2006年06月11日10時23分掲載  無料記事
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日中・広報文化交流最前線

「礼」の国の人が礼儀・マナーを学ぶ 井出敬二(在中国日本大使館広報文化センター長)

●北京五輪へ向けて「礼儀・マナー」キャンペーン 
 
  中国では北京五輪に向けて建築などで準備が進んでいる。五輪マスコット、五輪グッズも市内で多く見かけるようになった。その中で、多くの外国人を迎え、北京五輪を成功させるために礼儀・マナーを中国人の間に普及させる運動も行われている。 
 北京の人気新聞『北京青年報』では、礼儀・マナーを教える記事がシリーズで連載されている。 
 5月22日付『人民日報』は、「私達は準備ができているか〜五輪を迎え、文明を論じ、新しい雰囲気を作る」という論説文を掲載している。この記事から興味深い指摘を以下のとおり引用する。 
 
 「1964年の東京五輪と1988年のソウル五輪は、経済発展を促進したのみならず、途上国から新興工業国への変化を加速し、国民の素質と社会の文明程度も引き上げた。」 
 「私たちの社会生活の中には、五輪文明には全く合わない現象がまだある。唾を吐くこと、ゴミを投げ捨てること、大声で騒ぐこと、交通規則を無視することなどの欠点が沢山ある。公共の秩序を守り、公共の環境を守るという意識が全くできていない。」 
 「『大した違いは無い』『大目に見てほしい』『適当にやれば良い』『まあまあだ』といった悪いやり方がそこかしこにある。」 
 「五輪関連の知的財産権の侵犯が続いている。」(筆者注:五輪マークが勝手に使われている事などを指すと見られる。) 
 「『外国の国歌が演奏される時に中国人観衆が起立しない』『中国選手が金メダルを取れない時には中国人観衆は拍手もしない』このような心配は作り話ではない・・・。」 
 
●「日本の礼儀・マナーを教えて欲しい」 
 
 2005年8月、筆者は、北京市のスポークスパーソンの王恵女史から、「北京市の報道・宣伝担当者に対するセミナーを開催するが、そこで、日本の『礼儀・マナー』について講演をしてもらいたい」との依頼を受けた。日本以外にも欧米の講師に同じテーマで講演を依頼しているという。 
 筆者自身、礼儀・作法を知らないといつも周囲から叱られてばかりなので、他人に礼儀・作法を教えることなどおこがましいも甚だしいが、北京市のスポークスパーソンからのせっかくの依頼なので、僭越ながら話をさせてもらうことにした。当日は、北京市内の各地の報道、宣伝部門で働くスタッフ、北京市傘下の新聞記者、北京市人民対外友好協会関係者など、100名近くが来てくれた。 
 
 筆者からは、日本の社会習慣、マナーの変化を紹介して、参考にしてもらうことにした。つまり、中国は農村社会から情報化社会へ、社会主義経済から市場経済へ、閉鎖社会から開放社会へ、低学歴社会から高学歴社会へと、急激に変化しているが、社会習慣、マナーもそれに伴って変化していくべきものと説明した。そのような変化は、日本においても起きてきたものである。名刺の渡し方などのビジネスマナーも紹介した(中国では日本とは逆の向きで名刺を渡す人が多い)。 
 同時に、日本古来の礼儀・作法についても紹介した。たとえば茶道は、現代日本人は必ずしも意識しないかもしれないが、中国という異文化の環境にいると、茶道の精神がふつうの日本人の生活の中に息づいていることに気付く。 
 この北京市報道担当者達へのブリーフの後、多くの大学等から日本の礼儀・マナーについて講演をしてほしいとの要望が舞い込むようになった。中国人がこの点に強い関心を持っていることが分かってきた。 
 
●中国ビジネスでも求められる日本風マナー 
 
 新しい社会情勢は新しい礼儀・マナーを必要とする。 
 市場での効率を重視する社会においては、ビジネスでも普段の生活でも他者の自由な活動を妨げないような配慮をする。 
 人口老齢化の中で、社会的弱者支援、社会への参加を支援する取り組みが徹底されている。 
 資源不足の中では、節約、資源リサイクルのマナーを必要とする。 
 日本では、「贈り物・接待文化」が贈賄・腐敗につながらないように、「贈り物・接待文化」の見直しが行われた。 
 戦後日本に輸入された「プライバシー」を尊重するという考え方、そして最近では個人情報保護が重視されている。 
 「セクシュアル・ハラスメント」についての取り組みも進んでいる。 
 このようなことも、筆者から中国の人たちに説明することにしている。 
 
 中国に多くの日本企業が進出する中で、日本風ビジネスマナーを教えて欲しいという中国でのニーズも高まっているようである。 
 茶道裏千家関係者によれば、そのような要望が中国の様々な組織から寄せられるとのことである。また日系企業で、ビジネスマナー教室を中国人向けに開講しているところもある。この分野で新しいビジネスチャンスも生まれているようである。 
 
(本稿中の意見は、筆者の個人的意見であり、筆者の所属する組織の意見を代表するものではない。) 


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