2005年10月01日14時05分掲載  無料記事
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検証・メディア

“独裁政治”への危険性に鈍い筆鋒 各紙の9・11総選挙報道

 9・11総選挙における小泉首相の圧勝は、強い指導者への渇望の現れとする見方がメディアには強い。だがメディアは、議会制民主主義に反する衆院解散などを十分に糾弾しただろうか。ジャーナリストの池田龍夫氏は各紙の報道を分析し、“独裁政治”につながる危険性のある小泉首相の暴挙に警鐘を鳴らさず、劇場型選挙に踊らされてしまったメディアの怠慢を批判、山積する今後の課題にも同じ安易な手法がまかり通ることを危惧している。(ベリタ通信) 
 
  前代未聞ハチャメチャ選挙は後始末が大変 
             池田龍夫(ジャーナリスト) 
 
 第44衆議院選挙(2005・9・11)で小泉純一郎政権は圧勝、自民党296・公明党31、与党勢力327議席に膨れ上がった。衆院で3分の2以上の議席を確保したことで、今後「独断の政治」がいっそう色濃くなると推察できる。しかし、「郵政民営化法案の是非を問う犢駝嬰衂辞瓠廚閥び続けた小泉自民党の選挙戦術の勝利であって、「財政再建・増税、年金、雇用、少子化、憲法問題」……等々の重要案件のすべてを小泉政権に託したわけではない。政権与党は、「郵政」以外の論戦をはぐらかし、選挙民への説明責任を果たしていないからだ。 
 
 とは言っても、小泉首相の「古い自民党をぶっ壊す」との犖約瓩半ば実現したことは認めなければならない。これまでの自民党は時に党内が混乱しても、「旧体質の党運営」に揺り戻されてきた。ところが、小泉政権4年余、今回の総選挙によって、「古い自民党」へ戻る道が絶たれたと、見ていいだろう。日本の政治風土への狄靴靴ど瓩如◆孱横娃娃鞠体制」の始動と定義できる「政治の転換点」に立ったと言えよう。しかし、「この国」の行く手に、大きな障害が立ち塞がっている。 
 
 8月8日の解散から9月11日投票まで今回の総選挙は爛汽廛薀ぅ梱甍貎Г世辰拭だれも(首相自身も)予想しなかった自民党の圧勝――「古い自民党」に代わって「小泉自民党」(いや『小泉党』)の誕生である。「劇場型選挙の暴走」「小選挙区制度の怖さ」を嘆いてみても爐△箸虜廚雖瓠1磴里△箸龍しさが残る。 
 
 参院での「郵政民営化法案否決」を受け、小泉純一郎首相の電撃的衆院解散→総選挙。虚を衝かれたのは国会議員だけでなく、メディア界もテンヤワンヤ。国民を巻き込んでの犇諺瓩、残暑の日本列島を1カ月も駆け巡った。この間、新聞も「小泉ミュージカル」に踊らされていなかったか。幾つかの問題点を取り上げて、報道ぶりを検証してみたい。 
 
▼議会制民主主義に反する衆院解散 
 
 衆院で可決された「郵政民営化法案」が、参院自民党一部議員の反対で否決されたのが事の発端。小泉首相は「(参院否決は)内閣に対する不信任だから、衆院を解散して民意を問う」と強弁して解散を断行した。日本の政治形態は議会制民主主義、しかも二院制で運営されている。重要法案の場合、衆参で意見が別れることはあり得ることで、両院で議決が異なった場合には「両院協議会で調整を図るか、衆院に差し戻して3分の2以上の賛成があれば可決、成立させることが可能」との明文規定があった。 
 
 しかし、その時点での衆院自民・公明の議員数が足りず、廃案は避けられなかった。このため、小泉首相は「憲法七条(解散条項)」を適用し“破れかぶれ解散”の賭けに出たのだ。これは議会制民主主義を踏みにじる暴挙である。「解散権は総理にある」との権限を拡大解釈し、狷蛤枩治瓩愀劼る危険性をはらむものであるからだ。この暴挙をもっと糾弾すべきだったのに、各紙の筆鋒に鋭さが欠けていたのは遺憾である。 
 
▼「国民投票」との詭弁 
 
 小泉首相は「郵政民営化是か否かを問うための解散。事実上の国民投票だ」と訴えた。「民意を問う」とは、選挙民への響きがよく、俗耳に入りやすい。しかし、「国民投票法」が未整備なのに、勝手気ままな“国民投票的解散”の詭弁は困る。今回の成功に味を占め、改憲・消費税アップ・自衛隊の海外派遣…等々、重要案件が国会審議で暗礁に乗り上げる度に、解散・総選挙では、議会制民主主義の否定になりかねない。 
 
 選挙は一種の“お祭り”だ。民衆が「ええじゃないか、ええじゃないか」と、安易に神輿に乗ったら大変な事態になる恐れがある。議会抜きで、民衆に直接アピールして政治の表舞台に登場した独裁者がいた歴史を忘れてはならない。国会軽視の風潮は厳に戒めなければならず、新聞はもっと警鐘を乱打すべきだったと思う。 
 
▼「刺客」「くノ一忍法」の怪 
 
 郵政民営化法案に反対した自民党議員への非情な仕打ちは目に余った。党公認を剥奪して無所属に追い払っただけでなく、問題選挙区に「謀反ものは殺せ!」とばかりに、「刺客」を放ったのだ。「刺客」とは、「暗殺を行う人」(広辞苑)のこと。しかも急きょ「オンナ刺客」を掻き集めた発想には驚いた。「刺客」という物騒な策略が、政府与党内で密かに準備されていたことは間違いないようで、人情も品格もないヤクザまがいの選挙戦術に慄然とさせられた。しかし「小泉・時代劇」を見る“観客”には、オモシロイ演し物だったのである。 
 
 スポーツ芸能紙や週刊誌が飛びついたのは言うまでもないが、一般紙の扱いも「話題選挙区」へ傾斜していった。特異な現象を追うのは当然だが、選挙の争点論議よりも、「オンナの戦い」や「ホリエモン旋風」など、“オモシロ選挙”へ報道が傾いていったように思える。全体の紙面バランスをどうするかは、非常に難しい課題だが、「くノ一忍法」の取り上げ方にしても、「本質論」に迫る論議が足りなかったのではないか。郵政以外の論議を避けたかった政府与党側の「刺客劇」に、メディア全体が巻き込まれてしまった感が深い。 
 
▼「世論調査」花盛りだが… 
 
 選挙報道では「世論調査」が重要な判断材料となる。今回も、序盤・中盤・終盤と詳細な調査結果が報道された。概ね、世論調査と選挙結果の数字が近似しており、調査精度が上がっていると言えるだろう。各紙とも多額の調査費とマンパワーを投入しての世論調査は、選挙時の重大な作業だ。それだけに各社間の競争となり、扱い方も一面大トップに定着してきている。ここで指摘したいのは、自社の調査精度に自信があったとしても、選挙の大勢を見通すような具体的見出しの行き過ぎが気になる。いかにも客観的に映る数字の“魔力”が怖い。 
 
 更に問題なのは、電話調査が主流となった調査に、客観性を疑問視する声が出ていることを見逃すことができない。現在、RDD法(ランダム・デジット・ダイヤリング)と呼ばれる電話サンプリングの科学的調査精度が高いと言われるが、10桁番号の固定電話が対象のため難点が指摘されてきた。最近の若者の多くが携帯電話しか持たないため、若年層の調査が難しくなってきたからという。 
 
 いずれにせよ、世論調査万能の認識は危険で、紙面扱いも派手さを競うのではなく、「△日から×日まで調査した結果の報告」という形でデータ提供に徹すべきではないか。読者に予断を与え、世論操作と疑われるような過大な扱いを避けて欲しいと思うが、危惧し過ぎだろうか。 
 
▼険しい「日本再生」の道のり 
 
 自民党296議席・公明党31議席――政権与党の衆院勢力は327議席(解散時は246)に膨れ上がった。113議席に後退した民主党に対し、政治姿勢の曖昧さ、選挙戦術の拙さを指摘する声が強い。しかし、大勝した自民党も「政策の勝利」と胸を張ることはできまい。「郵政民営化こそ改革の原点」とだけ主張し、小泉首相個人のオーラで勝ち取ったものと言えるからだ。しかも、与野党の得票数を比較すれば、五分五分だった。小選挙区比例代表並立制の猖盻儉瓩世、いずれにせよ衆院議席の3分の2以上を与党勢力が占めてしまった影響は、絶大だ。参院自民党の造反議員の大多数は既に“郵政法案賛成”に寝返り、10月中旬には波乱なく可決成立するはずだ。 
 
 読売9月14日朝刊が伝えた世論調査によると、小泉内閣支持率は61%の高率だが、「首相の強引な手法に『不安を感じる』と答えた人が63%もいた」という。「3分の2を超すパワー」を背景にして“独断政治”に走ったら大変だ。「郵政」の後は難問が目白押し。所得税・住民税の定率減税につき「07年度全廃」を、谷垣財政相が13日の記者会見で示唆している。選挙中まったく口を閉ざしていたのに、早くも増税への動きを示すものだ。野党の追及にまともに答えなかったのは、選挙民を欺く“ズルイ選挙戦術”だったのである。「郵政民営化が財政再建の突破口」との大見得を切ったところで、774兆円にも及ぶ膨大な財政赤字解消の方策は全く見えてこない。 
 
 11月の自民党結党50年に「憲法改正試案」を示すというが、改憲の加速が気がかりだ。改憲推進派の産経が9月14日朝刊1面に「巨大与党、憲法改正に弾み」のトップ記事を仕立てていた。「新議員7割超が九条改正容認」の大見出しを掲げ、自民党にハッパをかけている。また、12月に迫ったイラク特措法再延長問題とサマワ派遣自衛隊の撤収をどうするのか、選挙戦ではこれも論議されなかったのが、憤慨に堪えない。小泉首相の靖国参拝問題、手詰まりの対中・対韓外交修復の行方…等々、難題は山積み。「2005年体制」は滑り出しから前途多難である。 
 
 「強い指導者への渇望が、自民党の地滑り的勝利をもたらした」というのが、大方の見方だが、小泉首相は「あと1年で退陣する」と言い張っている。突然800億円もの国家予算をムダ遣いした総選挙が、小泉首相の“食い逃げ”に終わることだけは許してはならない。 
 
 「小泉政治は『政治』ではない。郵政民営化も政治ではない。少なくともポリティクスという意味での政治ではない。というのはポリティクスとしての政治は意思決定を行うに際して、複雑な政治状況を反映した多くの連立方程式を解き、その挙げ句に政治的決断を行うものだ」(間宮陽介・京大教授=『世界』10月号)との指摘は的を射ている。 
 
 (本稿は、「新聞通信調査会報」10月号に掲載された「プレスウォッチング」の再録です) 


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