』にあると指摘してきた。朝日新聞も『公共放送と政治の距離』を問いたかったという。確かに、改変問題は、その典型例となり得るケースだった。しかし、『政治介入を許した』というNHK担当者の内部告発情報をいち早く入手したことで、かえって『始めに結論ありき』の取材となって、詰めが甘くなったきらいがあるように思える」(毎日7・26社説)との指摘に続き、日経も「朝日新聞社は総括報告を紙面掲載したのに続き、社外有識者の委員会から意見を聞く作業を始めた。問題となった記事に委員から『先入観が感じられる』などの指摘があったという。政治家の意向によって番組が改変された流れが改めて浮かび上がったとする二十五日付の総括記事も同様の傾向が読み取れ、説得力を欠く」(7・31社説)……等々、「検証が不十分」と感じている人はマスコミ研究者にも多い。「不当な政治介入」は排除しなければならないが、朝日記者の�犹廚す�み取材�瓩鉾疹陛世�残るのである。 
 
 とは言っても、今回の検証記事によって、NHK番組改変の経緯がよく分かるし、一問一答の詳報も「真相を伝える資料」と受け止めたい。ただ、朝日記者が松尾総局長(当時)を取材した際の録音テープの有無について、今回の「総括」でも一切言及しないのは何故か。録音と照合せずに、一問一答形式での紙面掲載が可能とは考えられないからだ。約束違反の�猩寝鮫瓩�明るみに出ることを恐れているのだろうか。当事者の松尾氏がNHKテレビで釈明会見を長時間しているほどだから、「取材源秘匿のため録音の有無は明かせない」との説明は説得力を欠く。「記者がインタビューした記事は例外的に公開すべきだと思うが、検証記事はこれまでと同様、有無についてさえ言及していない。また、自民党議員ら一五〇人以上に取材したというのであれば、その詳細な取材結果を掲載することで、本来問われるべき政治と放送との距離についての問題点も浮かび上がってきたと思うが、それがなかったのは残念だ」との服部孝章・立大教授の指摘(毎日7・25夕刊)は、「すっきりしない検証紙面」への不満を示すものだ。 
 
▽月刊誌に�犇鉾訃霾鶚疥�失の怪 
 
 朝日7月25日朝刊から1週間後、8月1日発売の「月刊現代」9月号に、「『政治介入』の決定的証拠=中川昭一、安倍晋三、松尾武元放送総局長はこれでもシラを切るのか」とのタイトルで、22ページにも及ぶ記事が掲載された。朝日記者と松尾氏とのインタビューが朝日記事より数倍詳しく、中川、安倍両議員とのやり取りも詳報している。魚住昭氏(ジャーナリスト)の執筆で、録音テープから起こしたと推察できるインタビューを克明に紹介し、コメントしている。 
 
 魚住氏は同誌で「番組改変問題の最大のナゾは政治的圧力があったかどうか、ということだった。松尾氏の証言記録などを読めば、その答は明らかだ。そういう意味では朝日の報道は間違っていない。しかし実際に圧力がかかった経緯となると、朝日が想定した、直接的で露骨な圧力というより、もう少し複雑な構図があったのではないかと私は考えている」と述べているが、共感できる分析である。「録音テープ→朝日記者の取材資料流失」がますます現実味を帯びてきた。朝日が「月刊現代」発売3日前の7月29日夜、緊急記者会見したのは、事の重大性の証拠であろう。同社広報担当(役員待遇)は「社内資料が流失したとすれば、報道機関として深刻に受け止めなければならない」と語っているが、朝日は新たな難題を抱えてしまった。 
 
 一方、自民党・武部勲幹事長は8月1日、「党役員が当面、会見以外の朝日記者の取材に応じることを自粛する」と述べ、事実上の�犲荳犁馮櫚瓩鯢縮世靴拭8⇔呂鬟�サにきた強圧的姿勢に、自民党マスコミ対策の恐ろしさを感じる。毎日が2日朝刊・メディア面に大特集(全九段)を掲載した問題意識を評価したい。お座なりな他紙の扱い方に比べ、毎日が「取材拒否 異例の機関決定」の見出しを掲げて警鐘を鳴らした記事は立派だ。また「朝日は事実解明急務」として、録音問題や資料流失につき朝日の明快な姿勢を求めていた。今回の�狎�治介入騒動�瓩鬚呂犬瓠�言論機関への規制強化の動きが気掛かりな時代状況だけに、メディア総体が襟を正し、忍び寄る�犖⇔呂遼蘯雖瓩悗侶找�を怠ってはならない。その点で特に朝日の今後の再調査・再検証のほか、第三者機関「『NHK報道』委員会」の建設的提言を望みたい。 
 
 「朝日もそろそろすべてを明らかにすべきだ。そもそも東京慈恵医大の一件で、無断録音をすべて問題だと言ってしまったのが間違いだった。こうした取材で録音するのは当然なのだから、録音を認め、理由を説明すればいい。それくらいしなければ、権力を追い詰めることなどできない」(田島泰彦・上智大教授=毎日8・2朝刊)との指摘は的を射ている。 
               (池田龍夫=ジャーナリスト) 
 
(本稿は、「新聞通信調査会報」9月号に掲載された「プレスウォッチング」の再録です) 


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