2006年02月01日16時39分掲載  無料記事
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検証・メディア

新聞は物事の本質を重厚に論じよ           池田龍夫(ジャーナリスト)

  「軽薄短小」。これが、2006年初頭以来の、政治だけでなくメディアをも覆う風潮だ、とメディアウォッチングをつづけるジャーナリスト、池田龍夫氏は嘆く。空疎な言葉だけが飛び交う中で、物事の本質を論じる重厚な筆致に欠ける新聞への批判は、「靖国」「米軍再編」「国会運営」から、朝日・讀賣の「共闘宣言」にまで及ぶ。(ベリタ通信) 
 
 物事の本質を論じよ――「靖国」「米軍再編」「国会運営」 
    池田 龍夫(ジャーナリスト) 
 
 「軽薄短小」の社会状況――「重厚長大」産業からの構造転換を示すキーワードだったが、その言葉が皮肉にも現在の世相を映し出しているようだ。軽佻浮薄な言葉が飛び交い、物事の本質を論じ、「国のかたち」を決めていく努力が疎んじられる風潮に不安を感じている。 
 
 小泉純一郎政権の「ワンフレーズ・ポリティックス」が、好むと好まざるに拘わらず、昨秋総選挙での自民党圧勝をもたらした要因とみられている。1月号本欄でも指摘したことだが、狆,素呂望茲蟲泙悪畆匆馼潮に早く気づき、修正する努力を怠れば「いつか来た道」の愚を繰り返す恐れナシとしない。2006年幕明けに当たって、頭によぎったのが、60年前(1946年)元旦の「天皇狄祐崟觚性瓠廚汎本国憲法公布(11月3日)の衝撃だった。この強烈な想いから、小泉首相の斬新な年頭所感を期待したが、空疎な内容に落胆させられた。一方、元日付新聞論調にも「新生の気概」が欠けていたのが残念である。 
 
▽独りよがりな小泉首相倏頭記者会見瓠
 
 1月4日の小泉首相年頭記者会見は、「日本経済もようやく回復の道を歩き始めた。今後も景気回復の歩みをしっかりしたものにしていく。改革を続行する」と述べたあとは、「ポスト小泉」「靖国と外交」「他党との関係」について持論を繰り返しただけで全く新味がなかった。新味がないどころか、行き詰まったアジア外交打開の道が更に遠のいてしまった印象を拭えない。 
 
 「靖国参拝は外交問題にはしない方がいい。一国の首相が一国民として戦没者に哀悼の念を持って参拝することに、日本人からおかしいとの批判が出るのは理解できない。精神の自由に、政治が関与することを嫌う知識人や言論人が批判することも理解できない。まして外国政府が心の問題にまで介入して、外交問題にしようとする姿勢も理解できない。心の問題は誰も侵すことのできない憲法に保障されたものだ。私は日中・日韓友好論者だ。靖国参拝をしたら交渉に応じないということでは外交にならない。一つの問題がすべてを規定してしまう態度はとらない方がいい。日本はドアを開いており、後は先方がどう判断するかだ」 
 
 ――外交・靖国問題に関する「年頭会見」の要旨だが、犹廚すんだら命がけ瓩両泉首相には、歴史認識の浅薄さが目立ち、外交交渉のタクティックスなどが全く念頭にない振る舞いである。戦争犯罪人を合祀する靖国参拝がもたらす外交上の阻害要因を他国に転嫁して「何が悪い」と開き直るようでは、中・韓だけでなく太平洋戦争で被害を受けたアジア諸国の反発が強まり、爛▲献△慮瓢瓩砲覆蠅ねない。この牾宛魏暫圻瓠蝶宛鯏失点の責任は重大だ。 
 
▽「新聞」は独自の主張を打ち出せ 
 
 靖国問題をはじめ、憲法改正・米軍再編・増税・少子化対策…等々、元旦の「新聞」は重要課題につき自社の姿勢を明示する責務がある。在京の大手五紙を点検したが、残念ながら狃展な筆致瓩坊腓韻討い拭「国家の枠組み」を決定づける憲法(『靖国』を含む)、「米軍再編」(沖縄と日米同盟)、「議会制民主主義」などへの立場を鮮明にすべきで、「少子化対策」などの各論は、日を追って展開すればよかったと考える。 
 
 「武士道をどう生かす」との朝日社説。殺伐たる世間に、弱者や敗者への憐れみ…「惻隠の情」を訴えたい論旨は分かるが、新渡戸稲造の『武士道』からの援用ではなく、狂った政治・社会に対するナマの告発と自社の姿勢を示してほしかった。読売と日経は「少子化対策」一本のテーマで、重要な内政問題に違いないものの「面倒な政治課題を避けたのか」とも感じた。 
 
 「壮大な破壊後の展望が大事」との毎日社説は狷帆嬰小泉政治の失政瓩鮠廚い燭發里世、「結果責任負ってこそ名首相」と責めたところで、後の祭りの感。自民党をぶっ壊しただけで、迷路をウロウロしている日本政治、その再生に向けた強烈なメッセージを提示すべきだったろう。 
 
 産経は一面に「新たに始まる未知の世界――アジア戦略の根幹は日米同盟」との主張(社説)を掲げ、「小泉首相は『靖国神社はもはや外交問題にはならない』との認識が定着するまで姿勢を貫いてほしい」と強調していた。靖国参拝問題については、朝・毎・読・日経四紙とも反対または自粛を求めており、産経の独自路線が際立つ。 
 
▽朝日・読売が「共闘宣言」! ? 
 
 「渡辺恒雄・読売主筆と若宮啓文・朝日主幹と対談」を伝えた朝日1月4日一面を見て、「オヤっ」と思った。「首相の靖国参拝を『おかしい』と批判」との見出しで、両紙論説トップがそろって狆泉批判瓩鬚靴燭畔鵑犬討い襦5有なことなので、その記事(約300字)を紹介しておこう。 
 
 「首相の靖国参拝について渡辺氏は『軍国主義を煽り、礼賛する展示品を並べた博物館(遊就館)を、靖国神社が経営しているわけだ。そんなところに首相が参拝するのはおかしい』、若宮主幹も『爍禅蘋鑒箸呂未譴ぬじゃないか瓩箸いν圭館につながる思想の人たちを喜ばせ、力をつけさせている』として、ともに厳しく批判した。ポスト小泉をめぐっては、アジア外交への姿勢が大きなカギだとする若宮主幹に対し、渡辺氏は『靖国公式参拝論者を次の首相にしたら、もうアジア外交は永久に駄目になっちゃうんじゃないか』と述べた。一方、憲法九条やイラク戦争の評価については違った立場から意見を戦わせた」 
 
 小泉政治と日本の将来を危惧する両氏が「靖国」について同じような考えを語った意味は大きく、評価する人が多いと思う。しかし、朝日一面記事末尾に「対談は五日発売の朝日新聞社の月刊誌『論座』二月号に掲載される」と付記したのみで、対談内容を詳しく紙面掲載しないのは不可解。『論座』の企画(同誌編集長が司会)だからと説明するに違いないが、出版局は朝日新聞社の一部局。少なくとも4日付別面に狆槓鶚瓠併┿錣諒量はムリだが)を掲載すべきだった。朝日新聞社縦割り組織の硬直性を物語るもので、新聞購読者へのサービスを渋って、「詳しく知りたい方は『論座』購入を」と誘導していると勘ぐれるのである。 
 
 『論座』表紙の〈渡辺・読売主筆が朝日と『共闘宣言』〉と題するハデ見出しに驚いた。「靖国・歴史認識・アジア外交」とのサブ見出しで補完したつもりだろうが、過剰な表現ではないか。本文には、そのような見出しはなく、首を傾げざるを得ない。「靖国問題での合意」のほかに、憲法・防衛・日米同盟などに関して朝・読トップの見解を聞きたかったが、対談最後にちょっぴり触れただけだったのは物足りない。この点にこそ、両紙の姿勢の差が出ると推察しているからだ。 
 
 皮肉な批評をすれば、朝日が「渡辺恒雄」という新聞界のカリスマを引っ張り出して、自社出版物の宣伝に利用したと言えまいか。さらに、週刊朝日・新春編集長インタビューも渡辺主筆。〈読売新聞では読めないトップの本音/ナベツネ大いに吠える『二四歳まで童貞だったワッワッハ』〉の大見出しには、呆れ果てた。渡辺主筆は最近「わが人生記」(中公新書クラレ)を出版、各メディアに取り上げられている。朝日新聞がアプローチしたのだろうが、同社の扱い方は常軌を逸している。 
 
 辛口論評になったかもしれないが、狄景好Εッチャー瓩箸靴椴直に問題点を指摘した。新聞社本来の責務は、新聞紙上で生ニュースを分析して伝え、自社の主張を開陳することにある。民主主義社会では多様な言論が飛び交うことが望ましく、メディアの中核である「新聞」は、明快な社論を提示して読者に判断を委ねるべきだ。軍部の圧力に屈して、狢臻椡槌表瓩飽賈棆修気譴討靴泙辰神鐐阿琉夢を繰り返してはならない。当たり前のことを敢えて強調するのは、猜言わぬ畆匆馼潮が強まってきたからだ。三分の二を超す衆院与党勢力に脅え「小泉パフォーマンス」に取り込まれた国会の無気力は、危険極まりない。 
 
 本土紙とは違った目線で独自報道している琉球新報、沖縄タイムス両紙は元旦社説で、ともに三月の最終案決定を前にした「米軍再編」問題をリアルに捉えていた。「嘉手納基地も自衛隊と共同使用されることになり、米軍と自衛隊の一体化はさらに進むことになる。米軍の世界戦略は極東から中東に及ぶ『不安定の弧』を見据えており、その補完的役割としての自衛隊の重要度も増すのではないかとみられている」(琉球新報)との指摘に、重大政治課題への強烈な問題意識を感じる。本土紙の論調に、もっと明確な視点を望みたい。 
 
(本稿は、「新聞通信調査会報」2月号に掲載された「プレスウォッチング」の再録です) 
 
*池田龍夫氏のプロフィール 
 1930年(昭和5年)生まれ。成蹊大学政治経済学科卒業。毎日新聞整理本部長、中部本社編集局長などを歴任、現在はフリージャーナリスト、日本記者クラブ会員。著書に『崖っぷちの新聞』(花伝社)、『新聞の虚報・誤報』(創樹社)など 


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